文化庁主催 コンテンツ流通促進シンポジウム「著作物の流通・契約システムに関する研究会」の成果報告
コンテンツビジネスの未来は輝いているか?

2004年6月28日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟大ホール)
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特別講演
浜野 保樹 (はまの やすき)
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授

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撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
いまになって日本の魅力とか、日本が一生懸命つくってきたコンテンツが、海外から評価されるようになっていますが、かつての浮世絵と同じになるのではないかと私は心配しています。

6年ほど前に「中央公論」という雑誌に、「アニメーションは第2の浮世絵か」という記事を書きました。編集者は、日本のアニメーションが世界で人気があるということの方に興味を引かれたらしく、アニメーション業界の危機的状況を書いたのに、題名を私の意図とは真反対の「日本アニメーション興国論」というタイトルにされてしまいました。

その記事の本来の趣旨はこういうことでした。浮世絵は消費されるだけの大衆文化として、江戸幕府は保護するどころか、弾圧しました。また人々も、その価値に気づいていたとは言い難かった。伊万里から海外に陶器を出すときに、壊れないようにと浮世絵が陶器を包んだ。ヨーロッパの人々は、その浮世絵に驚き、浮世絵を発見し、浮世絵のコレクターが出てくる。

当時、写真という技術が出てきて、西洋絵画というのは記録性というものがすべて剥奪されてカメラに移ってしまった。これまではお金持ちじゃないと奥さんのきれいな時代とか子どもの記録を撮れなかったものが、全部カメラで撮れるようになったために、西洋絵画というのは死滅するという議論さえあった。ゴッホたちは、浮世絵を見て、こういった装飾的な描き方で西洋絵画はもう一回再生できるとして、印象派をつくる。

ですから、ゴッホは印象派のことを「パリの日本人」と呼んでいた。だから、日本の浮世絵というのは印象派の中に残っているわけです。オリジナルの日本の浮世絵というのは伝統芸術として保護される対象になってしまっている。

現在でも同様なのです。日本のすぐれた表現とかすぐれた文化というのは、今、海外でこそ花開いている。「ラストサムライ」。「キル・ビル」。東京を描いた「ロスト・イン・トランスレーション」とか、オーストラリアのアカデミー賞を取った「ジャパニーズ・ストーリー」とか。

アニメーションでも第2の浮世絵が始まっている。これまでは日本のアニメーションは、アニメーションでなければ表現できなかったシームレスな視点とか、大胆なアングルといった表現手法と、それらの表現手法が活きるストリーの宝庫でした。しかしそういったものがデジタル技術で実写のでも表現できるようになり、あらゆる表現が実写映画、それもグローバルコンテンツに入れられるようになっています。ですから、我々は我々の持っているせっかく培ったアニメーションをどうしていくかというのを真剣に考えていく必要があります。


撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
そのためには、研究開発も重要です。南カリフォルニア大学にはロバートゼメキス・センター・オブ・デジタルアーツというデジタルシネマの人を育てるための研究所があります。アナログのフィルムの表現者は既にいるわけですから、デジタルの表現者をつくろうといことで設立されました。その中のデジタルスタジオが2つあり、1つは黒澤明デジタル・スタジオと命名されています。

ゴールデンゲートブリッジの下の海軍跡地に、ルーカスがデジタル映像の核都市をつくっています。日本では残念ながらコンテンツ研究というのはなされてきませんでした。

パリの商工会議所がつくったゴブランという学校で、アニメーションのコースが有名です。日本から大塚康生さんなどが教えに行かれています。

コンテンツを作り出す唯一の資源である人材をどうするのか、自分たちの文化資源をどうするのはということは、グローバルコンテンツが襲来する中で、どこの国でも世界的な真剣に議論され、対策が立てられています。大きな世界的な動きとなっています。

時間配分を間違ってしまって、駆け足になってしまいました。
どうもご清聴ありがとうございました。(拍手)
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