福島県012

ふくしん夢の音楽堂

  • 1984年竣工
  • 設計/㈱岡田新一設計事務所
  • 施工/鹿島建設・間組・本多工務所・青柳工業共同企業体(音楽堂) 安斉工務店・平木建業所共同企業体(働く婦人の家・勤労青少年ホーム) 青柳工業(古関記念館)
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造および鉄骨造 地上3階、地下1階、塔屋2階(音楽堂) 地上2階、塔屋1階(記念館) 銅板葺
  • 用途/文化施設
  • 所在地/福島県福島市入江町1-1

ふくしん夢の音楽堂(旧福島市音楽堂)は市民の文化向上を図ることを目的に、1984年福島市が初めて建設した音楽ホールである。大ホール(1002席)や小ホール(200席)、楽屋や練習室などを備え、音楽や演劇など市民の積極的な芸術文化活動の場として利用されている。音楽堂の他に、調理実習室などを備えた「福島市働く婦人の家」と、趣味やサークル活動のための「福島市勤労青少年ホーム」の三つから成る複合体である。これはヨーロッパの村落にみられる集約形態で、三つの施設は広場や中庭、事務室などを介しながら、ゆるやかな関係性でつながっている。背後には福島市のシンボル「信夫山」がそびえており、設計者の岡田新一(1928~2014年)によると、「ドイツの郊外で見られるような森を背景として勾配屋根の建物が密集して聚落を形成するイメージ」で構成されている。
メインとなる音楽堂の大ホールはシューボックス型のクラシック専用ホールで、残響時間は満席時2.5秒という国内でもトップクラスの良質な音響効果を有している。正面にはデンマークのマルクーセン・アンド・サンズ社製のパイプオルガンが設置されている。壁はブルーの窯変タイル張りで、幾何学的凹凸も音の拡散反射を目的にデザインされている。この窯変タイルは佐賀県有田町の磁器メーカー製であるが、東日本大震災の時も、近年の福島県沖地震の時も損傷はほとんどなく、変わらぬ美しい状態を保っている。残響を得るために床は堅木のフローリングを用い座席の背もたれは木製に、後方のスチールパイプの壁で吸音するなど、クラシックの「音の響き」に徹底的にこだわったホールである。
1988年に福島市古関裕而記念館を増築して併設された。これは、1979年に地元出身の作曲家古関裕而が福島市名誉市民第一号となったことを受け、その功績を記念して建てられたものであり、同じく岡田新一の設計である。特徴は、古関の名曲「とんがり帽子」を思い出させる円錐形と三角屋根の塔であり、ヨーロッパの教会にも似た外観である。1階のサロンはガラス張りで、来館者が自由に憩える場所であり時にはコンサートなども開かれる。2階はハイサイドライトからの柔らかな光が入る古関の足跡をたどる展示スペースとなっており、書斎も再現されている。古関夫妻をモデルとしたNHK連続テレビ小説「エール」の放送により来館者が増加、2022年には展示をリニューアルしており、幅広い音楽の交流の場となっている。(菅野真由美)