文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第3部:パネルディスカッション

「音楽著作権等を活用した資金調達の展望と課題」

松田

 どうもありがとうございました。それでは、ディスカッションに移りたいと思います。最初は「我が国において、音楽著作権を活用した資金調達が頻繁に行われる可能性があるのか」というテーマです。音楽著作権もいわゆるスタンダード曲になると長い間確実な収入が入ることが見込めます。そうなると、映画などとは違って、ある程度トラックレコードが確実であるという点もあります。管理事業者からの分配実績を継承すれば比較的価値判断しやすいのではないかという点です。近日の資金調達にかかる法的枠組みは整備されつつあります。音楽著作権の活用について、そのニーズと整備されつつある枠組みが組み合わされて、具体的な案件が挙がっていくだろうかという現実のニーズの問題について少し議論をしてみたいと思います。

 澤さんの報告にも少しありましたが、音楽コンテンツを何らかの形で資金調達のために流動化するための大きな枠組みで捉えますと、3つあるのではないかと考えます。1番目は旧来の、例えば音楽出版社が持っているコンテンツを、その音楽出版社の事業目的のためになんらかの資金化をしたいという場合です。大音楽スタジオをつくって、海外に進出するための大きな資金が必要だ、ないしは将来コンテンツを開発するために今ある自社コンテンツを資金化したいということです。そのための自社コンテンツを資金化というニーズがひとつあると思います。

 2番目は他社が持っているコンテンツを評価して、それをまとめて購入したい、何億何十万、場合によってはもう1桁上のコンテンツとしてまとめて買いたい、そしてそれを戦略的に使うということです。しかし、これは従前の借入ではなく、新しい資金調達の方法で購入すると同時に、それが組めないだろうかというニーズがあるのかもしれません。

 3番目は新しいコンテンツを開発するために、何らかのスキームのようなものを対象に資金調達ができないだろうかということです。これは主に映画開発などにも多いわけですが、映画と音楽と比べると、映画のために音楽を使うということはあるのですが、私はこれから逆もあり得るのではないか、音楽コンテンツのために映像を使うというソフト化もあるのではないかと思います。そういう場合、新しいコンテンツをつくるためにあらかじめ資金調達資金を組んでおくということで、私は自分なりにそのような需要があるかもしれないと思っているところです。そこで、この議論に入りたいと思いますが、朝妻さんからこの具体的なケース、今後どのようなものがありうるかということでご意見を頂戴して議論に入りたいと思います。よろしくお願いします。


朝妻

朝妻

 先ほど北さんが、私たちにとってとてもよいことを言ってくださっているなと思いました。ともかく音楽出版社にとって、著作権という非常に優良な資産を持っているのに、その著作権自体が資産としてきちんと評価されていないということです。ですから、あえてそれを証券化する必要はなく、単純に資産として評価してもらえれば、日常のキャッシュフローの中での資金調達ということにも使えるのではないかと思っているのです。例えば海外のカタログを買うときに、その評価をして、それに必要な買収資金を調達できるところまでいけたらもっとすばらしいとは思うのですが、まずは第1歩として、その金融機関に、音楽著作権というものが資産として、NPSどのくらいの評価までだったら認めるというガイドラインをつくってもらえたら、そこから先は結構いろいろな展開が見えてくるのではないかと思います。

 今、松田先生がおっしゃったような、使途についてはいろいろと見えているのですが、その前の著作権自体をきちんとした資産として評価する、評価するにあたってのNPSの過去3年の平均の何倍ぐらいがスタンダードだというような、ある種のガイドラインがどこかできてこないかなと、今の松田先生のご質問と少しずれてしまうのですが、このように思っています。


松田

 NPSのガイドラインについては、朝妻さんもいくつか例を挙げて、先ほどのお話の中にありましたが、だんだん高くなっているというのも現実ですよね?


朝妻

 はい。これも先ほど北さんがおっしゃったように、アメリカの場合、アメリカの楽曲はマーケットがアメリカだけではなく、世界各国でお金を稼げるということがあります。ある部分アメリカでヒットしたら、それがフランスでもドイツでもお金を稼いでくるということが考えられますが、日本の場合は、どうしても日本と東南アジアしか考えられません。しかし、今は日本だけの収入だったのが、台湾でも香港でもお金を稼げるようになりました。ここ何年かは韓国でもお金をつくっているというふうに、日本以外の収入も増えていることは増えているので、ベースになるNPS自体も着実に増えていくことは見えているわけです。


松田

 ありがとうございます。向谷さん、アーティストの権利、原盤権を持っている立場の人にとっては、スキームを組むことについて管理事業者との関係で導入しやすいという考え方をとるにはどうすればよいかという点はどうでしょうか?


向谷

 難しい質問ですね。


松田

 お願いいたします。


向谷

 私の考え方の前提にあるのは、現状の著作権の収入というか、そのバジェットがこのレベルでないというのを前提に考えた場合です。少し話が大きくなるのですが、著作権の徴収のシステムや、今の許諾というのが先ほどのヒントになって、朝妻さんが言った「ビートルズには3000万円払っている」ということ、つまり、著作物というものが一定の管理料率の枠の中で、例えば放送局との間をブランケット方式で行い、年間の売り上げの何%を、「あなたのものはTBSではいくらですから」と言って、そこから13週分の1週のサンプリングで調査した結果が権利者に戻るという流れが今のアナログ放送のやり方だと思うのです。今後、デジタル化されていくとき、やり方は分かりませんが、例えば楽曲が配信される瞬間にゲートをつくって、そのゲートを通るたびに、ある楽曲はいくらと決まるというようなものができればよいのです。つまり、人のものを使うのだから、きちんとお金を払えという前提に立つと、著作物というのは収益が大きく増えると思います。

 ある放送局の人と激論したのですが、放送局の人は、昔のVTRがない頃は、生バンドを入れてドラマつくっていました。その後、VTRができたので、専属の音楽家を置いて曲をつくっていました。最近は、カシオペアなど、人の音楽を挿入歌に入れます。「なぜですか」と聞いたことがあります。いろいろなことを言うのですが、本音で言えばコストカットなのです。しかし、私たちつくっている人間が、「いや、私は無断でドラマのバックに使ってほしくない」など、ひとつひとつのコンテンツの使用に至る経緯、許諾、金銭の対価をもっと明確にきちんとして、自分がなぜこのお金をもらっているのだろうというのを明確にすることが成り立てば、北さんが過去にされていた映画ファンドに比べれば、この著作権ビジネスは必ず成果が高いと思います。そのぐらい履歴が取りやすく、内容が明確で、過去のいろいろな動きから将来の予測数値を出しやすいという点があると思うのです。そのために必要なものは、図式も分かりにくいのですが、権利の内容についての公開、公明性をどこまで高めるかということです。それを高めれば、おそらく今の日本のGDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)の現在の流れと、ネットや放送などいろいろなところでかかっているコンテンツの量を考えたら、今のJASRACの収入の3〜4倍になってもおかしくないような市場ではないかと思います。ですから、そういうものに向かって進む間に、ひとつひとつのシステムや概念を決めるために、外部の証券やファイナンスのスペシャリストと組んで証券化することによって、不動産のリート(REIT 不動産投資信託証券)などと同じような利回りでどんどん膨れていくような著作権ができるシステムができるのではないかと思いますが、前提となるのはその公明性と公開性が欲しいということです。


松田

 音楽コンテンツが使われた段階でそのデータを処理し、使用料が個別に入るというシステムは、JASRACは当然お考えであると思います。今日のテーマとは違いますが、そのことを少しご説明願えませんか?


菅原

 向谷さんも会員なので、一会員の意見としてお聞きしました。今よく言われている、権利者の自由度といいますか、自分のつくったものなので、もともと権利というのはいわばわがままなものです。そこをどのように評価するかは議論として出てきていると思います。反面で考えなければいけないのは、なぜJASRACがあるかというと、利用しやすくするためなのです。

 もしJASRACがないとすれば1人1人の権利、あるいは音楽出版社を1社1社あたっていき、それぞれ値決めをして、それで使えるかどうかというところからスタートするわけです。会員からのご指摘である功罪があるとすれば、例えば放送のブランケットというのは、ある放送波の中でどのJASRACの管理楽曲であっても、放送であれば自由に使ってよいという大きな許諾、利便性と作家個人の気持ちとのバランスの問題になってくるわけです。利便性を前提としてつくってきたということが管理事業のもとだろうと思いますが、これからはその中に、どれだけその個々の人の意図が反映できていくのか、それはもしかすると使い方によっても分かれてくるかもしれません。

 その第一歩とすると、先ほどサンプリング報告の話がありましたが、今の時代はデジタルの時代なので、とにかく全曲の報告を前提としてお話を進めています。ただ、これはお互いにインフラも含めた整備をしなければいけないということで、明日からできるという話ではないのですが、放送の業界の皆さんにもその必要性が十分にお分かりいただいていると思います。そういうものができて、全曲、波で流れていたものはすべて秒単位で把握でき、お互いにその情報の共有をしていることになったときに、次のレベルとして、お互いに合理性のある許諾の仕方、請求の仕方というふうにはいくと思います。その検討のときには、またうちの委員にもなっていただけます?


松田

 JASRACの全曲方式によるデータ処理方式というものの他に、技術が進むと、まさにネットで音楽を配信してDRM(Digital Rights Management デジタル著作権管理)で課金システムを管理していくということは、これもおそらく大きな方向としてそちらの方向はあるのだろうと思います。そうなったときの作家の気持ちといいますか。


向谷

 100%そうではないかもしれないのですが、例えばテレビ局は音効さんという人がいて、音効さんがいろいろな曲を集めて番組をつくります。番組のプロデューサーやディレクターには本当はそのような義務があるのですが、何の曲を使われたかということをほとんど知らないケースが多いです。つまり、番組ができる過程で、いろいろな複数の人間が勝手に音源をつくっているのです。これは、例えば写真や文章の引用といった場合、出所がはっきりしないと下手すれば裁判になりますね?


松田

 そのとおりです。


向谷

 ところが、今の信託契約は著作権を大きく今のような形で、利便性ということで契約していると、現実的にはそういう必要がないわけです。ですから、そこを科学の進歩に応じて、ひとつでも人の楽曲を使って、コードのようなものがきちんと振られていれば、必ずひっかかるというようにするのは難しいことではないのではないかというのが私の考えです。少し失礼な言い方ですが、最近の現場の方は、これは人のものだという意識も欠けているのではないかと思います。先ほども言いましたように、テレビ局や放送局は自社のオーケストラや録音スタジオがあった時代がありました。そのために働いていた人たちは、今は職場がありません。音楽家という全体で言えば、音楽家の労働力をかなりコストカットされているということもあるので、そういったものも含めて考えたいというのが私の意見です。