「誰でもできる著作権契約マニュアル」 第2章 6. (2)

(2)募集要項の内容

 募集要項への記載事項について決まりはありませんが、著作権との関連で注意すべき事項について解説します。

<1> 公表の同意
いつ、どのような方法で公表するかを明確にしておきましょう。

 著作権法では、応募者(著作者)に「公表権」が認められています(第18条)。
 作品展やコンクールに応募する場合には、何らかの方法により公表されることが一般的ですから、公表するかしないかということについて問題となることは少ないと思われますが、具体的な公表の時期や方法については、あらかじめ募集要項において明確にしておくことが大切です(通常、「公表」は「主催者による利用」にあたりますので、その詳細については<4>の「主催者による利用方法」を参照してください。)。

公表の方法には、著作物の種類により様々な態様が考えられますが、主なケースで見ると著作権法ではそれぞれ次のような権利が関係します(いずれも有償で提供するかどうかを問いません。)。

雑誌・広報誌等への掲載
 →「複製」およびその複製物の「譲渡」
ポスター等への掲載
 →「複製」およびその複製物の「譲渡」
ホールや会館等のスクリーン等への投影、映写
 →「上映」
テレビ番組やケーブルテレビ番組での放送等
 →「公衆送信(放送または有線放送)」
ホームページへの掲載(アップロード)
 →「公衆送信(自動公衆送信または送信可能化)」
ホールや会館等での展示
 →「展示」

 なお、「応募作品は未発表のものに限る」というような条件が定められる場合もありますが、これは、主催者の立場によって他のコンクールなどとの重複応募を避けるなどの考えから定められているものと考えられます。

<2> 著作者名の表示
ペンネームや雅号等の使用を認める場合にはそれを明示し、実際の公表の際にもそれに従いましょう

 著作権法では、応募者(著作者)に「氏名表示権」が認められており(第19条)、自分の作品が公表される際に、その著作者名をどのように表示するかを決定することができます。
 作品展やコンクールに応募する場合には、匿名にしてほしいという例は少ないと思われますが、特定のペンネーム等で表示してほしいという意向があるかもしれませんので、応募者の意向を確認しておくことがよいと思われます(特別の意思表示がなければ、本名で表示して差し支えないでしょう。)。

規定例(応募方法)

 応募資料には、必ず応募者の住所、氏名、年齢、連絡先の電話番号を記載してください。また、優秀作品に選ばれて作品が公表される際に、著作者名のペンネームを希望する場合には、そのペンネームも記載してください。

<3> 第三者の著作物の利用
応募作品の中に第三者の著作物等を利用することを認めるかどうかについて明確にしておきましょう。

 募集する作品の種類によっては、応募作品の中に応募者以外の著作物が用いられる可能性があります。たとえば、ビデオ作品などの場合、映像の背景音楽に既存の楽曲が用いられるとか、既存の小説などをドラマ化するようなケースです。また、作品の中に人の容姿が写っている場合もあり得ます。
 このような場合、主催者が<4>で説明するような利用をする際に、応募者以外に、背景音楽として用いられた音楽の著作権者やレコード製作者、原作として用いられた小説の著作権者の了解を得なければならないことになります(もっとも、著作権の保護期間が満了している場合には、了解を得る必要はありません。)。また、人の容姿の場合には著作権とは関係ありませんが、いわゆる「肖像権」の問題として、写っている人の了解を得なければならないことがあります。

規定例

【主催者が、第三者の著作物の利用を認めない場合】

 応募作品の中には第三者が著作権等を有している著作物等を利用していないものとします。

このような規定を明記しておいても主催者の責任が免除されるわけではありませんが、応募作 品の中の第三者の著作物等をめぐるトラブルを未然に防ぐために配慮しておくことが大切です。

【第三者が著作権等を有している著作物等を一切利用させないとすることが困難な場合】

 応募者の責任において、その他人の著作物について著作権者等から応募のための複製の許可を得てください

応募者が応募のための複製について了解を得た場合でも、主催者がさらに複製、上映、公衆送信等を行う場合には、改めて主催者が第三者(応募作品に含まれている作品の著作権者)から利用の了解を得なければなりませんので、そのために次のような記述を加えておくと便利です。
 許諾を得た著作物等とその著作権者等の連絡先のリストを応募作品に添付してください。

<4> 主催者による利用方法
応募作品や入選作品の利用方法やその時期について明確にしておきましょう。
  • 応募者(著作者、著作権者)の了解を得る必要がある著作物の利用方法としては、「複製」、「上演」、「演奏」、「上映」、「公衆送信」、「展示」などが著作権法(第21条〜第28条)に定められていますが、著作物の種類に応じ、応募作品や入選作品の発表方法を具体的に表示しておけばよいでしょう。

規定例(優秀作品の発表)
【雑誌、広報誌等に掲載して発表する場合】
○月○日発行の『◎◎』に掲載して発表します。
【映像作品などを公衆に見せるために上映して発表する場合】
○月○日 ○時〜○時 △△ホールにおいて上映します。
【美術や写真の作品を公衆に見せるために展示して発表する場合】
○月○日〜○月○日 ○時〜○時 △△ホールにおいて展示します。
【インターネット上のホームページに掲載(アップロード)して発表する場合】○月○日〜○月○日 当協会のホームページ(http://www.△△△.or.jp/)において掲載します。

  • 上記のような発表の場合のほか、主催者の事業の記録(内部資料)として複製したり、翌年度の催しのPRをするために前年度の作品の一部を利用したりする場合もありますが、厳密にはこれらの利用についても複製等の了解を得なければなりません。そのような利用があらかじめ想定される場合には、一定の範囲の利用について募集要項に記述しておき、あらかじめ包括的な了解を得ておくという方法も考えられます。

規定例(応募作品の著作権)

 応募作品のうち優秀作品を、<1>その発表のために必要な利用(複製、上映など)をすること、<2>募集者が本事業を広報するための印刷物やホームページに利用すること、および<3>募集者が本事業の記録として保存するために複製することについて、当該優秀作品の応募者には了承していただきます。

  • 応募作品や入選作品を翻訳したり、その他の方法により作品の表現を加工したりすることが想定される場合には、あらかじめ「翻訳」、「翻案」等をすることがある旨を規定しておくことも考えられます。なお、翻訳、翻案等を行う場合には、応募者の意に反した改変が行われないように配慮する必要があります。

規定例(応募作品の著作権)

 広報の際に優秀作品を要約したり翻訳したりする場合がありますが、その際には当該優秀作品の応募者の確認をとることとします。

<5> 表彰・賞品等
応募作品や入選作品の表彰や賞品等について明確にしておきましょう。

 応募された創作物を発表するということは、募集者が他人(応募者)の作品を利用することにあたりますので、募集者は応募者から了解を得る立場になります。出版や映画化など、著作物の利用に関する契約では、通常、利用の条件として対価(著作物の使用料など)の支払いなどを定める場合が多いわけですが、作品展やコンクールにおける作品募集の場合は代えて、表彰、賞品などのような顕彰により対価に替えていることが多いと思われますので、そのような顕彰の内容について明記しておけばよいでしょう。
 なお、あらかじめ発表の方法として個別にまたは包括的に明記していない利用方法によって、応募作品や入選作品を利用する場合には、その提供・提示の方法が有償であるか無償であるかを問わず、原則として募集要項とは別途の契約が必要であり、さらに了解の対価についても、賞品や賞金とは別のものとして協議することが必要になります(なお、賞品や賞金については、第2章 5.(2)<7>のコラム「民法における「優等懸賞広告」」を参照してください。)。

<6> 著作権の帰属
応募作品や入選作品に係る著作権が誰にあるのかを明確にしておきましょう。

 上記<4>の中で、主催者が予定している利用方法を明記しておけば、後日の利用に支障が生じることは少ないと思われますので、特に事情がない限り、主催者に著作権を譲渡させる必要はないと思われます。

規定例(応募作品の著作権)

 応募作品の著作権は応募者に帰属するものとします。

 なお、著作権の譲渡が必要な場合には、第2章5.(2)<1>の「著作権の帰属」を参考にしてください。

コラム 応募作品の著作権の譲渡
 何らかの事情により主催者が著作権を有しておくことが必要な場合に、その旨を募集要項において規定しておくことは可能です。しかし、相当な額の賞金があるような場合は別として、表彰と記念品等を授与するのみで著作権を譲渡させる対価が特別に明記されていないような場合には妥当な著作権譲渡契約といえるかどうか疑問です。したがって、著作権の譲渡の対価などを明確にしておくことが必要と考えられます。
 なお、著作権を譲渡させる場合において、入選作品の翻訳、翻案等を行った上で利用することに係る権利を含めて譲渡させる場合には、その旨を明記しておく必要があります。
 また、仮に主催者が著作権の譲渡を受ける必要があるとしても、落選作品を含めた応募作品すべての著作権を譲渡させる必要があるかどうかについては、主催者が計画している作品の利用方法を踏まえて慎重に検討する必要があるでしょう。

<7> 応募作品の返却
応募作品の返却に関する事項を明確にしておきましょう。

 募集しようとする作品の種類(文書などのようなものか、絵画や彫刻のように原作品にも重要な価値があるものなのか)によって取扱いが異なると考えられますが、応募作品を返却するか否か、また、返却する場合にはいつ、どのような方法で返却するのかについて明らかにしておきましょう。

規定例(応募作品の返却)

応募作品は返却しません。

応募作品については、下記要領で返却します。
  返却期間:○年○月○日(曜)〜○年○月○日(曜)
       00:00〜00:00
  返却方法:××まで受け取りにお越しください
       自宅宛郵送します  など

<8> その他

 その他、募集要項に必要な事項は募集事業の性質や主催者の手続きの必要に応じて工夫してください(募集のテーマ、作品の種類、応募資格、応募作品の規格、募集期間、応募方法、応募先、審査員や選考方法、問い合わせ先など)。また、応募者の個人情報の利用目的を明示しておくことにも留意しましょう。