福島県022

棚倉町文化センター・倉美館

  • 1995年竣工
  • 設計/古市徹雄・都市建築研究所
  • 施工/東急建設
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造および鉄骨鉄筋コンクリート造 地上2階
  • 用途/文化施設
  • 所在地/福島県東白川郡棚倉町大字関口字一本松58

棚倉町文化センター・倉美館は城下町棚倉市街を見下ろす高台に位置し、設計者は同町出身の建築家で、東京都庁の設計で中心的役割を担った古市徹雄である。立地は既存の町のクアハウス、スポーツ施設、飲食、宿泊の施設群の隣地にあり利用の相乗効果を期待して選定され、1995年9月に竣工した。「倉美館」の愛称は一般公募による命名で、棚倉町の「倉」と18世紀の古楽器クラビコードの意を取り入れられている。606客席の舞台、大小4室の楽屋、及び舞台並みの広さのリハーサル室をもつホール棟と、プラネタリューム併設の生涯学習棟を併せ持つ複合施設である。
建物を象徴する大きな楕円と丘に突き出したホワイエ、ギリシャの都市スパルタ市と姉妹都市であることを意識しての列柱廊の階段アプローチが魅力的で、建物と列柱廊の間に水をはったカスケードを配置する。生涯学習棟の東西南北の座標軸の配置から傾斜した楕円形のホール軸線は、棚倉町を象徴する八溝山と市街地を結んで配置されていて、ホワイエからのその眺望が楽しめる。ホールの楕円の魅力を生かすために考案された透明強化ガラスの音響反射板は、空間と音響の両面で想像以上の効果をもたらしてる。エントランスホール、ロビー、ラウンジとコモンスペースを通常より大きくとっているのもこの施設の特徴で、ホール棟と生涯学習棟の間の2層吹抜けのガレリアは、広さと明るさを十二分に確保することで魅力的空間を演出する。
設計者のいう「アーティストとの協働、演出は五感に訴える」は、家具、インテリア、彫刻、ステンレスの水琴窟で、その効果を具現する。町の規模に似つかわしくないほどの革新的な演出と空間美からは、地域住民の未来への思いが強く感じとれる建物といえるだろう。
この建物は令和5年から向こう5年間で経年劣化による修繕工事の予定である。(鈴木節夫)