三春町歴史民俗資料館は、三春の歴史や文化に関する資料等の調査・収集・保管・公開を目的として、三春町出身の大高正人の設計により、1982年に竣工された。
三春町は、谷筋に古い街道に沿って町並みが形成され、家々の間を抜けていくと山に突き当たり、その中腹に神社やお寺が位置し、これが伝統的な景観である。資料館は、古き良き三春の景観になじむように山の中腹に建てられた。三春町の伝統的な景観の一つである御城山があるが、資料館は谷筋の街道と町並みを挟むようにして御城山を臨む反対側の斜面に元の地形を壊さないように建設された。このように資料館は、三春ならではの景観に配慮し、地形に合わせて建設された。
建物のスケールを地域景観に馴染むように設計する点が特筆され、資料館でありながら用途別に複数の建物に分けて建てることで、伝統的な町家等が並ぶ町並み景観に溶け込むように工夫する。屋根は大高ならではの傾斜屋根を多用し、片流屋根や寄棟屋根を組み合わせて斜面に馴染むように配慮されている。外壁は当地方の風化花崗岩の真砂土色の打ち込みタイルで仕上げられており、景観との調和が図られている。
資料館は、L字型の長屋形式の主建物に、南側に収蔵研究棟、北側に自由民権館を配して廊下で繋ぐ。小規模なホールに受付が設置され、資料館でありながら靴を脱いで入る。展示スペースを主に2階に配置して階層でゾーニングし、分棟型の平面計画と合わせて動線計画が明確である。2階の展示室の勾配天井やこぢんまりとした傾斜天井の休憩室は、同じ大高作品の福島県立美術館のエントランスホールや展示室の休憩室を彷彿する。傾斜地に建てられているためホールと展示室はレベル差があるが、車いす利用者にはバリアフリーの斜面を利用した専用の入り口が設けられている。
増築された自由民権記念館は、自由民権運動が盛んだった三春の町民の寄付で建てられた。資料館も自由民権記念館も町民の様々な文化活動に利用されている。町内には大高正人の設計による三春町民体育館、三春ダム管理棟・資料館、三春交流館まほらホールがあり、現代の三春町特有の景観の形成に寄与している。(佐久間保一)