文化庁主催 第2回コンテンツ流通促進シンポジウム
放送番組は、ブロードバンド配信の主役となり得るか?

2004年12月1日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟小ホール)
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特別講演
吉村 毅 (よしむら たけし)
カルチュア・パブリッシャーズ株式会社
常務取締役

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今の話をやや裏づけるのと、この次にテレビあるいはVODとパッケージがカニバライズするのか、それともシナジーがあるのかというところで、決め手になるデータとして二つのデータをお見せします。「冬のソナタ」がBSで放送されたところから地上波に乗ったタイミングでどのぐらいツタヤのレンタル回数が変化したかということ、それと客層はどういう客層なのかというところ、これをご参考に見ていただきたいと思います。これは「冬のソナタ」のレンタルの年齢と性別の客層クラスターです。いちばん下が10歳になっています。そしていちばん上は60歳で、ここから上は60歳以上なので、60歳以上の人は全部ここに乗ってきます。ここが40歳、50歳。20、30、40、50で、すぐ皆さんはお分かりだと思います。男で、女です。そうすると「冬のソナタ」を借りている人の客層はどこにあるのかというと、ピークが40〜50歳の間にあるのです。BSのときからすでに火がついていたので、このクラスターだったのですが、これが恐らく地上波に乗ったタイミングで40から30のここがもっと伸びてきて、ここにさらに伸びが見られて、ここは逆転するのではないかというふうにCCCのマーチャンダイジングとしては予測していたのです。ところが地上波に乗りまして、そのあとの変化はどうだったかというと、むしろ40〜50ではなくて、50〜60のところが増えて、むしろ40〜50のこの辺りの山がこちらにグンっとずれたというところが実際のところでした。あとから考えたら当たり前なのですが、BSを見られるかたというのは割とまだコアなかたが多いわけです。あと地上波に乗ってからごらんになるかたというと、フォロワーと言われるかたがたが多いので、そういう人はやはり若い年齢のかたよりは50〜60代のかたがそのフォロワーに含まれるだろうというのはあとから考えたら当たり前なのですが、実際にその数字を見てあっと驚いたのが現状です。

実際にレンタル回数はどう変わったのかというところなのですが、これは「冬ソナ」の放送開始の4月後に一気にレンタル回転数が上がったことを示すグラフです。これが1月、2月、3月、ここが4月で、ここで放送が開始されました。5月と6月です。レンタル回数が縦軸です。縦軸は月当たりの単月でのレンタル回数で、大体2〜3月のときには2万回弱です。1万8000ぐらいの回転数。それが6月のタイミングには6万を超えました。実際には3倍です。3倍なのですが、4月の途中である程度伸びたと仮定しても、どう見ても2倍以上明らかに伸びています。4月の時点で2万5000ぐらい、そして6〜7月に6万2000ですので、地上波の放送が開始して、かえってレンタルは回転が上がったということです。これはVHSだけですので、DVDを含めるともっと行くかもしれません。「冬のソナタ」のBSの放送中以上にビデオが2倍とちょっと低めに書いてありますが、実際には3倍なのです。

今現在、ほとんど擬似VODに家庭はなっています。家庭には、すでにいろいろな形の映像レコーダーがあって、どのタイミングでも見られます。ですから地上波になった時点でどの時間帯でも見られるという人はたくさんいたはずなのですが、それでもやはりレンタルで見逃したから見たいとか、あるいは先の分を見てしまいたいとか、もう一回見たいとか、話題になっているから見たい。これがいちばん多いのです。話題になっているから、よく分からないけれど見たい。でもその時間帯では見られないし、録画するのではなくて借りてしまえという人が多いというようなことで、それを広い意味でシナジーと呼べるのだろうと感じています。つまり少しでも露出が大きいほうが、日本の人口1億3000万人からすると、視聴率が幾ら高かったとしても、録画できたとしても、まだ見られていない人がそれだけいるのだ!というのが実態なのではないかというところです。今ある視聴率から予測される視聴者数がマックスで、そこを分け合うのではなくて、プラスアルファでその露出、話題で、見なかった人が見る数、莫大な人数が日本の人口ではありうるというふうに感じました。これがシナジーの可能性を感じた一つです。

それから、少しVODというところとは違ってきますが、これは少し別の切り口でお話ししないといけないのですが、例えばという事例から先にお話しすると、私が一つ考えているのは、劇場で映画を見て、つまらない映画だったら怒ってしまうのですが、感動した映画を見たときに、その映画を見たあとというのは、「あのシーンよかったよね」とか、「あの俳優よかったよね」「あのシーンのメーキングを見たいよね」「あの俳優の話を聞いてみたいよね」、あるいは「あの場面のNGがあったら見たいよね」という動機が沸きます。そのときに「携帯のサイトから、感動のあの場面のNGが見られます」とか、「あの俳優のこの場面を撮ったときのインタビューが聞けます」というような切り口で携帯からショートコンテンツとして配信できる環境にあれば、その時点でアクセスの数は非常に増えてくるのではないか。これはあくまで一つの可能性でしかないのですが、モバイル、あるいは特典映像と言われるようなNG、メーキング、インタビューのようなものの場合には、俗に言われるウインドウの制限がありませんので、劇場のタイミングでもビデオのタイミングでも、いつでも放映していいわけです。そうなってくるとそちらのマーケットというのはウインドウにかかわらないので、むしろそちらのマーケットのほうが大きいのかなというのが私の見方で、映画の興行のマーケットが興行収入ベースで2000億円とすると、1800円で時間的制約もありという中で考えると、2000億円で、今頭打ちになっているわけですが、むしろ時間的にインタビュー1回聞くのが30秒とか1分とか、NGを見るのが1本30秒とか、メーキングを見るのが1分とかというような映像を積み重ねて見たほうが、むしろ2000億円よりも大きなマーケットがあるのではないのか。つまりたくさん見るだろう、反復して見るだろう、多くの人が見るだろうというところで、小額課金でたくさん見てもらったほうがマーケットサイズが最終的に大きくなるような気もしています。特にあとで別に触れますが、今の映画の業界の構造、映像業界の構造からすると、P&Aと言われる劇場映画の莫大な宣伝費が劇場用宣伝として、劇場でヒットさせることだけにお金が費やされています。劇場でヒットすれば付加価値が上がるから、ビデオも売れるし、テレビ権販売も高くつくではないか、という考え方が支配的なのですが、もうちょっと考えると、そのP&Aをもっとビデオ販売や、あるいはこのような付加価値映像の販売促進につなげていけば、さらに大きなリターンが得られる可能性は十分あるわけです。

今の話ともう一つ別の角度からの切り口ですが、特典映像というのは今まで価値がなくて、ビデオレンタル店でも無料レンタルで特典映像だけのビデオを置いていたのです。それも10年前以上はレンタルもされなかったのです。それがここ数年無料レンタルをしているとレンタルされるようになってきたのです。つい最近ですが、「世界の中心で、愛をさけぶ」という映画、これはメーキングを先にレンタルでスタートしました。これが、映画が始まる前から非常に高回転したのです。それから、「いま、会いにゆきます」でしたか、これもツタヤのほうではメーキングを先に導入したのです。これも高回転しています。今でも「セカチュー」のメーキングは非常に高回転していて、有料なのです。お店に対しても有料で売っていて、お客さんからも普通の300円のレンタル料金をもらってやっているので、コンテンツホルダーからすると、今までのビデオマーケットにプラスアルファ、1本で二つおいしいといった新しいマーケットができたわけで、非常にそれはうれしいことです。さらに、劇場で始まる前にインタビューとかメーキングを見てもらっているということは、それがすなわちプロモーションになっているわけです。お金をもらってプロモーションになるというこんなおいしい話はないというところでしょう。我々がこれから出資していくような作品に関しては、メーキングDVDも一緒に作ってツタヤでプロモーションしていきましょう!というようなものを積極的に進めることが、出資共同体にとってもプラスアルファになるわけですし、映画も当たりやすくなるということではプラスだから、どんどん提案していこうと、今話している状態です。

また、「LOVERS」という中国の映画がありましたが、あれを私は六本木ヒルズに見に行きまして、六本木ヒルズの映画館から出てきた。出てきたら今度は売店でグッズを買いますよね。そうすると「LOVERS」の特典映像だけのDVDが販売されているわけです。ついつい買ってしまうわけですが、よくよく考えてみると、劇場から出てきて映画を見終わったあとにパンフレットを買うという習慣があって、それが700円とか800円でけっこう高いのだけれど買ってしまう。別に、帰りに嫁さんとかだれか友だちと、パラパラと見てご飯を食べているときの話題にするというだけ。家に持って帰ったらどうせ見ないのは分かっているのだけれど、800円を使ってしまうという日本人の習性。アメリカとか韓国ではパンフレットというもの自体がなく、ギャガでも私が聞いた話ではそういう映画買付けの契約書自体にパンフレットの販売というのはずっと入っていなくて、3年前ぐらいからやっとハリウッド側もそんな商売もあるのかということに気づいて、印税率を定めて契約書に加えたというぐらいです。日本だけの特殊な世界なのかなと思うのですが、それを800円で買うのだったら、メーキングとかインタビューとかNG映像が入っているDVDを2500円とか3000円で買ったほうがよほどいいではないかと思う人がいるわけです。そこでまた一つセルのマーケットが生まれる。これも、コンテンツホルダーからするとプラスアルファの新しい収入源になりますので、ここは非常に見逃せないところです。

コンテンツのブロードバンド、ノンパッケージとパッケージとのコラボレーションというところで考えると、このセル映像に対するの日本人特有の所有欲は、これは歴然としてあるものでして、ほかの国の環境と明らかに違い、特典映像だけでも買って持っていたいわけなので、本編の映像はもっと持ちたいだろうということが予測されます。そのセルで売るという、逆に言うと、持ちたいから持つというマーケットは日本ではこれは消えてなくならないだろうと思えます。それは、他の世界の国とはちょっと違う特殊事情として言えそうだなということも一つの理由としてあります。

そして整理しますと、私がいちばん下半分のところで申し上げたいのは、ウインドウをどう調整するかという業界としてのテーマの中で、本編ではない付加価値のある特典映像的なものはウインドウに左右されないので、これをVODという方法、あるいは携帯電話、モバイルでの配信という方法で、シナジー効果を高めるような方法での使い方が、今後問われてくるのではないのかと考えております。それは劇場で投下される莫大なP&Aの回収効率をさらに高める意味で重要だと考えています。
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