文化庁主催 第2回コンテンツ流通促進シンポジウム
放送番組は、ブロードバンド配信の主役となり得るか?

2004年12月1日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟小ホール)
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遠藤氏からの話題提供
遠藤 諭 (えんどう さとし)
株式会社アスキー 取締役
チーフ・コンテンツ・オフィサー
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アスキーの遠藤でございます。私は85年から『月刊アスキー』の編集部でずっとデジタルの情報を追ってきました。実はテレビとパソコンにはもともと非常に深い関係があって、シャープさんやNECさんの例を見ると、テレビの事業部からホームPCが生まれてきたという経緯があります。いずれにしろPCとデジタル、メディアとPCと言ってもいいと思うのですが、この2つは、ずっと関係を持ってきました。たとえば、今までテレビパソコンという名前のものが80年代の半ばぐらいからずっとありました。これは、なかなか市場を作るには至らなかったのですが、最近ようやく、ご存じのように個人向けのPCはデスクトップはほぼ100%、テレビがのってきた。26インチの液晶をつけているPCも出てきていますし、今年の暮れの商戦はノートもかなりテレビがついてきているというような状況です。ということで、デジタル屋、パソコン屋の立場から今日はお話に参加させていただければと思います。

先ほどの橋本さんのお話とちょっと重なる部分もあると思うのですが、日本のブロードバンドは世界のトップクラスです。その背景というか、直接のきっかけではないかもしれないのですが、2001年にご存じのようにe-Japan戦略が打ち立てられています。これを今見ると、ものすごく過激なのです。多分当時のメディアは何のことだか分からなくてあまり騒がなかったと思うのですが、今この数字を見ると実はすごいのです。5年以内に3000万世帯にブロードバンド、1000万世帯には超高速、多分100メガ以上、あるいはギガベースのインターネットを引いてしまう。しかも当時、家庭の2005年時点のインターネット普及率は60%ぐらいだろうと予測されていたかと思うのですが、ほぼ全国民にインターネットを使ってもらおうという、ピカピカのすごいプランです。

恐らく1年後の今ごろはe-Japan戦略について、その後e-Japan戦略2もあるわけですが、どうだったかということが話題になってくると思うのですが、数字から見ると実は多分達成度は60%ぐらいで終わると思うのです。ここにもマルチメディア総研さんの予想などいろいろ書いていますが、それがだめかとかそんなつもりは全然なくて、60%でもなお、とてつもなくすごい。特にブロードバンドの加入数では米国も中国にも抜かれてしまっていて、普及率でもまだ韓国だと思うのですが、光が何といってもものすごく行っているのです。FTTHという言葉がかつてネットの初期には夢の世界というふうに描かれたわけですが、これが実際に家庭に入ってきているのは事実上日本だけです。これが2006年、マルチメディア総研の予測だと720万世帯ということなので、e-Japanの1000万世帯には行かないのですが、これはとてつもなくすごいということなのです。

e-Japan戦略そのものは、当初はあまりコンテンツということは言われませんでした。ただ、やはり動きだしてから実際にコンテンツの流通が盛んにならなければいけないね、インフラとコンテンツとネットワークとばらばらにしたほうがいいのではないかなど、いろいろな議論があって、今年加速化パッケージが発表されていますが、ここではコンテンツそのものがかなり注目されています。これはよく考えると当然なのです。そんなに速いネットワークが来ても、通常のウェブサイトを見たりしている分にはあまり必要なくて、ブロードバンド、特に超高速ブロードバンドインターネットに関しては、何といっても動画、映像がキーになるわけです。ADSLという技術そのものがかつてVODを実現するために生まれてきた技術だったという話もありますが、それを見ても分かるとおり、映像のないブロードバンドというのは考えにくい。ところが、そのブロードバンド環境はとにかく世界でも日本はどんどん来てしまっている。いずれにしろ、まさに空気のようにブロードバンドをする。僕はそれ自体非常に素晴らしいと思います。

コンテンツの話です。日本のコンテンツはどうなのかという議論がよくされて、特に最近日本のポップカルチャーが、右側に本の引用で書いておりますが、これはニューヨークタイムスの記者とニューズウィークの東京支社のかたが共著で書かれた『巨額を稼ぎ出すハローキティの生態』という本の中のくだりなのですが、別にこの本に限らず、クール・ジャパンといって、日本のポップカルチャーは今非常に注目されています。とはいえ、そこで海外で活躍しているものというと、やはりゲームです。世界の累計出荷数でゲーム機は95%、ソフトはそこまで行かないのですが、マンガ本の商品も50%以上、アニメも60%ぐらい取っているのではないか、ヨーロッパだともっと高いのではないかということも言われています。ただ、この日本のコンテンツの構造というのは、ちょっと特殊な部分があると思うのです。特にネットの時代になってその意味が問われる部分が出てくると、僕自身は思っています。

まさに左側に書いたところなのですが、海外のコンテンツ制作の図式と日本と根本的に違う部分があると思うのです。いちばん下に「コミケ」と書きましたが、コミックマーケット、毎年2回、3日間入れ替え制で2〜3万サークルが毎回出ている。これは各サークルに書き手が何人もいますし、しかもコミケに抽選で出られないグループもあるということなので、非常に底辺が広いのです。最近は中国や香港でもコミケのようなものが催されているようですが、日本はここの層が非常に厚くて、その次にライトノベルという、普通の大人は名前を知らないような、シリーズでミリオンセラーの作家がいるわけです。そういうライトノベルの世界があって、コミックも日本の書籍の70%を占めている。そういうエンターテインメント系の層が非常に厚くて、その上に本来と言うとちょっとおかしいのですが、映画、アニメ、文芸の世界ができている。この巨大な世界的にも例をみないピラミッド構造が日本の特徴で、これをどうしていくかということが、一つのキーだと思います。

それから、先ほど松田先生のお話にもありましたが、コンテンツと産業には実は非常深い関係があるということが、特に最近とみに言われてきています。戦後、アメリカの製品を見て自分たちも作ろうとか買おうとか、文化を受け入れて、アメリカの産業そのものが日本に入ってきた部分もありますし、例えば今「冬のソナタ」で韓国のコンテンツは実はネット配信でもものすごくインパクトを持っていて、「ガンダム」でもそれほど動かなかったものが韓国ドラマで動きだしたりしているわけですが、韓国ドラマが日本で大きな人気が出るということも、実は韓国製品にとっても非常にプラスだと思います。

 放送番組の二次利用という話なので、それでは、何を見たいのかという話。テレビの変化と書いたのですが、ここに写真が出ているのは今年春に発表されて、もう発売ですが、ソニーさんのVAIO typeXというパソコンです。6チャンネル分を1週間分録画できる、1テラバイトのハードディスクを積んでいます。PCとテレビの話を最初に申し上げましたが、今なぜパソコンにテレビが必要になってきているかというと、これはうちのスタッフに調べさせたのですが、今テレビと簡単に言っていますが、時代によってドラマが人気のあった時代や、歌番組が人気のあった時代などがありまして、今は情報番組に人気があるのです。「あるある大事典」に象徴されるようなもので、テレビが非常に情報端末的な性格を持ってきている。ネットショッピングをする、あるいはヤフーオークションをする感覚、その画面とテレビショッピングの画面が入れ代わっても全然精神的な負担がないというようなことが起きているという話をスタッフとしていたのですが、要するに、テレビ、テレビと同じ呼び方をしているけど、テレビ自身が変わってきているのではないか。その証拠は、あんなに相性が悪かったパソコンとテレビが初めてくっついたというようなことが言えると思います。

その下に、NHKさんの番組リクエストサービスについてです。まさに今日のテーマと重なる部分があるのですが、この根拠として資料が発表されています。この視聴者のアンケート結果を見ると、これは平成9年なのでちょっと古いかなと今となっては思うのですが、やはり60%以上のかたがたが過去の番組を見たいと今のテレビに対して感じているそうです。何を見たいかというと、ニュース75%、映画69%、ハイビジョンのようなきれいな画面を見たいというよりも、ニュースや映画をまた見たい、自由な時間に見たいというニーズのほうが高かったということなのです。

ちなみに何をもう一度かということに関して言うと、同じデータなのですが、ニュース・スポーツに関しては1時間から半日以内に見たい。これも松田先生のお話が先ほどちょっとありました。ドラマ・ドキュメンタリー・教養番組に関しては1週間以内に見たいというかたが圧倒的なのです。これは数字を出していないのですが、非常にはっきりしています。逆にそれ以外はそんなに見たがっている人は多くないということだそうです。

韓国のテレビのネット放送という話をちょっと書きましたが、ネットでテレビ配信というと、フランス、イタリアが進んでるという話もあるのですが、やはり圧倒的に行っているのは韓国なのです。ブロードバンド率が94%ですから非常に行っていて、3社4局でいずれも同時、彼らはオンエアと言っていますが、同時とVODをやっています。私も何度か取材していて、当初は無料でやっておりましたが、一部ナローバンド系で流している部分はありますが、ブロードバンドに関してはすべて有料化が完了しました。50円から100円で日本からも見られたりするのですが、1番組が見られる、あるいは24時間で幾らというものもあるということです。どんなものを見ているのかといいますと、これは実はちゃんとした数字はないのですが、いちばん下に書いたのですが、実は「オンエアよりVODだ」、しかも今はドラマが韓国は強いので、「圧倒的にドラマですね」とうちとおつきあいのある韓国人のジャーナリストは言うわけです。ちょっと戻りますが、有料コンテンツの中でも韓国というとオンラインゲームと言われるのですが、実は映像も同じぐらい利用されているのです。

これは僕がよく使うシートで、実際はもっと大きいマトリックスなのですが、放送がデジタルに乗った以上、デジタルのルールに乗ってしまう部分があると思うのです。先ほどの橋本さんのシートもちょっと近いところがあると思うのですが、デジタルコンバージェンスと言われているのはまさにその部分で、デジタルができることというのは実は演算と記憶と通信しかないのです。計算して絵を変換するとか、それをハードディスクに保存しておくとか、それをだれかに送るとか、そういうことしかできない。デジタルの進化というのはもう決まっていて、高集積、高速、大容量、高付加価値と書いてあるのですが、ほかにも省電力とか小型化、あるいは高付加価値化、暗号化のようなものなど、デジタルでできることは決まっているのです。この掛け算でほとんど出てくる。あるいはその度合いによって高速の度合いが違ったりするのですが、今映像系でちょっと考えると、高集積に関して言えば高精彩大型テレビが何といっても非常に売れている。それから蓄積に関してはDVDレコーダー。米国ではパーソナルビデオレコーダーと呼んだりしていますが、蓄積型も来ている。それからもう一つがネットワークなのです。これもまさに今日のテーマですが、これは言葉を変えると、「好むと好まざると」というふうに言いますが、いやがおうにも行ってしまう。途中いろいろでこぼこがあっても、全体としてはデジタルの進化のレールに乗っていますねということです。

最後に、ちょっと分かりにくいのですが、全体のタイトルにも大げさなに「テレビとネットのパラダイム」と書いたのですか、放送、まさにセットトップボックス型というのですか、家庭に届けるときにネットを単なるパイプで送るのと、トレソーラなどのようにインターネットの普通のIPのプロバイダ契約のルートで流れてくるネットワーク型の二つ大きな分かれ道があると思います。

セットトップボックス型のほうが、何しろパイプを変えるだけなので、これは現在のビジネスモデルをそれほど大きく変える必要がないので、リスクは小さいですね。しかも、今考えている段階だと、QOSも安全性も確保できるように見える。ただ、なかなかビジネスになっていないという議論がありました。それから構造としては数を増やしていかないと、この仕組みそのものを普及させないといけないという問題を持っていると思います。

対してネットワーク型はどうかというと、これはまさにネットのパラダイムにテレビが入っていくかどうかだと思うのです。先ほどの韓国の配信などでも、PCで見るわけなので、例えばこの番組が面白かったといったらURLをメールで送ってしまえば相手はすぐに見られてしまうわけです。これは非常に素朴な例なのですが、今ネットではソーシャルネットワークやブログ、個人の配信で情報がバイラルに盛り上がっていくような仕組みが大きな話題になっていますが、ああいうものにテレビ番組という売り物、今だとブログにアマゾンのアフェリエイトをつけてけっこう稼いでいる人がいるそうですが、ああいう仕組みの中にテレビの世界が入っていくのかどうか。ただ、従来のビジネスモデルとは全然違うので、わざわざそんなところに出ていってもリスクが大きいだけだという見方ができると思うのです。

ネットの世界というのは本当にまだまだ動いている状態で、本当に1年先もなかなか読める人はいないのですが、橋本さんは僕がこう言うとどう受け取られるか分からないのですが、テレビ局と消費者という図式で今回も主に語られていました。実際には、配信業者というか、もう一枚さかのぼってネットの企業というポジションがある。要するに、メディアの会社、僕ら出版社を含めて、放送局や出版社がIT企業になる根性があるかというか、なれるのかというテーマが突き付けられていると思うのです。もともとITの企業というか、ネットの企業に関して言うと、今年に入ってからでも有線ブロードさんがギャガを子会社化されて、BBTVさんも買収されましたよね。

たくさん買収しているので分からなくなりました(拍手)。

テレビの放映権などをコントロールされている。

ムービーテレビですか。

そうです。すみません。ムービーテレビは春でしたか。

ちなみに今はブロードメディア・スタジオという名前に変えました。

失礼しました。そうですね。ネット側の会社は、先般も楽天の三木谷社長が「5年後はうちはメディア総合企業だ」とおっしゃっていましたが、ネット側はメディアのほうにどんどん向かっているのです。なぜかというと、これははっきりしていて、検索とかオークションとかはプレーヤーが決まっていて、やはりブロードバンド上の映像コンテンツに行かないとポータルも稼げない、ネットも稼げないというような図式があると思います。もちろんそのうえで真剣に新しい映像の出口を作られているのだと思います。

そういうときに、テレビ関係、映像関係、実は新聞や出版もそうなのですが、あえてリスクの大きい方に「行けよ」と言えるかというと、実はなかなか行けないと思うのです。先ほど日本のコンテンツの特徴という3段の図式がありましたが、いきおいこういう日本のポップカルチャーはいい、輸出だろうというときに、すぐ個人を育てるというところに話が行きます。個人のクリエイターをもっと育てなければと言うのですが、実際に価値のある作品にしている出版社やテレビ局などの人たちが実は、重要な役割をはたすと思うのです。原宿の文化が盛り上がっているのも、神保町の出版社がかき回して盛り上げているような図式があると思います。ところが、その部分には具体的なサポートがされることは少ないです。同じように、今のテレビ局に何ら具体的な手助けなりサポートなりをしないまま、「ネットでやってよ」と言っても、上原さんのところはなかなか「はい」とは言わないと思うのです。行くには何らかの施策がないと、メディア企業がIT化する具体的な施策がないと行けないと僕は感じています。

以上です。
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