文化庁主催 コンテンツ流通促進シンポジウム「著作物の流通・契約システムに関する研究会」の成果報告
コンテンツビジネスの未来は輝いているか?

2004年6月28日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟大ホール)
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パネルディスカッション
次々世代のコンテンツビジネスの可能性と課題
澤 それではディスカッションに移りたいと思います。「次々世代のコンテンツビジネスの可能性と課題」という大変難しいテーマになっております。今回、4つの検討グループで「次々世代のコンテンツ流通のアイデア」をテーマにご議論いただきました。


撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
佐々木さんのAグループは、ネットワークから生まれるコンテンツを想定して、全く新しいアイデアをご検討いただきました。森田さんのBグループは、ユーザー発想にこだわってご検討いただきました。それから、久保田さんのCグループでは、多様なユーザーニーズが存在することを前提にをご議論いただきました。斎藤さんのDグループでは、個々のクリエーターに収益を還元できるようなコンテンツ流通をご検討いただきました。

それぞれのグループに同じテーマでご検討いただきましたが、それぞれの検討方法、あるいはメンバーの違いにより、検討結果はかなり異なったものとなりました。それぞれのグループの検討結果を6つの軸で分類してみました(図 参照)。

各グループが異なる観点の検討をしておりますし、また、全く同じ観点についての検討もしております。本日は、各グループの座長の方にお集まりいただき、これら6つの軸毎にご議論いただきたいと考えております。
「コンテンツ流通促進シンポジウム」ということで、6つの軸の内「流通」、「マーケティング」、「プロデュース」についてご議論いただき、それ以外の「契約」、「クリエーター育成」、「日本の文化戦略」はその議論の中で合わせてご議論いただく形で進めたいと思います。

[ 流通 ]
資料1:流通
では、まず「流通」についてご議論いただきたいと思います。
お手元の資料1をごらんいただきますとわかりますが、各グループとも、かなり似たようなアイデアが出ています。
「P2Pに対して課金する仕組みの提供」、「転々流通においてコンテンツの創造に寄与した人に報酬が支払われる仕組み」、「転々流通から対価を得るべき人が対価を得られるような方法の検討」、あるいはクリエーター育成でも同じように「途中段階のクリエーターの存続を可能とするN対N流通の実現」とあるのが目を引きます。


撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
ここで、「転々流通」はパッケージ型、ネットワーク型を含みまして、コンテンツホルダーあるいは権利者が関与しない形で、コンテンツが転々と流通することを言っております。この「転々流通」においてきっちりとお金が支払われる仕組み、しかも貢献度合いに応じて対価として支払われる仕組みが必要ではないかというアイデアが各グループから出ています。

このアイデアについてまずご議論いただきたいと思います。こういったアイデアが出た現状の問題意識、それから、どういう形で解決策を考えていけばいいのか、その辺につきましてお話しいただきたいと思います。久保田さん、お願いできますか。

久保田 さきほど言われた数々のアイディアが、まず技術的に可能になり、次にそれが法制度によって支えられる形になるのだと思います。例えば、すでに現在でもソフトウェアの媒体やハードウェア側にに仕掛けをして、特定のハードでしか稼働しないということにすれば、中古の複製物の流通を阻止することは可能です。けれども、それはユーザーフレンドリーな技術だろうか。例えば、子供の間では、友達のプラットホーム(ハード)を使い、自分のゲームソフト持ち寄って使って遊ぶということがあると思いますが、この場合に、自分のプラットホーム(ハード)ごと、友達の家に持って行かなければゲームができないということにもなりかねない。

ちょっと議論が飛びますけれども、「契約システム」という点で考えますと、例えば「使用権」を著作権者がコントロールできる「物権的な権利」として認めて、その「物権的な権利」によって、ネットワーク上で、電子商取引の中で、様々なパターン化された使用条件(ライセンス)をクリックすることで、著作物が使えるという仕組みが可能ではないか。

しかし、この仕組みは、「物権的な権利」がないと難しい。その部分に穴が開いていると、アウトサイダーは必ず出てきます。そこはやはり「物権的な権利」で抑えておいて、それを前提にした契約をする。よく、権利者に物権的な権利を与えてしまうと、許諾の際に禁止権的に働き、流通が阻害されるおそれがあると言われますが、これは独禁法や消費者保護法といった法律によって、「契約法」のレベルで民民の契約をコントロールする方法ができれば流通をめぐる紛争も起こらず、バランス良く状況に対応できるのではないかという議論がなされました。

澤 森田さん、いかがでしょう。

森田 Bグループでも「転々流通」においてコンテンツの創造に寄与した者に対して報酬が支払われる仕組みが構築できないかと、議論を展開していただきました。これについては様々な仕組みが考えられますが、一つ面白い議論として出てきたのは、「税制の活用」です。

実際の取引は、例えば、メーカー、卸しを通じて小売店に物が売られ、そして更に消費者へと流通していきます。「転々流通」を認めることになると、小売店と消費者との間の取引がずっと繰り返して発生していくことになります。しかし、これでは、小売店と消費者との間で発生した取引による経済的利益についてはクリエーター側にお金は還元されないこととなってしまう、というのが問題の根源です。

小売店というのは、商品を消費者に小売りすることによってお金を得ているわけで、これには当然消費税を上乗せして売っているわけです。消費税は小売店からすると国に対する預り金になります。税金を国に代わって徴収しているという仕組みです。

Bグループの検討会で出たのは、消費税の仕組みをうまく使ってクリエイターに利益を還元したらどうだろうかということでした。これは中古販売に限りません。つまり、転々流通が発生したら、そのトランザクションの中で消費税のような内金を取る仕掛けを作って、クリエーターに還付しましょう、という話です。クリエイターに対する経済的インセンティブの徴収を小売店に委ねるという考え方です。

しかし、これでは小売店としては不満が出るかもしれません。そこで、小売店としては、単にクリエーターに還元するのは面白くないということであれば、小売店に対しても、クリエーターの利益を促進することに寄与したことに対するインセンティブを還元する仕組み、例えば、小売店が「転々流通」に関しての取引を申請すれば、それによって小売店にも現金が還元されるという仕組みを租税徴集という仕組みの中で作ったらどうだろうか。転々流通の取引についての消費税の一部を、小売店とクリエイターの利益還元の原資にしてはどうかというアイデアが出ました。私もこれは非常に面白いアイデアではないかと思います。

「次々世代」の流通を考える時に今のような議論をすると、「いや、それはちょっと許されないんじゃないか。」というな話になりやすいのですが、既存の仕組みを前提としないということだからこそ、このような議論もできたのではないかと思います。

澤 クリエーター育成の観点から、N対Nの流通の実現ということで、斎藤さん、いかがですか。

斎藤 クリエーターと一言で言っても、本当にクリエーターとして認められている環境なのか、本当にクリエーターを支援するような環境を作っているのか、いつも疑問に思っています。

私ども、広告の世界でクリエーターに協力いただいていますが、例えば、新しいショートムービーやブロードバンドムービーを創る場を提供しようということが私どもにせめてできるお手伝いです。

私どもの、例えば著作権というところで今まで安易だった部分を、どれだけクリエーターに還元できるか、そのトライはどんどんさせていただくようになっています。

ただ、クリエーターための「場数」の少なさ。今、本当に、作品を提供したい場所、クリエーターが自分の作品を出せる場所、それから作品を応募し賞をもらい・その権威・受賞したことによって更に自分のランクが上がるかとなると、本当に貧しい状況であると思っています。

有識者のお墨付きを得ることによって、すごく良い作品として世の中に出ていくことになるといわれます。私もそういいます。しかし、そういうことで頑張っているクリエーターでさえも、なかなか食べていけないという環境があります。デジタルクリエーター達は、もう、本当に大変な思いをしている。N対Nの流通なんて、とてもとても・・・。そこに対する支援を是非していただきたいと思います。
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