いわき市立美術館は、いわき市平の中心市街地にあって、近くにはいわき市役所や文化センター、いわき市文化交流施設アリオス等があり、市の文化・行政の集約地となっている。施設は1984年に開館し、その収蔵品は1900点以上で、国内外の現代美術や、地域にゆかりのある作品に、その特徴がある。この美術館は、計画の段階から市民団体等が深く関わり、現在でもその管理・運営に市民の声が大きく活かされている。常設展および企画展も豊富で、一般市民が出品できる「小・中学生版画展」や「市民美術展覧会」の開催など、市民の美術館として親しまれている。
本施設の設計は、プロポーザル方式で選ばれた佐藤武夫設計事務所(東京)が担った。決して広くはない敷地を有効に使いながら、東側前面の広場には、主となるエントランスへのアプローチと、広場中央に置かれたヘンリー・ムーアの彫刻と、コーナーにあるけやきの巨木がシンボル的な景観を示している。
建物は外壁と、内部ホール廻りの内壁には赤味がかった花崗岩(ジェットバーナー仕上げ・乾式工法)が用いられ、重厚な仕上げとなっている。エントランスホールは1階から3階までの吹き抜けとなっており、トップライトから入る自然光が1階ロビーまで入る明るい空間が印象的である。1階北側には一段下がってギャラリーが設けられ、ガラス窓越しに外部歩道に沿って設けられた彫刻広場を観ることが出来る。展示室はエントランスホールの吹き抜け空間を介して、1、2階に常設展示室・企画展示室が配置されている。内部階段を上った2階ロビーには東面と南面に大きなガラス窓開口があり、敷地東側には道路を挟んで教会が、南側には文化交流施設アリオスを望むことが出来る。収蔵庫・サービス部門は建物西側にまとめられ、展示エリアの導線は整然と配置されている。1985年に社団法人建築業協会の建築業協会賞(BCS賞)も受賞し、国内の評価も高い。(作山栄一)