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講演


 
   
第一部 特別講演
   
   
「契約面から見たNHKオンデマンドの現状と課題」
   
   
関本 好則 (NHK放送総局特別主幹)
   
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     それから、雑誌協会さんなどとは、その原作を扱っていらっしゃるところがあるので、そこの料率について、「せめて、権利者団体さん並みにしてよ」というような話を延々、ずっと続けているのが現状です。
 それから、実はこれ、民放さんも入ってやっていますので、「マルチユース契約もしてよ」という話でやっているのですが、NHKの場合にはNHKの中で、あるいは、総務省さんも含めて、解決しなきゃいけない課題が少しありまして、放送というよりも、受信料制度との整合性をどうつけるか。実は今、国際共同制作ではall rightsをとらないと、BBCなんかが話にのってきませんから、国際共同制作では認められているのですが、国内のときに、放送とか再放送って当然受信料でやるわけですけど、BS提供、CS提供、あるいはDVD販売の権料支払いを受信料でやっていいのか。「それはやっぱり具合が悪いだろう」と。そうすると、われわれ今、少し考えているのは、じゃあ、DVDとかBSで上がった収入で、NHKで副時収入として収めている額があるので、それを会計分離して、その分の中から足して、マルチユース契約をしたらどうだとか、そういうテクニック論も含めて考えています。
 それから、「会計検査院の過去の指摘を踏まえた整理」というのは、会計検査院、何回も僕らやられたのですが、例えば、アメリカ映画とか、フランス、いろいろな映画を買いたいという、放送でも映画やっていますけど、そのときにやっぱりお金の問題で揉める。交渉するわけですよね。むこうは「いや、3万ドルじゃなかったら絶対売らない」とかというわけですね。そうすると、こちら側は「いや、もう分かった」と、「じゃあ、その代わり、3年で10回放送権つけろ」というような交渉事ですから、そういうことが起こるわけです。それは自分たちは頑張ったと思って3年10回をとったのですが、検査院から、「3年たったけど、放送、3回しかしてないじゃない。そうすると、7回分、余計にお前らは払ったんだろう」という指摘を受けるわけですよ。「いや、それは違うのです」と、「ビジネスというのは交渉事だから、なるべくこっちに有利な条件をとっているだけの話ですから」っていっても、なかなか理解してもらえない。
 同じようなことが例えば、DVD権、BS権を含めて、マルチユース契約でとっちゃって、でも、放送したら全然評判にもならなくて、「とてもDVDなんか発売できないよ」と。CSさんに売りたいっていったって、CSさん「買いたくないよ」っていったときに、「これ、指摘受けたらどうすんだ」って。そこのことをどうやって検査院さんに説明するか。これはよく総務省の会議でもいうのですけど、総務省さんは「コンテンツ、ゲットしろ」とかなんとかっておっしゃる。文化庁さんはまた違うことをおっしゃる。検査院は全然違うことをおっしゃる。もう国のいうことを統一してくださいよと思います。「もう僕ら、対応できませんよ」というふうによくいうのですが、こういう問題を含めて議論をしています。この辺も整理をしないと、なかなかできないねというのがNHK特有の課題です。
 それから、著作権問題だけじゃなくて、実は神社仏閣とか、さきほども出ていましたけど、美術館とか、それから、一般人の方のプライバシーの問題とか、ここも大変です。例えば、見逃し番組で、クローズアップ現代みたいな番組で、これはみなさん、自分で考えたら「そうだな」と思うのですが、あなたを取材して、特に医療ものとか、社会もの、ワーキングプアみたいなやつで取材をして、放送することにOKをもらっても、「でも、それネットで流しますよ」といったときに、「少し待ってください」と、「それは放送見てから決めます」っておっしゃるのですよ。どうしたって、そういうドキュメンタリー、放送優先ですから、放送でネットに流さないのを条件に、「あなたを追いかけることをやめます」とはやっぱりいえないのです。口説き落とすのに大変ですから。そういう意味では、この一般人のところのプライバシーの問題とかどうするのか。これはどこの役所に持って行っても「うちの管轄じゃない」っていわれるので、担当者がそれぞれ個別にやっていると。それから、神社仏閣、美術品についても、実はこれ、著作権は弥勒菩薩なんて1,000何百年前に作られているから切れているのですけども、それがその所有、所有権っていっていいのかどうか分かりませんが、そこら辺のところですね。放送で出しちゃって、出しちゃえば、裁判だったら勝てるかも知れないんだけれども、勝てたとしても「2度と法隆寺はNHKの出入りは禁止」っていわれると、これはもうNHKとしては大問題ですから、それはやっぱり許諾を受けない限りできないというような、様々な問題に突き当たっています。
 少し時間もおしてきましたので、そのBBCの成功についてですが、BBCは頭いいなと思うのですが、10年に1回、免許更新があるのですね。NHKは毎年予算を国会に出して決めてもらわなきゃいけないのですが、BBCは10年1回更新があって、その時に受信料値上げとかお願いするのです。彼らは2006年にそれがあったので、2001年ぐらいから「次は何を武器にして受信料値上げを勝ち取るか」という考えで、iPlayerサービスというのを考えて実証実験をやって、2006年に値上げしました。%は低かったですが、とりました。そのためにBBCの収入は400億、去年増えました。当然、無料で見逃しは流していますから、ものすごい人が見ています。だから、大成功といわれる。だから、本当に成功したのは、僕はBBCだけだと、今現在は思っていますが、そのBBCも、その時に過去番組については有料で流すからというので、実は免許もらっているのですが、実はいまだに有料サイトは立ち上がっていません。有料のところについては過去の番組ですから、権利者さんとの問題もあって、「お金をもっと積め」とか、そういう問題もあるし、ビジネス・スキームが全然組めない。最初彼らが考えたのは、英国内の地上放送連合でiPlayerで全部やったらいけるんじゃないかって考えたのですが、それはさすがに独禁法上問題があるっていわれて、頓挫したらしい。今、彼らがやっているのはむしろIPTV。IPTVじゃないと、ビジネス・スキームがつけられないというので、日本の松下さんとかいろいろなところを回って、BBCモデルというのを普及をしたいといって、回っています。
   
     アメリカは、YouTubeを含めてなかなか単黒の見通しはたたないのですが、huluは2008年にスタートして、これ、NBCとFOXが出資をして、ここにABCディズニーが加わって出資者になりました。アメリカの場合は映画会社が親会社についていますから、日本でいえば、フジテレビと、例えばTBSと、テレ朝さんが一緒になって出資して、そこに東宝、東映、松竹さんが一緒になって出資したような会社です。そういうところでCMモデルですが、映画もぼんぼん出てくるし、それから、ある種、最初の決まりがあって、その出資者については「ABCのサイトでは流してもいいけども、それ以外は出しちゃいけない」と、hulu以外は。というのでコンテンツの囲い込みをして、これが今、急速に伸びていて、もうYouTube対策としてこっちの方向にいきたいというふうに動いているようです。
 少しまとめてみますと、その著作権法上の問題というの、アメリカなんか、これは報告書に出ていますけど、管理団体の組織率が高いとか、交渉相手が非常に限定的だとか、それから、これはNHKも実験したのですが、去年の6月、7月に配信を始める前に、10番組ぐらいで許諾をどれぐらいとれるかということを行いました。アメリカに行ったチームは、もうみんな研究者だろうがなんだろうが、サッとサインしてくれる。何の説明もしなくても、当たり前だと思ってサイン
  関本氏2    
   

してくれる。ヨーロッパもそうだと。ところが、アジア圏行くと、「これをサインしたらいくらくれるんだ」とかといって、その交渉で、それから放送の撮影に入れなくて困ったということがありました。同じ事をドイツの人に聞いたのですが、「ドイツは神に祈っている」っていわれたと。要するに、「裁判を起こされないように神に祈っています」と、「何にもやっておりません」と。NHKの場合には、「なるべくテロップが出るような一般人については承諾書をとってこい」と。
 だけど、「それが取れなかったからといって、放送に支障をきたすのであれば帰って来い」ということで今、やっております。だから、先ほど契約が非常に進展しているとありましたが、僕はまだ緒についたばかりだなというふうに思っている。

   
         
岸原孝昌「携帯向け映像配信ビジネスの現状」 │ 関本好則「契約面から見たNHKオンデマンドの現状と課題」

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