文化庁主催 第2回コンテンツ流通促進シンポジウム
放送番組は、ブロードバンド配信の主役となり得るか?

2004年12月1日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟小ホール)
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検討会の報告
尾崎 史郎 (おざき しろう)
東京大学 教授
報告資料のダウンロード (PDF:62KB)

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二次利用の現状
次に、現在保存されている番組の二次利用の現状です。まず、放送局の二次利用についての考え方ですが、例えば資料映像とかスポーツの映像などの外部から購入した映像の場合、契約上二次利用が制限されていることが多々あります。また、ドキュメンタリーやニュース番組などで一般の人が出演している場合は、人権、肖像権、プライバシーなどの問題から二次利用できない番組も多数あります。そのため、当り前の話ではありますが、あくまで可能な範囲で二次利用を行うというのが、二次利用に関する放送局の基本的な考え方となっています。
それでは、実際にどのように二次利用されているかということですが、自分の放送局による再放送。それから内外の放送局への番組販売。販売先は、国内の地上波放送局、BS局、CS局、有線放送局、あるいは外国の放送局など様々です。また、ビデオやDVDの販売会社への提供も多数行われています。また、放送番組をそのまま利用するというものではありませんが、書籍やゲームなどへの商品化も最近ではどんどん行われています。ただ、放送番組のインターネット配信については、供給はあまり進んでおりません。この点につきましては、後ほど説明します。


二次利用に関する著作権契約の現状
次に、放送番組の二次利用に関する著作権契約の現状です。

放送番組を二次利用するためには、関係権利者と二次利用に関する著作権契約を結ぶ必要があります。放送番組には、原作者、脚本家、音楽を使っていればその作詞家、作曲家等の著作者や多くの実演家が関係しており、二次利用を行うためにはこれらの人たちと二次利用に関する契約を結ぶ必要があります。番組を制作する際の当初の契約で、二次利用についても契約を結んでおけば、二次利用の際に改めて契約する必要がなく、二次利用が簡単になるという考え方もありますが、放送局は、当然のことながら、当初の放送、つまり、良い番組を作ってそれを放送するということを最優先にしています。当初から二次利用を含めた契約をしようとした場合、「二次利用を含めた契約であれば、使用料あるいは出演料は高くして下さい」と言われるケースもありますし、「普通の放送で流すだけであればOKしますが、別の形で提供するのであればご遠慮させていただきます」と拒否されるケースも考えられます。このように、二次利用を含めた契約を求めると、制作費の高騰、原作の使用や出演の拒否などにより、製作現場が混乱し、良い作品を作るという放送局の目標が果たせなくなってしまう可能性がありますので、当初から二次利用を含めた契約を結ぶということはあまり行われていません。

また、インターネット配信以外の二次利用についは、例えば音楽、小説、脚本、実演などの関係権利者の団体と放送事業者との間で二次利用についての一定のルールが構築されています。詳しくは、報告書に資料1として、ルール構築の現状が整理されていますので、そちらをご覧下さい。このようなルールが構築されていると、あえて当初契約しておかなくても、二次利用の際にこのルールにのっとり契約すればいいということになります。このようなことから、二次利用については、当初の段階で二次利用を含めた契約を行うのではなく、二次利用の段階で、改めて契約を結ぶということが一般的であるのが現状であり、今後もこのような慣行が完全に変わることはないのではないかと思われます。


二次利用ができない主な場合
それでは、「放送番組の二次利用が進まない、又は行われないのはなぜか」ということについて考えてみます。報道系の番組については、人権、プライバシー等の問題もあるため、放送局も外部での二次利用はあまり考えておりませんので、娯楽・教養系の番組について考えてみます。

まず、先ほど述べましたように、放送番組が保存されていない場合。当然ながら、ないものは二次利用できません。また、保存されていても、昔のVTR素材のものなどは保存状況が悪い場合もあります。最新技術を使えば復元することも可能ですが、多額の経費がかかりますので、費用の回収が困難な場合が多いと思われます。
次が、需要がない。あったとしても経費に見合う収入が見込めない場合です。二次利用をするためには、著作者や実演家などの関係権利者に使用料を支払わなければいけませんし、それ以外にも、例えばノイズがないかなどの技術的な課題や、差別的な言葉が使われていないか、ドラマで使用した架空の電話番号や住所が現時点で実在しないかなどの様々なチェックが必要となり、それに対しては経費もかかります。そういう経費を回収できる見込みがなければ、放送番組を提供しようということにはなりません。番組が保存されていても二次利用されない最大の理由はここにあるともいえます。

三つ目が、他のメディアによる番組提供と競合する場合です。これは二次利用の形態にもよりますが、例えば、自分の放送局で再放送の予定がある場合や系列局から要望がある場合などは、番組提供が制限される場合もあります。
それから、スポーツ中継や映画などで、その放送局が自局での放送の放映権しか持っていない場合は、そもそも二次利用を行うことができませんし、美術作品などの場合は、被写体の所有者、例えばお寺や美術館などの了解が得られない、あるいは金額的に折り合わないため二次利用できないというケースもあります。
著作権契約が原因で放送番組の二次利用が進まないのではないか、という意見をよく耳にしますが、現実には、二次利用できないのは、そもそも番組が保存されていない場合や、保存されていたとしても、経費に見合う収入が見込めない場合がほとんどであり著作権契約が理由で二次利用されない場合は少ないのが現状です。

しかし、少ないとはいっても、著作権契約の関係で二次利用できないケースもあります。例えば「作品が自分のイメージどおりでない」とか、「制作時と今の考え方が違う」など権利者の思想・信条によって拒否されるケースもあります。話としては面白そうなのですが、実際にはこういうケースはごく少数です。次が、関係する著作者や実演家がお亡くなりになっていたり、引退していたりして、権利者と連絡がつかないため契約できず二次利用できない場合です。また、権利者との間で使用料の協議が整わない場合もあります。例えば外国の音楽を使っている場合、二次利用に関しては外国の権利者と直接交渉する必要がある場合がありますが、交渉に時間がかかったり、高額な使用料を要求されることもあります。それから実演家によってはイメージ戦略などのため一定期間は二次利用をやめてくれと言われるケースもあります。これらが、著作権契約を理由に二次利用できない場合です。なお、繰り返しになりますが、著作権契約が理由で二次利用できないといのは、全体からみるとごく一部です。
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