文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第3部:パネルディスカッション

「音楽著作権等を活用した資金調達の展望と課題」

菅原

 かなり少ない。


向谷

 かなり少ないです。ですから、この線はほとんど嘘です。存在がないです。私たちが音楽出版社に著作権を譲渡契約しています。そうするとJASRACからの支払いされる金額の大半は音楽出版社経由できます。だから、直分配されていないということは、朝妻さんがこのルールを認めるかどうかにかかっているのです。そこで笑わないでください。


朝妻

 いや、演奏権はそういうふうにいっています。


向谷

 演奏権。でも録音権は? そこ「うんうん」ではなくて。ステージ上にこういった心の葛藤もあるのです。これが現実です。

 もうひとつ問題なのは、先ほど私は見ていて感動してうなずいてしまいました。これはみんなとNDA(Non-Disclosure Agreement 秘密保持契約)を組まないといけないのですが、新しいビジネスモデルです。作家と音楽出版社を別だと思うからいけないのです。これはアメリカなどでよくある話なのですが、作家が音楽出版社をつくってしまえばいいのです。そして、サブパブリッシャー(Sub-Publisher)に朝妻さんを置けばいいわけです。そのような手もあります。


朝妻

 コーパブリッシャー(Co-Publisher)。


向谷

 コーパブリッシャーです。失礼しました、サブは失礼な言い方ですね。ここにもいろいろ軋轢があるのです。私もこういうことを言えるようになってよかったです。昔は怖くて、朝妻さんなんかは仕事干されてしまいますから怖いです。

 どういうことかというと、作家が自分で小さな出版社をつくって、分配請求権分を担保にして金融機関から住宅ローンを組む、これは超現実的な話です。住宅ローンを組んで建てた家がすばらしくて、さらに良い曲が書けて、曲がどんどん生まれて日本全国に貢献するという、このスキームはすばらしいです。極端な例ですが、著作権使用料の分配請求権を担保に住宅ローンを受ける場合、これは欲しいです。ただ、これはどういうことを言いたいかというと、もし作家がこのような行為をすることが認められる世の中であれば、今度は大きな出版社と小さい個人出版社の間の、いわゆる大きな意味での医療でのネットワークだと思ってください。おそらくこれから主治医制度や町医者などにも端末が入ってきて、自分の主治医から大きな病院にネットワークを組んで、病気が大きくなったり、扱いきれなくなったときに系列の病院などに搬送されるということが考えられてきています。その音楽著作権版なのです。大きな利用開発、大きな力、大きなお金をかけていくのは、やはり大手にはかないません。私たちは自分でつくって、売って、利用開発をして何かをやりたいという意識もあります。この両方をつなげる方法としては、音楽出版社イコール作家という手もあるのではないかというのが今日私がひとつ提案したいことです。

 さらに問題なのは、今日の話はバルクや作家のコンテンツには非常に取り扱いやすいのですが、今後どうするかというところが非常に弱いのです。後ほど北さんもお話されると思うのですが、どのようにして目利きをするのか、このコンテンツがどのような価値があるのかというのは大変難しいところだと思います。しかし、自分自身がこうして小さな出版社をつくり、このような形のスキームをつくれば、ひとつ方法はあるのではないかというのは私の個人的な意見です。

 とにかく、このような1枚の図でも直分配というものがまだ全然できていないというのは、簡単なことですが、要するに、JASRACの正会員が多くないのです。ほとんどノンメンバーという人たちが出版社を経由して分配を受けているのが実情です。私たち権利者はこういった問題に首を突っ込み、このような会議やシンポジウムの3分の1ぐらいが権利者で埋まるような時代になって、自分たちの権利をどう守るか、どうしたらいいかというのが一緒に話し合える環境にしたいのが私の願いです。それになるまで私が現役でいられるかどうかは分かりませんが、音楽活動を続けながら、今後もこのような形で発言していきたいと思いますので、どうぞ皆さんもご支援よろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。


松田

 音楽に限らず、コンテンツビジネスをして法律的な枠組みの中に組み立てていくことになると、先ほど言った今、一応考えられている最終的な段階で、コンテンツを証券化して、それを市場の中で売り買いしていくという、ある意味では相場が立つような状況までを考えると、これは本当にいいのかという問題は提起されています。まさにビジネススキームの、それから金融商品としての対象として著作物が置かれたときに、作家の気持ち、作家がどのような組み立てをしたいかということが通るのだろうか、使われ方がイヤだというのは通るのだろうか、実はこのようなことも問題提起としてはあります。多分そういうところも含めて、向谷さんのご提案があったのではないかと思います。この点についてはさらに議論をしていきたいと思います。

 次に、みずほ証券の北さんからプレゼンテーションをいただきたいと思います。当然ながらそのようなスキームをつくるための法的な枠組みに最も詳しい方とご紹介させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。


北

 北です。“向谷・オン・ステージ”の次はやりにくいですが頑張ります。

 最初に申し上げたいのは、文化庁さんにヨイショするわけではありませんが、このような会を設けていただいたというのは大変意義深いことであるということです。以前、商亊法務研究会さんが、倒産法を専門とする弁護士と証券化を専門とする弁護士を一堂に会して証券化を推進するための意見交換をしたことがありました。証券化も音楽業界もそうですが、特殊に専門化した分野においてはこうした一堂に会して意見交換をすることが何より重要だと感じております。

 ここに1枚紙を用意しておりますが、読んでいただければお分かりになると思いますので、この背景の話を中心にさせていただきます。

 「馬を水辺まで連れていくことはできるが、飲ませることはできない」ということわざがありますが、最初に考えるべきは関係者の間に本当に証券を行うニーズがあるのかということです。
一つには音楽出版社とレコード製作者のニーズですが、これに関してはすでに話が出ましたので割愛させていただいて、証券化のアレンジャーのほうの事情について簡単に触れさせていただきます。
銀行について申し上げますと、新BIS(新自己資本比率規制)というものが銀行の投資行動を規制しているわけですが、これによると、融資先の相手先のリスクが分析不能であるとすると、100%のリスクウェイトを課せられることになっています。逆に言えば、銀行はできるだけ格付けを取得しているようなリスク分析可能な融資を行いたいというニーズがあるわけです。それは相手方がSPC(Special Purpose Company 特定目的会社)であっても同様です。
では音楽著作権がリスク分析可能かというと、どうも難しい。オーソライズされた目利きがいないですし、こうした先に銀行が融資をするというのはなかなか難しいと思います。
これは融資をする場合のみならず、投資をするといった行動全般に及びますので、証券化した商品の購入に際しても同様の事情があると考えていただいていいとおもいます。

 次に証券化商品を投資家に販売することを考えてみましょう。金融商品販売法が制定されたことを契機に、証券会社等の販売会社は、販売するリスクに敏感になっています。投資家がきちんとリスクを認識して購入したかということについて立証責任は販売会社の側にあるからです。得をして訴える人はいないでしょうが、損をした場合に投資家が証券会社を訴えたとしましょう。投資家が「きちんとリスクの説明をしてくれなかった」と言ってきた時に、「いいえ、何月何日にこの書類を渡して説明しています」ときちんと証明できないといけないわけです。音楽著作権はそれ自体リスクの説明が大変に難しいものだと言わざるを得ません。

 ただ一方で、証券化という調達手法は最近非常に注目されてきているのも事実です。
バブル以前のファイナンスは銀行借入、社債発行、エクイティ・ファイナンス、どれをとっても企業の信用力でファイナンスをするというものでした。信用力が急低下すると、ファイナンスのコストも急上昇するか、場合によっては調達困難な状況に陥ります。
このために、転ばぬ先の杖としてアセット・ファイナンス、すなわち資産で調達をするという証券化の手法が注目されてきたわけです。

 企業のトップに求められる資質も、バブル以降変化が見え始めています。以前のリーダーはリーダーシップに優れていなければならないとする風潮は影をひそめ、変わってリスクマネージメントこそがリーダーの重要な任務だとする意見が強くなっているように思うのです。
このリスクマネージメントの観点からすれば、音楽業界も転ばぬ先の杖として、企業の信用力に依存しない調達手法を確立しておく必要があるといえるでしょう。

 先述したように、容易なことではありません。みずほ証券では松竹とご一緒に映画ファンドを組成し、『SHINOBI』という映画をつくりました。主演が仲間由紀恵とオダギリジョー、主題歌が浜崎あゆみという豪華な顔合わせであったにもかかわらず、興行成績は期待を下回りました。向谷さんに言わせると、映画のほうがよほど水物であって、音楽著作権のほうが信頼性はあるということなのですが、いずれにせよ、キャッシュフローの予想が難しいものであるのは確かだと思います。

 そうした難しい音楽著作権の証券化を進めるために、では今の商慣習を根底から覆す必要があるかといったら、私の答えは「ノー」です。今回の研究会の皆さんの声を聞いていて、実は小説家などに比べたら、音楽業界の方は儲かっているのをさらに儲けるために方策を考えているだけで、現状でも十分環境は良好であるという印象を持ったからです。
先ほど向谷さんがJASRACではなく作家と直接契約がある形態もあるという提案をされましたが、JASRACという確固たる組織があるこそ、今の音楽業界は貸しレコードや貸しCDからもフィーがとれる体制に出来たんだろうと思うわけです。
やはり証券化について語るためには、契約形態等今の環境に手を加えることが、果たして音楽関係の方にとってプラスなのかマイナスなのかを真剣に考えなければいけないでしょう。角を矯めて牛を殺しては元も子もなくなってしまいます。