文化的景観は、地域の風土に根差した暮らしが長年にわたって営まれ、特徴ある景観が形成された土地を指します。大分県別府市に所在する重要文化的景観は、その名も「別府の湯けむり・温泉地景観」。
別府は、地熱活動が続く火山群の麓に広がる扇状地の上に発達した都市である。地下には天水起源の温泉水を湛え、全国一の源泉数と湧出量を誇ります。地下の温泉水は、常に新しい天水と入れ替わっており、この入れ替わりには平均約50年を要します。
湯けむりは、地下から噴出する高温の水蒸気が、大気中に出て急速に冷やされ、凝結して細かな水滴となって立ち上がったものです。湯けむりは、市全体で約400箇所が確認されますが、その位置には偏りがあり、約半数が、扇状地北縁を走る断層上にあり、泉源も多い鉄輪(かんなわ)地区・明礬(みょうばん)地区に立ち上ります。
別府の温泉や噴気には、自然湧出のものと掘削によるものがあります。町を包むほどの高密度で高く立ち上る湯けむりの殆どは、高度経済成長期の社員旅行や新婚旅行といった大衆観光ブームを背景に、昭和30年代に入って本格的に導入されたボーリング技法によって掘削された温泉の泉源からのものです。
別府では、昭和30年代を中心に、別府タワー(登録有形文化財)等、様々な観光施設が建設され、また昭和39年(1964)には九州横断道路の開通により、阿蘇、熊本へとつながる観光周遊ルートに組み込まれて、鉄輪地区をはじめ多くの旅館が建設されるとともに市街地が広がって、一大観光都市として発展しました。
温泉も1960年代には10年にわたって、別府全体で毎年100前後の新規掘削が行われ、現在の湯けむりが立ち上る温泉地の景観が形作られました。
別府は、豊後国風土記に記された名所的な温泉地から、明治に入り港が整備され、瀬戸内各地から客が訪れるようになって湯治場として発展し、昭和には温泉を核とした観光都市へと変化を遂げてきました。その魅力は、温泉を資源とした各時代の特徴を継承しながら、新たな時代のニーズに応じて進化を続けていることでしょう。
近年は、昭和の名残を残す観光地として若者や家族連れを引き付ける一方で、限りある温泉資源の保全と活用という課題にも向き合い続け、持続可能な開発の先駆者としての役割が期待されます。
ぜひ別府を訪れ、温泉に浸り、湯けむりに包まれながら散策して、温泉を活かして人々を引き付け続ける別府の文化的景観を体感していただきたいと思います。