文化庁主催 第5回コンテンツ流通促進シンポジウム“次世代ネットワーク社会の到来は著作権制度を揺るがすのか”

第3部:パネルディスカッション

「次世代ネットワーク社会の到来は著作権制度を揺るがすのか」

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栗原

 ありがとうございます。USENの栗原です。よろしくお願いいたします。時間の関係で、言いたいことを2〜3つに限定させていただきます。1つ目は、設問にあるように、流通促進のために権利を弱めるべきだという考え方に対しては、どのように考えているのかということです。2つ目は、我々は有線放送や衛星でラジオ放送をしていますが、なぜその番組をそのままインターネットで流すことができないのかということです。時間がありましたら、3つ目は、私たちは映像ソフトの配信もやっていますが、なぜテレビ放送局が番組をインターネット配信に提供できないのか、しないのかということを具体的に考えさせていただきたいと思います。


前田

 時間の関係で大変申し訳ございませんが、手短にお願いしたいと思います。


栗原

 私たちは、ラジオ、音楽番組を有線で放送したり、衛星での放送などいろいろな事業をしています。つまり、伝統的な放送事業者です。また、4〜5年前からは映像ソフトを有料でネット配信しています。そして、2年ほど前からは、「GyaO」というサービスで無料配信をしており、現在は会員が1500万人います。そして、今年の初めからは「GyaO NEXT」というサービスを始めました。これはパソコンというよりもテレビ画面で見てもらうための配信です。そのほかに、私たちは独自で制作した映像ソフトを放送しているという権利者の立場でもあります。利用者であり権利者でもあるという複雑な立場から議論をしたいと思います。
 1つ目は、許諾権を強制許諾、あるいは報酬請求権にするというような権利者の権利を弱めるようなことは配信業者としては大変ありがたいことですが、権利は阻害してもらいたくないということがあります。これは配信業者としては基本的な考えだと思いますが、私たちはそのようなことを主張しても難しいだろうと判断しています。新しいサービスをする場合は、必ず事前にすべての関係の権利者に相談し、許諾を受けて実施をしています。今まですべてそのようにしてきました。一時は無許諾もあったのですが、すべて正常化しました。しかし、それで権利を弱めてもらったら良いのかということについて疑問を持っています。私たちは、先ほどパネリストの方々がおっしゃったように、権利は弱めず、運用についてもっと工夫があるのではないかという考えに全く同感です。椎名さんもそのような主旨のことをおっしゃっていましたし、私たちはそのような形でやっていくだろうと思います。その理由は、著作権100年と言われていますが、世界的に同じシステムが条約でやっており、グローバル化している社会で日本だけが条約を離れたようなことはあり得ないという判断が基本だからです。そのようなことで1問目の設問について、私たちは、権利はそのままだとしても、運用についてはもう少し工夫をしてもらう、あるいは法の解釈についてもう少し工夫をしてほしいと思っています。
 2つ目は、現在放送しているラジオ番組をインターネットでできないのはなぜかということです。放送権と送信可能化権という権利があるので、著作権者および隣接権者の団体の方々は送信可能化権を主張して、それはダメだという話になっています。特にレコードについては、送信可能化権という許諾権のためにダメだということです。許諾権があるのだから、許諾をもらえば良いのではないかというと、それは無理です。ひとつひとつの音源の制作者にOKをもらいます。著作権はOKをもらえるかもしれませんが、そのようなシステムでは無理だと思っています。ただ、別の見方をすると、同じような放送でやっているサービスが、最終エンドユーザーに届いた結果、異なっているのです。その過程の方法が放送であるか、有線放送であるか、インターネット放送であるかの違いで、結果的にはユーザーは同じです。エンドユーザーのお客様にすれば、利用しやすくコストが安いインターネット配信が一番良いと思います。私たち中間の配信業者は、なぜエンドユーザーが望むことができないのかと思っています。今後、次世代ネットワーク社会が到来する場合、エンドユーザーの立場をよく考えていただきたいと思います。先ほどKDDIの東条さんがおっしゃったことと意見が同じだと思いますが、その部分を考えていただきたいと思います。


前田

 時間が迫って参りましたので、パネリストの方々に、最後に一言ずつ御発言をいただき、このシンポジウムを終了させていただきたいと思います。先ほどの御発言の順番に従いまして、上原先生、お願いいたします。


上原

 話としては非常におもしろい話がたくさんあったと思います。自然権論なのか、公共財論なのか2対に分かれた感じです。議論としては非常に面白いと思うのですが、実務家の立場から言うと、中山先生が最後におっしゃっていたバランスがどれだけ取れているかという問題になったときに、具体的にバランスが悪いものはどのぐらいあるのかを詰めていった方が速いと、現実の問題として思いました。そして、その部分で言えば、それほど返りが大きな話ではないのではないかと思います。例えば、写り込みなどは、皆さんの意見が大きく違っていないかもしれません。ただ、パロディはなかなか難しいと思います。このようなところをひとつひとつ詰めていけば、大きな制度の問題の話にはあまりなってなかったのかなと思います。むしろ今後、具体的にやっていった方が良いと思いました。


前田

 ありがとうございます。瀬尾先生、お願いいたします。


瀬尾

 去年、調査会に参加させていただき、1番最後のところまで来てやっと話に先が見えてきたかという感じがして非常に喜ばしい感じがします。ただ、著作権と文化という関係が問題であり、流通との関係がどうなるのかという部分に1番の大きな解釈の問題があるので、会場にいらっしゃった皆さんにもお考えいただきたいと思います。私ももう一度考えてみたい問題です。ただ、コンテンツの流通と文化ということが結びついて議論されていることについては、今日の議論の中では分けるべきではないかと私は思いました。著作者と著作権、文化、創造することが議論の根底にあるのかと思います。
 今後、いろいろなコンテンツポータルサイト、経団連のサイトなどにも具体的な事実が出てきます。そのような具体的な事実と基本的な考え方を掛け合わせて、少しでも皆が満足できるようなことを皆さんもお考えいただければ、良いことができると思います。最後に光が見えたのが良かったというのが感想です。


前田

 ありがとうございます。中山先生、お願いいたします。


中山

 私も保護と利用のバランスということで、上原先生と意見が一致したことは大変うれしく思います。ただ、私が公共財、市場という形で申し上げてきた目的が、文化の発展にあるということはもう一度強調しておきたいと思います。もう少し正確に言うならば、文化の発展の持続可能性ということです。先ほど、金先生のプレゼンテーションの中で、「巨人の肩の小人」というニュートンが言った言葉が出てきました。これは、かつて、ニュートンが「私が遠くまで見えるとすれば、それは大きな巨人の肩の上に乗っているからだ」と述べたものです。私は、創造とは先人の業績の上に成り立っていくものではないかという意味で、文化の発展の持続可能性を考えた場合、やはり保護と利用のバランスが重要でないかと考えます。


前田

 ありがとうございます。金先生、お願いします。


金

 総括的なコメントは他のパネリストの方々がされたので、私は先ほど椎名さんがおっしゃったことを聞いての自分の感想と素朴な疑問を言いたいと思います。シンポジウムが終わってから教えていただければと思います。
 放送コンテンツがネット配信されない理由として挙げられたのは、テレビ局のビジネスモデルがそうだからということと、もともとニーズが低いということです。その2つは納得がいきます。3つ目に、実演者はエクスポージャー(exposure)というところを非常にセンシティブに考えているという話があります。私が過去の放送コンテンツに対する報酬請求権化の適用可能性の余地があると申し上げたのは、ライセンスの許諾における取引費用の存在です。権利者も許諾をしたいし、事業者も許諾をしてほしいのだが、契約のためにかかる取引費用が非常に高い場合、報酬請求権化はひとつの手段になるのではないかと申し上げたのです。しかし、エクスポージャーの話をされたときに、ひとつ気になったところがあります。これからのビジネスを含めて、出演の可能性がある実演者は、過去放送された番組のエクスポージャーを嫌う傾向があります。それはビジネスにも直結するかもしれないため、非常によく分かりますし、CPRAとしてその方々の利益を代弁することは合理的でよく分かるのです。しかし、例えば、私がピークを過ぎたような売れない芸人ならば、報酬請求権化というものがあり、自分のエクスポージャーが増え、さらにプラスアルファで追加収益が上げられるとすれば、報酬請求権化は、場合によっては非常に歓迎すべき政策手段でもあるかと思います。CPRAの中で、未来に対する可能性がある実演者と、可能性がないが復活をしたい、エクスポージャーしたいという人たちの利害のトレードオフがあるかと思いますが、そのあたりについてお聞きしたいと思います。


前田

 皆様、ありがとうございました。各パネリストの方々からいろいろな意見を御開示いただきました。皆様におかれましては、これからの著作権法のあり方について議論をしていただくときに御参考にしていただければと思います。以上をもちまして、パネルディスカッションを終了させていただきます。長時間に渡り御清聴ありがとうございました。


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