文化庁主催 第5回コンテンツ流通促進シンポジウム“次世代ネットワーク社会の到来は著作権制度を揺るがすのか”

第3部:パネルディスカッション

「次世代ネットワーク社会の到来は著作権制度を揺るがすのか」

前田

 ありがとうございます。瀬尾先生はいかがでしょうか。


瀬尾

 このようなところで皆の意見がそろって良いのかと思いますが、おっしゃるとおり、民主導でボランタリーな登録制度、言い換えれば集中管理につながっていくようなものを主体にして考えることについては大賛成です。実際、次世代ネットワーク社会において創作者側が変わるべきものは、自分から自分の名前をきちんと言うこと、自分が何者であり、どのように使いたいか、これが何であるかということを著作者自体が言うことです。それをデータベース、集中管理、権利にまで合わせても構わないのですが、そのようにしていくことが次世代ネットワーク社会において最大の変化だと思います。有体物、無体物の話などいろいろありますが、私は創作者としてそのように考えているので、今、言われたような話には同意できます。


前田

 ありがとうございます。中山先生、いかがでしょうか。


中山

 「権利を切り下げて良いか」と言われて「はい」とはなかなか勇気を持って言えないものです。ただ、創作者の創作インセンティブを損なわないという条件が満たされるのであれば、現行の権利制限規定で読めればそれで良いでしょうし、そうでないものを含めて認めていくことがあっても良いのではないかと思います。先ほどの例で言うと、写り込みの問題やパロディの問題、さらに議論が行われている検索エンジンや海外ネットオークションの問題などでは、市場がスリーステップテストの関係で財産権などの別の問題があり得るかもしれませんが、基本的には創作インセンティブが阻害されなければ認めても良いのではないかと思います。しかし、「それは権利の切り下げだ」と言われてしまえばそれまでです。
 報酬請求権については、一律に報酬請求権化していくことは望ましくないと感じます。先ほど、私のプレゼンテーションで損害賠償法ルールと申し上げましたが、損害賠償法ルールの問題点は、価格設定が市場ではなく、典型的には裁判所がやることです。このコストがバカにならないということが確かに指摘されており、これは評価コスト、査定コストといわれるものです。報酬請求権化という形になった場合、そのような問題があるのです。あるいは意図的に侵害行為が発見されるわけではないので、見つからない確率も考えると、やはり許諾権、その侵害の救済方法としての差し止め請求権の原則があります。これはそのとおりだと思いますが、100%それで良いのかどうかというのが悩ましいところです。先ほど紹介したe-Bayの例では、裁定で報酬請求権化するという方法もありましたが、もうひとつ御紹介したいのは、差し止め請求権を制限していくという方法も場合によってはあり得るのではないかということです。


前田

 ありがとうございます。金先生にもう1度お聞きしたいのですが、金先生の御講演の中で複数権利者の問題、つまり、大多数の権利者がOKしているのに1人だけが反対して利用できなくなる場合の問題点の御指摘があったと思います。そのような場合、許諾権を現状のままにすることが良いのかという点について、どのようにお考えですか。


 ひとつの作品に複数の権利者が関わっている場合、Hold upや利用を阻害する要素に対して権利制限をするのかというと、私はデフォルトとしては権利制限をするべきではないと思います。現行のように全員の同意が必要であるということは、デフォルトとしてあるのですが、特定の著作物の利用、その用途においては報酬請求権化を含めて考慮する余地はあると思います。例えば、今後つくられる放送コンテンツについては、民間の契約においてマルチユースを想定したような契約を結んでいけば良いはずです。そこは民間の努力に任せるとしても、過去の放送コンテンツの場合はマルチユースを想定しなかった契約が行われており、今からマルチユースのための契約を結ぼうとなると膨大な取引費用がかかることになります。その部分については、公益性に合致するという判断が政策的にあるとすれば、過去の放送番組のマルチユースについては報酬請求権の適用を考慮する余地があるのではないかと思います。


前田

 ありがとうございます。場合によっては報酬請求権化をする必要があるかもしれないという御指摘がありました。ここで、会場の有識者の方の御意見を伺いたいと思います。社団法人日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター(CPRA)の運営委員である椎名和夫様においでいただいていますので御意見いただけますか。


椎名

 日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センターの椎名と申します。よろしくお願いします。先ほどの金先生と上原先生の議論の中の著作権法の目的は権利者の保護か、文化の発展かというところで、文化の発展を阻害するのであれば、権利者の保護、著作権も問題なのではないかというお話が出ていました。その関係では、文化の発展を阻害する著作権という話は出たことがなく、文化の発展とは流通の拡大と読み替えられ、流通の拡大に著作権が阻害要因になっているという議論は盛んにあると思います。今のお話で言うと、著作権が強すぎる、過大な要求がある、権利主張があるので流通が進まないから一定の登録制度等を利用し報酬請求権化するという分脈の中で、2年以内ということがまことしやかに言われます。ところが、誰が何を言っているのかよく分からないために、このような場所では「誰が何を言っているのでしょうね」という話に必ずなってしまうのです。その点について、実演家なりにお話をしたいと思います。
 まず、許諾権は、法律学上は禁止権という概念があるのでしょうが、禁止ばかりをしていたら財産権になりません。対価に対する裁量権と読むべきだと思います。実際に実演家の権利処理をしていく上でも、例えば、著作権に限らず知的財産権を許諾権との間に挟み、「それでは高い」「安い」「それなら出せる」「出せない」などということでビジネスが成り立っていくのですが、知的財産権のビジネスの中で著作権だけが報酬請求権化しても問題がないであろうと語られることが非常に疑問です。実演家の権利を処理していく中で、現状、許諾権であっても払わない人がいたり、取りっぱぐれたりするようなことがあるのに、報酬請求権になったならば未来永劫取れないだろうということがあります。また、報酬請求権化すれば事後報告で済み、使用に関する正確なデータも出てこないため、結局は正確な分配ができないという意味合いにもなると思います。
 個々の実演家レベルで考えると、例えば、人にもよりますが、実演家の人生60年と考えて、パーッとピークを迎える人は2〜3年ピークがあり、下がって、もう1回ピークを目指します。そのところで、実演家や実演家を支援する人たちが考えることは、露出のコントロールです。露出をコントロールすることによって、イメージをコントロールしていきます。そこでは許諾権が必須アイテムになっているのです。つまり、出す、出さないをジャッジできる権利です。そこがばれてしまうと、基本的に実演家ビジネスが成り立っていかなくなります。
 流通拡大の阻害要因に著作権、許諾権があるから、それを切り下げるべきだと言うならば、私は逆だと思います。知財大国ならば、報酬請求権をなくして、どんどん許諾権に向かっていき、そこでのドリームの部分を増やしインセンティブにしていくことが正しいのではないかと思います。
 放送番組が流通しない理由を解明するために、総務省ではデジタルコンテンツの流通促進等に関する検討委員会があり、去年から今年にかけて、コンテンツ市場の形成が研究されました。その中で「なぜ放送番組が流通しないのか」ということを慶應大学の中村伊知哉先生がリードされて検討したのです。ネット上で放送番組が流通している諸外国と比べて日本での実演家の権利は特別手厚いのかという議論に対し、日本の実演家だけが取り立てて権利があるわけではないのに、なぜ流通が進まないのかということを検討しました。そこで出てきたことは、放送番組のビジネスモデルは一時的な利用で終わってしまうところがあり、放送番組を流す側のモチベーションが希薄であるということと、ネット上で放送番組が流れていくことに市場的ニーズが希薄であるということなどが挙げられました。そして、改善政策はないのかと語られて終わっているのです。そこでは著作権が流通の阻害要因ではないと明らかになっています。むしろ、許諾権をキープしていくことで流通拡大のインセンティブになっていくのではないかと私は思います。そうは言っても、全員が許諾権を行使してしまえば流れないことは確かです。許諾権の行使を必要としない人も大半はいるため、そこは集中管理に委ねることになっています。
 私たちCPRAでも4月から放送番組に関する集中管理を始めています。これまでは非一任型で許諾の申請があったものについて、その権利者の方に取次ぎして、返事をもらってそれを返すという作業をしていました。しかし、非一任型でやるということは、一任の委任を受けなければいけないというプロセスがあり、委任者の拡大をしていくには時間が必要です。それを放送事業者さんに散々攻め立てられ「非一任型でやっていた方がよっぽど良かった」と言われているのです。四方八方、実演家の権利が切り下げる話が吹き荒れているムードの中で、「あなたの許諾権をCPRAに預け報酬請求権にしてください」というものに乗る人はなかなかいません。そのようなムードの中でも「許諾権を必要としない人は預けてください」と、我々は努力をしていかなければいけないと思います。
 登録に伴う報酬請求権化は通称「デジタルコンテンツ流通促進法」と言われますが、これは誰が言っているのか、利用者にそのようなニーズがあるのかということがよく分かりません。むしろ、小塚先生、岩倉先生、境さん、岸さんなどの論客がおっしゃっていることで、それは独り歩きをしている気がします。利用者側が登録して権利者の権利をオーバーライドするというあり得ない話だと思います。もっとあり得ない話としては、自分の権利を許諾権から報酬請求権に登録を行う権利者が、一体いかなる理由で登録しなければいけないかということもあることです。
 先ほども言ったように、流通が至上であるという風潮になって久しいのですが、流通の拡大を望むのなら、権利を切り下げるよりもインセンティブを与えていく方向に動いた方が良いと思います。この問題を経済財政諮問会議で提起されたキヤノンの御手洗社長は「2年以内に法整備を行うべき」と言ったと思いますが、これが著作権の問題ではなく、例えばキヤノンの保有する特許の利用が進まないため、御手洗さんが許諾権を奪って、「皆さんに公開しなさい」ということを言われたら、一体どのように思うだろうと思います。許諾権を挟んで権利者と利用者は商取引をしており、行政が一方の許諾権を奪い、B2B(Business to Business)の片側に加担する必要もないし、そのようなことは不当ではないかと思います。許諾権をインセンティブに働くように使っていくことが、基本的な流れではないかと思います。
 また、私的領域、私的複製の問題など通常解決できないような部分については、強制許諾が有効だと思います。それ以外には強制許諾や報酬請求権化を広げることによって、流通は拡大するのかもしれませんが、文化は発展しないと思います。クリエーターもそれを取り巻く産業もインセンティブを失い、中身がなくなっていくのではないかと思います。


前田

 ありがとうございました。


上原

 金先生、椎名さんから放送コンテンツの話が出たのですが、私はずっと放送の実務を長くやっていましたので一言だけ言います。椎名さんがおっしゃっていた「放送コンテンツが流通しない」というのは、放送コンテンツがインターネットに流通しないということですよね?知らない方々が勘違いされるといけないので言いますが、放送コンテンツは他の部分では十分に流通しており、インターネットにあまり流通していないことが問題になっているということだと思いますので、その部分を補足させていただきます。
 また、先ほど金先生からお話があったように、過去の放送番組を処理することは大変ですが、実際はたくさんやっています。DVDやビデオグラムで出すときに行う処理は、インターネットに出すときと同じことをするのです。2004年のDVD新作タイトルのうち、アニメも含めると約40%が放送番組です。DVDやビデオグラムのような売れる市場ができていれば、インターネットでも放送事業者は売りたくてしょうがないのです。やっても儲からない状況、あるいは配信事業者がミニマムギャランティを積んでくれない状況ではなかなか進まないということだけ御報告しておきます。


前田

 ありがとうございました。それでは、流通に携わっておられる方のお立場から御発言をいただきたいと思います。株式会社USEN渉外担当顧問の栗原崇光様においでいただいています。栗原様、お願いいたします。