文化庁主催 第2回コンテンツ流通促進シンポジウム
放送番組は、ブロードバンド配信の主役となり得るか?

2004年12月1日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟小ホール)
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上原氏からの話題提供
上原 伸一 (うえはら しんいち)
株式会社朝日放送東京支社
総務部専任部長

上原 伸一中村 吉二橋本 太郎遠藤 諭 次のページへ

それでは、ご指名でございますので、朝日放送の上原です。順にということですので、私のほうから順にご説明させていただきたいと思います。司会者のほうから最初に進め方等のお話がございましたが、とりあえずレジュメ等のご説明に入る前に、私は現在朝日放送の総務部で専任部長をやっておりますが、長いこと著作権の仕事をやっていた関係で今日の席に呼ばれたと思っています。著作権の前にはハリウッド、あるいは外国の映画あるいは放送用のドラマ、番組等、あるいは国内の映画やドラマ等につきましても再放送等の買い付けの係をやっておりまして、そういう意味では最初に講演なさいましたCCCの吉村さんとある意味ではパッケージ系ではなくて、私の放送のほうで同じような立場に立っていたこともございます。そのあとに著作権の仕事を12年ほど、あるいは今もさせていただいているという背景です。

私のレジュメですが、めくっていただきますと13ページのところにレジュメがありますので、これでご説明させていただきたいと思います。タイトルといたしましては、「放送番組のインターネット配信に関する基本的問題点」ということになっております。私が考えます基本的問題点というのは、ただいま松田先生からおまとめいただいた三つの論点のうち、主としてブロードバンド配信市場というものがまだ十二分ではないのではないかというところに基本的問題点を感じているところですので、そうした部分をざっとまとめてあります。

それでは、簡単にこのレジュメに沿ってご説明したいと思います。先ほどの尾崎教授のご説明の中でもすでに出ているところではありますが、その辺をもう少し掘り下げて私なりに展開させていただきたいと思います。

まず、基本的な問題点といたしましては、現実の市場が成立していない。この市場が成立していないというところにはいろいろな意味があります。市場が小さいということもありますが、その前に基本インフラの部分がまだまだ中途半端ではないかというところがここのところです。(1)の回線速度の安定性の問題というところで、ブロードバンドの不安定の問題と書いています。つまりブロードバンド時代、ブロードバンドの普及率が非常に増えたと言われておりますが、ブロードバンドというのはどのぐらいのバンドを言うのかということについては、実は非常に幅広いものがあります。現在でいいますと、大体1.5Mbpsから100Mbpsまでがブロードバンドと言われておりますが、その間には送れるもの、つまりそのスピードによって画質等が大幅に違ってくるという問題点があります。ところがユーザーサイドでは100メガをお使いのところから1.5メガのADSLに加入されている方まである。しかもこれはあくまで契約速度ですので、ご存じのように実行速度が違ってまいりますし、ADSLになりますとその違いは非常に大きくなるということになります。そうすると、配信をする際においてはどのぐらいの速度で実際に皆様が受けているのかというのはばらばらになりますので、市場における安定性が見えないということになります。つまり300キロで走れる自動車を作ったところで、50キロで走る道路でお使いになるのか、200キロ走れるアウトバーンでお使いになるのか、作るほうは分からないという状況に今あるのではないかということです。

実際に配信されている方はどういう状況かということを、アスタリスク(*)のところに書いておきました。若干すでにずれてきているところがあるかと思いますが、これを見ていただきますと、大体が1メガよりも少ないところで映像の配信をされております。700キロ、500キロ。東映アニメさんなどは250キロという小さいサイズと2メガという大きいサイズでなさったりしておりますし、「ガンダム」についても大きいサイズでされているところもあります。実際に1.5メガぐらいになりますと、画面はまだ小さいですが、画質としては相当見られるものが出ているようです。

また、トレソーラというのは放送局数社が集まってこういう実験を行っているところですが、この実験では、後ほど申し上げますが、通常のPC型とセットトップボックスを利用した形と両方を第2次の実験では行っているところです。この両方が今市場に混在しているという状態が、今の特徴的なインターネット配信の市場状況であるというふうに考えていただきたいと思っております。

ということは、まず基本的にブロードバンドと言っているけれども、果たしてそこがどこまで安定した供給状態にあるのかということがはっきり見えない。2番目、PC性能のばらつきということですが、実際に非常に高速な状態でデータを流しますと、今度はそれを受けた側の処理する能力が高くないと十分に処理ができません。ところがPCの進歩というのは日進月歩でして、毎年5割増ぐらいにCPUの速度が上がっていくということで、現在新しいものはB5版以外のものはみんな2メガ以上のCPUを持っていると思います。ところが2年前に買ったものですと1メガを超えるものはほとんどないのではないかと思います。そうすると、1年ごとに皆さんはPCを買い換えているわけではありませんので、今度は回線が全部同一のスピードで行っていたとしても、PC側の性能が違うので、どのぐらいのスピードに対応できるのかということがまた市場の中でばらばらで、よく分からないということになります。

実際問題といたしまして、次のページをめくっていただきますと、トレソーラの第1次実験としてユーザーとして参加したNTTの社員は、回線の安定状況も問題だ、実際にフラストレーションを感じたとおっしゃっていましたが、同時にPCの性能がいちばん影響があるというふうに考えたそうです。実際にトレソーラの第1次実験でも、当初よく映らないという苦情が非常に多かったそうですが、その多くがPCのばらつきに原因があって、その対応に追われて市場調査にまで至らなかったというふうに、一部関係者から聞いているところもあります。

3番めが、配信インフラが高コストで儲からないという問題です。これにつきましては、すでにいろいろなところで言われているところですが、先ほども尾崎教授からございましたように、有料で配信している以上、「混雑してきたから十分なものは届けられません」ということでは話になりません。とりわけインターネットの動画配信ですので、きちんと届けられて当たり前で、正直な話、酒屋さんがビールを届けてくれるのが3時の予定が3時10分になってもそう怒られないかもしれませんが、今見ているアニメが途中で3分切れてしまったら怒るということになるわけですので、そうすると非常にたくさんの人がいっぺんに来た場合には、それに応じるだけの太い回線を用意しなければいけない。ところが、現在の場合にはこの時間帯だけ太くて、この時間帯は細くていいというような借り方はできませんので、ユーザーが一時にたくさん来れば来るほど太い回線を用意しておくということは、空いている時間はその分無駄なお金を払い続けなければいけないということで、いっぺんに混雑してくればくるほど逆に赤字要因を増やしてしまうという市場の問題があるということです。

そして4番目が課金体制が不十分ということで、課金には今はカードを使う、あるいは一部プロバイダと提携してやるというのがありますが、プロバイダもたくさんありますので、皆さんが同一のプロバイダに入っているわけではないというところでいろいろな問題がある。しかもカード課金につきましてはセキュリティの問題が実際にもございますし、また精神的な抵抗感もあって、なかなか進まないということがあります。

つまり、トータルに言いますと、市場として安定してみんながものを売り買いできる状況がどこまでできているのだろうかと。少なくともブロードバンドを通じていろいろなものを売るというものはできていますが、私どもテレビ屋の立場で言えば、テレビ屋がテレビの映像を皆さんにお売りする環境としてどこまで十分なものが育っているのかというと、まだなかなか満足する状況に行っていないのではないかというところをいちばん感じています。

その他というところでは、最初の講演でCCCの吉村さんのほうから、初期費用、リスクが少ないというお話がありましたが、私のほうからあえてリスクを申し上げますと、当然劇場用映画のP&A、配給費などよりはずっと安いものではありますが、例えば著作権料や私どもの手間以外にも、今までのビデオをインターネットに出すためには、それ用のエンコードをしなければいけませんので、その費用もかかるわけです。その費用がリスクになるぐらい現在市場規模が小さいがためになかなか話が回りにくいという状況があるということをご理解いただきたいと思います。無論、この一つ置いてお隣にいらっしゃいますヤフーBBテレビをなさっている橋本さんのところのように、いわゆる現在セットトップボックスを使ったIPマルチキャストというものを使いますと、今申し上げたような問題の多くが解決されるところです。しかしながら、今度は市場という観点で見た場合に、インターネットとはフリーなアクセスが可能な空間ということが前提になっているわけですが、この場合逆に一つの限られたプロバイダ網、回線網の中でしか使えないという制限が出てくるところから、インターネットのブロードバンド配信というところで市場性をどう見るのか、あるいはどういうふうにこれから発展していくのかという問題点が一つ残っているのではないかと感じるところです。とりあえずここまでということにさせていただきたいと思います。
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