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パネルディスカッション


 
   
第二部 パネルディスカッション
   
   
「映像コンテンツ契約の現状と課題」
   
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       このような特例で、映像コンテンツ流通の円滑化が図られてはいるのですけども、現状としては、2点ほど大きな悩みがあります。まず第1に、みなさんご存じだと思いますが、音楽・映画・ゲームなど著作物の不法共有問題です。インターネットインフラがすでに定着している韓国では大容量の動画ファイルのダウンロードも瞬時にでき、公開して間もない映画がインターネット共有サイトで入手できるという問題が起きています。多くの著作権者を悩ませてきましたが、ここ2~3年、著作権侵害に対する国レベルの取り締まりがかなり強くなっていますので、不法共有問題は、だんだん減っているということです。今年の7月23日からは、いわゆる「三振アウト制度」(実際は4回目からなのですけど   張氏    
    も)、すなわち著作権を侵害しているものをインターネットにアップロードした個人やサイトに対して3回警告をし、それでも侵害行為が続く場合にはアカウント    
    の停止およびサイト閉鎖ができるというような改正著作権法が施行されました。
   第2に、これはたぶん韓国人の特徴ですが、DVDなど映像コンテンツのパッケージを買って自分の所有にしようという欲求が、日本人ほど強くないということです。そのため、DVD販売が、かなり減るようになりました。もちろん、パッケージの購買欲が低いとはいいましても、買う人がまったくいないというわけではないのですけども、ビデオやDVDの販売が減っているということは数字としても出ています。
   韓国の映像コンテンツ(特に映画に関しては)の流通に関しては、韓国独特の「販権」という概念が存在します。劇場用映画において、映画会社とは、映画を本当に製作する会社であって、その製作費用は、別の会社、例えば投資会社が受け持つというのが、一般的な映画製作の状況になっています。通常は映画の興行会社あるいは配給会社が中心となって投資を行って、その中心となる投資会社が、映画会社と対等な立場で、投資額の決定を行います。
この映画会社は、当該の映画の放送、ビデオグラム化、インターネット配信など、その映画を、そのままの形で二次利用することについて、あらかじめ原著作者との契約によって利用に関する許諾を得ておきます。投資会社は、映画の製作費用を負担することによって、映画の「販権」を得るという仕組みになります。
   この「販権」というものは、公開、放送、インターネット配信、ビデオグラム化など、製作された劇場用映画をそのままの形で利用・販売できる権利といえます。「販権」の保有者は、その範囲であれば、一切の権利処理をしなくても映画をマルチユースできるので、非常に強力な権利になります。もちろん、映画そのものの著作権については、映画製作会社に残るわけですけども、契約によって、または、ある程度は業界における力関係によって、投資会社と共有したり、投資会社が譲り受ける場合もあります。
   
       ここまでを簡単にまとめますと、少なくとも韓国においては、この「販権」という特殊な概念の範囲内で、すなわち映像著作物をそのままの形で二次利用するかぎりは、別途の許諾を得ることなく、映像コンテンツを自由に流通させることができるということになっています。言い換えれば、先ほどの岡本先生の資料の中の表で、Bの欄に丸が少ないということになります。許諾の問題ではなくて、収益をどう配分するか、追加的な報酬をいくらにするか、という問題になるわけです。韓国では「販権」の範囲内で二次利用可能なように、製作の段階であらかじめ契約で権利処理をしておくことによって、映像コンテンツを流通させているといえます。駆け足になってしまいましたが、以上です。



上原   どうもありがとうございました。韓国におきましては、法律上の譲渡推定や推定許諾というようなものがあったり、あるいは、販権という独特のシステムが、間に介在することによって、流通が進んでいると。これは、今、劇場用映画でおっしゃられましたが、バリエーションが少しあるのですが、放送についても同様なパターンか、これを基礎にしたような販権システムが動いているというふうにお考えいただいていいと思います。韓国は非常に特殊な状況にありますから、また、後ほど討論の中で、いろいろなことをお話しいただきたいと思います。
それでは、続きまして、升本さんの方から、アメリカの状況について、プレゼンテーションよろしくお願いいたします。

   
         
    升本   弁護士の升本です。私からは、このタイトルにありますように、「米国における映像コンテンツ契約の特色」ということを報告させていただきます。
   まず1枚目のチャートですけども、ここに権利処理に関する基本構造を書いてみました。映像コンテンツというと、劇場用映画、放送番組、それからビデオ作品と、いろいろあるわけですが、権利処理の基本構造を理解するためには、2つの概念を押さえておくということが、必要だろうと思います。
   1つは、「Work made for hire」。「職務著作物」などと訳されますけれども、これはアメリカの著作権法に規定された概念です。もう一つが、「Basic Agreement」。文字通り、「基本協定」と訳されますけれども、映画の製作過程に関与する人たちが、WGA、DGA、SAG、AFTRA、などといった、ギルド、つまり、労働組合を組織しています。他方、プロデューサー、製作プロダクションは、AMPTPという団体を組織しています。このギルドと、AMPTPの間で、労使交渉をして、労働協約を結んでいる。これが「Basic Agreement」です。
   表では、少し分かりやすくするために、1本の線でBasic Agreementと記載してあるのですけれども、実際には、各ギルドとの間で、個別に協定が結ばれています。
   まず、ひとつ目の重要な概念である「Work made for hire」ですが、これはアメリカの連邦著作権法の101条という条文に規定されていまして、日本の著作権法15条の職務著作に類似するものです。ただ、日本の著作権法の職務著作の概念に比べると、使用者が、著作権を取得する範囲が広く設定されている、と理解していいと思います。
   要件としては、1つは、「被用者がその職務の範囲内で作成した著作物」であることですが、もうひとつは、本条項に限定列挙された著作物に関しては、当事者が署名した文書によって、職務著作物として扱うことを明示的に合意した場合は、職務著作物と扱うと規定されています。したがって、映画製作、劇場用映画、放送番組、あるいはビデオの作品といった、映像作品の製作の場合、この条文でいうと、「映画その他の視聴覚著作物の一部として使用するために、特に注文または委託を受けた著作物」ということになりますから、当事者間で、職務著作物にするという明示的な合意を書面で取り交わした場合は、職務著作物として扱われるということになります。
   職務著作物として扱われると、使用者、その他、その著作物を作成する者に著作権が帰属することになります。
アメリカの著作権法では、日本の著作権法と異なり、例えば著作者人格権も、日本でいえば、美術の著作物に該当するような著作物に極めて限定的に認められているだけで、少なくとも映像作品にかかわるような人には認められませんし、実演家の人格権も認められていません。
   そういった事情もありまして、この職務著作という制度の下では、映像作品のプロデューサーとか製作プロダクションが、唯一の著作者であり、著作権者になります。つまり、制度上、プロデューサーとか製作プロダクションが映像作品の著作権をすべて保有するという仕組みになっています。
   それから2つ目の重要な概念である「Basic Agreement」、「基本協定」ですが、これは、脚本家や監督、俳優の人たちのギルド(労働組合)とプロデューサー、製作プロダクションの団体との間で結ばれる労働協約です。WGA(Writers Guild of America)、DGA(Directors Guild of America)、SAG(Screen Actors Guild)、AFTRA(American Federation of Television and Radio Artists)という、ギルドが代表的なものですが、照明であるとか、その他の機材とか、クリエイティブな作業に関与するスタッフの人たちのギルドというのも存在しています。表では、代表的な4つのギルドを掲げています。
   各ギルドが、プロデューサー、製作プロダクションの団体であるAMPTPと、基本的には4年に1回の労使交渉を行います。そこで決められるのは、例えば、ミニマムのギャラ、residuals(二次使用料。例えば劇場公開映画であれば、劇場の上映に関するものについては一次使用、しかし、それ以外のものについては、二次使用となります。)などの事項です。
   

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