2022年3月25日
文化庁 地域文化創生本部 研究官 橋本紀子
第1回では、2021年1月末に行われた「文化に関する世論調査」の結果から、私たちと文化芸術のかかわりがコロナ禍によりどのような影響を受けたかを見てみました。この世論調査は毎年行われていますので、2019年(コロナ前)と2020年(コロナ下)に文化芸術イベントに外出したかどうかを比較したところ、それぞれのイベントの鑑賞率が2020年に大きく下がったこと、「鑑賞したものはない」の回答が29.8%から55.2%へと激増したこと、その理由としてコロナウイルス感染症の影響を挙げた人が多かったこと(直接鑑賞しなかった人の56.8%)、コロナ禍により外出しての鑑賞を控えたのは男性より女性で顕著であったこと(このため、従来と異なり、女性の「鑑賞しなかった」率(57.0%)が男性を上回った(53.4%))などを紹介しました。
2021年1月の「文化に関する世論調査」では、これ以外にもいくつかの新設項目で、コロナ禍により文化や芸術をめぐる私たちのくらしにどのような影響があったかを問うています。今回は文化芸術イベントを直接鑑賞した頻度に関する結果を紹介していきます。なお、この調査の報告書や以下紹介する数値等は文化庁のHPから閲覧いただけます(文化庁のHP)。
コロナ禍が続く中で、2020年はとりわけ厳しい状況でした。文化芸術イベントの中止・延期が相次ぎましたし、外出をためらった方も多かったことでしょう。そこで文化芸術イベント(種類を問わない)へ出かけた回数について、「あなたが、この1年間に、コンサートや美術展、映画、歴史的な文化財の鑑賞、アートや音楽のフェスティバル等の文化芸術イベントを直接鑑賞する頻度は増加しましたか、減少しましたか」と尋ねました。この質問は、直接鑑賞をした人(1,254人)と直接鑑賞をしなかったが理由としてコロナ禍を挙げた人(939人)を合わせた2,193人に対し行われ、回答者は2,121人でした。
図1の1行目より、回答者全体では、「減少した」(「やや減少した」と「大幅に減少した」の合計)の回答(76.9%)が、「増加した」(「やや増加した」と「大幅に増加した」の合計)(4.0%)を大きく上回っています(「変わらない」は19.0%)。また、「減少した」の内訳を見ると、「やや減少した」の25.7%に対して「大幅に減少した」が51.2%と過半数となり、多くの人が直接鑑賞の機会を大きく減少させたことがわかります。
ところで前回、性別でみた場合、コロナ禍を理由に直接鑑賞を全く行わなかったと答えた比率は、女性の方が男性より高かったことを見ました。鑑賞の頻度への性別による影響はあったでしょうか、図1の2行目、3行目を見てみましょう。
図1 文化芸術直接鑑賞頻度の増減(全体、性別)
図1から、女性の方が男性より、「大幅に減少」「やや減少」の比率が高く、「変わらない」の比率は低いことが見てとれます。男性も「減少した」の比率(73.0%)は「増加した」比率(4.8%)を大きく上回っていますが、女性では「減少した」(80.2%)に対し「増加した」(3.3%)と、さらにその差は大きくなっています。また「大幅に減少した」比率をみると、男性は46.1%ですが、女性は55.4%と過半数を超えていることがわかります。
年齢による鑑賞頻度の増減に違いはあったか見てみましょう。今回紹介している世論調査は、2021年1月末、新型コロナの第3波の中、2回目の緊急事態宣言が各地に発出された頃に、2020年の行動について尋ねています。2020年を通じて、感染者の増大に応じて不要不急の外出自粛や多人数での会食自粛などが要請されました。一方、その当時は、重症化した人や亡くなられたかたは高齢層に多く見られました(この傾向は、その後現れたデルタ株、オミクロン株等の新しい変異株では大きく異なっています。)。そういったことが、年齢による行動の違いに表れていたでしょうか。
図2を見てみると、「大幅に減少」と「やや減少」を加えた文化芸術鑑賞頻度を減少させた比率は、年齢とともに高くなっていることがわかります。若年層でも頻度を減少させた人が68.7%と多いのですが、年齢とともに比率はさらに高くなり、70歳以上では82.4%の人(うち59.3%が「大幅に減少」)が鑑賞の機会を減らしたと回答しています。(なお、30~39歳では「大幅に減少」した度合いが強いことに注意が必要です。)
図2 文化芸術直接鑑賞頻度の増減(年齢階級別)
さらに、図3により、性別で層別した上で、年齢による文化芸術直接鑑賞の頻度への影響があったか見ておきましょう。
「大幅に減少」と「やや減少」を加えた文化芸術鑑賞頻度を「減少させた」比率の動きを見ると、男性では若年層で低く(18~29歳では61.1%)、高齢層で高く(70歳以上では82.3%)、年齢とともに高くなっていることがわかります。一方、女性では「減少した」の回答比率は年齢によらずおおむね80%(18~29歳が最も低く75.2%、最も高いのは60~69歳の85.7%)であり、年齢により比率が高まる傾向は強くありません。
図2で見られた、年齢とともに鑑賞の機会を減らした人が多く見えた傾向は、男性では確かにそうですが、女性ではその傾向は弱く、年代によらずおおむね8割の人が鑑賞の機会を減らしていました。
男 性
女 性
図3 文化芸術直接鑑賞頻度の増減(性別×年齢階級別)
さて、第1回、そして今回と、世論調査の結果から、2020年には文化芸術イベントに対する直接鑑賞はコロナ禍により大きく影響を受け、全く鑑賞しなかったり、鑑賞機会を減らしたりした人が多かったこと、その影響の大きさは性別や年齢層によって異なることを見てきました。
それでは、このように文化芸術イベントに出かけなかったことは、私たちのくらしや気持ちにどのような影響を与えたでしょうか。「文化に関する世論調査」ではその点についても尋ねていますので、次回は、2020年の文化芸術の鑑賞状況が変化したことによる影響について紹介したいと思います。