文化庁・法制問題小委員会「研究開発における情報利用の円滑化」に関するヒアリング

研究・調査のための映像資料の入手に関するメモ

研究・調査のための映像資料の入手に関するメモ

  • (1) 現状
    • ★NHKの基本的スタンス(コンテンツホルダーとして)

      番組は放送目的以外には使用しないという大原則を踏まえ,視聴者からの番組視聴及び提供に関しては断っている。研究目的・教育目的の使用に関しても,この原則に準ずる。ただし,12月のNHKオンデマンドの発足に伴い,有料ながら,一部の番組については提供が可能になる。また,民放などが別の番組やビデオで映像の一部を二次利用するような場合,権利クリア映像に限り,正式な手続きを踏むことにより番組アーカイブから入手は可能。
      なお,協会の内部研究機関である放送文化研究所に関しては,放送文化の発展に寄与する研究・調査のためということで,NHKの番組の利用が権利者団体との了解事項となっている。

    • ★民放など,NHK以外からの映像入手の現状

      民放の基本的スタンスもNHKと同じで,放送目的外の提供は原則として不可。
      NHK同様,放送番組の二次利用ということで,各局の番組アーカイブを購入することが可能な場合もあるが,各局ともアーカイブの充実度がまだあまり高くない上に,経費負担が大きく現実的とはいえない。

    • ★国内の放送済番組の視聴方法

      非常に限られた番組ではあるが,以下の施設などでの視聴が可能。ただし,施設内での視聴のみで,コピーの入手は原則不可。

      • *NHKアーカイブス(川口市)
        番組公開ライブラリー(NHK各放送局など)

        ・ 12月にNHKオンデマンドによるweb公開を開始。以降は,権利がクリアになった番組に関しては,上記施設外での視聴も可能になる。

      • *放送番組センター・横浜放送ライブラリー(10,000本)

        研究者専用室を設け,放送・広告関係者や教育・研究者への便宜が図られている。

      • *川崎市民ミュージアム

        「地方の時代映像祭」作品他が視聴可能

  • (2) 学術研究にとっての現行制度の問題点

    以上のように,放送後に放送番組映像を入手することは著しく困難。
    NHK番組の研究利用が可能な文研は恵まれている方で,マスコミ学会や情報通信学会では,研究者や学生は大きな制約を余儀なくされている。

    • ★NHKの基本的スタンス(コンテンツホルダーとして)

      理論研究部会

      1. 3年前,学術研究のためのTV番組映像使用に関する検討会
      2. 民放連研究所・新聞研究所・文研が参加
      3. 依頼の内容が非営利・学術利用だからと言って,権利関係が複雑に入り組んだ番組ソフトは,各TV局の裁量で提供できる性格のものではない。現行制度のもとでは,正式ルートで番組を自由に入手・視聴することは困難である。
  • (3) 海外の事例

    日本の研究機関が,海外の放送番組映像を入手するのは,比較的容易。
    取材相手との信頼関係で入手したり,充実した商業アーカイブを経由して購入したり。いずれにしても,制約の多い日本に比べるとさまざまな道が開けている。

    • ★フランス・INA(国立視聴覚研究所)

      近年,世界で活発化しているデジタル映像アーカイブのさきがけ。年間総予算,約189億円。
      国内のすべての放送番組の拠出を義務化(1995~法定納入)してデジタルアーカイブ化(現在,TV183万時間分)。基本的に,研究目的であればすべての視聴が可能。また,放送日時やキーワード・ジャンル・テーマなどによる横断的な検索ができるようメタデータが充実し,カット表・タイムコードも完備している。フランスではINAによる博士論文が年間200本に達しているとのこと。映像アーカイブが最も進んだ事例である。
      日本の情報・メディア研究者は,INAのような国立の映像図書館の必要性を痛感している。

  • (4) まとめ

    現行著作権法上,学術的研究のために,権利関係が複雑に入り組んだ番組映像を入手・視聴することは非常に困難である。このため,放送番組の考察や分析は大きな制約を受け,学術的研究調査のみならず,TV番組批評や放送ジャーナリズム研究に対する大きな阻害要因となっている。
    文芸,美術・音楽や映画などの諸分野では,健全で自由な批評空間が文化的成熟の大きな推進役を担ってきたのに対し,放送がそれらに比肩し得る「文化」としてなかなか認知されてこなかった原因の一端もそこにある。
    テレビ局としては,営利目的ではない研究利用によって権利が侵害されるわけではないだけに,視聴用に番組コピーを提供することに大きな問題はないといえる。しかし,権利関係が複雑に入り組んだ番組の提供の是非を,事例ごとに判断・対応するという態勢を各局が整えるのは難しい。
    研究調査機関としての立場からは,INAをはじめとする海外の先進事例なども参考にしつつ,願わくは,学術研究や教育分野での放送番組の利用がより円滑にできるような法的整備を望みたい。

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