著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について

1.はじめに

「著作権法の一部を改正する法律」が,第196回通常国会において,平成30年5月18日に成立し,同年5月25日に平成30年法律第30号として公布されました。本法律は,一部の規定を除いて,平成31年1月1日に施行されることとなっています。

(法律)

※ここでは改正の趣旨等及び改正の概要について取り急ぎご紹介するものですが,より詳細な解説等については,今後整理をして別途公表させていただく予定です。

2.改正の趣旨

本法律は,平成29年4月に文化審議会著作権分科会において取りまとめられた「文化審議会著作権分科会報告書」等を踏まえ,デジタル化・ネットワーク化の進展に対応するべく,著作物等の公正な利用を図るとともに著作権等の適切な保護に資するため,必要な改正を行うものです。また,印刷物の判読に障害のある者の著作物等の利用機会を促進するため,世界知的所有権機関において,平成25年6月に採択された「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」の締結のため必要な措置を講じるものです。具体的には,主に以下の4点について規定の整備を行います。

(1)デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定(※)の整備

(2)教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備

(3)障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備

(4)アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等

※権利制限規定:著作権者の権利を制限し,著作権者の許諾なく著作物を利用することができる例外的な場面を定めた規定。

3.改正の概要

(1)デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備

情報通信技術の進展等の時代の変化に柔軟に対応出来るようにするため,著作物等の市場に悪影響を及ぼさない一定の著作物等の利用について,適切な柔軟性を備えた権利制限規定の整備を行います。なお,制度設計の検討にあたっては,米国のフェアユース規定のように非常に柔軟性の高い規定を導入することの是非も含め,様々な選択肢を対象として検討しました。その結果,我が国の企業の法令順守意識,国民の著作権に対する理解の度合い,訴訟制度,立法府と司法府の役割分担の在り方,罪刑法定主義との関係といった観点を総合的に勘案し,我が国の諸状況を前提とすれば,フェアユース規定のような規定ではなく,明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組合せによって対応することが最も望ましいとの判断となりました。具体的には,次のように,通常権利者の利益を害しないと考えられる行為類型(下記[1]及び[2])と,権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型(下記[3])について,それぞれ適切な柔軟性を持たせた規定を整備することとしました。

[1]著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(第30条の4関係)

著作物は,技術の開発等のための試験の用に供する場合,情報解析の用に供する場合,人の知覚による認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には,その必要と認められる限度において,利用することができることを規定しています。これにより,例えば人工知能(AI)の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為等,広く著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。
  なお,この規定の整備に伴い,現行第30条の4及び第47条の7は新しい第30条の4に整理・統合することとしました。

[2]電子計算機における著作物の利用に付随する利用等(第47条の4関係)

電子計算機における利用に供される著作物について,当該利用を円滑又は効率的に行うために当該利用に付随する利用に供することを目的とする場合(第1項)や,電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し,又は当該状態に回復することを目的とする場合(第2項)には,その必要と認められる限度において,利用することができることを規定しています。これにより,例えばネットワークを通じた情報通信の処理の高速化を行うためにキャッシュを作成する行為や,メモリ内蔵型携帯音楽プレイヤーを交換する際に,一時的にメモリ内の音楽ファイルを他の記録媒体に複製する行為等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。
  なお,この規定の整備に伴い,現行第47条の4,第47条の5,第47条の8及び第47条の9は新しい第47条の4に整理・統合することとしました。

[3]電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(第47条の5関係)

電子計算機を用いて,情報を検索し又は情報解析を行い,及びその結果を提供する者は,公表された著作物又は送信可能化された著作物について,その行為の目的上必要と認められる限度において,当該行為に付随して,軽微な利用を行うこと等ができることとすることを規定しています。これにより,例えば特定のキーワードを含む書籍を検索し,その書誌情報や所在に関する情報と併せて,書籍中の当該キーワードを含む文章の一部分を提供する行為(書籍検索サービス)や,大量の論文や書籍等をデジタル化して検索可能とした上で,検証したい論文について,他の論文等からの剽窃の有無や剽窃率といった情報の提供と併せて,剽窃箇所に対応するオリジナルの論文等の本文の一部分を表示する行為(論文剽窃検証サービス)等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。この他,本条の趣旨が妥当する新たなニーズが発生した場合には,政令で定めることにより当該ニーズに係る行為を権利制限の対象として追加することができることとしました。
 なお,この規定の整備に伴い,現行第47条の6は新しい第47条の5に整理・統合することとしました。

(2)教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備

学校等の教育の質の向上や教育機会の充実等に資するよう,ICTを活用した教育における著作物等の利用の円滑化を図るため,学校その他の教育機関における権利制限規定(第35条)において,現在権利制限の対象となっているコピー(複製)や遠隔合同授業におけるネットワークを通じた送信(公衆送信)に加えて,新たに遠隔合同授業のための公衆送信以外の公衆送信等についても広く対象とするとともに,今回新たに権利制限の対象となる公衆送信について権利者に補償金請求権を付与することとしています。これにより,例えば学校等の授業や予習・復習用に,教師が他人の著作物を用いて作成した教材を生徒の端末に公衆送信する行為等について,文化庁長官が指定する単一の団体への補償金支払を条件として,権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。

(3)障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備

障害者の情報へのアクセス機会の向上のため,視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行うことを認める権利制限規定(第37条第3項)において,音訳等を提供できる障害者の範囲について,現行法で対象として明示されている視覚障害や発達障害等のために視覚による表現の認識に障害がある者に加え,新たに,手足を失ってしまった方々など,いわゆる肢体不自由等の方々が対象となるよう規定を明確にしました。また,権利制限の対象とする行為について,現行法で対象となっているコピー(複製),譲渡やインターネット送信(自動公衆送信)に加えて,新たにメール送信等を対象とすることとしています。これにより,例えば肢体不自由で書籍等を保持できない方のために音訳図書を作成・提供することや,様々な障害により書籍等を読むことが困難な者のために作成した音訳データをメール送信すること等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。

(4)アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等

我が国の有する文化資料を適切に収集・保存し,またそれらの効果的な活用を促進することで我が国の文化創造の基盤となる知的インフラの強化に貢献するため,アーカイブの利活用促進に関する以下の整備を行います。

[1]国立国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送信(第31条関係)

絶版等の理由により一般に入手困難な資料で,デジタル化した資料を,国立国会図書館が他の図書館等に送信することができる図書館送信サービスについて,日本文化の発信等の観点から,外国の図書館等の施設に対しても送信できることを規定しています。これにより,日本研究を行っている外国の図書館等に貴重な資料を提供できることとなるものと考えられます。

[2]作品の展示に伴う美術・写真の著作物の利用(第47条関係)

技術進歩に伴う見直しとして,美術館等において,展示作品の解説や紹介を目的とする場合には,必要と認められる限度において,小冊子に加えて,タブレット端末等の電子機器へ掲載できること等を規定(第1項,第2項)しています。これにより,例えば,会場で貸出される電子機器を用いて,より作品の細部を拡大して制作手法を解説することや,展示方法の制約により観覧者が目視しづらい立体展示物の底面や背面の造形を解説すること等が権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。
 また,同様に近年の情報通信技術の発展により,美術館等に行く際に,施設のウェブサイトやメールマガジン等で展示作品の情報を調べることが一般的になっていることを踏まえ,展示作品に関する情報を広く一般公衆に提供することを目的とする場合には,必要と認められる限度において当該作品に係る著作物のサムネイル画像(作品の小さな画像)をインターネットで公開できること等を規定(第3項)しています。

[3]著作権者不明等著作物の裁定制度の見直し(第67条等関係)

著作権者不明等著作物の裁定制度は,著作物の権利者が不明等の場合に,文化庁長官の裁定を受け,かつ通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託することで,当該著作物を利用することができるものです。今般の改正では,補償金等の支払を確実に行うことが期待できる国や地方公共団体等について,事前の供託を求めないものとし,権利者と連絡をすることができることになった際に,事後的に権利者に補償金を支払うことを認めることを規定(第2項)しています。同様に,申請中利用に当たって供託をすることが求められる担保金も,国や地方公共団体等については免除し,権利者が現れた場合に,利用に係る補償金を直接権利者に支払えば足りることとしています(第67条の2)。

(5)施行期日

この法律は,上記(1)デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定,(3)障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定,(4)アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定に係る改正事項については平成31年1月1日に,上記(2)教育の情報化に対応した権利制限規定に係る改正事項については公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日に,それぞれ施行されることとしています。

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