議事次第

文化審議会著作権分科会
国際小委員会(第3回)議事次第

日時:
平成22年12月17日(金)
16:00~18:30
場所:
中央合同庁舎第7号館(文部科学省)
東館5階 5F3共用会議室
  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)コンテンツ業界からのヒアリング
    2. (2)各国におけるスリーストライク制度の概要について
    3. (3)WIPO等における最近の動向について
    4. (4)その他
  3. 閉会

配布資料

議事内容

○16:00開会

【道垣内主査】 時間でございますので,第3回の国際小委員会を開催いたします。
 本日は,御多忙の中,御出席いただきましてまことにありがとうございます。
 本日の会議の公開についてでございますけれども,予定されております議事内容を参照しますと特段非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところでございます。
 この点は御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】 それでは,本日の議事は公開ということで傍聴の方にはそのまま傍聴していただくことにいたします。
 では,事務局から配付資料の確認をお願いします。

【吉田専門官】 配付資料の確認をさせていただきます。
 お手元の議事次第のページを御覧いただきますと,下に配付資料一覧とございますが,資料1から4-5まで,それから,参考資料が1から6までございます。順番に,1が文化庁の取組について。2-1,2-2が今回お越しいただいている集英社様,CODA様からの資料です。それから,資料3が張先生の御説明の際の資料です。スリーストライクルールに関しての資料です。資料4-1から4-3がWIPO関係の資料です。4-1がWIPOの動向について,4-2が権利の制限と例外の動向について,4-3がフォークロアの動向について,となっております。資料4-4,4-5が二国間の関係の資料で,中国国際版権博覧会の結果概要,4-5が日台貿易経済会議の結果概要となっております。
 参考資料1が名簿,参考資料2がコンテンツ業界からのヒアリングについて,参考資料3に権利の制限と例外に関する各提案資料ということで,4つの提案に関係してそれぞれ日本語と英語の文章になっているものがございますので,4種類が1つのクリップ止めになっていると思います。参考資料4は,フォークロアに関するテキスト案,これは英文のみでございます。参考資料5としまして,スケジュール,参考資料6に机上配付として前回の議事録が配付されております。更に,机上に本日御説明を頂きます集英社様とスクエアニクス様から頂いている資料で,委員会終了後回収と記載されております資料もありますので,すべてがそろっているかどうか御確認いただきまして,不足がありましたら,事務局までお知らせください。

【道垣内主査】 では,議事に入りたいと思います。
 まず,議事に段取りにつきまして確認したいと思います。本日の議事は,資料の一番上にあります紙にございますように,コンテンツ業界からのヒアリング,各国におけるスリーストライク制度の概要,WIPO等における最近の動向,その他という4点でございます。
 まずは,議事の1,コンテンツ業界からのヒアリングに入りたいと思います。
 事務局より文化庁における海賊版対策の取組についての説明を頂いた後,海外においてビジネス及び海賊版対策を行っている企業の方々に御発表を行っていただきたいと思います。 その御報告の後,質疑応答,自由討議という段取りにしたいと思います。
 まずは,事務局から文化庁における海賊版対策の取組について説明していただくとともにヒアリングのポイント及び発表者の御紹介をお願いします。

【井村専門官】 それでは,資料1に基づきまして,文化庁における海賊版対策の取組について簡単に御説明いたします。
 資料1を御覧ください。左端の方にありますとおり,政府の新成長戦略,知的財産基本法,知的財産推進計画等に基づきまして,右にあります各種事業等を実施しております。
 上から順番に簡単に説明させていただきます。
 まず,二国間協議ですけれども,これは侵害発生国,具体的には中国,韓国,台湾等が定期協議を実施しております。
 その次が,日米が連携した海賊版対策としまして,こちらは欧米,アジアから著作権行政官等を招へいしたアジア著作権会議の開催とあと日米,EUとの定期協議等を実施しているということです。
 権利行使の支援等というところですが,こちらは権利行使のための権利者向けの取引書の作成,著作権セミナーを開催して,その情報を提供しております。
 次のトレーニングセミナーは,侵害発生国・地域,具体的には中国,香港,マカオ,台湾の取締り機関職員等を対象としたセミナーを実施しています。
 続きまして,官民協力体制の構築としましては,知的財産保護フォーラム(IIPPF)が実施いたします官民合同ミッションへの文化庁としての参加や一般社団法人のコンテンツ,あるいは流通促進機構の支援などがあります。
 最後に,WIPOと協力した途上国対象協力事業 APACEプログラムについてですが,こちらは文化庁からのWIPOへの拠出金によりまして,WIPOと協力して著作権,著作権隣接権に関する各種セミナーの開催,研修の実施,そのほかの研修を実施しているところです。 
 以上,簡単ですが,文化庁の海賊版対策の取組について,説明いたしました。
 続きまして,参考資料2を御覧ください。
 国際小委員会におきまして,「インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方」に重点を置いて議論を行うということがありました。その際,権利者団体や海外に積極的に展開しているコンテンツ業界からの情報を幅広く把握することとした,これを受けまして,今回,コンテンツ企業からヒアリングを行うというものでございます。
 ヒアリングのポイントとしましては,資料にありますとおり,海外におけるビジネス展開の状況。海外における海賊版被害状況。現在行っている対策の状況。文化庁が実施する二国間協議への要望。国内連携の在り方。文化庁・政府への要望などです。
 今回は,出版関係につきましては,株式会社集英社から,恩穂井様。ゲーム関係につきましては,株式会社スクエア・エニックスから長谷川様。コンテンツ業界の団体といたしまして,一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構CODAの後藤様。以上の方々に御発表をお願いしております。
 ヒアリングの企業から資料につきましては,机上のみ配付させていただいておりますが,委員会終了後回収と書いておりますが,こちらは回収させていただきますので,そのまま終了後置いておいていただきたいと思います。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 今の御説明,国が行っている施策を前提に,今日のヒアリングの趣旨が参考資料2に記載されております。文化庁に対する御質問を含めて事後的にまとめてしていただきたいと思いますので,まずは10分程度でございますけれども,株式会社集英社の恩穂井様,よろしくお願いいたします。

【恩穂井(株式会社集英社)】 集英社編集総務部知的財産課の恩穂井と申します。本日はこのような機会を与えていただいてありがとうございました。
 時間も限られておりますので,本日は出版,特に漫画に関することにテーマを絞ってお話しさせていただきたいと思います。
 まずは,弊社の海外での出版ビジネスの展開ということで簡単に御説明しますと,2010年11月現在で,世界の約40の国と地域で,ライセンスという形で翻訳出版しております。主だった国は,北米と,ヨーロッパではフランス,イタリア,スペイン,ドイツなどです。アジアでは台湾,韓国,ロシアは今のところ1社だけライセンスしております。インドは色々と難しいお国柄で,まだ展開できておりません。中国もライセンスという意味では,たくさんライセンスしているんですが,中国における出版業というのは許認可制ですのでなかなか数が出せないという状況が続いております。その中で,後から述べますように,インターネットにおける漫画の侵害というものがものすごい勢いで広がっておりまして,我々は膨大な需要を失い続けております。政府と侵害している人間たちが,結果的に連係プレーをとっているのではないかとさえ思えるような状況です。
 海外での漫画を含む出版の侵害と言うと,ひと昔以上前ですけれども,紙の海賊版というのがかなり出回っておりました。これに関しては,先ほども申し上げましたとおり正規ライセンス品の流通でかなり押さえられた上に,インターネットの発達で,紙の海賊版というものはほぼ見られなくなっております。したがって,本日の中心テーマはやはりインターネットにおける海賊版ということになるかと思います。
 インターネットにおける海賊版といいましても,いろいろな侵害の態様がございます。インターネットが始まって以来,御存じのとおりどんどん技術が進歩しておりまして,例えば,高速高解像度のスキャナーやデジタルカメラとか,あるいは非常に簡便なアップローダーや画像編集などのアプリケーション。あとオンラインストレージなどのサービス,もちろん高速大容量のインターネットのインフラ整備,これらがあいまって,非常にいろいろな侵害の形態,特に法律ではなかなか取り締まれない形態がたくさん出てきております。
 代表的なものですと,まず動画投稿サイトというものがございます。資料1にありますのが,今年の2月22日,「ワンピース575」というワードで検索した「YouTube」の画面の一部です。「ワンピース」は弊社が発行している漫画作品ですが,2月22日というのは,この「ワンピース」第575話が掲載されております「週刊少年ジャンプ12号」の公式な発売日です。その発売日に検索して,結局この日だけで,「ワンピース」第575話の違法投稿を101本削除しました。その中でも最も再生回数が多かったものが,資料2の105万3,143回。1つの動画だけでこれだけの再生回数です。
 違法投稿の中で最も早い投稿が2月22日の4日前,つまり公式発売日の前週の(木)ということになります。2年ぐらい前から,この程度のスピードでの違法投稿が,技術的に可能になっているようです。
 ただ,動画投稿サイトというのは,データの流れで言いますと,終着点,一番最後の段階になります。「早読み」とか「ネタばれ」とい称する違法な漫画データがネットに氾濫しておりますが,そういうデータの流れで見ますと,当然日本での現物の本のスキャンが最初になります。日本語のスキャンデータをネットユーザーなんかは「RAW MANGA」といっていますが,この「RAW MANGA」がファイル共有ソフトとか,オンラインストレージとかのチャンネルを通して,海外でも入手が可能になり,そこでデータを入手した者が勝手に翻訳をつけて,更にマンガの画像も編集加工して,またそのデータをアップする。この勝手に翻訳された漫画データを「スキャンレーション」といっていますけど,それが我々が「ファンサブ」と呼んでおります海外の漫画ファンサイトにアップされます。このファンサイトにアップされたデータを更に「スライドショー」と呼ばれる順番に読めるような形の動画に変換してアップしたものが,動画投稿サイトの違法データです。
 次に,基本的には一番プリミティブな形の侵害サイトの態様で,「サーバ自前型」と個人的に名付けておりますが,自分で管理しているサーバに違法なデータを保存して公衆送信するという形態があります。この態様については,「Mangastream」というサイトが現在猛威をふるっております。また,最近発見したのが,資料3の「Manhua.178.」という中国のスキャンレーションサイトです。資料4がそのスキャンレーション画像です。
 この形式のものは,日本では既にあり得ないんですけれども,海外では対応するにもいろいろな障害がございまして,決定的な対策がないまま,まだ多く存続しております。
 資料5の「Mangafox」も「サーバ自前型」の代表的なサイトのひとつですが,下の方に小さくて読みにくいですが「我々はフェアユースである」と書いておりまして,典型的な「居直り侵害例」となっております。
 後で御説明しますが,資料7,資料8の韓国の「CHUING」というサイトも,自らが管理するサーバで運営していた「サーバ自前型」サイトです。
 三番目に御説明するのが,我々が非常に対応に困っている形態の1つで,「リンク型」と呼ばれるものです(最近は「リーチサイト」などと呼ばれるようです)。
 これは,違法なスキャンデータを外部,例えばオンラインストレージとかにアップして,リンクで自らのブログ,サイトに引っ張ってくるという形態です。
 資料9が,最近かなり猛威をふるっている「Raw-Bunko」というサイトで,大量の違法データにリンクをはっています。この資料9のトップ画面,タイトルをクリックしますと,「Filesonic 」というオンラインストレージに飛びます。「Filesonic 」というのは,ダウンロードのスピードによって課金していくという有料サイトで,「Raw-Bunko」はただでスキャンしたデータを使って,有料でもうけているという悪質なサイトです。
 「Rawmangaland」というサイトも,以前から侵害を繰り返してきたサイトなんですが,最近これはTwitterの方に移行しまして,Twitterはテキストベースなんですけど,「リンク型」ですとテキストベースでも十分運営できるということで,ここは,先ほど御説明した「早売り」「ネタバレ」のスキャンレーション画像をかなりまめに上げております。
 4番目の態様は「ファイル共有ソフト」で,皆さん御存じの「Winny」,「Share」のほか,「ParfectDark」とか「Bit-trent」とか,新しいタイプのものも出てきております。「ファイル共有ソフト」は,ウィルス感染の危険度が大変高いので,我々はアクセスさえままなりません。したがって,直接的な対策が非常にとりにくい形態です。
 この「リンク型」と「ファイル共有ソフト」を複合したタイプも既に出てきております。日本でしか確認しておりませんが,資料12の「漫画全巻トレントジップ」というサイトは,名前のとおり「Bit-trent」で共有しているZipファイル形式の違法データへの直接アクセスを可能にしているサイトです。
 同じ複合型サイトでは「とれんと祭り」というものも発見しており,ウォッチングだけしておりましたが,つい一昨日に閉鎖を確認しました。この手のサイトはできては消えていくということを繰り返すものも多く,違法データにアクセスするための比較的軽いデータさえ残しておけば,違った名前で簡単に別のサイトをオープンすることができてしまいます。
 最後が,「App Store」ということで,固有名詞を侵害類型として申し上げるのは失礼かもしれませんが,「Android」が最近サービスを開始したとはいえ,アプリという形での侵害は現時点で「App Store」しか確認できておりませんので,侵害の類型とした次第です。この「App Store」については,弊社と運営するAppleさんとで,侵害アプリ対策について,今まさに交渉を始めたところです。
 なぜこれが新しいタイプかと言いますと,まずアプリという形式が,単純にコンテンツというふうには言い切れないものだからです。例えば,配信されるアプリの中には,「侵害コンテンツを内蔵したもの」と,「ビューワ」といって,インターネット上から違法データをiPad,iPhone上に読み込むだけの,開発者が「純粋なアプリケーション」と称するもののがございます。
 一般には,ソフトは中立と言われますが,この「ビューワ型」のアプリに関しては,我々が削除を要請してもAppleさんが「違法性が明確でない」ということでなかなか削除に応じてくれないということがございます。資料につけております「看漫画」というアプリが,やっと昨日削除できましたけど,「ビューワ型」だったため,発見からひと月半Appleさんは削除対応してくれませんでした。その間,このアプリのデベロッパが「我々は侵害してない」と弊社に反論を続けまして,その間はもちろん,アプリの販売を継続していました。
 この「App Store」に関して言うと,枠組みと言いますか,Appleさんの姿勢そのものにかなり問題がございまして,まず,違法アプリに関する正式な削除フォームを持っていらっしゃいません。大枠でというか,Apple本体のホームページにはいろいろな通報の窓口があるんですが,「App Store」で侵害アプリを見つけた権利者が,削除してくれと要請できる窓口は公表されていません。我々も,ビジネスチャンネルで知りえたアドレスに,これまで連絡してきました。あと,新聞などでもAppleさんからのコメントとして報道されていましたが,著作権に関する権利侵害についての事前審査を一切行いません。数が多過ぎるということらしいですけど。
 また,今回の「看漫画」もそうだったように,我々がアップルジャパンにクレームを出しますと,ジャパンからUSAにクレームが回されて,USAはそのクレームをアプリのデベロッパに回すだけで作業は一旦終わりです。あとは,デベロッパと権利者の直接の話合いで決めてくれというのが,これまでのAppleさんの基本姿勢でした。つまり,ノーティスアンドテイクダウンさえ満足にはやってないという状況でした。
 これらの問題について,つい先日,アップルジャパンの方と初めて面談が実現しまして,事態は特に改善されていないんですが,継続して対話していくことを約束してくれましたので,これからもっと具体的な突っ込んだ話ができるのではないか,前向きに話せるのではないかと期待しております。
 我々はこれまで様々な対策を試みてきまして,成功した例も幾つかありますけど,海外についてはなかなかうまくいかないということの方が多いです。ただ,最初に述べました「YouTube」に関しては,余りにひどいということで,今年1年,我々は,この対策に非常に力をいれてきました。指紋認証システムを導入して違法投稿の検索と削除を自動化したり,社員による目視検索をかなり頻繁に行いました。そのかいあって,違法投稿は現在,かなりの数が減っております。本格的な対策開始のスタート段階での調査で,世界の有力動画投稿サイトにおける漫画の侵害の9割以上が「YouTube」でしたので,動画投稿サイトのスライドショーという形式での侵害は現在かなりの数が減っているのではないかと思っております。
 また,先ほどちょっと申し上げましたが,韓国の「サーバ自前型」侵害サイト「CHUING」については,著作権者,弊社と現地の出版ライセンシーが共同して刑事告訴を行いました。海外でのネット侵害事件についての刑事告訴というのは,我々としても初めての試みで,幸運なことに成功した例です。これによって先月,このサイト内の違法なデータをすべて削除することができました。また,結果的に,サイト自体も閉鎖に追い込むことができました。
 とはいえ,海外での刑事的な動き,法的なアクションというのは,特に巨大なファンサブがあるアメリカ,中国などの地域では,余りにもハードルが高く,コストも予想できないということで,現実的な選択肢とは言えず,日本では既に存続し得ないような「サーバ自前型」での侵害サイトが,海外では堂々とまかり通っているという状況です。
 これは是非御注目いただきたいんですが,トータルな問題と言いますか,我々,出版社を含むコンテンツ側はこれだけ侵害されていると同時に,その対策についても基本的には自己責任というのが現在のインターネットの枠組みです。つまり我々は二重にコストを負っているということで,そのことについて,先生方にも御考慮いただければと思います。
 また,我々の力では解決が容易ではない例として,リンクという問題がございます。先ほども申し上げましたが,リンクを利用した侵害に対する対応がなかなかできない。日本においては今,漫画の侵害サイトの主流はこの「リンクサイト」です。これに関しては,違法性というのが今のところ明確に認められておりませんので,我々の削除やリンク切断の要請が,多くのプロバイダから拒否されてきました。
 Googleで検索した結果にユーザーがアクセスするというのもリンクですから,端的に「リンクは違法」とすることが難しいのは重々承知しておりますが,明らかに違法な漫画データに特化してリンクを利用しているサイト,侵害の意図をもってデータを集めているサイトについて,その違法性が問えないということに,常々我々は疑問を持っております。
 それは,先ほどの「App Store」の「ビューワ」の問題もそうでして,「看漫画」という「ビューワ」を利用して,iPad,iPhone上で見ることができる漫画はすべて違法なデータです。そういう侵害目的を伴ったリンクとかアプリケーションというのは,当然に著作権侵害,あるいはほう助の範ちゅうではないかと常々考えております。
 時間も余りなくなりましたので,最後に先生方にお願いがございます。日本が「クールジャパン」と言われて久しいですけれども,日本のソフトパワーというものは,国際的に見れば極めて有望な産業であり,豊かな資産であると思います。対して,アメリカはなりふり構わず,自国の巨大プラットホームを保護するインターネット施策をとっているように見えます。インターネットというのはシステムとしてはグローバルですが,それを管轄する法律については,国益に沿った枠組みというのが当然考えられていいのではないかと思っております。
 既得権を主張していると思われると困るんですが,やはり日本においては,ソフトパワーをどう保護していくかということが重要と考えます。そのことを皆さんに是非お考えいただきたいと思っております。
 どうもありがとうございました。

【道垣内主査】 ありがとうございました。たくさんの情報がある中で,所定の時間内にお話しいただきました。
 続きまして,株式会社スクエア・エニックスの長谷川様,よろしくお願いいたします。

【長谷川(株式会社スクエア・エニックス)】 スクエア・エニックスで法務,知的財産を担当しております長谷川と申します。本日は,こういう機会を与えていただきましてまずは御礼申し上げたいと思います。
 それでは,席上だけの配付になっているんですけれども,パワーポイントのA4の横長の資料に沿って,このヒアリング事項にそって御説明させていただきたいと思います。
 まず,1ページ目ですが,海外におけるビジネス展開状況というのを簡単に御説明したいと思います。
 当社はゲームソフトを中心にビジネスを展開しており,ドラゴンクエストですとか,ファイナルファンタジー,海外タイトルですとヒットマンや,トゥームレイダー,これは,ララクロというヒロインで有名ですが,そのようなゲームソフトを作っています。あとそのほかにマンガ,アニメ,書籍等のコンテンツも扱っておりますが,今回はゲームに特化した形で御説明をいたします。
 地図が小さくて見にくいんですが,日本,アメリカ,それからヨーロッパに販売とゲーム開発の拠点,スタジオと呼んでおりますけれども,それを設けまして,ある意味国際的にビジネスを展開しております。
 パッケージのゲームソフトは日米欧が中心ですけれども,そのほか,ゲームの配信や,オンラインゲーム,サーバ型のオンラインゲームのビジネスもやっておりまして,こちらは概念的にはほぼワールドワイドでの展開になります。
 今後の課題ですが,欧米での事業基盤の強化になります。現在,2010年上半期で,日米欧それぞれで約250万本から300万本弱のゲームソフトを販売しております。ほぼ3地域でイーブンな形なんですけれども,これを海外比率80%を目標にしています。80%というのは大体ワールドワイドでのゲームソフトの国別の市場シェアを反映していまして,日本が2割程度で残りの8割が海外ということから来ています。
 それから,中国等の新興市場の展開も推進しております。これはあとでちょっと関連しますけれども,パッケージよりはオンラインゲーム中心で,最近では中国のオンラインゲームの大手のシャンダゲームズというところがございますが,そこと提携しまして,オンライゲームのファイナルファンタジー14のライセンスディールを締結したところでございます。
 3ページ目になると思いますが,ここからはネット上の被害状況を御説明させていただきたいと思います。
 頂いたプレゼン項目では海外の被害状況ですが,ネット上ということにしております。ネット上でありますと日本も海外も区別がないものですから,ネット上という形にしております。
 ゲームについて言えば,先ほど集英社さんからも同じような話がありましたが,主な侵害形態としては,2つありまして,1つはリーチサイトと蔵置サイトの組合せパターン,それからもう一つは,いわゆるP2Pと呼ばれるものと,ゲームソフトについては,この2つが大きなものでございます。
 我々が扱っているアニメもYouTubeに随分上げられています。月に大体1,000件から1,200件ぐらい違法ですというノーティスが来ますけれども,そういったものは触れておりません。
 まず,リーチサイトプラス蔵置サイトにおける違法アップロードの方から御説明させていただきます。
 こちらは,パターンとしましては,基本的には容量の小さい携帯ゲーム機,任天堂のDSと呼ばれるものですが,これが被害の中心になっております。容量の大きなものが上げられることもありますが,この場合には,ファイルを分割してあげられますので,ダウンロードしてから,ユーザーの側がもう一回それをつなぎ合わせないといけないということで若干手間がかかっておりまして,そういう制限から被害は比較的容量の小さい携帯ゲーム機が中心になっております。
 推定の被害額なんですけれども,これは日本のゲーム業界全体ですが,先日,CESAという団体が東大の馬場先生の御協力で調査したところによりますと,2004年から2009年の6年間,任天堂DSとソニーのPSPの違法ソフトの推定被害額は約3兆8,000億円だという算定をしております。これは飽くまでリーチサイトとそれから任天堂のDSとソニーのPSPだけですが,それだけでもこれだけあるということでございます。
 ちょっとめくっていただきまして,これは任天堂DSのリーチサイトがどのような形で違法にアップロードされているかというのを簡単に模式図で示したものです。どこかの国,韓国などが多いと聞いておりますけれども,そこの人間がまずゲームのデータを吸い出します。吸い出して,このゲームソフトデータをROMと言っているんですが,これについてユニークな番号で管理しているものが別の国にいるようでして,そこに番号をつけてもらう。番号をつけてもらったら,その番号でゲームを特定して,[3]ですけれども,いろいろな国,中国やアメリカ,ヨーロッパのサーバにアップする。アップしたところでそのアップ完了報告を違法リンクをはっているサイト管理者,ここではドイツと書いてありますけれども,そういったところに連絡する。アップしたところを見計らって,日本等と書いてありますけれども,日本を始めとするユーザーがダウンロードしてくるという形が通常のパターンです。
 リンクサイト管理者がドイツからインドと書いてあるんですが,これは,任天堂DSで1つドイツのリンクサイト管理者というのがありまして,こちらの方でしつこいほど削除要請等々を出したかせいか,いつの間にインドのドメインに変わっていたということで,インドということになっています。実際に,インドにいるのかどうか,実際にサーバがどこにあるのかということは,実ははっきりしておりません。
 次が,ゲーム関連の違法な著名なリーチサイト例を3つほど挙げさせていただきました。
 アメリカ,ロシア,チェコという形でサーバ所在の地が記載されておりますが,これも本当かどうか若干怪しいところがございます。
 次のページが,アップローダーです。サイバーロッカー等とも呼ばれますけれども,こういったところが主に利用されているというところでございます。なぜか,ゲーム関連につきましては,オランダ,ドイツが比較的多数を占めています。いずれにしましても,ゲームについて言えば,こういった西欧の先進国的なところの方が被害の発信元になっているという傾向が見てとれると思っております。
 次がP2Pの方ですけれども,これは比較的ファイルサイズが大きいものが中心に被害を被っている状況ですが,
 任天堂DSのように容量が小さいものは,数10本から100本単位のゲームが1つのファイルになって,これで違法に流通しているという状況でございます。主なP2Pのソフトとしては,Winny,Share,Gnutella,Bittorrent,Perfect Dark等がございます。それぞれに特徴があるんですけれども,日本国内ではWinny,Share,Perfect Darkが中心ですが,Bittorrent ,Gnutellaも随分使われていると聞いております。
 こちらの方は,どういう被害があるのかを調査するのは非常に難しいですが,参考としてACCSさんの調査結果をここに記載させていただきました。これは,2008年8月10日24時間,Winnyのネットワークをクローリングで調べまして,どういったファイルがアップされているかというのをチェックして,そこからゲームソフトだけを,たしか目視だったと思いますけれども抽出した。そうしたら,185万本分がアップされた状況になっていたということでございます。1本3,200円で計算すると,約59億円の被害額ということでございます。
 簡単に,Gnutella,Winnyの説明をここに書かせていただきました。P2Pソフトは大きく分けて2種類ございまして,1つは,通信方式で呼ばれているものがございまして,それがここにあるGnutellaや,後から出てくるBittorrent等でございまして,これは通信プロトコルが公開されていて,それに則ってやればファイル交換ソフト自体が別の仕組みであっても,別の名前が付いていても,それぞれで互換性を持つ。例えば,Gnutella方式ですとLime Wire,Cabos等が有名ですけれども,こういったものは相互にデータに加えるなりファイルを交換できるということでございます。
 それから,WinnyとかShare,それからPerfect Darkのようなものですが,これは通信プロトコルかつファイル交換ソフト自体でもありますので,WinnyはWinnyで,ほかのWinnyとしかファイル交換ができないという特徴を持っております。
 日本では,WinnyとかShare,それからPerfect Dark等が随分使われているようですが,全世界で見ますと,Bittorrentと呼ばれるP2Pのファイル交換ソフトが一番シェアナンバーワンです。9ページに記載のとおり,これがどういう仕組みなのかを簡単に御説明させていただきます。
 一番左の真ん中辺に,パソコンがありまして,誰か個人がアップロードで上げると,そうするとこの情報が上の方にありますインデックスサイト,それからトラッカーというところに情報が行きます。インデックスサイトというのは,検索サイトで,ファイル名とか検索するそういう情報を持たせます。トラッカーというのは,どこの誰のパソコンが情報を持っているかという位置情報を示す,そういう情報を持つ,そういう仕組みになっております。
 実際に,タウンロードしたい人は,インデックスサイトに行って,そこでファイル名を検索して落としてくる。落とし方に非常に特徴がありまして,シーダーという,100パーセントのファイル情報を持っている個人のパソコンから手当たり次第にデータを取ってきます。アップロードしている個人の人が1,000人いれば,1,000か所から理論上はデータを取ってこられるということです。大容量,高速でファイルを落とすことができるということです。
 それから,一番右の方にダウンロード(リーチャー)とありますが,リーチャーというのは,100パーセントではなくて,それ未満のファイル情報,データを持っているというそういう意味なんですけれども,ダウンロードが100パーセントのシーダーだけではなくて,リーチャーからも全部引っ張ってこられますので,そういう意味でもファイル交換というか,ファイルの流通に関しては優れたソフトですが,一方で違法にも非常に使われやすいというものでございます。
 10ページですけれども,当社の被害の1例ということで簡単に書かせていただきました。これは先ほどの馬場教授の調査のデータです。ここに出た,ほんの一部のタイトルだけでも,トータルで570億余りの損害が出ているということでございます。
 それから,次にいきまして,現在行っている対策の状況でございます。11ページになりますが,日本に専任者を配置しまして,全世界の侵害を統括しております。欧米に法務のの拠点がございますので,そことも連携しています。
 リーチサイトに関しましては,定期巡回と削除要請が対策の中心になっております。
 それから,P2Pにつきましては,技術的な対策,それからACCSさん経由ですけれども,警察との連携による刑事事件化が中心になります。ただし,刑事事件化は,今のところ日本国内だけです。そういうことで,先ほどの売上げに対する被害の他に,こういった形で,非常にコストをかけて対策を行っているというのが現状でございます。
 要望事項,これは法律的な話もそうでないもの,著作権法的なものとそうではないものを合わせて書かせていただきました。3ページほどにありますが,2国間交渉という点とでは,特に対中国への要望事項でございます。
 ゲームにつきましては,いろいろな外資規制ですとか,それからゲーム機,例えばプレステーション,任天堂DSといったものにつきましては,輸入の制限がございまして,ハードが出ていっておりません。このため,本来は,ソフトも売れないということなんですが,事実上,香港経由などでハードがどんどん輸入されていて,それに伴って違法品が出回っているという状況でございます。それから,中身につきましてもいちいち検閲がございますので,タイムリーなリリースも非常に難しい。我々は単純な違法品対策だけでは意味がないと考えておりまして,違法品の排除とそれから正規品の流通,これが違法品対策の車の両輪だと考えております。単純に海賊版をつぶしていっても,需要があるのに正規品がない状態では,また別の海賊版が出るだけで,余り意味がないことですので,こういった形での対策ができればという要望でございます。
 それから,次に13ページ目ですが,リーチサイト,トラフィックサイト,インデックスサイト対策として,先ほどもちょっと出ましたけれども,海外も含めたリンクの削除義務とか,それから中には蔵置先も明記してないサイトもございますので,蔵置先明記義務の制定とか,そういったものも考えられるのではないかと思います。
 それから,反復的著作権侵害者に対するアクセス遮断,いわゆるスリーストライクも検討してみて良いのではないかと思います。
 それから,3つ目に登録制度というものを上げてございます。国によっては権利行使する際に,権利証明としていろいろな登録等々を求められることがございます。若しくは登録していると有利になるということもございます。今,日本にはこういう制度がないので,現在当社は変な話ですが,アメリカの著作権登録等々を使って,他の国でも使っているというような状況なんですけれども,もうちょっと何とかならないかなということでございます。
 それから,最後にこれは法律的な話ではないんですが,ネット上の侵害対策としまして,支分権としては一応ありますので,あとはどうやってその実効性を確保するかというのが中心になるかと思います。
 そこで技術的対応手段というのが非常に重要な位置を占めます。ですので,例えば,技術的対応手段に対するいろいろな補助とか援助といったものも考えてみてもいいのではないかという気がします。
 それから,検討の座組みですけれども,当然海外がどうなっているかということも重要ですが,ネットというのはいわば国境のないバーチャルな,リアルとは違う世界の話でもございますので,少し別の検討の座組みが必要なのではないか。当事者も先ほどお話ししたように,技術的な部分が非常に大きなウエイトを占めますので,そういった人間も必要なのではないかと思います。
 それから,ISPというか,ネット上でハブとちょっと書いてありますが,別紙として最後の方に本のコピーを引用としてつけてあるんですが,インターネットの構造,トポロジーの模式図だとお考えいただければと思います。
 基本的にはインターネットは,ネットワークなんですけれども,スケールフリーのネットワーク構造だということが言われています。つまり巨大なハブ(注:ハブ空港のハブと同じ意味。中心点)が幾つかあって,そこが情報流通のキーポイントになっている。この図は,そういうイメージでございます。
 インターネットというと,何となくランダムで無秩序なつながりをしているのではないかとイメージするんですが,いろいろ研究していくと,実はそうではない。幾つか大きなハブがありまして,そこが情報やデータ流通の肝になっている。ですので,そこに対して何らかの対策を打てば,かなり効果的なことができるのではないかと考えております。そうするとそういうハブを管理するところも座組みのメンバーに加えることも必要に思われます。
 それから,あとは著作権法自体が,産業保護という視点を持っていないと理解しておりますが,海外でいろいろ人気になっているコンテンツというのは基本的には産業的に制作されているコンテンツが大半です。アニメにしましてもゲームにしましてもお金が投資されて多くのクリエーターが集まって,それで権利所有をするというようなことですので,そういった視点,産業保護という視点必要ではないかと思います。
 すみません,時間が超過いたしました。以上でございます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 それでは,続きまして一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構の後藤様,よろしくお願いいたします。

【後藤(一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構)】 後藤でございます。今日は,CODAの専務も務めておりますのでプレゼンをさせていただきたいと思います。
 まず,CODAでございますけれども,2002年に国が知財戦略をうたわれましたもので,経産省と文化庁さんの御支援を頂きまして作られた団体でございます。
 ここに目的がございますように,コンテンツ産業の振興。それと障壁となっております海賊版という対策を講じましょうということで作られた団体でございます。現況は,このような企業会員と団体会員ということで,音楽,映画,アニメーション,出版,放送,玩具といった企業,そしてこれらの団体さんで構成されております。
 とりあえずコンテンツ振興というお話をさせていただきましたが,その前に海賊版対策ということで,この4本の柱で講じているというところでございます。
 侵害対策におきましては,オンラインとオフラインということで,CJマーク事業,これがいわゆるオフライン,フィジカルパイレーツの対策です。それと違法配信対策。それと取り締まり機関の連携。3としまして,関係機関,政府機関との連携,それと啓発活動がこの4つの柱でございます。
 CJマーク事業でございますが,これは端的に申しますと今お話がございましたけれども,海外で権利行使,著作権で権利行使をいたします際に,いろいろ著作権の場合煩雑な資料が求められます。ということもございますので,商標でこのような形で出願をいたしまして,登録した国,地域,この国々に登録しておりまして,CJマークというものをコンテンツの外観に付したり,映像の中に付したりということで,これがそのまま複製されれば商標権侵害ということで権利行使をするということでございます。
 次に触れますが,モーションピクチャーアソシエーション,MPAと言いまして,ハリウッドの6大メジャーで組織されておりますアメリカ映画の団体がございます。彼らは侵害対策というものを全世界的にやっておりまして,彼らと業務提携をするという形で我々のコンテンツも保護してもらっているというところがあります。
 アメリカ映画のエンフォースメント,そのルーティンの中に日本のコンテンツも一緒にエンフォースメントをしてもらっているというところでございます。
 ただ,今日におきまして,香港以外においても日本コンテンツのみを取り扱う海賊版ショップが増えて出てきましたので,そういうものに対してはCJマークというのを活用したエンフォースメントを来年度以降活発にしていこうかなと考えているところでございます。実績は既に香港で出ておりますので,法的な裏付けはあると思っております。
 エンフォースメントでございますけれども,このような形で,中国,香港,台湾,韓国という形で実施しております。先ほど申しましたように,MPAと業務提携をする形で行っております。適用法条でございますけれども,中国においては,違法営業という行政手続で実施しております。これは,無許可営業,無許諾出版の販売等々の違法営業というところの括りでございます。詳細につきましては,文化庁さんが昨年の3月にお出しになりました「中国における著作権侵害ハンドブック2」というのがございますので,それに詳しく書いておりますので御参考にしていただければと思います。
 中国においては文化市場行政執法総隊というタスクフォースがございます。そこが中心に行政手続を行っております。御承知のようにある程度,いき値を越えれば,刑事移送されるということになります。
 香港におきましては,著作権法違反ということで,香港税関がこのような形で積極的に取締りをしてくれているというところでございます。
 おかげさまで,「信和中心」という日本のオタクビルと言われておりましたアニメーション中心の海賊版のビルがあったんですけれども,それも今は一掃しておりましてきれいになっているという状況です。
 台湾におきましては,台湾知財警察というのがございまして,これも著作権法違反で検挙していただいているというところです。
 韓国においては,今実験ということで,韓国検察庁の方で海賊版の露店商が出ておりますので,それについて検挙していただいているというところでございます。このような形で権利行使をしている。これは全て日本のコンテンツに関わる押収でございます。
 具体的な事例としまして,3件挙げさせていただきまして,台湾の例でありまして,3万8,173個の侵害ファイルのうち日本の侵害ファイルが3万7,000ということで押収されているということです。香港税関では海賊版の倉庫が検挙されたり,中国の広州でも店舗が11か所摘発されたという例でございます。
 続きまして,違法配信対策の構想でございますが,これは皆様の資料には入っておりませんけれども,CODAといたしましては,2009年より実証実験を実施しておりまして,2012年の本格稼働を目指して,このような形で中央にセンターサーバを置きまして,それぞれのコンテンツホルダーの皆さんのデータを集めまして,ウォーターマーク,フィンガープリント等々の技術を施しまして,将来に向けたオンライン上の侵害に対応ができればということを考えております。
 技術としまして,日本はいい技術を持っておりますので,その辺を有効に活用して侵害対策のもとにしたいというところでございます。将来的には,コンテンツID,スリーストライク等々の補強になればということも考えております。
 具体的な実証実験といたしましては,削除要請の通知ということとコンテンツの識別技術の調査ということをやっております。削除要請の通知でございますけれども,中国と韓国のUGCサイトにおきまして,CODAの会員者である権利者の協力の下,CODAが代表しまして,削除通知を出しているというところでございます。中国の大手4大UGCサイト,韓国の大手UGCサイト1サイトでございます。これにつきましては,相手もありまして,今実験中でございますので,名前はちょっと申しませんけれども,100%削除してくれるところもあれば,10%しか削除しないところもあるということであります。この辺の結果,データがある程度蓄積されておりますので,近々に国家版権局にお邪魔して,それなりの対応を協議してまいりたいと思っております。
 コンテンツ認証技術の調査でございますけれども,先ほど申しましたように,フィンガープリント技術におきましては,日本はかなり精度が高い技術を持っております。これを自動化して,一連の流れをつくり,今後深掘りをしまして,自動監視スキームの構想というものに結びつけていきたいと思っております。
 それから,啓発の1つと致しまして取締り機関との連携ということで,文化庁さんからの受託事業ということで各国の取締り執行機関の皆さんを対象にしたトレーニングセミナーというものの開催をさせていただいております。
 日本のコンテンツの本物,偽物の違い,日本のコンテンツホルダーの姿勢。そういったものを広く取締り機関の皆さんに御理解をちょうだいしております。おかげさまでこのセミナーをやった後,摘発が増えているというのが事実でございます。
 前回のこの小委員会でも御案内させていただきましたが,無許諾出版物の取締りということで,中国の国家版権局がレッドペーパーという最高級の通達を出していただきました件でございます。無許諾出版物というものがございまして,これはフィジカルですが,中国に広くございます。いわゆる偽のライセンス証などを使いまして,関係当局の登録認証等をいたしまして,真正製品として売られている海賊版であります。非常に多く全土に広がっているということがございまして,その中の1つのブランドにつきまして,長年CODAといたしまして取締りを要請したところでございます。
 なかなか難しかったんでございますけれども,今年3月に文化庁が版権局と取締りにかかるところの戦略的な協力に関する覚書というのを締結していただきました背景もございまして,版権局の方が急きょ,このレッドペーパーというものに日本のコンテンツを記載していただいたということでございます。17作品のうち12作品,ここにありますけれども指定してくれました。
 こういう形で日本のコンテンツ,アニメーションが中心ですが,『ワンピース』以下こうありますけれども,日本のコンテンツが対象にレッドペーパーが全国の取締り機関,関係機関に通達されたのは初めてのケースであります。非常に効果がありまして,これをもちまして,先ほど申した1つのブランドがございましたが,それが中国の市場から一掃されているというところでございます。
 こういった関係もございまして,後ほど文化庁様の方から御案内があると思いますが,先の国家版権博覧会におきまして,CODAといたしまして版権局に感謝状を贈呈ということで,閻(いえん)副局長に対して,私どもの石坂副会長の方から感謝状を贈呈させていただきました。私の方から王司長に対して感謝の盾の贈呈をさせていただいたというところでございます。中国のトップ,ナンバー1,ナンバー2から今後とも日本のコンテンツについて恒久的には取締りを実施していくということをお約束いただいたというところでございます。
 CODAといたしましては,こういった形で文化庁,経済産業省,日本の省庁,そして海外のコンテンツホルダー,団体,MPA(米国映画協会),それとIFPI(国際レコード産業連盟)等々と海外の先輩たちとも共に手を取りながら侵害対策を講じていきたいと思っております。
 国内外の連携といたしまして,まず関連の団体との連携ということで,セミナーの共催,情報の共有ということをしております。本年度12月までに6回ほどのセミナーを実施しておりまして,Graduated Responseですとか,スリーストライクルールを考えるセミナー等々について実施したり,IFPIやMPAの海外の最新情報について直接当事者からお話をちょうだいする等々のことで我々の将来に向けた対策への共有づくりということをしております。
 そして,啓発事業でございますが,日本においては不正商品対策協議会という警察庁の関連団体がございまして,1987年から一般消費者向けの広報啓発事業,というものをやっておりますけれども,このたび,本年3月に中国の「王府井」におきまして,一般消費者に向けました啓発イベントというものをやりました。当初,心配しておりましたけれども,非常に盛況に中国の消費者の皆さんも参加してくれて楽しみながら知的財産を保護するという啓発を実施したというところでございます。
 駆け足で恐縮でございましたけれども,CODAといたしましては,今後とも文化庁さん,日本政府の御指導を頂きながら,権利行使と啓発活動等を継続いたしまして,日本コンテンツのビジネスの発展に尽力してまいりたいという次第でございます。以上でございます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 ちょっと時間としては遅れぎみなのですが,以上,御報告いただいた内容につきまして,まずは御質問等がございましたら頂きまして,その上で御要望等も頂いておりますので,それを巡って意見を交わしていきたいと思います。

【久保田委員】 ソフトウェア著作権協会の久保田です。私どもの会員さんの集英社さんに聞くのも変ですけれども,刑事告発のこの韓国の事件で,摘発成功例というのは何をもって成功と言っているんですか。

【恩穂井(株式会社集英社)】 それに関しましては,まず,現地の弁護士と相談しまして,弊社と著作権者と韓国の出版ライセンシー,3者での告訴ということが可能であったということと,それによってすべての訴訟手続を現地ライセンシーにお願いすることができて,非常にスムーズに事件解決ができたということです。韓国は,PCユーザーのIPアドレスがすぐに分かりますもので,いったん警察側に受理されますとすぐに被疑者が特定できます。日本に比べるとかなりのんびりとしたお国柄と言いますか,その段階で,被疑者から現地ライセンシーにすぐに連絡が入りまして,また,現地ライセンシーは警察の被疑者取調べにも同席できて,被疑者と話合いを重ね,被疑者側から,反省して基本的には侵害行為をやめるということの確証が取れました。その上で,韓国において我々が動いていることに対して,韓国のネットユーザを含む漫画ファンがどう受け取るかということに非常に不安がありましたので,我々の対メディア用公式コメントに代えて,その被疑者に「CHUING」上に反省文を掲載させるという形で一般的なアナウンスとしました。結果,現地ライセンシーや弊社への反発や非難の声もほとんどありませんでした。
 刑事裁判自体は開始されたばかりですが,年内には罰金刑で判決が確定するのではないかと聞いております。

【久保田委員】 では,まだ有罪が確定したわけではないのですね。

【恩穂井(株式会社集英社)】 裁判はまだ終わっていません。

【久保田委員】 ありがとうございます。

【道垣内主査】 その罰金刑は相当重い罰金刑ですか。

【恩穂井(株式会社集英社)】 韓国では過去に著作権侵害で罰金刑以上のものはないと聞いています。著作権法には一応懲役もあるらしいんですが,それが実際に課されたことはないということで,数十万程度の罰金と予想されています。

【道垣内主査】 先ほどの説明の中でも,市場を気にされているようでございますけれども,新会社を特定した後,民事訴訟として徹底的にやるという方法,つまり,見せしめ効果というのでしょうか,そういう方策もあると思うのですが,いかがでしょうか。それはやはり,ビジネス上は余りすべきではないとお考えでしょうか。

【恩穂井(株式会社集英社)】 そうですね。まずは,特にネットに関しては,侵害行為をやめさせることが我々の最大の目的でありますし,逆にネットで侵害をしているユーザ,そのサイトにアクセスしているユーザが,実際には漫画のファンでもありまして,我々の今後の顧客ということになりますので,韓国に関しては特に民事的なことは考えておりません。
 今回の一連のアクションのスタートからして,ネットの侵害が激しすぎて,現地出版社のライセンスされた出版物の販売に深刻な影響を与えている,しかし,日本の権利者が動かないかぎり安全だと侵害サイトの管理人は高を括っていて,現地出版社のクレームに対しても全く居直って無視し続けている,何とかできないかという現地ライセンシーからの強い要望からでしたし,「CHUING」の反省文が出てから,韓国において自主的に違法データを削除をしたり,サイトを閉じる侵害サイトが50を越えましたので,我々としてはそれで効果は十分ではないかと考えております。

【道垣内主査】 そのほか何か質問はありますか。

【山本委員】 集英社の方から御紹介がありました「ワンピース575」のYouTubeに掲載されているものの例として,発売日の4日前に早いものが出ているというお話ありましたが,そこはどの段階で出ているのでしょうか。つまり出版社の中から情報が漏れたのか,あるいは書店まで流れていて,発売日ではないんだけれども,書店の段階で流れちゃったのか。よく考えたらかなり早いと思うんですが,どの段階で流れたものか教えていただけますか。

【恩穂井(株式会社集英社)】 このような場ですので詳しく御説明しますが,今日は報道関係の方もいらっしゃるのか,ふだんは報道関係の取材に対して我々は詳しく説明することを控えております。というのは,深刻な侵害の状況を説明する意図であっても,一般の方にとっては,雑誌発売の4日前に漫画が読めるということを広くアナウンスする結果にしかならないからです。
 発売前の漫画データが流出する仕組みについては,確証はとれていませんが,恐らく流通ルート,書店レベルで雑誌現物が早売りされているということがかなりあるようで,幸か不幸か,「週刊少年ジャンプ」という雑誌は部数が多いもので,全国で一斉発売するためには,物理的にかなり早い段階での配本が必要になってきます。ですから,ほぼ前週の(水)ぐらいには配本を始めざるをえません。あとは,それぞれの店舗の方の良識に頼るしかないんですけど,昔からスタンドとかで早く渡しているお店というのがありまして,地域であそこは早く渡してくれるということが口伝えに伝わっているようなんですが,恐らくそういうルートから本が市場に流れていると思います。
 先ほども御説明しましたとおり,漫画をスキャン・アップロードする技術的なスピードが非常に上がっておりますので,日本で「RAWMANGA」がネットに流出するのがほぼ(水)の夕方です。そこからスキャンレーションされて海外のサイトに上がるのにほぼ1日というところまで我々はつかんでいます。
 ただ,書店といっても,最終的にどこのレベルで出ているのかということまでは我々も特定できませんし,それに関しては,刑事的な責任を問う問題ではありませんので,それ以上はなかなか追えないという状況です。

【道垣内主査】  ほかに何かございますでしょうか。

【久保田委員】 長谷川さんからのお話なんですけれども,要するにインターネットに国境がなくて著作権侵害に様々な国の法制に関係してくる。要するに,日本の法整備はもちろん重要なんだけれども,それだけでは解決できないということを言われたと思うんですけれども,この辺についてはどうお考えですか。

【長谷川(株式会社スクエア・エニックス)】 問題意識としては,日本で終息するケースというのはむしろレアでして,国境をまたいで,日本も巻き込まれるということです。技術的な手段がどれだけ有効に打てるのかなというのが恐らく1つの目指す解にはなるのではないかと思います。
 それを支える,バックアップする法制度という意味では,支分権的には大体そろっていますので,基本的には技術的な方向が中心で,法的なものであるとしたらスリーストライク的なことをやるかどうか。それと,ちょっとここには書きませんでしたけれども,誰がやっているのか分からないというのがネックなので,発信者情報の開示,これもいろいろ難しい問題があるというのは承知しておりますけれども,エンフォースする側としては,そういった点の整備も必要ではないかなというふうに思っております。

【久保田委員】 多少,意見になりますけれども,PCまで特定できて,その前に座っている人が分からないわけですよね。そうすると日本の警察庁を始め条例等で前に座っている人を特定していくための会員制とか,若しくは防犯カメラに写るというようなところから言うとネットカフェとか,そういうところも押さえていかざるを得ないんですけれども,これもほかの国でもやってもらわないと意味がないんですよね。
 こういう問題が1つと,あとはやはり民事の話を先ほど道垣内先生から出ましたけれども,民事は,結局,履行できなければ意味がないということで,我々もヨーロッパでやったときに,民事をやらずに刑事でやっていくという方法をとっているんですが,これまた刑事もその国によって執行の仕方が全然違いますから,やってみなければ分からない。そういう意味では現実には教育も含めて啓発するためにも刑事手続をやって,新聞等,メディアに書いてもらって,それは悪いことなんだというところに教育,啓発につなげていくようなことをやると考えるならば,これは本当に大変です。デッドコピーの海賊版,いわゆる複製物を作っているものすら,鍛えられてない各国の警察力ではやれないわけです。
 もっと言ってしまうと,それはネットに上がるという事態になってくると,鍛えられていない警察ではできない。若しくは,我々日本人が持っているフェアの概念とは違う国で,日本のコンテンツを海外で権利侵害対策をやってもらおうと思うと,それは我々の司法制度や執行に対して持っているイメージでは到底私は不可能だと思います。このあたりをどうするかという問題も含めて,本気で考えるというか,考えているのではなくてもう実行しなければならないときに来ているので。
 もう1点だけ,これは質問にもなりますが,ロボット検索で違法にアップロードしている人間を追っかけていく,若しくはサイトに置いてある複製物を削除してしまうというようなロボット技術を日本が持ったときに,これは正当行為でいけるのかどうなのかを本気で考えないと,警告だけ出して削除して,それは正当防衛,正当行為なんだというそういうことを考える時期に来ているのではないかと思います。ちょっと暴論かもしれませんが,法律家の皆さんがお集まりなので,少し教えていただければ幸いです。

【道垣内主査】 いかがでしょうか。

【前田委員】 先ほどの御報告の中で,リンクをはるだけだと違法にはならないので対応してもらないというお話があったかと思います。私の意見としては,リンクをはるだけでも違法になり得るように思います。
 違法ファイルであることを知りながら,あるいは違法ファイルであることを知ることができるのに,あえてそのファイルにリンクをはるということは侵害のほう助になり得ると思います。したがって,損害賠償請求の対象になり得るというふうに思います。
 リンクの切除を求めることができるかということについては,ほう助者に対する差止め請求ができるかという典型的な著作権法上の議論があるかと思うのですけれども,それは別として,侵害のほう助をしているからそのリンクを切除してくださいという要請をすることには私としては問題がないと思います。

【池田委員】 質問ですけれども,長谷川さんにちょっとお伺いしたいんですけれども,資料の方で,現在行っている対策の状況の体制の中で,日本に専任者を配置されている。このあたりでどれぐらいの人数をかけてやっていらっしゃるかということを教えていただきたいのと,それからスクエア・エニックスさんの場合,大きな会社でいらっしゃいますので,欧米の各拠点で連携とかできていると思うんですけれども,こういったことができるゲームメーカーさんというのは結構あるのかということ。それから,小さなゲームメーカーさんはやはり泣き寝入りするケースというのは多いのではないかと思うんですが,そういったところで例えばまとまってこういう侵害対策をした方がいいという声があるのではないかと思うんですが,その辺りはいかがでしょうか。

【長谷川(株式会社スクエア・エニックス)】 何人でやっているかというのは,具体的数字は御勘弁頂きたいのですが,そんなに大人数ではありません。専任者以外にも私も含めてですけれどもサポートしていますのでそういう体制だというふうに御理解いただければと思います。
 大手のゲームメーカー,任天堂さん,ソニーさんはもちろんそうですが,マイクロソフトさんもそうだと思います。それから,カプコーンさんとか,コナミさん,バンダイナムコさんなんかも大体ワールドワイドで主要なマーケットのところには拠点を置いていらっしゃいますので,ワールドワイドでの体制がとれているのではないかと思います。小さいところについては,泣き寝入りされているケースもあるかもしれません。
 まとまってというお話なんですが,やはりまずは,権利保有者が自らやるべきものだろうというのが今のところの状況なんですが,ゆくゆくは,ACCSさん中心になるのかどうか,ちょっと分かりませんが,まとまっていくということも十分に考えられているのではないかと思います。

【道垣内主査】 よろしゅうございますでしょうか。
 私から,1点だけ,違法なことをやっているウェブにせよ,マンガにせよ,収益を上げている人というのはどれぐらい,ほとんどが愉快犯なんでしょうか。

【恩穂井(株式会社集英社)】 漫画に関しては,確かにスタートはほとんどが愉快犯だと思います。我々も何の得があってやっているのかなと思うんですが,例えば「早くアップしたい」,「いろいろな人に見せたい」,そうやって「ネットでヒーローになりたい」という動機がほとんどなんです。しかし,特に海外のファンサブに関して言うと,サーバの運営費とか実際のランニングコストがかなりかかってきますので,そのために結果的に広告収入とか,先ほどのようなストレジーサービスでの有料課金とかいう方向に移行してきているように思います。

【長谷川(株式会社スクエア・エニックス)】 ゲームの場合も大体似たような状況ですが,実を言うと誰がやっているのかよく分からないというところがありまして,どういうビジネスモデルになっているのかがよく分かりません。ひょっとしたらマジコンの製造業者が上げているのかもしれません。そこはもう全然分からないんですが,少なくともダウンロードがただでできるというサイトが大半ですので,そういう意味では無償のところが多いのかなと。たくさん上げると「神」ともてはやされたり,というようなネット上でヒーローになるというようなことで,やっているようなケースも多いように聞いています。
 日本で警察に捕まった人の話を聞いていると大体がそういう動機で,余り営業ベースではないということのようです。

【上原委員】 御発表をいろいろ聞かせていただいて,やはりリンクの問題は非常に大きな問題として現実に出ていて,対応しづらいというのもよく分かるところです。先ほど前田委員から間接侵害での対応という話もありましたけれども,間接侵害の対応をどうするかというのは,この小委員会のメイン議題にはちょっとなりきれないとは思うんですが,幸いに法制小委員会の方では間接侵害のワーキンググループがたしかあったと思いますので,そちらはまだ閉じられていない状況だと思いますので,随時こちらの方からの問題提起としてそちらの法制小委員会のワーキンググループの方で,リンクの問題も扱っていただくということを考えていただいたらどうかということで,当小委員会からのお願いというような形であげることはいかがでしょうか。ここで,間接侵害をぎりぎりやるという話ではないと思いますが,かといって放置せずに考えるべき問題ということでいかがでしょうか,という提案でございます。

【道垣内主査】 その点も踏まえて,取りまとめに当たりたいと思います。
 それでは,申し訳ございませんが,時間がそろそろ限界でございますので,2番目の各国におけるスリーストライク制度の概要につきまして,東京都市大学の張先生に今日おいでいただいておりますので,まずは資料に基づきまして御説明いただきまして,その上で御質問,御意見を委員の方々から頂きたいと思います。
 それではよろしくお願いいたします。

【張(東京都市大学)】 東京都市大学の張です。本日は,各国におけるスリーストライクルール,又は三振アウト制の現状を簡単に御説明させていただきたいと思います。
 お手元の資料3をみていただきますと,今日はかかわっている国々が多いので,私の方で各国を3つのグループに分けてみました。現在,三振アウト制を運用している国として韓国,アイルランド,フランスを挙げています。また,立法はしたものの,制度そのものはまだ施行に至っていない国として,ニュージーランド,台湾,イギリスを挙げています。導入に対して議論がある国として,一番下の大きい枠に国々の名前を入れてあります。左が賛成,右が反対となっていますが,これは調査をすすめる中で私が得た情報をもとに,この国は賛成に近い,この国は反対に近いと私が受けた印象に基づいて分けたものであります。必ずしも各国政府の公式見解ではないことを御理解いただきたいと思います。
 また,スリーストライクルールそのものではありませんが,侵害品が載っているサイトを閉鎖する方向に動いている国として,スペイン,イタリア,アメリカを参考までに入れておきました。
 それではまず韓国から説明していきたいと思います。
 御存じのとおり,韓国では去年7月23日から改正著作権法が施行されています。この改正著作権法は,まず第1条を改正しまして,「文化の発展及び関連産業の発展」と著作権法の目的を拡大しました。文化産業の発展に政府として力を入れるということを示したと思われます。また,いわゆる三振アウト制が導入されています。133条の2と133条の3,このふたつの条項を新設し,同日に関連する施行命令及び施行規則も施行されています。
 133条の2は,文化体育観光部長官がOSPに対して下す行政命令であります。著作権侵害物を伝送する者に対して警告をすることができ,その削除,又は伝送中断を命令することができます。また,反復的な不法複製転送者,常習的なアップローダーのアカウント停止を命令することができます。また,それらが流通されている掲示板に対しては,その掲示板サービスを停止することを命令することができます。
 133条の3では韓国著作権委員会からの是正勧告を規定しています。こちらは法的な拘束力はありませんが,実際のところほとんどのOSPがこの是正勧告に従って対応していると言われています。
 このように韓国の三振アウト制はフランスのスリーストライクルールとはその内容が異なっています。こちらに簡単に表を作成してみました。右がフランスのHADOPI1で,左が韓国の改正著作権法です。HADOPIでは,侵害者が使用しているインターネット回線そのものを切断するとしていますが,韓国では,回線そのものを切断するのではなくて,ウェブサイトなど特定のオンラインサービスにおけるユーザのアカウントを停止することにしています。
 特定のサービスにおけるユーザアカウントなので,例えばeメールやニュースの閲覧など生活基盤のサービスはそのまま使うことができます。掲示板サービスの停止に関しても,例えばアメリカ,イタリアのように,特定ドメインを差し押さえるのではなくて,該当ウェブサイトの下位掲示板の一部,違法なものが載っている掲示板のみをサービス停止するとしています。
 フランスも韓国も「三振アウト」と呼んでいますけれども,このように実際にはその内容が少々違います。それは,ISPやOSPの定義が各国で異なり,P2Pやウェブハードなど主な侵害形態が異なるからだと思います。
 フランスの場合は,P2Pによるファイル共有を取り締まるために,ユーザのアクセスを根本的に切断するという形になった,一方,韓国は,オンラインストレージなどウェブサイト基盤の侵害の方が多かったで,このような形の規定になったのかと思います。
 韓国の三振アウト制の運用実績ですが,11月9日に公式的統計が出ています。まずは著作権委員会の是正勧告による実績をみますと,去年7月23日に法律が施行されて今年の9月30日までに,是正勧告によるアカウント停止は56件になります。これはオンラインサービス・プロバイダ164社に対する是正勧告の結果になります。この是正勧告に対して,OSPは99%対応してくれたといわれています。
 また,去年ごろからスマートフォンにおける不法アプリケーションがかなり問題になってきたので,スマートフォン用アプリケーションに対する8,554件の措置も,この数字に含まれています。
 次は文化体育観光部長官の命令(行政処分)の結果になります。韓国文化体育観光部は,定期的に著作権警察とともに一斉取締りを行っていますが,今年も3月,6月,9月に3回の一斉取締りを行いました。その結果,最終的には11人のアカウントが停止されました。該当するアカウントの数はもっと多かったですが,1人が複数のアカウントを持っていた場合がありましたので,実質的に停止されたのは11人のアカウントであるということです。
 アカウント停止の対象になった11人は平均200個以上の著作権侵害物をアップロードしていたヘビーユーザであります。OSPは,このユーザのほかの侵害アカウントも停止しなければなりません。これは1回目のアカウント停止ですので,停止期間は1か月未満になります。2回目の停止の場合は3か月になり,3回目の停止の場合は6か月未満となっています。
 韓国文化体育観光部は今年の3月頃(ごろ),ウェブハードと呼ばれるオンランストレージサイトの取締りで,犯罪収益金約12億ウォン(日本円で約1億円)を没収しています。これは去年3月に犯罪収益隠匿の規制及び処罰に関する法律が改正され,著作権侵害により得られた収益は犯罪収益として全額没収又は追徴できるようになったからであります。
 次は,フランスに移りたいと思います。
 フランスではHADOPI2法が去年9月に成立しています。法律は2010年1月1日施行となっていますが,実際にスリーストライクルールは運用されずにいました。そのため,この法律は実効性がないのではないかという批判もあがってきております。その批判の中でやっと10月1日にHADOPIからの最初の警告メールが発送されました。
 ところで,警告発送が始まってから1週間後ぐらいに,フランスのISPであるフリー社が,法律の中の「ISPを通じて」という文言を理由に,警告メールの送信を拒否しました。ISPはユーザの身元を確認して,回線を提供すればよくて,警告メールの送付はHADOPIが主体となって行うべきと解釈したわけです。一方,HADOPIは,ISPが主体となって送信しなければならないと主張しました。そしてその5日後に文化長官が,「ISPはHADOPIからの警告メールを命じられて,24時間以内に発送しなければならない。それを行わない場合には,1IPアドレスにつき1,500ユーロの罰金に課す」という内容のデクレを公表しました。結局フリー社はその翌週から警告メールを送付しています。現在フランスの方では多くの一次警告メールが送付されています。
 次にアイルランドです。
 アイルランドでは立法によるものではなく,レコード会社とISPの間の協定による三振アウト制が行われています。2007年度にレコード4社がEircomというISPを提訴しましたが,結局Eircomが三振アウト制を導入するということで和解になりました。
 Eircom社は今年5月から警告を発送し始めて,発送して1か月でおよそ800人のEircomユーザが一次警告を受けたとされています。5月以降現在まで,まだ実際にアクセスが切られたユーザはないようです。
 Eircomにおける三振アウト制はアップローダーのみを対象とし,ダウンローダーは除外しています。侵害の通知,侵害の警告,一時的なアカウント停止を経て,最大1年のアクセス停止を行えるという内容になっています。
 ところで今年10月に入って,レコード4社と第二のISPであるUPC社との訴訟に対する高裁判決が出ました。裁判所は著作権者にばくだいな損害があることを認めながらも,現在のアイルランド法ではISPに三振アウト制及びサイトブロッキングを強いることはできないと判断しています。
 この判決をもって,レコード4社とEircomの間の和解もなくなるのではないかと観測されたのですが,そうでもないようです。ちょうど先週Eircom社は,「ミュージックハーブ」という新しい音楽サービスを開始しながら,「ファイル共有に対する我が社の立場」を発表しました。そして,UPC判決にもかかわらず,レコード4社との合意どおりに,今後もファイル共有者に三振アウト制を適用していくとしています。
 ということで,アイルランドでは,立法はありませんが,第一のISPにより自主的に三振アウト制が行われているということになっています。ただUPC判決を受けて,アイルランドの権利者団体は立法の圧力をかける動きをしていると聞いています。
 台湾では,2009年5月に法律が施行されてはいますが,実際には三振アウト制は実施されていません。この改正はISPの責任制限を規定し,90条の4で,ISPが免責されるための共通要件として,インターネットユーザと契約を結ぶ際に,ユーザによる権利侵害を見つけた場合には,接続の切断又はアカウントの削除ができるという内容を盛り込む必要があるとしています。ただし,これだけではかなり曖昧でして,このような内容だけ約款に盛り込んでおけば,実際にユーザのアクセスを切断しなくても,ISPの責任は制限されるのかという疑問がありました。
 そのため具体的な施行令と施行規則が出るのを待っていたのですが,昨年の9月にTIPOで公表した施行規則では,ISPのセーフハーバーに関する内容のみ規定されてまして,三振アウト制に関連する内容は入っておりませんでした。結局台湾におきましては,去年以来法律は施行されているものの,三振アウト制は運用されていないという状況になります。
 ただ,先週聞いた話では,MPAと台湾の大手ISPとの間で,ISPレベルで三振アウトを導入する交渉を始めそうなので,もしかしたら台湾でもISPによる三振アウト制が施行される可能性があるかもしれません。
 次に,ニュージーランドにおきましては,2008年の法律改正でスリーストライクルールを導入したのですが,国内の厳しい反対にあいまして,何度か法案修正を行っております。そして今年の2月に92A条廃止案が公表されています。これは裁判所の判断を得てユーザのインターネットアクセスを16か月まで切断するということにしております。今年4月にこの廃止案に対する審議が始まって,11月2日に商業委員会から修正勧告が出ています。
 その内容としては,まず2年間は警告と罰金のみでやってみて,警告だけでは効果がないということが明らかになった場合に初めてアクセス切断をするというものです。実際にアクセス切断を実施するか否かは,2年後に審査をして決めるというものです。すなわち,ニュージーランドでは三振アウト制は導入されていますが,少なくとも2年間はユーザのアクセス切断は実施されないだろうと思われます。
 イギリスでは今年4月にデジタルエコノミー法が成立しています。法には,裁判所の同意の下に,ISPにユーザのアクセススピード減速,アカウント停止を命令できるという内容が盛り込まれています。ただし,このような措置が実際に実施されるのは,法施行後1年後にOfcomによる評価で,警告のみでは効果がないということが明らかになったときになります。結局,実施までは1年ぐらいの猶予があるという状況になっています。
 イギリスにおきましては,ISPの反対がかなり強くて,イギリスの第1,第2のISP社が,デジタルエコノミー法が憲法に違反するのではないかと裁判所の見解を求めています。
 また,費用負担問題に関してイギリス政府は,関連費用の75%を権利者が,25%をISPが負担すべきではないかと提案していますが,この提案に関しては,権利者からも,ISPからも反対されています。
 一方,スペインでは,いわゆる三振アウト制ではなく,サイトを閉鎖するという方向に向かっています。スペインでは著作権侵害の約3分の2がウェブサイト基盤で行われているという状況もあって,エンドユーザのアクセス切断ではなく,ウェブサイト閉鎖を内容とする法律が現在あがっています。
 こちらを見ますと,委員会が裁判所に侵害サイトの閉鎖の許可を申請するという仕組みになっております。裁判所は申請から4日以内に基本権侵害があるか否かを判断して返事をすることになります。現在のスペインの法律でもサイト閉鎖は可能ですが,そのためには裁判を経なければならず,時間がかかります。そのため,サイト閉鎖のプロセスを迅速にせよと権利者団体がかなり強く押したと言われています。
 イタリアでは,2009年1月にイタリア文化省長官がフランス文化省の長官との協議で,「フランス式のモデルを導入する」と発言したので,イタリアにもHADOPI類似の制度が導入されると言われていたのですが,フランスでの反対議論の影響もあって,その後,イタリアではいわゆるフランス式の三振アウト制の導入の話は余りみあたりません。ただし幾つかのビットレントサイトの閉鎖判決が出ていますので,イタリアもサイト閉鎖の方に向かっていると思われます。
 ドイツ,ノルウェイ,スイスは,国民若しくは消費者の基本権,特にプライバシーを侵害する恐れがあるということで,三振アウト制にはおおむね反対する立場であります。
 フィンランドでは,7月に世界で初めて,「ブロードバンドアクセスを国民に権利として保障する」ことになりましたので,インターネットアクセス切断という措置は導入しづらくなったと考えています。また10月には,不法ファイル共有抑制法案が公表されていますが,この中にもユーザのアクセスを切断するという意味の三振アウト制は入っていません。
 スウェーデンでは,今年4月からIPRED法(知的財産執行法)が施行されていますが,ユーザの身元確認に関する規定に関連して,スウェーデンの裁判所がECJに見解を求めています。このECJの見解によっては,三振アウト制に対する欧州各国の立場が変わる可能性があるかもしれません。
 デンマークでは,ユーザのアクセスを切断する制度は導入しないとしています。
 アメリカでは,2009年度の段階で,ISPのAT&Tとベライゾンで,DMCAによる侵害通知は送っていました。権利者団体は三振アウト制の導入を強く押していたのですが,立法までにはまだ至っていません。
 2010年9月にサドンリンク社というISPが三振アウト制を導入しています。3回警告を受けたユーザに対して6か月間のアクセス切断をするという内容になっていますけれども,実際に切断されている例はまだありません。
 このようにアメリカでは三振アウト制の導入を進めていくのかなと思ったのですが,11月になって「オンラインにおける権利侵害及び偽造防止法(COICA法)」が通過し,その翌週に違法コピーにリンクするトレントサイトと偽造品を販売するサイト,合計82サイトのドメインが差し押さえられています。これらサイトは現在アドレスを入力しても,ブロックされているため内容を見ることはできません。
 カナダも政府として,三振アウト制の導入を否定しています。
 オーストラリアでは,ISPの反対がかなり強く,裁判所もISPに責任はないと判断していますので,三振アウト制の導入というところまでいかないと思います。
 またインドでもISPにステージストライクモデルというものを導入するのはどうかという勧告が出ているようですので,そろそろ導入の議論が始まるのではないかと考えています。
 以上の各国における議論から分かりますように,三振アウト制導入の問題として議論されるのは,まず1)ユーザー個人に対する人権制限の懸念です。侵害者を特定する際のプライバシー問題や,果たしてすべてのアクセスを切断する必要があるかという制限の適正性の問題です。2)ISPとしては,やはり費用の負担をどうするかが一番の問題だと思われます。3)政府としても,行政委員会を設けるか裁判所に判断してもらうなど,行政と司法の負担をどうするかがかなり悩ましい問題ではないかと思います。
 ここまでをまとめますと,1)三振アウト制の導入には政府の強い意志が必要だと思います。韓国もフランスも政府の強い意志があったから制度導入に至ったと思います。
 2)ISPの全面的な協力がないと,三振アウト制は運用できないと考えております。韓国もフランスもアイルランドもISPの協力がありました。ISPの協力がない国では制度が導入されても運用されずにいます。
 3)アクセス切断が立法されている国であっても,国民の基本権侵害への懸念で,アクセス切断措置は留保して,とりあえずは警告だけで対応するという国としてはイギリスとニュージーランドがあります。
 4)サイト閉鎖へと方向を変えている国も見受けられます。イタリア,スペイン,アメリカは個人ユーザのアクセスを切断するのではなく,侵害物が載っているサイトを閉鎖する方向に転換しているように思われます。
 5)三振アウト制の運用には,著作権法の改正だけではなく,ほかの手段との併用も必要であると考えられます。例えば,韓国では著作権侵害により不当に得た利得は「犯罪収益」として没収できるように関連法も改正しています。
 6)三振アウト制に対しては欧州各国の対応が異なりますので,今後,EUレベルで何らか動きがある場合は,加盟国の立場に変更があるかもしれませんので,今後のEUの動きにも注目したいと考えています。
 駆け足になりましたが,以上で報告を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

【道垣内主査】どうもありがとうございました。膨大な情報を整理していただいて,最新のところまでお話ししていただきました。
 それでは,今の御説明に基づきまして,委員の方々から御質問,御意見がございましたらお願いします。

【小原委員】 各国様々な状況の中,韓国についてお聞きしたいのですけれども,日本に一番近い隣国である韓国での導入において,先ほど政府の強い意志があったというお話でしたが,それ以外に韓国がこのスリーストライク法を導入できた理由,背景,その辺のところを張先生の方で何かこれはというのがありましたら,聞かせていただきたいと思います。
 それから,もう1点,EUですが,今のところまちまちのようですけれども,今後将来に向けて,どういう動きをしていくのかということと,場合によってはデレクティブのようなものができていくようなことが考えられるのか,ということも含めてお聞かせいただけますか。

【張(東京都市大学)】 御存じのとおり韓国では,映画やコンテンツ産業育成に政府レベルで支援をしています。また韓国は,2007年にアメリカと2009年にヨーロッパとFTAを締結していて,FTAを締結する際に知的財産権分野がかなり議論され,TRIPS Plusの規制に改正することが交渉の中に含まれています。
 韓国もかなり前は侵害する側だったのですけれども,最近は韓国もコンテンツを輸出する側になって,侵害されると困るという立場になりました。国としてやはり違法なものを取り締まり,コンテンツ産業育成につなげていくという目標があったと思います。
 三振アウト制を最初導入するときには韓国でもかなり強い反対がありました。消費者団体などでは憲法訴願をするとするなど,反対の声が上がったのですけれども,実際制度が運用されてからは,反対は大分減ったようにみえます。ダウンロードをする個人ユーザは対象とせず商業的な目的をもって組織的にアップロードするヘビーユーザのみを対象としているからだと思われます。韓国はオンラインストレージなどウェブサイトで会員を募集して,その会員がアップロードをすればポイントを与えて,そのポイントを払えば何かダウンロードできるなど,運営者やアップローダーが利益を得るという形態の侵害が問題になっていますが,そのように他人の著作物をもって不当な利益を得ている者に絞って取り締まっているため,一般ユーザがその対象となることはなく,国民の違和感も減ったように思われます。
 また著作権法のみならず,犯罪収益を没収するという観点で,警察と連携するなど,行政側の取締りも力を入れているように思われます。
 EUに関しましては,各国の立場がかなり異なっている中,ちょうどこの9月に,欧州議会でギャロ・レポートが採択されています。これは欧州議会の議員(フランス)であるマリエル・ギャロ氏が,欧州のコンテンツ産業の未来について調査したものです。それによると,オンライン上の著作権侵害が続く場合には,2015年までに2,400億ユーロの損害が予想され,120万人の雇用を失うとされ,著作権を強く保護しなければならないという結論になっています。欧州議会がこれを採択したということは,今後,欧州として著作権保護強化の方向に向かっていくのではないかなと思われます。ただしレポートを作成したギャロ議員はスリーストライク制を念頭に置いたレポートではないとしていますので,著作権保護強化に向かうとしても,それが必ずしも加盟国に三振アウト制の導入を強制するものになるとは思いません。

【久保田委員】 著作権法だけではなく,ほかの法益を侵害するようなことでのスリーストライク法,例えば,プライバシーを侵害するような情報同士のぶつかり合いみたいになったときに,このスリーストライクがどういうふうに効いてくるのかという疑問があるんです。
 著作物によっては自分のプライバシーを侵害されたものがあるわけです。そういうときに,ほかの法律もパラレルに考えたときに,そういうものがスリーストライクみたいなものが機能しているとか,同じようにサイトを閉鎖しようとする場合,著作物だけではなくて,個人情報だったりいろいろなものを何度も上げるやつもいるわけです。韓国やほかの国でどういうふうに動いているとか,教えていただければ幸いです。

【張(東京都市大学)】 三振アウト制に関連するプライバシーの問題としては,今のところは侵害者をどうやって特定するか,その特定方法におけるプライバシー侵害はないかということだけが論じられているように思われます。おっしゃったような著作物によるプライバシー侵害や個人情報が掲載されたサイトの閉鎖などの問題は,韓国もほかの国もまだそこまでは議論が進んでないように思われます。

【前田委員】 韓国の法律におけるオンラインサービス・プロバイダ(OSP)の概念について教えていただきたいのですが,インターネット接続サービスを提供するISPはこのOSPには含まれないという理解でよろしいでしょうか。

【張(東京都市大学)】 韓国におけるオンラインサービス・プロバイダは,回線を提供する者以外にも具体的な一つ一つのサービスを提供する者も含まれるもっと広い概念です。ただし,韓国改正著作権法では,インターネット回線の切断はしないとしているので,用語の概念自体には回線提供者が含まれても,運用上は回線切断しないという意味では回線提供者は含まれないということになると思います。

【前田委員】 それに関連してのことなのですが,アカウント停止が実例として出ているというお話を頂いたのですが,それは具体的には例えばYouTubeにおけるユーザーカウントとか,有料のアップロードサイトのユーザーカウントとか,そういったようなものの停止なのでしょうか。

【張(東京都市大学)】 韓国で停止されているものはネットの契約名義ではなくて,ひとつひとつのウェブサイトにログインする際のアカウントになります。アカウント停止されたウェブサイトにはもうログインできません(ただしメールなど生活基盤サービスは引き続き利用可能)。

【前田委員】 アカウント停止の命令はOSPに対して出されるということでしょうか。

【張(東京都市大学)】 OSPに出されます。命令と是正勧告の受け手は全てOSPです。

【道垣内主査】 同じ人が違う名前で登録するのは自由にできるということですか。

【張(東京都市大学)】 そういうことになります。ただし,韓国は国民一人一人に住民登録番号があるので,他人の登録番号を盗用して偽名で登録した場合には,他の関連法律に触れることになります。

【道垣内主査】 まだ御質問がおありかもしれませんけれども,時間が随分と押してきておりまして,これで,2番目の議題を終わらせていただきます。
 3番目の議題,WIPO等における最近の動向について,ということで,まずは事務局よりその動向を御説明いただきまして,皆様の御意見をお伺いしたいと思います。

【吉田専門官】 それでは,資料4-1,4-2,4-3に基づきまして,最近のWIPOの動向について,まず,資料4-1を御覧いただきまして,SCCRの11月の御報告がございます。SCCRの放送機関の保護,視聴覚的実演の保護,権利制限と例外に関する議論といつも御報告しておりますように,3つ議論がありまして,それぞれ具体的にどういう動きがあったかということを申し上げます。
 資料4-1の真ん中あたりの(ア)のところで,放送機関の保護については,放送のその範囲について,特にインドから伝統的なものに限定すべきだという議論がありまして,結論としては,まずは次回のSCCRの前に一度情報関係,非公式の会合を設けて,現状を把握するということになりました。
 (イ)視聴覚実演の保護につきましては,アメリカが唯一合意ができていなかった第12条の権利の移転の動向について,国内で今検討が進められているということの説明がありましたので,その何らかの国内の調整ができれば恐らくアメリカは,アメリカとしての提案をすることになると思うので,それがもし進めば相当議論が具体化するのではないかと思います。
 視聴覚実演の保護についても次回のSCCRよりも前に一度会合を設けるということが結論の文章に盛り込まれました。
 それから,(ウ)の権利制限の例外については,これが今回一番進んだ議題となると思うんですけれども,今後の進め方についてかなりの時間がかかりまして,今現在,権利制限と例外について4つの提案がテーブルにある状態なんですけれども,具体的にこの先2年間のスケジュールについて決めまして,そのスケジュールが2ページ目の下の別表というところでスケジュールが決まりました。SCCRは5日間あったんですが,ほとんどこのスケジュールについて3日間調整で費やしたというぐらいに各国から強く力が入った状況でこの議論がなされておりまして,状況としましては,中南米諸国はまずは視覚障害者に対する権利制限と例外の条約を早く作りたいと主張しておりまして,アフリカグループはその重要性が分かるけれども,それ以外の教育機関向けの権利制限と例外の議論をより具体的に進めたいということを強く主張しまして,先進国は視覚障害者の議論が常に相当熟度が高いので,視覚障害者向けの議論と教育等の議論については,少し差を設けるべきだと主張しまして,アジアグループはややアフリカグループに近くて,教育についても早く議論を進めたいというような立場でした。
 4つのグループの妥協の結果として,このスケジュールができ上がっておりまして,視覚障害者向けの議論が少し進んだ形になっておりまして,2011年9月のWIPO総会に対して視覚障害者,ちょっと広めに活字障害者,読者障害者と書かれておりますが,それらの方々に対しての権利制限と理解の議論に関して,SCCRから総会にリコメンデートを出すということになっております。このリコメンデーションについても各グループ,それぞれの思いがありまして,条約を作るための外交会議を総会で決めるという,とても強いものから,引き続きもう少し緩やかなものについての決定をするというものであるとか,もしかしたら引き続き議論するということも含めてのリコメンデーションということで,ここも具体的にどういうものになるかというのは,次回のSCCR次第ということになっております。
 スケジュールを見ていただくと,2012年の9月のWIPO総会においては,視覚障害者以外の図書館・教育研究機関等の権利制限と例外の議論に関しても何らか一定の結論を出すというようなことでワークスケジュールがまとまりました。それが権利制限と例外についての動きでございます。
 次のページで,そのほかのCDIPというところで,開発と知財に関する議論が進みまして,そこは著作権に関しては今回は特に議論がなされておりません。それから,3番目,次のフォークロアですけれども,これも先週12月の6日から10日におきまして,ジュネーブで会合が開かれ,この政府間委員会ではフォークロアの保護と伝統的知識と遺伝資源に関する議論がなされているわけですけれども,この3つの議題の中で伝統的文化表現,フォークロアに関しては,最も議論がこれまでも進んでおりましたし,今回も更に進んだ形になっておりまして,前回ちょっと御紹介いたしましたが,条文案のようなものが具体的に議論されておりまして,今回ももう一度,条文案のようなものについて一つ一つの条項ごとに議論したという形になっております。
 この場では,日本からはそもそも保護の対象であるとか,保護の範囲ということが曖昧であるので,フォークロアの保護の重要性は理解するけれども,利用者が利用しにくくて,範囲が明確でないと利用者が利用しにくいということで,結局は文化の発展にもつながらないということを発言したんですけれども,なかなかそもそも論というところではとどまらずに,引き続き条文ベースでの議論は進んでいるという状況でございます。
 この議論ですが,次回のIGCが5月にありまして,9月の総会前に5月,7月と2回のIGCがありますので,この分野の議論が相当今後はスピードアップされていくものと思われます。というのがWIPOの関連の動きでございます。
 今回,資料4-2,4-3として,今年1年のWIPOの動きで,特にスピードが増していました2つの項目について,資料をお配りしております。経緯等は省略いたしますが,資料4-2の方が,権利の制限と例外の動向でございまして,2ページ目に,4つの提案と先ほど申し上げましたが,4つの提案の簡単な特徴をここに挙げております。本日は4つの提案そのものも参考資料としてお配りいたしました。障害者の範囲をどうするかということであるとか,案文自体の位置づけを条約にするのか。それとももう少し緩やかな共同勧告にするのかというところで各提案の違いがございます。
 その下に,更に我が国は今どういう主張をしているかということで申し上げますと,引き続き,その条約に基づくスリー・ステップ・テストがベースであるということを軸に,また各国の柔軟性が確保された枠組みとするべきであるということを主張しておりますので,引き続きこのWIPOの議論を聞きながらの対応を考えていくことが必要であると思います。これが権利制限の例外でございます。
 資料4-3で,フォークロアの方もこれまでの経緯等,動きが今年は相当進んでおりましたので,改め資料としてお配りしております。(2)のところにフォークロアの保護はかつてどういうところに入っているかというところで,(2)の3行目にベルヌ条約第15条第4項(a)が規定されたと書いてあるんですが,もう一つ,WPPTの方でも2条(a)方で,フォークロアに関しての実演も保護するということも入れられております。そういう形でちょっと触れられているんですけれども,途上国とかフォークロアを保護してほしいという要求をしている国々からはまだまだこれでは不十分だという議論がなされております。
 本日,議論しております条文についてもお配りしております。
 3ページ目に,フォークロアについてはかつて平成18年に審議会で議論していただきましたので,引き続きその審議会で議論した方向を踏まえて対応していくつもりで考えておりまして,ここは条約を何か作って許諾を求めて適用していくというものではないという立場を引き続き主張していきたいと思いますけれども,これも国際的には相当コンセンサスの形成に向けて議論が動いておりますので引き続きその動向にも留意して対応していきたいと思っております。以上でございます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 WIPOの動向につきまして,何か御質問その他はございますか。

【上原委員】 それでは,大きく2点,ちょっとお話をさせていただきたいと思います。
 1点目は,SCCRに関してでありますが,リミテーションズ・エクセプションズについては確かに進んだと思いますが,私も出席しておりましたので,私の見方をちょっと紹介させていただきます。今回は全体会合が余り開かれずに,ネゴシエーションに時間が割かれ,ともかく結論を目指すということが行われたわけですが,実は,その中でリミテーションズ・エクセプションズのワークプランをまとめるのは大変で,ここまで進んだということは大きな成果というか先進国が苦しいところに追い込まれたと思います。
 一方で,オーディオ・ビジュアルと放送につきましても次回の会合前にそれぞれ新しい提案の提出期限を設け,なおかつその提出期限の後にSCCRの前に,情報会合を設けるということで,いわゆるAV条約と放送条約,つまりWIPOインターネット・トリーティーズの積み残しの部分についても進めようという方向も出ております。これは先進国,とりわけヨーロッパを中心とした部分が途上国側との外交取引という感じでのかなり強いネゴシエーションを行ったという部分があったと私は認識しております。
 そういう意味では,来年行われる非公式会合,あるいはその前に出される,特に放送に関しては,提案というものが非常に重要な位置を占めてくると考えております。
 我が国におきましては,既に当国際小委でも,あるいは政府全体でもオーディオビジュアルの条約並びに放送条約については早期の実現を目指すという基本方針が固まっているところでございますので,3月の放送の条約の提案につきまして,トリティランゲージプロポーザルは今更出す必要はあると思えませんけれども,早く進むべきという日本のポジションを示したペーパーを是非とも提出いただき,各国にさらなる進展を呼び掛けるということをしていただきたいと思っております。
 リミテーションズ・エクセプションズ,制限と例外の方もアフリカグループと米グループでずれがあるところ,一方で,インターネット・トリーティズの積み残しもAVと放送で若干の温度差があるところでありますが,大きく言うとリミテーションズ・イクセプションズのグループとそれからWIPOのインターネット・トリーディズの積み残しのグループの2つの路線が,途上国側と先進国側で大きく競り合って進んでいるという状況ですので,ここで我が国としては,インターネット・トリーティズのインセンティブをしっかりとつかんでおくということは極めて重要,国際的に重要な問題であると考えております。我が国の今までの立場に照らし,2007年のWIPO総会のマンデートに則った形で,分析ペーパーというものもSCCR9の時に我が国は提出しておりますので,今回の放送条約の提案提出に対応いただければと思っております。
 2点目は,先ほど吉田専門官から御説明がありました制限と例外及びフォークロアのことですが,両方とも基本方針につきましては,このペーパーに書かれておりまして,それについて私は異議もありませんし,是非その方向で進むべきだと考えております。ただこれも現地に行ったり,あるいは状況を分析しておりますと,先ほど吉田専門官からもお話がありましたように入り口論,あるいはそもそも論で話が対応できるという状況ではなく,一気に,ともかくバインディングかバインディングではないかということは決まっていないけれど,という前提条件をつけながらも条約文の内容を精査しつつある状況があるというところがありますので,我が国といたしましても一気に進んでいった場合に,この方針に照らしておかしくないようなサブスタンティブなオールタナティブを用意することが必要と思いますのでこれも是非と政府として取り組んでいただきたい。また必要があれば,当委員会でも御協力すべきことはしたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 よろしゅうございますでしょうか。

【山本委員】 1点,質問です。この権利制限と例外のところで,視覚障害という言葉は分かるんですが,活字障害者,読書障害者というのがあります。これは意味がよく分かりません。勉強してないから本が読めないとか,という意味じゃないと思うんですが,ちょっとこの点を御説明いただけますか。

【吉田専門官】 英語では,活字障害者は,print disabilitiesといいまして,それが正しい日本語訳というものが今のところ日本には余りないと言われてしまいましたので,私どもで活字障害者と言っているんですけれども,目が見えないというわけではなくて,見えているけれども,意味が分からないというような方のようで,読み書き障害と言ったりしているそうです。
 読書障害というのも,reading disabilitiesと言っているんですけれども,EU提案ですとdyslexic personというふうに言っているので,ディスレクシックとそのまま片仮名で言っていたりもするようです。それも読み書き障害ということで,形としては見えているけれども意味が理解できないということで,学習障害の1つとしてとらえられているというものだそうです。
 それぞれ各国が思い描いているところが恐らくちょっとずつ違ったりすると思います。純粋に全く見えないというところから,見えるけれどもゆがんで見えるという方もいらっしゃって,それから,見えるけれども,意味が読み取れない方もいらっしゃるということのようです。reading disabilitiesということでいきますと,肢体障害の方で,ページがめくれないので紙の本が読めないという方もいらっしゃるので,そういう体の障害という意味でのreading disabilitiesという方も入っているということだと思いますので,日本の著作権法での視覚障害の方とは範囲としては広いことを今議論していると思います。

【山本委員】 ありがとうございました。

【道垣内主査】 それでは,資料4-4,4-5に基づき説明してください。

【井村専門官】 それでは,11月18日から21日まで北京で開催されました第3回中国国際版権博覧会について御報告いたします。
 資料4-4を御覧ください。前回,この博覧会については簡単に御説明したところです。今回3回に当たりますが,この中国国家版権局からの要請を受けまして,日本が主賓国として参加することになりまして,文化庁としまして経産省始め関係省庁や関係産業界との連携の下,この資料にあります活動を行いました。
 日本ブースに関しましては,主賓国ということで500平米のブースで,日本の伝統文化から最新のポップカルチャまで紹介する実演及び展示を行いました。初日には,博覧会開幕式に文化庁から近藤長官がまいりまして,中国国家版権局幹部と会談,日本ブースの開所式等をしました。日本の伝統文化を始め,最近の文化,広く紹介するような形の活動を行いました。
 近藤長官は初めての訪中ということで,文化部とも会談を行いまして,今後の侵害取締り等に関する協力について話をしました。
 続きまして,第35回貿易経済会議について御報告いたします。資料4-5です。
 12月9日に台湾・台北で日本の財団法人交流協会と台湾側の亜東関係協会が開催しました第35回の貿易経済会議ですが,こちらの知財分科会で協議が行われております。今回,日本側からは著作権保護に関して,インターネットサービス・プロバイダ(ISP)に対する著作権侵害情報の削除要請手続,利用者に3回の権利侵害行為があった場合のISPによるサービス中止勧告手続,著作権集体管理条例改正条例の運用に関しまして,進捗状況等を確認しました。また,ビデオ作品輸出の際の原産地証明発行手続の簡便化の検討,海賊版対策,インターネット上の著作権侵害対策の更なる強化を要請いたしました。台湾側からの回答は,資料を御覧いただきたいと思います。以上です。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 今の2つの点につきまして,何か御質問はございますか。よろしゅうございますでしょうか。
 そのほか,議題の(4)で,その他ということでございますが,何かこの点につきましてございますでしょうか。

【池田委員】 「その他」ではないんですが,先ほどのWIPOの件で,ちょっと言えませんでしたので。放送条約について,放送事業者としても放送条約については早期の成立をと思っておりまして,先般ございましたACTAの検討の中でもやはりWCT,WPPT止まりの保護の範囲ということで,放送事業者の隣接権というものはやはりそこでも落ちてしまうということがございまして,その理由のひとつには,放送条約がないからではないかと考えるところもございます。したがいまして,先ほど上原委員からもございましたが,日本の基本方針にあります早期の放送条約の実現というところを踏まえて,日本のポジションを示すペーパーというものを是非御提出いただきたいと強く望むところでございます。以上です。

【道垣内主査】 そのほかはよろしゅうございますでしょうか。
 それでは,事務局から何か連絡事項はございますか。

【吉田専門官】 本日はありがとうございました。
 次回の委員会の日程ですが,来年1月17日(月)の16:00ということで御案内を差し上げていたかと思いますが,大変申し訳ないのですが,都合によりまして時間を早めさせていただきまして,1月17日(月)13:00から15:00ということで再度御相談させていただきたいと思っております。事務局の方から再度出欠に関しての御連絡を差し上げますのでお手数で恐縮ですけれども,再度出席,欠席について御連絡を頂戴できればと思います。
 次回の委員会は著作権分科会に報告いたします国際小委員会の報告について御議論をしていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

【道垣内主査】 それでは,本日の国際小委員会はこれで終了いたします。
 ありがとうございました。

18:26閉会

―― 了 ――

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