福島県013

福島県立美術館

  • 1984年竣工
  • 設計/(株)大高建築設計事務所
  • 施工/鹿島建設(株)
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造および鉄骨造 地上2階
  • 用途/文化施設
  • 所在地/福島県福島市森合字西養山1

福島県立美術館は、県の文化施設整備基本構想に基づき、国立大学の移転跡地に図書館と共に整備することが決定し、1984年(昭和59)に完成した。場所は福島市のシンボル信夫山を背景にした、約60,000㎡の広大な敷地である。
設計を担当した大高正人はこの地で育ち、通った旧制中学校(現:福島高校)もほど近かいことから、自然に恵まれたこの環境を熟知していたと思われる。
敷地の周囲は県の木であるケヤキを始めとする多くの高木で緑化し、周辺の民家や道路・鉄道を視覚的に遮断し、中心市街地であることを忘れさせる。同時に整備された図書館とは設計者も施工者も別であるが、積極的に協議を重ね一体的な建物としている。外壁は東西に長い大きなものとし、切妻や寄棟など様々な勾配屋根は背景の山並みや緑と融合している。また、用途上閉鎖性の強い美術館と開放的な図書館を、屋根や外壁の素材を統一するなどして調和を図り、落ち着きのある建物にしている。
若い頃は陸屋根を多用した大高だが、1970年代以降は傾斜屋根の魅力にとりつかれ、筑波新都市記念館・千葉県立美術館・三春町歴史民俗資料館などに続いて、この美術館を設計している。その思考は室内空間にも影響をもたらしている。
来館者を迎えるエントランスホールは最高天井高さ18mの傾斜天井とし、左右対象の御影石貼の列柱と正面の縦長の開口部で構成され、頂部高窓から漏れ落ちる優しい光は教会を思わせる圧巻の大空間である。
2階に設けた常設展示室は中庭を中心に回廊状に4室で、天井には傾斜をつけ、壁仕上げ材をそれぞれ樹種の違う木や大理石を使用するなど変化に富んでいる。企画展示室は半地下階に4室設け、各展示室の間におかれた休憩室には敷地内外の緑を上手に取入れて、まるで額縁に嵌め込まれた風景作品のようでもある。
ゆったりした前庭は、中央に大きな水盤を配置して両側には青々とした芝生が広がっており、施設利用者はもちろん地域住民らが日常的に散歩や散策を楽しんでおり、地域に根差した建築として評価できるだろう。(高橋秀明)