平成18年度 大阪教育大学附属平野中学校

研究成果の概要

(1)研究主題

著作権を含む知的財産権について、「知り」「広げ」「深める」学習方法の確立
−生徒の発達段階を考慮した「著作権教育」在り方を模索してー

(2)研究のねらい

本校では、「総合的な学習」の一環として、中学1年生において学びの基礎となる「STEP情報」を設定し、情報活用スキル・プレゼンテーションスキルの育成や課題設定スキルなどの育成を図っている。とりわけ、情報の活用・処理・発表の場において、著作権・肖像権をはじめとする「知的財産権を守る」という姿勢・態度を子どもの頃より養うことが、「自他の権利を尊重することができる社会」の構成員を形成する第一歩になると考える。

そこで、本研究では、生徒の発達段階を考慮し、著作権を含む知的財産権にかかわる内容・事例・問題点などを体験的に「知り」「広げ」「深める」学習のあり方についての研究を3カ年計画で進めるとともに、教師・保護者への啓発と連携、大学・地域社会(地域の教育力)との連携を進め、より研究の成果を確かなものにし、「自他の権利を守り合い、尊重し合うことができる社会づくり」への一助にしたいと考える。

(3)研究の概要

  1. 研究計画の概要

    以下に示すように、3カ年計画を立て本研究実践をすすめることにした。

    • 1年次……平成18年度(本年度)基礎研究・一部試行期間
      1. 1年生を対象に、「著作権を含む知的財産権」について「知る」学習のあり方について研究実践をすすめる。
      2. 「著作権教育」にかかわる情報の収集を図るとともに、教職員・教育実習生への啓発活動を行う。
      3. 大学・地域の教育力の活用・協力方法を模索する。
    • 2年次……平成19年度 実践研究・施行期間
      1. 1年次の成果と課題をもとに、2年生を対象に、著作権に留まらずさまざまな知的財産権にまで考え方を「広げる」学習の在り方についての研究実践をすすめ試行する。
      2. 大阪教育大学の現代GP「知的財産権教育のできる教員育成システムの構築」への研究協力を深め、教育実習校として教育実習生に対する「著作権を中心に知的財産権」にかかわる指導と授業実習のあり方についての研究実践をすすめ試行する。
      3. 大学・地域の教育力を活用し、生徒・教職員・保護者への啓発活動を推進する。
    • 3年次……平成20年度 研究のまとめ・施行期間
      1. 2年次の成果と課題をもとに、3年生を対象に、著作権・知的財産権をはじめ、自他の権利を尊重するための考えを「深める」学習のあり方についてまとめる。
      2. 大学現代GPにかかわる教育実習校としての実習生への指導・学習のあり方についてまとめる。
      3. 研究のまとめと課題点の総整理を行う。
  2. 平成18年度における研究実践概要

    本年度は、本研究の基礎研究・一部試行期間であるため、著作権教育にかかわる情報の収集と教職員への啓発活動を行うとともに、第1学年の総合的学習の時間を活用し生徒の意識・実態調査及び授業実践を行った。教育実習に関しては、併修実習で著作権にかかわるオリエンテーションを行い、教材作成時の著作権への配慮すべき点を考えさせるなど、実際の授業場面で役立つように指導を試みた。 (別紙資料1「研究計画・授業計画・研修計画の概要」参照

    • 中学1年生を対象に、「著作権を含む知的財産権」について「知る」学習のあり方について研究実践をすすめる。
      1. 授業実践の視点

        本年度は、1年生のSTEP情報(本校の総合的学習の時間)において、以下の3点を指導上の留意点として、授業実践を行った。

        • 体験的に著作権についての内容・事例・問題点を、「知る」ことができるようにする。
        • 著作者のもつ権利の概要について知らせるのみに留め、著作権法・条文の解釈など詳細には立ち入らないようにする。
        • 視聴覚機器・コンピュータを活用して教材を提示し、生徒の興味や関心を高め、自分たちの活動に生かせるようにする。

        体験的に「著作権」について学び、学んだことを活動に「生かす」ことができるようにするため、STEP情報での「ひらの風土記」の作成を軸にして、地域での取材活動のまとめや発表会、風土記作成時にタイミングを合わせて、「著作権」及び「知的財産権」にかかわる授業を行った。(STEPの授業計画については、別紙資料2を参照願いたい。)

      2. 実践授業の概要

        各授業の実施時期・授業テーマと教材・主な指導目標をまとめると以下のようになる。(尚、STEPの授業は別紙資料Uにあるように、クラス単位で行っているため、クラスにより実施日・時間が異なることもある。)

        実施時期 授業テーマと教材 主な指導目標 参考資料
        9月〜
        10月
        ・著作権って何?(2時間)
        ・文化庁「これであなたも著作権何でも博士」
        ・著作者のもつ権利の概要について「知る」。
        ・発表物や配布資料を作るときの著作権への留意点を考え、発表に生かす。
        指導案① 別紙資料3
        ワークシート 別紙資料4
        1月 ・著作物の利用の仕方を学ぼう!(2時間)
        ・文化庁「映像で学ぶ著作権」・「まんが著作権教室」
        ・著作物の参考・引用の仕方について学ぶ。
        ・学んだことを「ひらの風土記」作成に生かす。
        指導案② 別紙資料5
        ワークシート 別紙資料6
        2月 ・知的財産権って何?(1時間) ・著作者や発明者などのさまざまな権利が守られていることを知る。 指導案③ 別紙資料7
        授業プリント 別紙資料8
        3月 ・著作権について知識を整理してみよう!(1時間)
        ・文化庁「これであなたも著作権何でも博士」
        ・e黒板システムの活用
        ・著作権の理解度を自分自身で確かめる。 ・「ひらの風土記」の作成と完成をめざす。 指導案④ 別紙資料9
        ワークシート 別紙資料10
        ひらの風土記 別紙資料11-ABC

        「著作権・知的財産権」にかかわる授業は、概念的なものになり易く、生徒の興味や関心も低く、「我がこと」として考えることは少ない。しかし、今回の授業では、自分自身で発表物を作成したり、「ひらの風土記」を作成したりするという実際の著作物をつくる活動をともなっていたため、興味や関心をもって授業に臨むとともに、著作権への配慮の仕方や著作物の利用方法も体験的に見に付けさせることができたと考える。

      3. レディネス・テストと確認テストを通じて(考察・別紙資料14参照)

        これらの授業を実践するにあたり、生徒の実態を把握するために、「これであなたも著作権何でも博士」及び「映像で学ぶ著作権」の「質問」をプリント化し、レディネス・テストを行った。(別紙資料12・13及び資料6の問2参照)

        1. レディネス・テストの結果と考察

          本校の1年生・120名だけのものであるため、中学生全般の傾向とは言いがたいが、「これであなたも著作権何でも博士」と「映像で学ぶ著作権」の正答率(別紙資料14)が、70%未満のものを列挙すると下の表のようになる。

          レディネス・テストの結果

          分類 問題番号 質問内容 正答率
          基本編 著作権を持つのにどうすればよいか?  69.2%
          清少納言の「枕草子」に著作権はあるか? 33.3%
          授業編 学校の授業で著作物を扱うとき許可が必要か  47.9%
          自然のようすの写真をまとめに掲載するときの許可の必要性は? 53.8%
          美術の時間に模写、正しいものは? 24.8%
          インターネットで見つけた資料をコピーして配布? 29.1%
          郊外学習で聞いた話をまとめに掲載? 36.8%
          学習の発表でテレビ番組を録画? 63.2%
          音楽の時間の録音をHPにアップ? 44.4%
          合唱曲を文化祭で演奏? 48.7%
          学校生活編 放送委員会が昼の放送でCDを編集? 48.7%
          ソフトをインストールできる条件は? 21.4%
          修学旅行のしおりにHPの写真を掲載? 34.2%
          文化祭のパンフに美術全集のイラストを掲載? 45.3%
          音楽発表会のようすの録画ビデオをHPにアップ? 31.6%
          生活編 他人にあげるために市販CDをMDにコピー? 28.2%
          HPに好きな歌手の曲を掲載? 53.8%
          買った写真集の写真をHPにアップ? 51.3%
          DVD 学校の新入生歓迎音楽会で、他の人のつくった曲をアレンジして演奏していいか? 25.2%
          報告書をつくるときに、参考文献を写したが、多少自分の意見もあるので引用といえる? 21.0%
          テレビやビデオの番組や映像をコピーしたものを、無断で劇や演奏会の背景に使ってもよいか? 68.1%

          『基本編』の正答率の平均は約80%と高く「著作権の意義」に関しては、概ね理解していると考えられる。また、『授業編』における⑤⑥⑦⑧の「許可を得なくても利用できる」に関しては、正答率の平均は38%と低い値を示しているが、これは、「無断でしてはいけない」と答えた生徒が多く、「著作権」は守らなくてはいけないという意識が強く働いているものを考えられることができる。

          しかし、『学校生活編』における②③の「無断でしてはいけないこと」の正答率(平均20%)や、②③の「学校行事であっても無断で利用できないこと」の正答率(平均45%)、『生活編』における②③④の「無断でしてはいけないこと」の正答率(平均44%)が低くなっている。これは、生徒の学校や家庭での日常生活面で、個々具体的に出会う事例・場面に於いて、個人的に「著作権を守ろうとする意識」が薄く、「こんなことぐらいは大丈夫だ」とか「著作権を侵害している」とは知らずに活動・行動していると推察できる。また、コンピュータソフトやHPの正しい取り扱いについても意識が低いと言える。

          これらの点を踏まえ、意識や考えを改善できるよう本年度は資料1の著作権教育計画に示したように授業実践を行った。その後、確認テストを行い、改善状況と課題を把握することにした。

        2. 学習後の確認テストの結果と考察

          結果は、下の表にあるように「授業編」や「生活編」での意識や考え方の改善を図れたが、「学校生活編」や※で示した点などでの改善が図れなかったといえる。改善を図れなかったものの多くは、やはり、HPの取り扱いや授業や行事以外の学校生活面での活動に関わるもので、日常余り意識せず行われている問題が多いように考える。これらの点について、来年度以降も引き続き、生徒の意識の改善を図り、他の人の権利を守ろうとする態度や行動が取れるような生徒を育成していくことが課題であると考える。

          学習後の確認テストの結果

          分類 問題番号 質問内容 正答率
          基本編 著作権を持つのにどうすればよいか?  88.5%
          清少納言の「枕草子」に著作権はあるか? 92.9%
          授業編 学校の授業で著作物を扱うとき許可が必要か  84.2%
          ※自然のようすの写真をまとめに掲載するときの許可の必要性は? 54.0%
          美術の時間に模写、正しいものは? 60.2%
          インターネットで見つけた資料をコピーして配布? 61.1%
          郊外学習で聞いた話をまとめに掲載? 55.8%
          学習の発表でテレビ番組を録画? 74.3%
          ※音楽の時間の録音をHPにアップ? 42.5%
          合唱曲を文化祭で演奏? 71.7%
          学校生活編 ※放送委員会が昼の放送でCDを編集? 26.5%
          ※ソフトをインストールできる条件は? 39.8%
          ※修学旅行のしおりにHPの写真を掲載? 29.2%
          ※文化祭のパンフに美術全集のイラストを掲載? 47.3%
          ※音楽発表会のようすの録画ビデオをHPにアップ? 49.0%
          生活編 他人にあげるために市販CDをMDにコピー? 43.4%
          HPに好きな歌手の曲を掲載? 77.0%
          買った写真集の写真をHPにアップ? 60.3%
          DVD 学校の新入生歓迎音楽会で、他の人のつくった曲をアレンジして演奏していいか? 85.2%
          報告書をつくるときに、参考文献を写したが、多少自分の意見もあるので引用といえる? 76.5%
          テレビやビデオの番組や映像をコピーしたものを、無断で劇や演奏会の背景に使ってもよいか? 82.6%
    • 「著作権・知的財産権教育」にかかわる情報の収集を図るとともに、教職員・教育実習生への啓発活動を行う。

      生徒や教育実習生に「著作権・知的財産権」にかかわる諸問題を教えるには、教職員がまずその諸問題について把握していなければならない。そこで本年度は、以下に示す教職員研修会を実施し、教職員の事故研鑽を深めた。また、著作権にかかわり疑問に思ったことを具体的事例に即して適切に判断し、指導できるようにするために、下記の書籍を配布するとともにマニュアル・パンフレット類を常時閲覧できるようにした。

      • 教職員への研修
        平成18年9月2日 大阪教育大学 知的財産教育セミナーへの参加
        平成18年11月25日 校内研修会① 「学校教育と著作権」
        講師 大阪教育大学教授 片桐昌直先生
        平成19年2月26日 校内研修会② 「教育活動と著作権」
        講師 メディア開発センター
        研究開発部教授 尾崎史郎先生
        平成19年3月4日 日本知財学会 知財教育分科会
        第2回知財教育研究会への参加・派遣
        (三重大学 メディアホールにて)
      • 教職員研修用書籍・パンフレット(配布用)
        • 文化庁「学校における教育活動と著作権」
        • 教育出版「必携!教師のための学校著作権マニュアル」
        • 岩波 ACTIVE 新書19「知っておきたい情報モラルQ&A」
        • メディア教育開発センター「著作権法の基礎知識」
      • 閲覧用パンフレット・書籍類
        • 文化庁「学校向け指導事例集」「著作権テキスト」
        • コンピュータソフトウェア著作権協会「デジタル時代の著作権基礎講座」
        • 私的録音補償金管理協会「生徒のための著作権教室」「教師のための著作権教室」
        • 著作権情報センター「はじめての著作権講座U」
        • 大阪狂句大学現代GP「知的財産権教育ができる教員養成システムの構築」関係
        • 報告書・パンフレット

      これらの研修会・書籍の配布等を通じ、授業の教材作成時のみならず日常会話においても、「著作権」にかかわる話し合いを、非常勤講師も交え行われるようになった。

      また、10月の併修実習生を対象に「教材作成と著作権」を題材に実習オリエンテーションを行い、教材作成時の留意点について説明し、実際の授業で行かせるようにも配慮した。

    • 大学・地域の教育力の活用・協力方法を模索する。

      大阪教育大学の現代GPとの研究協力・連携は、ある程度は進めることができた。しかし、地域・社会の教育力を生かすまではには至っていない。平成19年度は、生徒・保護者向けの「著作権・知的財産権教育」にかかわる学習に関して外部講師を招聘し、幅広い教育が行えるよう現在計画中である。

      尚、地域の教育力の活用・連携の一方向性として、高等学校との協力事例を本報告書に簡潔に掲載しておくことにする。

      平成19年2月19日(月)に、本学附属高等学校平野校舎の久世武志教諭の協力を得て、高等学校の情報科の授業の一環として、本校の中学校2年生に高校2年生が「著作権・知的財産権」について教えるという授業が行われた(1クラス単位で参加、計3クラス・3時間)。「教えることは、学ぶことにつながる」というわれるが、この授業を通じて、高校生は教えることで学び、中学生は参加することで学ぶ、いわゆる異なる学習集団が相即的に発展できたよい事例であったといえる。このように身近な教育力を生かすことが、地域の教育力を生かす事例にもつながると考える。

(4)研究の成果

生徒の興味や関心を高めるために、コンピュータソフト教材やDVD等の視聴覚教材を適切に用いることは、必要不可欠な要素である。授業において、文化庁作成の中学生版クイズソフトや大学生版DVDを用いることは、生徒の興味や関心を高め、理解を促すためには適切な教材であることがわかった。

特に、大学生版DVDでは、生徒は知らず知らずのうちに身を乗り出し、途中での質問に対しては適切な解答を出そうとしていることが、授業者にも伝わってきた。これは、DVDの各コンテンツの質問の解答の仕方により、次のストーリーが異なってくるよう作成されており、このことを事前に生徒に伝えたため、生徒は正解を求め最後の「卒業」の場面に辿り着こうとしたためでもあろう。

また、中学生版クイズを、個別にコンピュータの画面に向って行うのではなく、今回、文化庁の協力で導入したe黒板システムを用い一斉授業形態で行うことは、互いに意見を述べ合うことにより、個と集団の相即的発展を促すよい方策の一つでもあることがわかった。

さらに、「著作権」を単なる知識として扱うのではなく、実生活の中で「捉え生かす」方法・態度などを身に付けさせるためには、発表活動や著作物の作成活動などの実際の体験・経験活動を組み入れることが、より効果的であることがわかった。

本校では、来年度より各普通教室に液晶プロジェクター常設される。このハード面の改善をきっかけに、今まで以上にコンピュータ・DVD・OHCなどを用い、生徒の興味や関心を高めるとともに、理解を促すためのよりよい教材を開発するなどソフト面での改善が必要となる。

また、来年度(平成19年度)は、著作権に留まらず知的財産権にいまで、その学習を「広げる」授業を実践していくことを目標の一つとしている。本年度は、1年生の総合的学習の時間のみの実践に留まったが、来年度以降は、各教科のどのような場面で、「著作権・知的財産権」にかかわる授業を実施できるかなどについて検討し、事例を収集し、研究の幅を「広げる」ことを課題の一つとしている。

大学現代GPとの研究協力をすすめる上で、本校での教育実習オリエンテーションの充実を図り、「著作権・知的財産権」にかかわる資料を作成・配布し、実習生の理解を深めることが必要となる。そして、教育実習期間を通じ、実習生の理解を深めることが必要となる。そして、教育実習期間を通じ、実習生の指導者としての意識を高め、教材の取り扱いや授業実践で生かせるようにするなど、教育実習校としての適切な指導方法の確立を図ることが今後の課題となる。

生徒は、一日の大半を学校で過ごしている。しかし、生活の基盤は各家庭にある。学校で学んだ「著作権・知的財産権」に関わる問題を、学校生活や家庭生活(実生活)において、どう生かすかが学習後の確認テストからもわかるように課題となっている。この課題を解決するには、保護者への啓発が必要である。そこで、来年度は、生徒と保護者が「著作権・知的財産権」をともに学ぶ機会を学校で設定し、家庭での「著作権・知的財産権」にかかわる対話が広がるようにしたい。そのためには、大学や関係諸機関により指導講師を招聘し、生徒・保護者向けの講演会・学習会などを実施することが必要となる。これにより「著作権・知的財産権」についての適切な理解を保護者・生徒に促し、それを尊重していこうとする意識・態度を家庭にまで広げることが、今後の課題の一つでもある。