福島県018

郡山市立美術館

  • 1992年竣工
  • 設計/TAK建築・都市計画研究所、柳澤孝彦
  • 施工/大林・東洋特定建設工事共同企業体
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造および鉄骨鉄筋コンクリート造 地上2階、地下1階
  • 用途/文化施設
  • 所在地/福島県郡山市安原町字大谷地130-2

郡山市立美術館は、JR郡山駅から東へ約3㎞離れた市街地を一望できる緑豊かな丘陵地帯に建つ。自然の山並みを舞台とした郡山市の新文化ゾーン構想の中核施設として建てられたが、その後計画は進まず美術館が単体で存在している。この美術館の特徴は、イギリス近代美術の体系的なコレクションである。設計は、3社による指名コンペでTAK建築・都市計画研究所が選ばれ、1992年に竣工した。
美術館は、自然を傷つけない低辺部にL字型に配置されている。エントランスへのキャノピーや石の広場を前景として、丘の起伏をかたどる伸びやかな曲面の大屋根に覆われた美術館のファサードがシンボルである。約100mの長さの屋根面は、流れ方向にステンレス鋼板長尺一枚葺きで、シャープにデザインされたステンレスボーダーのけらばが曲面を美しく見せている。
内部は、エントランスホールから展示ロビーが展示棟とスタジオ棟へL字型に広がり、ガラスのカーテンウォールがすべて石の広場に面し、石庭と展示ロビーを一体化している。パターンエッチングを施したガラスのカーテンウォールは簾効果で直射光を緩衝しつつ、床面に細やかな影のデザインを演出している。明るく広々としたロビー空間は、展示室やスタジオ等を巡る動線でありギャラリーでもある。壁や柱など建築構造を表す部分は、光と影のキャンパスを意図したホワイトコンクリート打放しである。影をつくり出す出目地や4種類の杉小幅板の型枠で自然な風合いや素材感を表している。
最も印象的なところは、石の広場である。自然から建築へ移り行く空間であり、外部展示場でもある。イサムノグチの作品制作を支えた職人による施工で、緩い上り坂にフラットに仕上げた花崗岩と荒削りのものが混じり合い、香川県産の庵治石も所々に置かれている。展示ロビーに沿ったカスケードや池は、水抜けや枯葉により開館当初から3年ほどで流水を停止している。
東日本大震災では、展示室の照明器具やルーバー等が落下したが、作品の落下や損傷は無く、外観にも大きな被害は無かった。その後の地震被害で企画展示室の天井パネルを外し、現在もそのままである。外部は前庭キャノピー部分の地盤沈下で石板のずれや亀裂が生じており、各メンテナンスの課題は多い。
この建物は、1994年にBCS建築賞、1997年に福島県建築文化賞、1998年に公共建築賞を受賞し、同年に公共建築百選にも選ばれている(齋藤いち子)