文化庁主催 第3回コンテンツ流通促進シンポジウム
日本映画界は、ハリウッド映画並みの大作を作れるのか?−外部資金の活用を考える−

2005年7月13日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟大ホール)
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研究報告
澤 伸恭 (さわ のぶやす)
株式会社UFJ総合研究所
客員研究員

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コンテンツ制作の資金調達を既存の流通事業者、例えばテレビ放送局ですとかビデオメーカー、広告代理店、映画会社等からの資金に依存している。いわゆる制作委員会方式でコンテンツの資金を調達し、コンテンツを制作し、流通させているということでございます。当然、これには沢山のメリットがあります。

この制作委員会方式の図が、後ろの報告書の75ページに1つの例としての図が掲載されております。そちらを併せて、ご覧頂ければと思います。これは、一番多い任意組合の制作委員会方式の場合の簡単な図です。このような仕組みは非常にまずメリットが大変多いです。これまでの映画制作の中では、まずこのような仕組みを作ること自体のコストが非常に安かった。あまりお金をかからずにできた。それから業界関係者、これはプロが揃っておりますので、あまり大きな説明もなく、プロ同士の仕事としてきっちりと、場合によっては決めずに物事を進めることができた。それから業界関係者、プロ同士がお互いに出資し合うことで、自分のところのリスクを逓減できたというようないろいろなメリットがあって多用されてきたのかと思います。

ところが、逆にいくつかデメリットも出てくるかと思います。まず、こちら、この図、75ページの図をご覧いただきますと、左側に投資をする会社としてA社、B社、C社、D社、E社ございます。右のほうにA社、真ん中にA社、幹事会社がありまして、右のほうにB社、C社、D社、E社、こちらそれぞれテレビ放映をやったり、ビデオ、DVDを制作、流通をさせたり、あるいは商品化をしたり、ブロードバンド配信をしたりというような、それぞれのコンテンツの関係の流通事業者ということでございます。

そうしますと、このA社、B社、C社、それぞれ投資家としての位置づけと流通事業者としての位置づけ、2面性を持っているということになります。そうしますと投資家としての企業の最大の目標と、流通事業者としての最大の目標がちょっと変わってくる。そこに齟齬が生じるということの可能性があるということですね。

例えば、通常映画を配給して興行して、それからDVDになってビデオとして流通して、それからまたテレビ放映されていくというような順序をとることが多いのですけれども、例えばある映画ですと、仮の話なのですが、映画の興行とDVDを同じ時期にやることのほうが、もしかしたら全体としての収益を最大化することができるかもしれない。あるいはテレビ放映とDVDのレンタルを同じ時期にやるほうが、全体としての収益を最大化できるかもしれないというようなことが仮にあったとしても、既存のこのようなスキームの中では、それぞれの会社、流通事業者が自社の利益を最大化するということがどうしても目標になってしまう。このコンテンツ全体から得られる収益の最大化を狙うのではなく、自社の収益の最大化を狙ってしまうということがいえます。

それからもう1つ、コンテンツの業界内の出資のみに限られているということです。コンテンツ関連の流通事業者には、どうしても数限りありますので、投資額の上限がどうしても抑えられてしまう。ですので、今回のシンポジウムのテーマにありますように、なかなか大きな制作費を使ったコンテンツを作ることができないというような問題になってきます。

まず1つ目ですが、既存の流通事業者からの資金に依存するということで、流通事業者が自らの流通ルートで回収可能な資金額が投資額の上限となりがちです。それぞれの流通事業者は自分のところでこれだけビデオ売れるぞと思えば、そこまでの投資に抑えることでリスクを最小化できる。ところが、最小化されたリスクを最小化するために、投資額も一定限度超えることがありませんので、どうしてもその合計としてはコンテンツの制作資金の提供に限界がある。したがって、コンテンツ業界の規模がなかなか拡大しないというようなことが1ついえるかと思います。

それから、先ほどちょっと話が出ましたけれども、個々の流通事業者の収益最大化のビジネスになってしまう。ですので、コンテンツから生み出される全体収益の最大化を図るようなビジネスモデルは実現しにくいということです。本来であれば、こうすればもっと全体としてもっと儲かるのに、例えば1社が自社にとってそのような流通の仕方は自社の利益を損なうと判断すれば、そこで反対が出るわけで、そのような本来であれば最大化できるようなビジネスモデルが実現しにくいということになってきます。

ですので、投下資金に対する直接的なリターンを求める通常の投資行動というのはなかなか難しい。そうしますと、当然業界関係者以外が投資してもなかなか投資ということはなかなかしにくい環境にあるということがいえるかと思います。

したがいまして、まずコンテンツ制作者は業界内外を問わず、幅広い投資家、金融機関から資金を調達できる環境を整備する必要があるのではないか。それによりまして、制作するコンテンツを中心とした事業全体が投資対象となり得るか否かを判断するための評価手法、これがこれまでは一般的にはどうしても業界内の関係者がプロ同士の感覚によって行なわれてきた。それが業界の外にその評価手法がアピールされていかないと、なかなか外から資金を調達するということは難しいのではないか。この評価手法が確立することによって、コンテンツを投資することのリスクとリターン、収益は明確になりまして、ビジネスモデルの全体像を示すということができるようになって、それが必要なのではないか。さらに、コンテンツの制作者が投資家に責任をもって事業全体を戦略的に遂行できるようになるような環境ができるのではないかということです。

ですので、このコンテンツを評価する手法というのを今回、この研究の中で委員の皆様方と検討することによりまして、ビジネスモデルの全体像を示して、ビジネス全体の収益が最大化するというような環境を作り、さらにはより多くの資金を業界内外から集めてコンテンツを制作、流通することができるのではないか。その好循環を目指すというのが、この調査研究の背景でございます。

それを受けまして、コンテンツ制作、資金調達、流通の現状・問題点を検討し、コンテンツの評価手法を検討し、さらに資金調達を可能とするビジネスモデルのあり方とその課題の検討を行なうということで、この調査研究を進めてまいりました。

調査の流れです。お手元の報告書では5ページになります。

まずコンテンツ制作・資金調達、流通、投資に関する現状と問題点の抽出。それから、次にコンテンツの評価項目・要素を委員会の場で委員の皆さんに検討していただきまして抽出いたしました。その抽出いたしました評価項目、要素、それぞれに対しまして、何が重要で何がどういう位置づけなのか、どういう見方をすればいいのかということを検討しました。4つ目、それらの項目・要素間の関連性や分野の違いについてを検討しました。5つ目、ビジネスモデルのあり方とその課題の検討。評価手法がある程度見えてきたとしても、それを実現するビジネスモデルにはまだ課題があるだろうということで、その検討を行なったということです。
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