2019年3月25日
すべての役をオーディションで決めるということ
新国立劇場制作部演劇(広報担当) 尾﨑 悠
アントン・チェーホフ作『かもめ』が新国立劇場で上演されます。このコーナーも長いもので,チェーホフについて書かれた記事を発見しました。もし,チェーホフがどんな人か知りたいという方は是非こちらの過去記事を御参照ください。
▶ようこそ劇場へ 017「チェーホフが描いた“どうしようもない人々”の魅力」
『かもめ』という作品はチェーホフの代表作。演劇史に輝く大傑作で,その上演はやはり演劇史における大事件といえました。詳しくは割愛しますが,簡単に言うと,作品をよく理解できていない俳優や演出家のせいで大失敗をし,丁寧に作品に寄り添い理解を深めた再演では大成功をおさめたといういきさつです。「大失敗」「大成功」は文字通りの意味で,100年以上後までこうして語られる,チェーホフの作家人生最大の屈辱と,最大の栄誉を与えた作品となりました。

チェーホフが「大失敗」したアレクサンドリンスキー劇場
さて,本題。この度の新国立劇場での『かもめ』公演はすべての役をオーディションで決定するという,大規模の公演では大変珍しい企画のもとに上演されます。有名・無名を問わず,公募で俳優を探し求めたというわけです。
フルオーディション企画は新国立劇場の小川絵梨子演劇芸術監督が掲げる「作り手が新しい俳優と,俳優が新しい演出家と,劇場が新しい作り手たちと出会い,作品を立ち上げていく」という意思において新しく誕生したプロジェクトです。ただ,前述の『かもめ』という作品の上演史を振り返ると少しばかり奇妙な縁を感じてしまいます。

チェーホフが「大成功」したモスクワ芸術座
ここまできて,「え?普通はオーディションで俳優を選ぶんじゃないの?」と思う方もいらっしゃると思います。大規模の公演であればあるほど一部はオーディションで選びつつ,やはりメインは有名なキャストで固めるのが通常です。別段悪いことではなく,それによって興行面は言うに及ばず,作品のクオリティが安定することもあります。皆さんも出演する俳優に惹かれてエンターテインメント作品を観ようと思うことも多いのではないでしょうか。一方で「ラミ・マレックが主演だからあの映画を観に行こう」と思うことはそれほどなかったりもします。面白い作品が必ずしも有名なキャストを必要としているわけではないかもしれません……。

チェーホフ
作品について深く考え,意図をもって制作する中でオーディションを実施するということは,稽古場を立ち上げる以前の段階で実際に演出家・俳優が一丸となって作品に寄り添い,ある種の共通意識をもって創作に取り組むことができます。キャストありきではなく,まず作品があり役柄に相応しい俳優に仕事をお願いすることで作品の魅力をより引き出すことができるかもしれません。
……もっとも,歴史的に考えれば,このやり方こそが『かもめ』を上演するに当たっての大成功パターンといえるわけですが!!
新国立劇場演劇 2018/2019シーズン
4月公演『かもめ』
(住所)〒151-0071 東京都渋谷区本町1-1-1
- お問合せ
- 【新国立劇場ボックスオフィス】(10:00~18:00)03-5352-9999
- 交通
- 京王新線(都営新宿線乗入)新宿駅より1駅,初台駅中央口直結
- 公演日時
- 4月11日(木)~29日(月・祝)
※4月16日(火)・23日(火)は休演
公演時間は以下のリンクを御覧ください。
https://www.nntt.jac.go.jp/play/theseagull/ - 観覧料
- A席6,480円 B席3,240円 Z席(公演当日のみ)1,620円
※学生割引(5%),ジュニア割引(20%),高齢者割引(5%),当日学生割引(50%),障害者割引(20%)など各種割引あり。 - ホームページ
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https://www.nntt.jac.go.jp/play/theseagull/