「研究開発における情報利用の円滑化」及び「リバース・エンジニアリングに係る法的課題」について

社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)

1.総論

JEITAは著作物の「利用者」であるとともに「権利者」

  1. 権利制限に名を借りた剽窃の手段とならないように留意しつつ,両者のバランスのとれた権利制限規定を望む
    個別条項:法的安定性→目的(要件)の規定は明確さを要する(⇔権利者の不利益)
  1. 個別に規定しきれない部分の救済手段として一定レベルの一般条項の必要性
    例1)著作物としての享受を目的としない利用
    例2)著作物の通常の利用を妨げず著作権者等の正当な利益を不当に害しない行為

2.研究開発における情報利用の円滑化について

研究・開発等の過程において必然的に生じ,権利者の利益を害しない一定の利用行為(特に,著作物としての享受を目的としない利用行為)は許容されるべき

<具体例>

新たな技術・機器の研究・開発過程において機能・性能の評価・検証に用いるための複製・上映(例:DVDレコーダ等で録画したものが設計通り再生できるか評価すべくテレビ番組を複製し,不特定の開発担当者の前で上映する)

情報処理技術の研究・開発のために既存の著作物を分析する過程で必要となる複製・翻案(例:単語の出現順位や掛かり方を分析するために文章を複製(電子化)・翻案したり,インターネット上の電子化された文章を複製・翻案したりする)

  1. *研究・開発目的での権利制限の規定にあたっては,許容される利用行為の結果取得された著作物を別目的で利用する行為について,現行法49条の適用(目的外利用の禁止)が必要

3.リバース・エンジニアリングに係る法的課題について

人間が表現を感得することが困難なコンピュータ・プログラムにおいては,その表現や思想・感情を感得するために,一定レベルのリバース・エンジニアリング(RE)行為は許容されるべき

<具体例>

プログラムAとこれとは独立に創作されるプログラムBとの相互運用性(インターオペラビリティ)を達成するために必要不可欠な情報を得るためのAの複製・翻案 (なお,欧州ソフトウェアディレクティブ,豪著作権法,米裁判例(フェアユースの適用)が参考となる。)

プログラムの性能,バグ等の障害の調査・分析に必要な限度での複製・翻案

  1. *いかなる目的のRE行為まで許容するかについては議論が必要だが,現時点で明確に定義しきれないものについては,一般条項による個別判断に委ねるアプローチも必要
  2. *また,2.の研究開発における権利制限の規定ぶりによっては,一定のRE行為も許容される場合がある点も留意が必要

以上

参考資料:「知的財産推進計画2007」の見直しに関するJEITA意見(抜粋)

『 9.権利者の利益と公共の利益バランスのための権利制限について 』

オープン・イノベーションの促進に鑑み,以下の利用を可能とするための権利制限規定が必要である。日本の競争力強化のためにも,積極的な検討がなされるべきと考える。

  1. (1)電子機器等利用時に生じる付随的・不可避的複製
  2. (2)新たな技術・機器の研究開発過程において技術・機器の評価・検証に用いるための複製,上映などの利用
  3. (3)プログラムの研究・開発,性能の検証,バグの発見・修正,相互運用性確保等を目的として行う当該プログラムの複製・翻案
  4. (4)店頭での機器のデモ等を目的とする上映・公への伝達
  5. (5)障害者・高齢者による著作物の享受を可能とする目的で行う複製等
  6. (6)検索エンジン,翻訳ソフト,OCRソフト,要約,サムネイル作成ソフト等のコンテンツを有益に検索,活用するための仕組みを創出し提供するために必要な複製,翻案,送信

また,上記のように利用を個別的・限定的に規定する方式に加え,上記以外の利用も含め,今後の技術の進歩,コンテンツ利用環境の急速な変化に柔軟に対応出来るよう,下記 (7),(8)のような包括的・一般的な権利制限規定の導入もあわせて検討すべき。

  1. (7)著作物としての享受を目的としない利用(例えば,上記の2,3,などが典型的であるが,技術や市場の変化に応じた対応を可能とするため,2,3に限定しない条項の必要性は高い。)
  2. (8)著作物の通常の利用を妨げず著作権者等の正当な利益を不当に害しない行為一般 』
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