文化庁主催 コンテンツ流通促進シンポジウム「著作物の流通・契約システムに関する研究会」の成果報告
コンテンツビジネスの未来は輝いているか?

2004年6月28日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟大ホール)
トップ 基調講演 特別公演 研究報告 パネルディスカッション
基調講演
森口 泰孝 (もりぐち やすたか)
文化庁長官官房審議官・
内閣官房知的財産戦略推進事務局次長

前のページへ 123


撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
「知的財産推進計画2004」
この専門調査会の成果が、5月に公表された「知的財産推進計画2004」です。コンテンツ関連は94項目の政府がやるべきことが記載されています。詳細は省略させていただきますが、文化庁の著作権関連についても、やるべきことが様々挙げられています。

それから、ブロードバンド等を利用したビジネス展開の推進ということでは、環境整備の一環として、著作権法関連も推進計画に触れられています。関係者間協議の結論を得て必要に応じ制度改正ということです。すぐに実現するものということではなく、関係者の協議が行われているものを列挙してあるわけです。これらについて、環境が整えば文化審議会著作権分科会で議論しようというものです。

「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」の制定
本年5月に、コンテンツビジネスの振興に関する基本法的な法律として「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」が成立いたしました。この法律は基本法的なものであり、条文はいわゆるプログラム規定でございますが、例外的に「コンテンツ版バイ・ドール条項」と呼ばれる条文が盛り込まれております。

いわゆる「バイ・ドール法」というのは、1980年に米国において「政府資金による研究開発から生じた発明」について、民間事業活動での利用促進を図るため、特許権等を民間企業に帰属させるようにした法律のことです。中心となった議員の名前を採って「バイ・ドール法」と呼ばれていますが、この法律は90年代に入って米国産業が競争力を取り戻す一因になったと言われています。既にわが国においても99年に「産業活力再生特別措置法」において、国の資金による委託研究における特許等について米国類似の制度を設けておりますが、今回のコンテンツ促進法では、その対象を「国が民間事業者にコンテンツの制作を委託又は請負わせる場合」にも拡大をすることとしております。
国がコンテンツの制作を委託等する場合に、当然、その成果物には知的財産権が、主に著作権が、発生するわけです。しかし、国の資金が原資であるということで、国が契約によって著作権の譲渡を求める、つまり権利を国が吸い上げることが通例です。
国の資金が原資なのだから、その成果物の著作権なり知的財産権は国が持つべきという基本的な考え方から、そのような慣行となっていたわけです。
しかし、国は成果物であるコンテンツを自らの一次利用する以外に、その著作物を二次利用して何かしようということは到底考えません。その結果、成果物であるコンテンツは二次利用されることなく死蔵されています。
そこで、この法律によって、成果物であるコンテンツに係る著作権等を「国は、知的財産権を受託者等から譲り受けないことができる」と法律に明記することとしました。
これによって、受託者であるコンテンツ制作者は、自分の創ったコンテンツに生じる著作権等が自分の手元に残るということになるので、良いものを創ろうというインセンティブも働くでしょうし、そのコンテンツを事業活動で二次利用することでもできるようになります。
この条文は色々な場面に適用されると思います。例えば、広報その他の目的で映像コンテンツの制作する、各種パンフレットを制作する等、そういうものが含まれます。
この「バイ・ドール条項」は、法律が公布された日から三ヶ月以内に施行されることとなっていますので、もう間もなく、9月初め頃にスタートします。
国から様々なコンテンツ制作を受託している方々は、是非この条文規定に基づき、著作権等を手元に残し事業活動で積極利用するということを、是非やっていただきたいと思います。
各省の契約の見本となるモデル契約を現在作っております。今回のバイ・ドール条項の趣旨及びモデル契約を踏まえ各省が契約を行うことになります。一年後には、その実施状況をきちんとフォローしたいと思います。

新産業創造戦略
経済産業省が「新産業創造戦略」を発表しました。その中でも、やはりコンテンツ産業が大きく取り上げています。先ほど申し上げましたように、11兆円を2010年には17兆円産業にしようということで、経済産業省も取り組んでいきます。

著作権法の一部改正
そして、著作権法の一部改正。これも文化庁としての環境整備の一環です。音楽レコードの還流防止、書籍雑誌の貸与権の付与、罰則の強化、この3点を、今回の改正で行いました。改正法案につきましては、参議院、衆議院ともに、全会一致で成立をしまして、来年の1月から施行されることとなっております。
この中の「音楽レコードの還流防止措置」については、様々な議論がございましたが、我々として是非強調しておきたいのは、この還流防止措置は、先ほど来説明しておりますが、我が国コンテンツの海外展開、これが非常に重要である、アジア諸国において日本音楽は非常にニーズも高いのですが、やはり海賊版の問題や、あるいは現地物価との価格差、そういう問題があって、我が国の音楽関係者が海外展開を躊躇している、そういう状況があるので、これは諸外国も導入している制度であり、還流防止措置を講じようではないかということで始まったわけです。 結果として、いわゆる洋盤の輸入CDについても、法律の仕組上はその輸入を止め得るおそれがあるという議論があったわけですが、これは法律をごらんいただくとお分かりいただけると思いますが、そのような事態が起きないよう様々な工夫をしているわけです。
議論の過程で、「そうは言ってもその網の目を掻い潜って、洋盤の輸入が止まるのではないか」という懸念もあったわけです。我々としては、それについては法律で十分手当てしていると思っておりますが、万が一洋盤の輸入レコードを止めようという動きが出てくれば、それは法律の趣旨ではないわけですから、即座に法律を見直しましょうというと言っております。
ですから、我々としては、そのようなことは実際には起きないと思っておりますが、万が一起きれば、そういう形で法律の見直しを即座にしますし、「一定期間が経ったところで状況を見て、所要の措置を講じましょう」と知財推進計画にも書いてあります。
ただ、私としては、この「状況を見る」というのは、もちろん洋盤レコードということもありますが、それよりも、我が国の音楽レコード関係者が、今回の著作権法改正により、海外展開を果たしているか、アジアに展開しているかということだと思います。一定期間後になっても全くそのような動きがない、海外に、アジアに展開する動きがないということであれば、立法趣旨が達成されていないということですから、まさしく見直しを行い、この条項を廃止することも考えなければならないと思います。
関係者と色々議論しますと、「どうせアジア、中国に展開しても売れないよ。」という声や、或いは一部の音楽関係者による国際展開の動きについて、「あれは国内で売れなくなったから海外に出て行ったんだ」という声も聞こえてくるのですが、それは何か非常に悲しい話ですね。やはり、音楽や映画も含めて、我が国のコンテンツをアジアに展開をしていくことが、単に一産業の振興という目的に留まらず、我が国にとって非常に重要であるという認識をもっていただきたいと思うところです。

今後の政府の取組み
最後に、今後の政府の取組みについてお話いたします。先ほどご説明させていただいた「知的財産推進計画2004」が先月公表されましたが、そこに記載された事項を具体化した「ロードマップ」、何を何時までにやるということを整理した改革工程表みたいなものですが、これを近々公表したいと思っております。
それから、来年に向けての課題としては、やはり「税制上の措置」があると思います。これは是非、しっかりと検討して、来年度の税制改正要求を出したいと思っております。
また、本年秋からは、コンテンツ専門調査会を再開することとしております。著作権で保護されるようなものだけではなく、観光、ファッション(流行)、料理等も広義のコンテンツですので、そういったものをどのように振興するのか、我が国のいわゆる「ソフトパワー」を活かすための検討を行いたいと思っております。
そして、次の国会への宿題になっています「信託業法の改正」。これは立法府の話ですが、ぜひやる必要があると思います。
また、東京国際映画祭の充実を始め様々な取組みもございます。
政府としてもしっかりと環境整備をし、それによって、コンテンツビジネス関係の方々が活動しやすいよう、国内だけに閉じることなく海外展開を図っていただけるよう、そしてGDPの比率を2%から引き上げ、新産業創造戦略が目指す17兆円に到達するよう、がんばっていただきたいと思います。
以上でございます。ご静聴ありがとうございました。


※本稿は、シンポジウムにおける講演に講演者が手を加えたものである。
前のページへ 123
ページの先頭へ