福島県023

玉川村複合型水辺施設「乙な駅たまかわ」

  • 1996年竣工
  • 設計/隈研吾建築都市設計事務所
  • 施工/安藤建設株式会社
  • 構造形式/木造および鉄筋コンクリート造 鉄板葺
  • 用途/文化施設 (元 商業・事務所建築)
  • 所在地/福島県石川郡玉川村大字竜崎字滝山12-26

玉川村複合型水辺施設「乙な駅たまかわ」は、1996年(平成8)に隈研吾による設計で川/フィルターの名で建築され、民間のそば屋「乙字亭」として開業された。東日本大震災によってそば屋が閉店し、放置されていたが、その後玉川村が取得し、改修を行って2024年に再オープンを目指して動き出している建物である。
川/フィルターは、須賀川市から阿武隈川を越えて玉川村に入る国道118号線の幹線道路沿いに立地し、阿武隈川の畔に面して建つ。幹線道路沿いからは一見平屋建ての建物に見えるが、川からみると2階建てとなっていることが判る造りで、道路と川で高低差のある敷地を巧みに利用して建築される。2階部分にエントランスを設け、そこから下った1階部分には、食事処を配して阿武隈川を望み、オープンテラスにも席を設けて自然の中での食事を楽しむことができる。
この建物のもっと大きな特徴は、木製ルーバーであろう。主要躯体はRC造であるが、木造がふんだんに用いられる。ファサードの意匠を決定づける木製ルーバーには、杉の間伐材を用い、川側ではルーバーの形状やピッチを不均衡することで、川との関係の多様性を表現したという。テラスの天井にも杉材ルーバーを用いることで、ルーバーによる空間を表現し、ポーチに落ちる影も美しい。また、ポーチの屋根にはポリカーボネート波板張りを用いることで、自然との一体感を表現し、光の取り込み方を工夫する。
隈研吾は、宮城県登米町伝統芸能伝承館(宮城県登米市、1996年)で日本建築学会作品賞を受賞し、建築家としての評価を高めたが、川/フィルターは受賞した作品と共に、隈研吾による初期のルーバー建築の代表作といえる建物であり、作家性の点からみても評価できる建物といえるだろう。
2021年の東日本大震災以降空き家となっていたが、玉川村ではこの建物を地域資源と捉え、同年に空き店舗を取得し、2022年に民間事業者を募集。翌2023年には官民連携の手法に当初設計者の隈研吾も関わってリノベーションが展開され、2024年6月に観光交流拠点として再オープンをする予定で進んでいる。人が集い多くの交流が生まれる空間として活用されるとのことで、今後の活用展開に期待したい。(鈴木節夫)