文化庁主催 第2回コンテンツ流通促進シンポジウム
放送番組は、ブロードバンド配信の主役となり得るか?

2004年12月1日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟小ホール)
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特別講演
吉村 毅 (よしむら たけし)
カルチュア・パブリッシャーズ株式会社
常務取締役

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これは私の感覚ですが、私は店舗をずっとやって来て、店舗とは何かというと、「あいまい検索の究極」なのだなということを感じて、売り場づくりをしていきます。例えば店に入って、何となくこの辺に自分の欲しいものがありそうだとか、漠然と目の中にPOPが目について、「このPOPだったら僕が見たいやつっぽい。あ、これは違う。でもこれを見たあとにこっちも見に行こう」といった中で、実際に並んでいるものを見ながら自分として納得のいくものを探し出す。そういうことでいくと、五感全部を使って自分で選びたいという欲求や納得感があるので、あいまいな検索に頼りたいのだったら、これはどう考えてもモニターの中では実現できないので、「視野360度の五感すべてを使ったあいまい検索」という魅力を求めるお客様も多くいらっしゃるでしょう。レンタルではもちろんそういうことがあるだろうし、セルだとさらにそうなのではないか。

そのときに、店舗づくりがいちばん大事だということです。しょうもない店だと、この検索機能というか選びたいと思っていただく機能、あるいは楽しんで選ぼうという気持ちになっていただく機能が働かないわけなのです。でしょうから、最後はやはり店のレベルというところになってきます。この辺がツタヤの店職人的な最後の結論で申し訳ないのですが、やはりお店自身が行って入って「気持ちいいよね」ということが最低限あって、清潔感があって、その上でさらに、自分の選びたいものがあってというようなレコメンド機能があるとベスト。もちろんVODなども、このスライドの「レコメンド機能が特になし」というのはちょっと言い過ぎで、実際にはたくさんやっておられて、素晴らしいレコメンドの方法もあるし、関連作品に到達するような仕組みもあると思います。店舗のほうでやっているレコメンドというのは、とても信頼されていて、この店のレコメンドは必ず買うといったファンがつきます。ツタヤなどでも店長や担当者がしっかりしている店はレコメンドのコーナーの商品選定と演出提案がしっかりしていて、そこにお客さんがついていています。担当者次第で売り上げが数倍違ってくるということも物販の世界ではよくある話です。

私も店舗でレンタルのほうを担当してしばらくやっていたことがあります。店長は2年やったのですが、実際に映像のレンタルという現場でも根気よくレコメンドコーナーを作って、本当に自分で映画を見て、興行成績などは何の関係もなく、見た映画やビデオで本当にいいビデオを選んで、それをレコメンドコーナーのランキングの中で1位、2位にしていました。このときに、店に1本しかないものを1本で置いてもだめなので、私がやっていたのは、例えばトム・ハンクスの「パンチライン」、これがいいと思ったら、店には1本しかないのですが、あえて旧作なのですが本数を5本に増やすのです。5本に増やすと目につくのです。5万円かかるのですが、5本に増やして1位に入れる。2位は例えば「花嫁のパパ」を置くといった形で置いていくと、最初は全然だめでレンタルされないのですが、半年ぐらいするとそこにお客さんがついてきます。そのコーナーに置くと、無名のタイトルなのですが、必ず2〜3か月フルレンタルになるような状況を、店は作れるのです。それと同じような意味合いでレコンメデーションを行い、そのレコメンデーションに対する顧客の信用、これをしっかり作るということが店舗としても重要ですし、恐らくVODの中でも何となくコマーシャル的な圧力やお金に惑わされない、本質的に面白いものを提案する、向いているものを提案するということに徹するというところがどうしても必要になり、それがしっかりできた会社がVODの中でも勝ち残り、店舗の中でも生き残れるのではないかと考えます。

それから、映像コンテンツの実態としてパッケージに対して依存している。これは先ほど申し上げたとおりで、配給宣伝費というものは劇場の配給収入で回収できないことが多くあります。劇場収入ランキングでベスト10、ベスト20に入っているものは別ですが、年間で封切られる数百本のうちそれはごく一部で、逆に言うとごく一部のものは圧倒的に劇場で大もうけされているのですが、むしろトントンとかマイナスのものがあるというか、もしかするとそちらのほうが多いかもしれません。これははっきり言えませんが。そのような状況の中でビデオグラムの販売でほとんどは利益を出していっているわけです。そういうような中ではこのビデオグラムのパッケージを消し去ることはコンテンツホルダーの感覚からすると不可能です。テレビ権というのはそれプラスアルファで、大体平均すると配給収入の10%ぐらいで売れるというのが相場なのですが、最近はけっこう皆さんご存じのように環境が厳しくて、そこまでの価格で売れない場合も出てきているようです。この現実の中で、コンテンツの権利者がパッケージの市場を壊すということは考えにくい。普通に市場を維持しよう、伸ばしていこうとすると、考えにくい。一方、またネットワーク利用で違法コピーのようなものが氾濫しているというところでいくと、何となくですが、何もしないとややパッケージ市場は衰退してしまう危険感は感じています。

VODブレークスルーをどうしようかというところで、パイを広げて利益を確保できる策を考えてみようと。ここは私の個人的な感覚と学生の中のアイデアで、ちょっと危ない部分があるのであくまで個人的な話としてとらえていただきたいのですが、例えば「店舗とプロフィットシェアができるようにすれば」という思想でいくと、ツタヤグループに最近入ったレントラックジャパンという会社があって、ここがDISCAS(ディスカス)という通信レンタルをしているのです。この通信レンタルの会員が4万人います。この4万人のDISCASという通信DVDレンタル、ここがこの間新聞発表した記事を見て、僕も新聞で初めて知ったのですが、店舗の会員番号がありますので、どの会員がDISCASという通信レンタルを使ったかが分かる。そうしたら店舗とカニバライズするのではないかというところに関しては、「ちゃんと店舗に収益をバックするから店舗も潤うのです」と書いてありました。ある意味、通信レンタルのDISCASという通信DVDシステムとVODはほぼ同じシステムなので、VODで得られた収益を、例えばツタヤだったらツタヤの会員番号で認識できますので、店舗のほうにその店舗が十分納得する利益配分をする、プロフィットシェアすれば店舗は何も文句がないはずです。店舗の利益が減らないということは、VODもやりつつ、VODを求めるお客さんにはVODで、店に来たいお客さんには店舗に来ていただいてというところで、両方やっても店の利益が営業利益ベースで減らないのであればそれはマルで、パッケージ市場も減らない、VOD市場はそこに乗ってくる、映像業界としてはパッケージ市場プラスアルファノンパッケージの市場になってくるということで、店舗を生かしながらプラスアルファのマーケットを作っていくというのがいちばんのコツです。

それをどうするかというところでいくと、店舗とうまくコラボレーションするというのが総合プロモーションもできるし、いいのではないか。例えば店舗のPOPで「何月何日からNHKさんで『チャングムの誓い』が始まります」と告知します。「『チャングムの誓い』を見る前にコーナー」といって、イ・ヨンエという主演女優、「JSA」などこのイ・ヨンエが今まで出ていた映画をずらっとそこに並べて、NHKさんの放送開始をプロモーションし、逆にテレビ局さんのほうでは、「こういうパッケージで何月何日に『チャングムの誓い』ビデオ発売です」といったものを告知してもらう。パッケージも放映もお互いに、どちらもウィン・ウィンで視聴者数を増やしましょうよ!!というようなことも可能だと思います。

また、これも極論になってしまいますが、VODのセットトップボックスをツタヤで販売してしまえば、いちばん映画を見たい人が集まっている店舗なので、会員数が1800万人いて、ツタヤオンラインでも600万人の会員数がいますので、ある意味VODを普及させてしまおうと思えば、それがいちばん早いと言えば早い。DISCASという通信レンタルでも会員数が4万人いるわけで、今の現実的なセットトップボックスはホテル関係を除くと2万台ぐらいということを考えると、1店舗の会員数ぐらいなのです。それを考えると、ツタヤなり、レンタルなりセルのショップとうまくコラボレーションして会員数を増やしていく。店舗も利益を損なわないような形で、映像全体の生涯収支をプラスアルファで増やしていくという方法であれば、コンテンツのホルダーのほうの業界を衰えさせずにプラスアルファ、消費のマーケットを広げることができます。

まとめとして、VODには五つの可能性があるということです。店舗の品ぞろえとしての補完機能を持ちましょう。これは先ほどの「秋の童話」のようなパターンです。コンテンツの育成機能があるでしょう。コンテンツを選んで育成していく。あとはコンテンツのプロモーション機能を持ちます。劇場の非営業時間が新しい収入源となる。これはあくまで事例で、新しい時間軸で見た空きのマーケットにVODが入り込む、モバイルが入り込む余地があります。また、新しいコンテンツを創造して、そのコンテンツを選別していく、あるいは選別することによってブランドづけをする機能があるということです。VODには普及のボトルネックというものがあって、メリットがはっきり言って訴求できないところがつらいところです。インターネット版のレンタルビデオというところですが、究極の検索システムというのはむしろ店舗のほうにあるので、目的客のVODと実際に何を借りたらいいか分からない人が自分で楽しみながら選んで見るための店舗というふうにうまく役割分担していくのがいいのではないかというアイデアがありました。それから、これはスキームの問題ですが、パッケージ市場を支えているのは店舗ですので、店舗が衰えないようなプロフィットシェアリング、VODでのプロフィットシェアリングとプロモーションのシナジーというところで共存共栄を図っていけば、お互いにブレークスルーは可能になるのではないか。あるいは市場の維持、発展が可能になると考えております。

私からの発表は以上です。私よりもはるかに知識面では上のかたがたを前にして大変僣越でしたが、あくまでTSUTAYA出身の私が、売り場の店長、あるいは消費者として、あるいはデジハリの学生の視点からというような、どちらかというと小売り、消費者に近い立場から考えるとこんなふうに見えるというお話を、少しでも皆様の参考になれば、という気持ちでさせていただきました。どうもありがとうございました。
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