文化庁主催 第2回コンテンツ流通促進シンポジウム
放送番組は、ブロードバンド配信の主役となり得るか?

2004年12月1日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟小ホール)
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橋本氏からの話題提供
橋本 太郎 (はしもと たろう)
ソフトバンク・ブロードメディア株式会社
代表取締役
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パワーポイントを使ってご説明します。どういう立場で私がここにいるかというと、多分言うまでもなく、死ぬ思いでブロードバンドを立ち上げてきているグループの一員であるということと、グループの中では変わったキャリアを歩んで、JスカイB以降、今スカイパーフェクTVと呼ばれている衛星放送事業を立ち上げて、そのあとブロードバンド上のビデオオンデマンドや放送サービスを立ち上げてきた人間として一言お話をさせていただいたうえで、皆さんと議論できればと思っています。

言うまでもなく、ブロードバンドの急速な伸びということがあるわけですが、確かに2〜3年前まではこの国はどうしたことかハーフレートのブロードバンドしかない、つまりADSLでいうと、1.5メガのハーフレートのものしかなかったところを8メガのフルレートのADSLをやろうではないかということで、当時で2280円という「ばかか」と言われる値段でスタートしたところ、何か知らないうちにみんな同じような値段で出すようになったというマーケットです。今ブロードバンドと言われるマーケットは、この国の大体3分の1、世帯数で言うと約4900万だと思いますが、1600万ぐらいまで来ていて、月間数十万伸びてきたというマーケットです。

アメリカのブロードバンドというのは、ケーブルテレビが中心なのです。したがっていろいろご指摘があるように、1メガ未満の500Kbpsとか600Kbpsでブロードバンドとして十分だろうという数字があるわけですが、我が国は世界一のブロードバンド大国なのです。その最大の意味は、1家庭当たりの帯域の絶対数で言うと1Mbpsを超えている、多分今は平均で1Mbpsを超えていると思いますが、そういう国は実は日本だけと言ってもいいと思います。お隣の韓国もやはり帯域の普及はありますが、メガホームという意味で言うと、日本は本当に名実ともに世界一なのです。ぐんぐん他の国を引き離している状態です。

そのインフラの増殖に比較すると、それを使って何をやって楽しむかという部分がまだまだ未開発であるというのが実態です。利用したことのあるコンテンツ、今後利用したいコンテンツというアンケートを取ると、やはりそこに映画・ドラマ、そういったものが出てまいります。これは実際にやってみて、先ほどお話したように、500Kbpsとか600Kbpsで流している限り、なかなか大きなオーディエンスがつかめないという実態もありますが、現在その環境はどんどんよくなっているということで、今後出せることがあればマーケットが作られるだろうと考えております。

配信の市場性ということで言うと、実はオンラインで行われることは、今すべてブロードバンドによってぐんぐん伸びているという状況です。一つはオンラインによる証券トレードはブロードバンドの普及によってこれまでよりも一層伸びておりますし、ネットオークションにいたっては最後の1分間の競りのようなものはブロードバンドでないと対応できないというところまで来ています。

ブロードバンド自体が、社会的なインパクトとしてぜひご理解いただきたいのは、これまでは例えばテレビにしろ、固定電話にしろ、携帯電話にしろ、あるいはPCをつなげた高速インターネット環境にしろ、こういったものはすべてそれを目的にしたインフラを作るという思想、発想によって成立しているのです。これがブロードバンドによってどう変わるかというと、一つの巨大なバックボーンの上に全部が乗る。一つ一つのアプリケーションのために投資をするのはやめて、巨大なバックボーンがあれば、残りはIPであるということによってハイクオリティのものが全部乗るのだということが、ブロードバンドの本当の意味です。これは社会経済的にどういうことになるかというと、左のように個々の目的に応じて行われていたインフラ投資というものが、右側のように巨大なへこみもありますが、その上に全部のアプリが乗るのだということが実現できれば、それはトータルで社会経済学的に見るとものすごい余剰を生み出すということです。

いろいろ考えて、どういう形で個人向けの映像配信をやろうかと思ったわけですが、そのときにやはりテレビ向けに作られたものはテレビで見るのが普通なのだろうなということで、ご自宅までブロードバンドが来ていて、ご利用されているかたは分かるように、何らかの形のモデムという機器、あるいはイーサでつながるという機器があります。そこからセットトップボックスにつなげてテレビにつなげると、IPを使っているけれども、帯域を専有して流す非常にクオリティの高いサービスが提供できるということで、セットトップボックスを使ったテレビ向けの配信ということをスタートしました。

お聞きになられたかもしれませんが、当時導入された新しい法律、電気通信役務利用放送法という法律を活用することによってこのサービスをスタートさせています。また、同じセットトップボックスを使って、放送としてではなくて、ビデオオンデマンドということで、映画など、さまざまなものをテレビでご試聴いただくというサービスも提供しております。もちろんこういうものを考えるうえで、単に映像の品質、映像の再生の能力ということだけではなくて、インターネットの世界ではこの部分ができていればあとはいいのではないかというスタートが多かったわけですが、それだけではなく、あらゆる意味での著作権を保護していくという機能を盛り込む。これがサービスの基本思想でなければやってはいけないということで、スタートさせております。

実は資料の中に固有名詞を出すのはまずいということだったので出していないのですが、どういうことが実際に起きるかというと、今現在私どもがやっているBBテレビではハリウッドのスタジオ、大手で8社ぐらいあるわけですが、そのうちの5社と契約をさせていただいて、毎月新作がどんどん出てきているのですが、「コンテンツB」という大作があります。同時期に「コンテンツB」の興行成績の5分の1ぐらいの興行収入であった「コンテンツA」を売るぞプロジェクト」ということをやってみました。それは、セットトップボックスが起動してテレビがついたときに「コンテンツA」とドーンと出てくるような仕掛けでやったところ、それなりに売れるのです。デートに行くときに見る映画ではないけれども、多少お下劣だけれど非常に面白いという映画なのですが、興行収入ほどの差がつかない。つまり、劇場で見せたものの結果がそのままVODの世界のようなところで同じ結果が出るとは限らないということが、こういう新しい露出、新しい訴求のしかたの面白さだと思っています。したがって、「コンテンツB」は劇場とかそれ以外、レンタルビデオを含めて、そういうところで「もう見てしまいました」という人たちにとっては、実は「コンテンツA」のほうが新鮮だったのかもしれません。こういうことが徐々に分かってくるのです。

そもそも私のお隣に座っている中村さんと僕はもう何年かのおつきあいになるのですが、中村さんとつきあっていて覚醒したことが幾つかあって、それを冒頭にまとめてしまったのですが、コンテンツ事業という言い方があります。一応それに絡む立場の人間だということに私はなっているのですが、発見したことは、作らない人は尊敬されない世界だなということです。つまり、著作物の周辺でそれを使って商売をしようというだけではなくて、やはり作ることの本質を理解しようという意味で、僕はコンテンツ事業をとらえなければいけないだろう。そのときに何を考えたかというと、いったんコンテンツという言い方をやめてみようということを、社内でプロジェクト化してやったのです。どういうことかというと、「コンテンツ」と呼んでいるときに僕らがどういうことを考えているかというと、「100本買うから3割まけてよ」といった話にすぐになってしまうのです。でもコンテンツという呼び方をやめて、「番組」や「作品」などの呼び方に変えた瞬間に、十把一からげのものから唯一無二のものになる。多分著作権の本当の根源は、この「唯一無二のものである」というところをきちっと認識するということではなかろうか、それを事業者が思わなければいけないというのが、最近の私の主張であり、考えです。

では、コンテンツの流通にかかわる人間がそういう前提において何を考えるべきか。作品の価値の最大化、特に現在価値の最大化、これを実現することが流通事業として失ってはいけない視点だろうと思っています。簡単に言うと、これまで例えば放送番組ということでいえば、放送に出すことによって得る収入に対する制作費のようなものがあって、パッケージであるとか番組販売というところ辺りまでは考えられていて、これが今現在の作品の、あるいは番組の生涯価値になっていると思います。これから何をやるべきかというと、ブロードバンドにどういう形で出していくかという議論は当然いろいろなことを解決しなければいけないわけですが、やはりそこに期待される生涯価値を実際の価値として具現化していこう。これをやはりやらなければいけないのです。そのために必要な役割を担うという事業者が、我々も含めてどんどん出てくるということが重要だと思っています。

簡単に言うと、二次利用の部分はある意味、放送番組について言うと、きちっとしたマーケットがあって、そこで配分のルールが決まっていれば、けっこう一気に拡大する、その若干手前ぐらいまで来ているのかなという期待感を持って、いろいろ努力をしている最中なわけです。「インフラがどんどん進化する」とありますが、放送とは基本的には運用技術だと僕は思っているのです。携帯のインフラまでいろいろ最近要らぬ知恵がついているのですが、通信の努力というのは放送の努力に比べると涙ぐましいぐらいの技術開発努力があって、多分その差はこの数年間でさらに開いているという印象があります。ですからブロードバンドをどういう形で活用するかについてはものすごく自由度があるので、みんなが納得する形でブロードバンドを使う。それがエンドユーザーにとってはいちばんいい方法ではないかもしれないけれども、やはり僕らとしてはできるところからスタートするということを積極的に打ち出していきたいと思っています。

最終的にやらなければいけないのは、「視聴者数の増加」とありますが、数を取る。数がある、マーケットがそこにあるからいいものが積極的な形で出てくるのだということを、事業者としては実現したいと思っているのです。出す前にああでもない、こうでもないという問題点を指摘、議論していただくことはある程度必要ですが、やはり事業者が強い意思でそのマーケットを作っていくのだということをぜひ応援するという気概もお持ちいただければなと。かつてのワイルドなインターネットと違って、少なくとも役務利用放送法から入ってきている地道愚直な真面目な事業者というのは、きちっとしたインターフェースを権利者とも取ってマーケットを作っていこうと本当に思っているのです。ですからその努力をいい形で活用していただいて、先ほど見たような二次利用全体の市場を広げて、さらに作品を作るというところに資金が循環していくということを実現していきたいと思っております。多少長くなりましたが、ありがとうございました。
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