文化庁主催 第2回コンテンツ流通促進シンポジウム
放送番組は、ブロードバンド配信の主役となり得るか?

2004年12月1日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟小ホール)
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検討会の報告
尾崎 史郎 (おざき しろう)
東京大学 教授
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インターネット配信の現状と課題
放送番組の二次利用は、全体としてはかなり行われていますが、インターネット配信はまだあまり行われていません。なぜインターネット配信が進んでいないのかということですが、インターネットはインフラ上の問題があり、現時点ではまだ市場が成立していない、つまり、現時点ではビジネスになりにくいと放送事業者や番組制作者が考えているため、番組の供給が進まないのが現状と考えられます。

インフラ上の問題としては、回線速度やパソコンの性能などの問題があります。回線速度については、現状では早いものと遅いものの差が大きく、混在していますし、安定した回線速度の確保も困難です。そして、家庭にあるパソコンも、その性能や動作環境に相当なばらつきがあり、全部の家庭で安定した画像を再現するのは不可能です。また、配信側の回線確保ための経費の問題もあります。無料で配信するのであれば利用者もある程度は我慢することも考えられますが、有料配信の場合は、うまく受信できないとユーザーからクレームが来ることになりますから、ピーク時を想定した回線を確保する必要があり、そのために大変コストがかかることになります。また、課金方法も様々なものが考えられますがそれぞれ課題もあります。IPマルチキャスト技術により回線上の課題をかなり解消した会員向けの配信サービスも始まっていますが、収益性などまだ不透明なところがあります。

このようなことから、番組提供者側は、インターネット配信はまだビジネスにはなりにくいと考えていることが、インターネット配信への番組供給が進んでいない理由と考えられます。


二次利用円滑化のための方策
検討会では、放送番組の二次利用の現状を以上のように整理した上で、二次利用円滑化のための方策について著作権の観点から検討し、4つの提言を行っています。

一つが広範な関係者による議論の場の設定です。これは後ほど説明します。
二つ目が、権利者情報の整備です。繰り返しになりますが、放送番組には、例えば、原作、脚本、音楽、美術、写真などの様々な著作物が使われていますし、多くの実演家も関係しています。放送番組に何が使われ、どの権利者が関係しているのかという情報がきちんと整理されていないと、二次利用の契約ができないことになります。また、例えばBGMにレコードが使われている場合は、そのレコードに収録された音楽の著作者、実演家、レコード製作者は誰かという情報も必要になってきます。そうなると、放送番組を作る側だけでなく、例えばレコードを作っている側も情報を整理していかなければならないことになります。これについては関係する団体で御努力いただくことになりますが、文化庁も応援できるものは応援する必要があります。

次が、権利者不明の場合における利用の促進です。プロの著作者や実演家であれば所在が不明で連絡できないことはほとんどないとは思われますが、引退されたりお亡くなりになっている場合には、現在の権利者と連絡が取れないケースもままあります。そのため、そのような方々の所在情報も整備する必要があります。また、著作者不明の場合の裁定制度もあります。これは権利者の許諾を取らないで著作物を使う仕組みのため、使い方を誤ると権利者との信頼関係を失わせる恐れがあり、あまり利用されていない制度ではありますが、具体の利用手続きはあまり知られていませんので、文化庁は利用者マニュアルを整備する必要があります。

それから、権利者団体と放送局などとの間の使用料についてのルールです。インターネット配信についてはまだ一定のルールができていません。そのため、関係者間での協議を促進する必要があります。
検討会では、以上の提言をおこなっております。


広範な議論の場の設定と意見交換会の概要
提言の一つ目の、広範な関係者による議論の場の設定につきましては、本日のこのシンポジウムもその一環として行われているものです。なぜ議論の場が必要かということですが、スライドにお示ししているように、放送番組の二次利用については、様々な人が様々な立場から意見を言っておられますが、その中には誤解や歪曲された情報に基づくものも多く、議論がかみ合っていない場合が多いのが現状です。放送番組の二次利用については、多くの人が関係してくるわけですが、関係者がお互いの立場を理解しないまま自分の意見を述べるだけでは、建設的な議論はできません。相手の立場を理解したうえでの議論が必要です。そのため、さまざまな関係者が集まって意見交換を行うことによって、まず問題に関する共通認識を持ち、その共通認識の上に立って協議を進めていくことが必要ということで、文化庁はこのような意見交換の場を設定すべきであるという提言を行ったわけです。

この提言を受けるで、「過去の放送番組の二次利用の促進に関する意見交換会」が既に2回開かれております。この意見交換会はそれぞれ思っていることを自由に述べてもらうために、非公開で行われました。本日のシンポジウムは第3回目の意見交換会ということになります。このあと、これまでの意見交換会を更に発展させる形で、会場参加型のパネルディスカッションが行われることになっていますが、意見交換会でだされた意見のうち、私の印象に残ったものを何点か参考までに紹介させていただきます。

配信事業者の方からは、「配信事業者としては権利者の許諾を得てビジネスをしたいと考えている。権利者の権利を切り下げて問題を解決しようと思っているわけではない」との意見や、配信したい番組は配信事業者によって異なりますが、「ドラマ、映画、アニメ、ニュース、バラエティ、ドキュメンタリーなど、いろいろなジャンルのものについてニーズはある。例えばニュースであれば、昔のニュースを見たいというより、例えば朝7時のニュースを見ようと思いテレビをつけたが7時10分過ぎだった。冒頭のニュースは何だったか見たいというようなニーズがあるのではないか」というような意見もありました。
それからある配信事業者からは、「以前に作られて権利情報に不備のある番組よりも、今後制作される番組に関するルール作りや、既にパッケージ化されて権利関係がはっきりしている番組の提供について議論したい」。また、「今後制作される番組については、最初からブロードバンドでの二次利用を前提とした契約はできないか」というような意見も出されておりました。

これに対して番組を作る側からは、二次利用を前提とした契約については、「当初の制作費が高くなる可能性がある。市場が見えない状況では、放送局がそのリスクを負うわけにはいかない」という意見や「事前契約がなくても、事後の権利処理でコンテンツを提供することはできる。現在のDVDなどのパッケージ展開についても、当初から二次利用を前提とした契約となっているものはほとんどなく、大半は、二次利用の段階で改めて権利処理している」との意見がありました。

また、「放送局も放送番組を塩漬けしたいと思っているわけではないが、現状の配信はあまりにもペイが少ない」というような意見や「ビジネスモデルという視点で、配信事業について考えることが必要」とか「配信事業は多様であり、あるビジネスにおける課題が、全ての配信事業にとっての問題となるわけではない」という意見もありました。

また、少し違った観点からは「最近P2Pのファイル交換によるインターネット上の違法流通が大きな問題となっているが、有料であっても、合法的に入手できる手段があれば、そちらを選択する人も多いのではないか」という意見も出されておりました。

そのほか、配信事業の現状や、供給者側や配信側との競合、ないしは共存共栄関係などについても意見が出されました。

以上、検討会の報告書を中心に報告させていただきましたが、時間がありましたら、報告書をご一読いただきたいと思います。また、意見交換会につきましては、より発展する形で、このあと第3部でパネルディスカッションが行われますので、そちらをお聞きいただきたいと思います。以上で私からの報告を終わらせていただきます。
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