三春町中郷小学校は、三春ダム建設により当初の小学校が水没するため、移転して新築された建物である。小高い丘の窪地と斜面を利用し、建物はダムの湖面とダム湖に架かる斜張橋を望む形で建てられている。小学校を中心施設とするが、従前からの地域のコミュニティーを継続するために複合施設として建築された。小学校・幼稚園・公民館を「中郷学校」と呼ばれる同地域のコミュニティー継承と学びの場として造られ、地域の現状やニーズ、コミュニティーの在り方を建築で示した点は特筆される。
設計は株式会社鈴木恂建築研究所が行い、三春町の学校教育を研究してきた三春町学校建築研究会が協力した。外観はそれぞれ異なった用途の建物と外形を仕上げ材と色彩の連携でまとめられており違和感なく地域に溶けこんでいる。
平面計画は小学校、体育館、幼稚園、公民館の4種類の用途の建築で構成されている。小学校は三春町で取り入れられているオープンスペースを導入し、適応性のある学習環境を作り出している。また公務センターを隣接させ、子供たちと教師の交流の促進を図っている。地階の音楽室は外部の音楽テラスと連続しており、地域の音楽活動や内部と外部を連続して利用することで解放された空間を造りだすことに成功している。理科室も同様である。教室を含め、さまざまな諸室は、壁を取り払って基本的にオープン化させた構成で、それぞれが有機的に連続することで、相互に関係性を高めている。
公民館は地域の人々の利用だけではなく隣接している小学校の児童にも放課後に利用されている。また体育館も完全に地域に開放されている。この施設は用途が異なる4つの施設を群として纏めて建設することで、意図された地域コミュニティーの維持と小学校教育の地域との繋がりをより一層濃いものにしていく施設となっている。教育と建築を一体的に捉え、地域コミュニティーを通して生涯教育を実践している点は、先駆的な取り組みであったと評価できる。(佐久間保一)