文化庁主催 第2回コンテンツ流通促進シンポジウム
放送番組は、ブロードバンド配信の主役となり得るか?

2004年12月1日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟小ホール)
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中村氏からの話題提供
中村 吉二 (なかむら よしじ)
社団法人日本音楽事業者協会
事務局長

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中村でございます。
早速、レジメの一番目に記しました「発掘・開発」という点から説明させていただきます。

言うまでもなく、実演家は、生まれてすぐ実演家になるわけではありません。実演家になるためには、まず本人が意図するか否かは別にして、プロの実演家を育てる専門家や事業者に、その非凡な才能やキャラクター素材というものが「発掘」されなくてはなりません。
この「発掘」は、色んなシチュエーションを通じて行なわれます。例えば、街中でキラリと光る女の子が目に付くとか、探していたイメージに合った子に出会うとか、「ハワイにいい子がいる」という情報が入って実際ハワイに行って自分の目で確かめて見るとか、オーディション番組でいい素材を探すというようなことが行なわれます。
いずれにしても、そうした「発掘」の際に作用する重要なファクターは、個々のマネジメント側の感性です。この感性にマッチしないものは、そのマネジメントの「発掘」対象にはならないとわけです。

次に、発掘した素材、いわばスターの原石や卵は、どんな風にして「開発」されるのでしょうか?
発掘素材の中には具体的なイメージや成長した姿を描くことなく何となく気になるということでキャッチする素材もあり、そこからスターが生まれる場合もありますが、一般的には、そのタレント素材に合ったある種の成長形や架空の作品をイメージして素材を発掘し、そこに向かってキャリアを積んでいくように育成します。いわゆるタレントの「開発」が行なわれるのです。

当然、タレントの開発・育成にはお金がかかります。マネジメント事業者は、あたかも親鳥が卵を大事に羽毛で包んで孵化させ、巣から飛び立つことが出来るように訓練し、そして大空に向かって飛び立たせるように、発掘したタレント素材がスターダムを目指して羽ばたけるように育てあげるのです。
そこまで行くには、お金がかかります。歌手であればボイストレーニングも必要ですし、音楽の基礎的勉強もしておかなければいけない。ダンスのレッスンやすぐに必要ではないかもしれないが日本舞踊のレッスンを受けることも大切です。いずれにしても、そうした育成にはお金がかかります。言い換えれば、マネジメント側、プロダクション側がタレントを開発し育成するには「投資」が必要です。

さて、育成段階が終わると次に「デビュー」段階に進むのですが、デビューの仕方はタレントの才能やキャラクターに合わせてそれぞれ異なります。
歌がうまいという才能を軸に、レコード会社と契約しCDデビューから始めるアーティストもいれば、映画やTVドラマからスタートするタレントもいます。またCMとかグラビア・タレントとしてデビューする者もいます。

それはともかく、そうしたデビュー期からテイクオフ期(離陸期)には、アーティストはまだ十分な収益をもたらしません。この時期はアーティストやタレントの知名度がさほど認知されていませんから、商品やアーティストの「宣伝」を十分に行うことが必要です。ということは、宣伝経費も必要で、マネジメント側にとって、この期は未だ投資段階といって良いでしょうね。

さて、テイクオフ期を過ぎると、アーティストやタレントには様々な「挑戦」期が訪れます。
特に今日のアーティスト活動の特徴は、デビューがどういう形であれ、昔のようにタレントがその一点、つまり一つの芸域に留まることなく、次々と別の芸域をスイスイとこなしてマルチタレント化するところにあります。
例えば、歌がうまいということで歌手としてデビューしたが、キャラクターが面白いということでラジオやバラエティ番組で引っ張りだこになり、綺麗な容姿が受けて写真集も出る、当然CMからもお呼びがかかるという風に、一人のタレントやアーティストが何役も幾つの芸もこなす、いわばマルチアーティストによるボーダレス・ビジネスというのが現代の特徴です。

しかし、ここで大切なことは、幾ら芸域がボーダレスになってきたとは言っても、無作為に何でも「挑戦」していいかということにはならないのです。やはり、各タレントのイメージに合わせたキャリア(芸域)デベロップメント(開拓)が大切なのは言うまでもありません。
不幸にして、想定したイメージ・ビルディングがうまくいかず途中でイメージ・チェンジを図るアーティストもいます。そこで新しいイメージ作りに向かって「挑戦」しているとき、昔のイメージのVTRを使用されたり、写真を掲載されたりするのは、新たなイメージ・ビルディング戦略の邪魔になります。媒体側とアーティスト・マネジメント側の共存共栄の原則からお願いするなら、この点は是非とも媒体側のご理解を得たいところです。

次の「維持」というのは、構築したイメージや人気をキープさせるということですが、これは、アーティスト本人の努力とマネジメント側の保護能力にかかっています。
アーティストが切磋琢磨して芸を磨くと同時に、人間的にも鍛錬を重ね、興味本位の悪質な媒体のターゲットにならないようにすることが大事です。
一方、マネジメントはアーティストがそうした陥穽に陥り、せっかく築いたイメージや人気を一瞬のうちに凋落させないようにガードすることが大事です。

最後に「管理」という問題ですが、これはファイナンシャル・アドミニストレーション(財務・経理業務)を意味します。
これはプロダクション・ビジネスの生命線ですので、各種出演料をはじめ商業用レコードやVTRの二次使用料等の徴収などを確実に履行するのは当然です。
プロダクションの収入は、アーティストの実演や諸権利の対価を基本ベースにおいています。そこからアーティストの報酬や事業経費がまかなわれるのですが、アーティスト側に誤解が生じないように、専属契約をする時に報酬規程についてアーティストの十分な理解を得ておくことが大切です。

以上、マネジメント・ビジネスのキーファクターを概説させていただきました。
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