文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第3部:パネルディスカッション

「音楽著作権等を活用した資金調達の展望と課題」

松田

 ありがとうございました。今のおふたりのご指摘は実は、今日の本来のテーマである知的財産権の活用、音楽コンテンツの活用、資金調達という点で捉えると、できるだけ画一化された処理も要求されてきてしまいます。契約パターンや契約パターンに乗る権利処理のルール、はみ出したものをできるだけなくすということが要求されるわけです。ところが、それは必ずしも作家の気持ちからすると、どうも気持ちよいものではありません。もう少しどこで使われて、何のために使われて、フィーが正当なのか自分で検証したいというのは、作家の気持ちとして当然だという部分もあるのではないかと思っています。ですから、2つの大きな方向があり、大量処理的に商品として使っていく場合には、今言った前者の方向に行かざるを得ないと思います。しかし、それに歯止めをかける要請もあるということで、この両方を遂げるための方法がないだろうかということも非常に重要だと思っています。著作権法を大きく捉える場合、将来はこのような点についても検討しなければならないし、少しずつ現実の問題として表れつつあるのではないかと思っています。

 さて、スキームの点で会場からの質問もありますので、それに入ってみましょう。また朝妻さんに対するご質問ですが、一連のデビッド・プルマンが手がけられた証券化についてです。当初は、投資家がついてこないので証券会社が保証するということで、最終的にはリスクテイクをコーポレートによる投資家を集めたと記憶していますが、どうでしょうかということです。そうすれば日本でもトラックレコードが備わらないうちにある程度のリスクをコーポレートによるという方向しかないのではないかという意味の質問だろうと思います。


朝妻

 そのとおりだと思います。ボウイ債に関しては先ほど北さんもおっしゃっていましたが、ムーディーズは「A」の3番目という格付けをしたのです。それは、投機的な要素は基本的にないというかなり良い格付けなのですが、一般の投資家はほとんど最初に手を出さなかったので、大口、要するに、機関投資会社がまとめて買ったということでスタートしました。それは、私たちのFGMファンドのところでもご説明したとおりで、形はファンドという形をとり、そこに信託銀行も入れてファンドの形をとっているのですが、現実的にはコーポレート・リスクを取り入れた借入という形になっているわけです。

 そこでお話ししたように、それを何度か行なっていって、現実にそういったものの信用度や安全性などを広く投資家の方、金融機関に理解していただいた上で、ようやく初めて証券化、債権化が可能になっていくのだろうなと思っています。ですから、ボウイ債に関しても、私たちのファンドに関してもそうですが、こういったものの最初に関しては、ある程度スキームづくりがどうしても重要で、まず形をつくっていくことが必要ではないかと思っています。

 今、松田先生がおっしゃったような、使途についてはいろいろと見えているのですが、その前の著作権自体をきちんとした資産として評価する、評価するにあたってのNPSの過去3年の平均の何倍ぐらいがスタンダードだというような、ある種のガイドラインがどこかできてこないかなと、今の松田先生のご質問と少しずれてしまうのですが、このように思っています。


松田

 どうもありがとうございます。実は会場にも、この報告書をつくるにあたって参加していただいた有識者の方々がいらっしゃいます。今の質疑の流れのひとつとして、音楽出版社がさらに活動して資金調達するニーズがどのあたりにあって、具体的にはどういうスキームをお考えになっているかということを聞ければと思っています。会場に秀間さんか竹内さんいらっしゃいますか? お願いします。


秀間

 株式会社シンコーミュージックエンターテイメントの秀間と申します。私は音楽出版社としても、音楽著作権を活用した資金調達ニーズは大いにあると思います。今でも時々、日本でも音楽出版社のカタログの獲得というのは地味ですが、あると思うのです。JASRACの会報を見ると、営業権の譲渡ということが出ているのですが、これも一種のカタログの獲得です。そのような中にあっても、資金調達の面から、獲得したいけれども断念したというケースもあるのではないかと思います。そういう中で、今後、このような音楽著作権を活用した資金調達が可能になれば、新しい楽曲や原盤、そのカタログを購入するときの資金、その他新規の原盤の制作、新規事業の立ち上げなどの資金調達手段として利用するケースが増えてくると思います。そのときに、先ほど向谷さんからもご指摘がありましたが、先ほどのスキームの中で、「JASRACから作家に作家取り分が直分配されるスキームになっているけれども、実際は演奏権以外はなっていないではないか」ということがあったわけです。音楽出版社としては、音楽著作権を活用して資金調達を行う場合は、作家の取り分はJASRACから直分配することについて同意する覚悟が必要なのではないかと思います。以上です。


松田

 一言ありますか?


向谷

 大変勇気づけられる一言なのですが、こちらで朝妻さんに、「みんな本当に同意しますか?」と聞いたら、首をかしげていたので、朝妻さんどうですか?


朝妻

 基本的にはケース・バイ・ケースだと思いますし、それこそコーポレート・リスクの大小にもかかわると思います。また、調達する金額にもよると思います。ですから、そのこと自体が作家にどれだけのリスクを与えるのかという問題だと思います。ゼロではないだろうが、そうかと言って、それをどうしても100%全部の作家直分配を認めますという条件を入れないといけないというほどでもないのではないかと思います。


向谷

 だから、そのような資金調達のときだけなのでしょうか? 秀間さんのところはOKですよね? では、シンコーは丸と書いておきます。続けて、竹内さんのところはどうですか?


松田

 竹内さんのほうからも、ニーズとスキームについてお話があればお願いします。


竹内

 渡辺音楽出版株式会社の竹内です。よろしくお願いします。音楽出版社にとって事業拡大、あるいは先ほど朝妻会長も講演で申し上げたように、海外のカタログなどの買収など、音楽著作権を活用した音楽ニーズはこれからも十分にあると思います。そういう意味での資金調達という話になると思います。これは多分、向谷さんのいう著作者やアーティストにも同じようにいえると思うのですが、一般的に音楽出版社は自らの作品を手放したくないです。その一方で、著作権からの収入を早く手に入れたいと願っていることが共通している部分です。なんとなく全部売り渡したくないということが共通して、これが著作権ベースの証券化には非常に好ましいシステムであるということがいえると思います。

 そういう中で、今まで音楽出版社はどちらかというと、買収もそうだと思うのですが、著作権などの知的財産権を獲得ということに少し重点をおいて、今後は獲得した著作権を有効に運用していく方向への転換もだんだん迫られてきているのではないかと思います。あるいは、新たなビジネスチャンスの時代にきているとも思います。先ほどデヴィッド・ボウイの話が出て、これが海外の最初のケースといわれておりますが、1997年という段階で、いわゆるなんだろうと思われるボンドがデヴィッド・ボウイ・ボンドです。これが出たということは非常に驚きました。皆さんからご意見が出ているとおり、基本的には私も日本は日本独自の契約形態が必要です。また、業界の流れもありますので、今後は日本で音楽著作権を活用していくことは、ある意味ではヒントになると思いますが、資金調達は特に音楽著作権を用いた場合、今回の株式会社フジパシフィック音楽出版さんがみずほと組んだ、いわゆるスタンダード曲を何百曲とバルクにして広げていくというような、ある程度著作権の収入が確実に確保できるというところからスタートしていくべきではないかと思います。まず事例、環境をつくりあげることをしていく必要性があるのではないかと思います。

 同時に、研究会に10回出させていただいて、やはり先ほどの三角印でもありましたように、作家さんのほうで三角ということがあるものですから、どうしても一番大切なことは、著作権がベースになっているわけですから、契約内容、特に契約期間は、作家、楽曲ごとに異なっています。とは言っても、いわゆる担保にすることになれば同意、許諾を1件ごとに契約をとっていく必要が当然あります。そこで音楽著作権に関しては非常に実績があり、安定したものではなく、比較的評価しやすいものではありますが、ある意味ではこのような評価に関しては、今までは音楽出版社が金融機関の代わりに評価をして、それで資金調達を行なってきたとも言えると思います。ただ、いわゆる事例が非常に少ないことが、音楽出版著作権を担保にというだけで多分作家の先生は、「あの出版社はまずいのではないか」という環境にあるのではないかということで、今後は作家の方、事業者、資金提供者が音楽業界の全体像を分かりやすく説明、あるいは理解させていただく必要があると思っています。以上です。


松田

 どうもありがとうございました。これからはいろいろなビジネスが起こるところでは、音楽出版社の役割というか、音楽出版社が作家にどのようなサービスが提供できるかという競争環境も生まれるかもしれませんね。脇から見ていると楽しみな状態です。

 それでは次に、レコード原盤のほうです。レコード会社にとってレコード原盤を活用した資金ニーズやそのスキームという点についてご意見があると思いますが、ソニーミュージックジャパンインターナショナルの佐久間さんいらっしゃいますか? お願いいたします。


佐久間

 株式会社ソニーミュージックジャパンインターナショナルの佐久間です。よろしくお願いいたします。基本的には松田先生が言われたとおりで、資金ニーズというものが、例えば自己資金が必要である、その買収のために必要である、新曲をつくるために必要であるなど、ニーズがあるところには資金調達が必要だということと、逆に言えば朝妻さんが言われたとおりで、その原盤の価値がどのように評価されているかということです。これは同じようなことを話しているようで、実際には別々の話だと思っています。資金ニーズのあるところは資金調達しなければならないので、そのために原盤の価値を評価しなければいけません。その流れとして考えると、原盤の価値は日本の場合、レコード会社イコール原盤所有会社ではないところもありますので、私たちも原盤保有会社としての立場の考え方を説明したほうが分かりやすいと思います。

 私は原盤保有会社として、実際上その原盤の価値は非常にあると理解しています。それを評価していただき、それをもとにして資金調達をさせていただくことが、必要なことだろうと思います。当然ながら必要でない会社もあるし、必要でない個人もありますから、その場合には必要ではありません。今まで朝妻さんを中心に出版の話をされてきて、向谷さんの前でビジネスという言葉を使うとまた言われるかもしれませんが、原盤と出版はビジネス的にやはり少し違うところがあるのではないかと思います。出版は音楽、曲そのものですし、原盤はどちらかというと実演家をもとにした権利に基づいています。朝妻さんからいろいろな説明があったと思いますが、曲というのは寿命も長いし、利用の仕方も非常に多岐にわたります。菅原さんのJASRACの支分権の問題としていろいろな活用の仕方があるということはお分かりだと思います。原盤の場合は極端に言うと、メインはやはりパッケージであり、最近で言えば、携帯電話を含めた音楽配信が一番の収入になります。要するに、もともとの出版のライフタイムと比べて、向谷さんの前で失礼かもしれませんが、実演家の寿命といいますか、曲はとてもよく残りますが、実演家の方のライフタイムは、美空ひばりさんのように長い方もいらっしゃいますし、私の会社で言えば山口百恵さんなどもいますが、実演家そのものにずっと価値があるかというと、非常に難しいです。曲よりは難しいのです。

 また、先ほど言いましたパッケージや音楽配信で利用しないと価値は創造されません。例えば今までのパッケージでいきますと、カタログということで、いわゆるコンピレーションをつくったり再発をしたり、いろいろな意味でその時々の時代に合わせたものをつくっていくのです。そこで、私がこれから少し変わっていくのではないかと思うのは、いわゆる今のネット時代になってロングテールという話がありますが、私たちが配信ビジネスをしていると、「このようなものをこれぐらいの人たちが買っていくのか」などといろいろな新しい発見があります。それも1曲ごとに売ることが可能になっていますので、そういう意味では昔のカタログ自体の再活用の仕方、これは私たちとしてもアーティストのために一番最大限のビジネスをつくっていく役割がありますし、義務があると思います。このあたりを考えていくと、さらに出版のNPSが上がっていくのと同じように、私たちの原盤権の価値も上がっていく可能性は出てきているかなと考えています。

 先ほど言った資金調達の問題は、私たちとしては二の次な話で、どちらかというと、やはり原盤の価値を上げるということが私たちの最終的な使命であり、それができることによって、私の会社だけではなく、各原盤を持っている会社がいろいろな意味で再活用することによって価値が上がっていくと思います。日本の中では、今までこのあたりの原盤の売買というとなんとなく言葉として言いにくく、少なかったのです。それに比べて欧米ではすでに原盤の売買は起きており、極端に言えばレコード会社を買うというのは、原盤の価値がひとつの重要なものです。カタログの価値ともいいます。2つ目が今の既存の契約の価値です。3つ目が新曲を生み出す価値、これがレコード会社の力です。この3つを組み合わせてレコード会社の価値が決まってくるわけです。アメリカや欧米の場合は、特に原盤をレコード会社が保有していますので、そのカタログの価値の試算の仕方もシステマティックで、よくできています。それに比べると日本は経験がなく、そのあたりに関しても私たちも説明が不足しているところもありますし、日本的な商慣習、レコード業界特有の慣習もあります。そのあたりの説明をきちんとしながら、仕組みをつくっていくことは非常に重要です。それをしたことが結果として、資金調達の有効活用につながっていくのではないかと思っています。以上です。


松田

 ありがとうございます。原盤の利用が今の技術進歩に合わせて、市場がむしろ拡大しつつあるのではないかというご認識の下に、今のような発言があるのではないかというふうにお聞きしました。

 もう1人いらっしゃいまして、伊藤アキラさんには音楽家の立場で著作権の活用について、ご意見を頂戴したいと思います。どうぞお願いいたします。