福島県020

鯖湖湯

  • 1993年竣工
  • 設計/(有)鈴木設計
  • 施工/渡辺建設(株)
  • 構造形式/木造 地上1階 銅板葺
  • 用途/商業・事務所建築
  • 所在地/福島県福島市飯坂町字湯沢32

鯖湖湯は福島市飯坂温泉にある共同浴場で、古くから10ヶ所あった浴場の中でもシンボル的存在である。飯坂温泉発祥の地ともいわれ、古くは日本武尊が東征の折「佐波子の湯(=鯖湖湯)」に入ったとされる伝説の他、多くの著名俳人にも詠まれてきた。
1888年(明治21)飯坂大火の翌年に再建された以前の建物は、道後温泉本館(通称 坊ちゃん湯)より古いと伝えられ、修繕や改造を繰り返してきたが、老朽化と所有者(飯坂町財産区)の財政的理由から福島市へ移管し改築することになった。改築にあたっては、近隣の共同浴場「透達湯」を取り壊した跡地に移転し、規模を約2倍(約139㎡)にしつつ、それまでの鯖湖湯を“再現”することが条件だった。
設計を担ったのは地元を中心に活動した鈴木昌夫。当時芝浦工業大学の川上秀光教授(福島県建築文化賞審査委員長を歴任)監修のもと、「再現とは、復元とは違い可能な限り旧来の意匠・機能・技術を伝えつつ、新しい機能や技術を取り入れること」と位置付け、協議を重ねた。
外観・内観のプロポーションは以前の建物イメージを見事に残している。シャワーを無くし蛇口も最小限にし、浴室と脱衣室の間に仕切壁はない大きな1つの空間は、明治の風情を漂わしている。しかし文化財ではないため、建築基準法や消防法、公衆浴場法にも対応した。温泉施設という特殊な環境の中でも今後100年を見据えて耐久性の高い材料を選定し、ディテールにも工夫が表れている。そして新たに内部のトイレを設け、敷地内には湯樽をイメージした分湯槽を新築し、”平成の鯖湖湯”が完成した。
周辺整備では以前の建物跡地を広場とし、古くからある温泉神社を含めて石畳舗装やガス燈を想わせる街路灯の整備を行ったことで、景観形成の先導的役割を果たし、地域住民の賑わいの場として、更には観光地としての集客力も高めた。(高橋秀明)