文化庁主催 第2回コンテンツ流通促進シンポジウム
放送番組は、ブロードバンド配信の主役となり得るか?

2004年12月1日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟小ホール)
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特別講演
吉村 毅 (よしむら たけし)
カルチュア・パブリッシャーズ株式会社
常務取締役

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VODの可能性その4です。これはウインドウの調整のすごく極論で、これを本気で考えていると思われるといろいろと言われてしまうと思うのですが、あくまでも極論と言ったという前提で聞いていただきたいのですが、劇場の営業、これは日本の場合には特にかなり厳格で、土曜日以外は大体夜遅くまでやっていないですね。アメリカとか韓国は夜中までやってて、深夜2時、3時は普通で、夜のご飯を食べてから彼女と見に行くみたいなことも当たり前です。日本の場合には非常に健全で、どちらかというと食事をする前に見るのが映画というようなところがあります。遅くても夜10時ぐらいには終わってしまうので、であれば、翌朝の興行が始まるまでの時間というのを全く劇場と同じウインドウ期間でVODで営業、つまり放映をやってしまってもいいのではないのかと。そのときに劇場からいろいろ言われるでしょうから、1800円で同じ値段でやりましょうと。同時で。家でシアターを作って見てもらってもいいではないかと。そのときにあとは劇場さんとの利害関係というところなのですが、劇場を持っていらっしゃる会社がご自分でやるという方法もありうるだろうし、あるいは劇場配給会社とシェアするという方法もあるだろうしというのが普通で考えるとありうるのです。これはデジハリ大学院の学生さんが授業の中で、ポッと発言したアイデアなので、私みたいにある程度業界にいると思いつきにくいことです。まるっきり一般の消費者の立場で考えているとこういう発想がポッと出てくるのです。さまざまな理由で実現が難しいことは分かっておりますが、何も先入観がないところでフラットで考えるとこんな可能性もある。

これはどういう意味の可能性かというと、新しいマーケットがまだあるということです。それは消費者の数とか新しい客層という意味ではなくて、この新しいマーケットというのは一つ時間帯です。空いている時間がありました。この時間を使っていません。この時間をどう使いますか。ではVODでここをはめられるではないかというようなことがあって、これは一つの例ですが、もっと時間という軸で見ていくと、空いているマーケットがある。世間で今よく言われている人の移動時間というのは空いているマーケットだというのと同じ意味だととらえています。こういうところをもっと追求していきたいわけです。

P&Aの有効活用というところで、今は劇場、ビデオ、テレビ、VODまでの一つの大きな流れがありますが、そこをもっとコンテンツホルダーさんの納得、流通さんの納得を得たうえで、お互いにもっとみんながウィン・ウィンでもうかるのだという前提のウインドウの調整というものをやっていければ、業界全体としてプラスが生まれる可能性があるというふうに思っています。特にビデオなども普通は劇場から始まって6か月というウインドウだったのですが、それが5か月になって、今は4か月になって、早いものは3か月ぐらいでチャレンジしたりするというと、P&Aを劇場のときに10億円ぶち込みます!というときに、劇場だけで10億円が終わってしまうのではなくて、4か月のビデオだったら4か月後のビデオまでを射程に入れたプロモーションプランを作りましょう!という考え方も当然出てくるし、そこに先ほど申し上げたような特典映像を配信で降らすといったこともあれば、それも含めたプロモーションをしましょう、それも相互で。携帯では映画を告知して、映画ではむしろ携帯でこの映画を見終わったらこのURLにアクセスしたらこんなNGが見られます、ということをやりましょう。そのようにやっていけば、どんどん広がりますよね。そういう形で宣伝費ももっと効率を上げられるし、お互いの媒体でお互いの媒体を告知するという方法でシナジーは作り出せると思います。

韓国でどうなっているかというと、これは私の個人的な研究なのですが、今は大体ビデオとVODのウインドウというのは、日本は大体3か月でペーパービューウインドウぐらいでやっていますよね。韓国の場合には1か月後ぐらいのようです。日本よりも2か月ぐらい短いです。韓国の場合はパッケージのマーケットが日本の10分の1しかないのです。ですからパッケージはそれほど重要視しないというか、パッケージに代わる新しい市場を作らなければいけないという感覚もあって、ビデオと同時、というのもチャレンジが始まっています。VODとビデオが同時。特にアメリカのハリウッドは、韓国という国をどうとらえているかというと、テストマーケットだというふうにとらえている節がありまして、プランとしては数年前からあったようなのですが、今それが、やや具体化してきているらしい。もちろん日本の10分の1しかパッケージがないところだから、韓国からの売り上げ総収入を増やすためにそのほうがいいかもしれないというチャレンジで、そのチャレンジがそのまま日本に来るかというと、来ない、とはっきり言えると思いますが、その結果は非常に私としては興味があるところです。

VODの可能性として、その5というところです。VODが新しいコンテンツの創造とか選別の機能を持つということです。これについてはどういうことかというと、先ほどの「チャングムの誓い」のような素晴らしいコンテンツがCS、VODの中から選ばれて生まれてくるということを考えると、韓国ドラマに限らず、さまざまなショートコンテンツやアニメーションのようなものが世間にお目見えするチャンスを得られる。しかもビデオパッケージでその市場創造のチャンスをつかもうというチャレンジもあるのですが、やはり製造コストがかかってしまうので、そこがリスクになってなかなかチャレンジしにくい。しかし、VODというインフラができ上がったところに実験的にコンテンツを流すということであれば、そこでのイニシャルコストは非常に少なくなるので、リスクを小さくまずVODでやってみましょう!ということができるようになるので、業界人がそのコンテンツを評価するだけではなくて、その中から消費者が見て、面白いと思っているものが視聴者数という形でも分かるでしょう。あるいはアンケートという形でもいいですし、あるいははっきりと堂々とコンテストという形にしてしまって、その中で優秀な作品をさらに選んで地上波に上げていくのも良いです。さらには、それをパッケージ化してツタヤでコーナーを組むとか、あるいはそのような優秀なショートコンテンツを何々賞を受賞した作品集という形でブランド化し、DVDにパッケージして、まずDVDのほうでしっかりと収益を得たうえで、さらにVOD配信を続けていくというような方法もあります。そのようなパッケージでの回収と、さらにプラスアルファとしてのVODでの収益というような形で、収益をパッケージでリスクヘッジしつつ、うまくローコストなVODを活用していくという方法を考えたいと思っています。

私がたまたまギャガ時代に担当したセクションで、私が直接やったわけではないのですが、「監督感染」というような映画を作っていまして、これは新人監督さんのようなかたを中心に、4人か5人の監督さんに短い映画を撮ってもらって、それを1本のDVDのパッケージにしているのですが、このビジネスモデルというのは、まずパッケージできっちり回収して、そのショートコンテンツをそのあとしっかりと何らかの形でVODなりCSで流していきましょう!という、パッケージ回収プラスアルファVODのようなビジネスモデルを作ってやっていました。このような試みがこれからどんどん増えてくることを願っています。

それから、そういうことをしたときに、ツタヤというところで一つだけ言わせていただくと、ちょっと自信がないコンテンツ、有名でないコンテンツでも、本当に面白いコンテンツだったら売り場で提案したいと思うのです。そのときには例えばツタヤ限定で、ツタヤだけでしか見られませんというような名目で本部として企画して、売り場でもプロモーションしていけば、ツタヤ・エクスクルーシブという形でそのようなコンテンツを確実に一定の枚数を仕入れるという形のリスクヘッジもでき、それが店舗の差別化という形でツタヤの加盟店のメリットにもなるというようなシナジーも生めるだろうと、ツタヤ人的な感覚として思っております。

こちらのVODの普及の可能性を阻む普及のネック、というのは皆さんのほうが十分お分かりで、私がどうのということではないのですが、デジハリ大学院の学生が、考えた普及ネックをチャートにしてもらいました。今回のこのスライドは私が言ったことをデジハリの学生にパワーポイントで打ってもらったものなのです。このスライドは一応VOD普及のネックを、プレゼンのストーリーの流れの中にアクセントとして入れたいということで調べてもらったのですが、学生に聞く中では、ある意味当たり前なのかな、というところですが、導入前というタイミングだと、ちょっと面倒、どこを選べばいいか分からないということが障壁になっていますね。どのチャンネルを選べばいいのか分からない、どこに加入したらいいのか分からない、設置がちょっと面倒そうだなと。導入後使いにくい、使い方が分からない、見たいものが入っていない。これはライブラリの意味でしょう。コンテンツの検索機能が、ちょっとピンとこない、という意見もあります。ストレスがたまる、画質がまだちょっと粗い、ということも問題として上がっています。これは今レンタルDVDとかセルDVDの画質に人々が慣れてしまっていて、さらにホームシアターみたいなものを作る時代では画質に対して非常にお客さんが敏感になってきているというところもあるでしょう。ここは技術的に将来的に解決されるのでしょうけれども、現状の中ではかなりこだわっている人は多かったようです。あとはダウンロードに時間がかかる、バッファリングのストレス。この辺の使用時のストレスというところに関しては、技術が解決する問題なのかなというところです。

あとはどの会社のVODを選べばいいか分からないとか、見たいものが入っていない、 という意見。いろいろなVOD企業さんがあるのですが、どこも共通で困っていらっしゃることというのは、売りを何にしていいか分からない、だから、消費者に伝わりにくいということです。それがいちばんプロモーション上ではつらいところで、「ビデオ発売後3か月たった時点で映画が見られます」といってもインパクトとしては難しく、やはりそのタイミングでは「もうレンタルで見てしまっています」というのが割と現実的なところです。プライス的にもレンタルは、今価格戦争もありますので、いいか悪いは別として非常に安くなってきているので、価格面での差別化も難しいでしょう。そういう意味で何を売りにして推進していくのかというところで非常に迷いがあるというところが、現在のいちばんの悩みではないかと思っています。

それからライブラリというところでいきますと、見たいものが入ってくるか。将来的には入ってくると思います。それが何年のスパンになるかは分かりませんが、ハリウッドのメジャーの5〜6社、ここがいちばんのかぎを握っていると考えるのですが、今のコンテンツの生涯収支で考えると、平均してしまうと劇場で3割、ビデオで6割、テレビで1割ぐらいの比率というのが現実的なところだと思うのです。その中で、やはりビデオパッケージで5〜6割の収益を得ていて、劇場のほうは実際にはP&Aと言われる宣伝費とトントンだったり、逆に損をしていたりという中で、ビデオパッケージ頼みというのが現実の今の映像業界なので、その中でこのパッケージのマーケットをつぶしかねないというところに、果たしてハリウッドが乗り込んでくるかというと、そこはクエスチョンマークがつくところです。ここにどれぐらい時間がかかるかは一つの大きなポイントになってくると思います。

店舗とVODのメリットというのを、学生と議論して比較してみたのです。このスライドのような表現を彼らは取ったのですが、コンテンツの検索、つまり自分が何を見たいかに行き着くにはあいまいな検索というのがあればいいということです。これは以前から言われているところで、いろいろなネット上でもあいまい検索を工夫していて、「今日のあなたの気分は」「楽しいのを見たいときにはこんな映画」とかやるのですが、なかなかピンときたものは出てこない。映画は一個一個全部生き物で、違う作品なので、今日楽しいものが見たいからといって自分にぴったりの楽しいものが出てくるかというと、出ては来ないわけです。そういうネット上でのあいまい検索の限界、ここが一つあるだろうと考えられます。

そう考えていくと、VODで明らかに便利だというのは、今の物販の通販のようにほぼ目的買いでいく場合にはVODが有利でしょう。ただ、ツタヤのお客様アンケートなどでも、「今お客様がお借りになった商品は、どうして借りたのですか」というアンケートを取ると、7割ぐらいの人が店に来られて、その場で選んで、ということなのです。店に入る瞬間に借りるものを決めている人は3割以下だと思います。そうすると何を借りたらいいのかというところは、店に入ってその中で選んでいくというときに、ある意味店を使って自分で検索しているのです。それをネット上で検索するという習慣になじめる世代もあるでしょうし、それで便利だと思われるかたもいらっしゃると思います。
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