文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第3部:パネルディスカッション

「音楽著作権等を活用した資金調達の展望と課題」

伊藤

 作詞をしている伊藤アキラです。私に限らず、作家が著作権の活用という言葉を聞くと、それはイコール著作物の活用と捉えるのが一般的だろうと思います。著作物の活用と思っている作家が、今日のこの会場に来て話を聞いたとすれば、「なんだ、著作物の活用の話ではなく、著作権の活用の話だったのか。どうも著作権の活用の話と著作物の活用の話は違うみたいだな」という印象を持つのではないかと思うのです。そこに掲げられている看板には、コンテンツ流通促進シンポジウムとなっていますが、権利の流通促進シンポジウムだったのではないのかという印象を受けて帰るだろうと思います。

 では、その権利の流通促進が著作物の流通促進にどう結びつくのか、その話がなければ作家の疑問は解消しないし、今後このテーマは大きくは広がらないだろうという気がします。今後、著作権、あるいは分配請求権に基づく資金調達を志す方々は、作家に対して、なぜこのことが著作物の流通促進、利用開発につながるのかという説明を十分にしなければならないだろうと肝に銘じてお帰りいただきたいと期待しています。以上です。


松田

 ありがとうございます。著作物の利用と著作権の利用と、それは確かに概念的に正確に違うわけでしょう。どのような形で利用されるかという説明が著作物の利用のほうには必要だという理解でいいですよね? それは、壇上のほうからのご意見からも少し出ていたと思います。

 さて、実はテーマ1はもう少し早く終わっておかなければならなかったのですが、私の不手際で少し長くなってしまいました。もうひとつテーマがあります。テーマ2は、「理想的な資金調達のモデルとして、どのようなビジネススキームが考えられるか」ということです。現段階ではなかなか難しいというご指摘もあるわけですが、むしろこのテーマは、法的なスキーム、制度というよりは、それぞれの立場でこのようなものがあったらよいという夢のようなものについて少しお話をしてもらって、将来につなげていけるようにしたいと考えていますがどうでしょうか。法律論や今ある制度論などということではなく、音楽全体の発展のためにはこのような方法があるとよいのではないかというようなご発言がいただければと思います。そのような点で一番研究をして、直感しているのは向谷さんであり、制度として何かをとりまとめて、総合的な判断や研究をしているのはJASRACではないかと思います。まず向谷さんからお願いします。


向谷

 伊藤先生の言われた著作物ということで言うと、簡単な方法として理想で言えば、最近のスーパーマーケットの牛肉には偽和牛などがあったので、生産者の名前まで入っているものが多いですよね。それが当たり前にデフォルトになっていると思うのですが、音楽の楽曲自体のデータ管理をより精査して、どの曲が誰の作品でどのようなつくり方をされているか、さらに理想を言うと、これは作家のほうがやるべきことだと思うのですが、作家が許諾範囲を設定できるようなシステム、「この楽曲はどういうふうに、どこまで利用範囲がOKだ」というようなもので、お互いがデータベース上でやりとりできるようなものをデフォルトでつくっておいて、やっていけばとても理想的だと思います。

 さらに過去の楽曲について、この件である先生とお話をしたときに、昔つくったテレビドラマのバックミュージックのエムナンバーは履歴が残っていないかもしれないということがあったのですが、そのようなケースの場合は、放送局が再放送するときはとにかく倉庫をひっくり返して、いつ、どのような録音で、誰が演奏したのかという情報をとにかく付けるのです。スーパーに並べる牛肉は産地表示がなければ売ってはいけないのと同じように、世の中に出していくコンテンツや著作物は生産者情報をきっちり捉えた形で出していくと、すべてが解決するのかなと思います。理想ですが、おそらく21世紀にはそのようなことができるのではないかというのが私の意見です。


松田

 データをさかのぼっていき、必要なら見るサービスを提供するという可能性はあるかもしれませんね。どのような曲で、演奏しているのは誰で、レコード会社はどこかということでさかのぼっていけば、探すことを容易にするシステムは可能であるかもしれませんね。


向谷

 そうですね。今、日本中にPOSシステム(Point Of Sales System 販売時点情報管理システム)があります。全部管理できるというものです。もしかしたら、そういったもので作家自身も自分の楽曲の使用状況をネットで確認できるということもできるような気がします。それをすると私たちも意識がだいぶ変わるかなと思います。これはあまり売れてないなというようなこともあるかもしれません。預けたら預けっぱなしという、こちらの安易な慣習もあって、自分たちで「著作物だ、著作権だ」と言いつつも、「とりあえず預けたらあとはお願いね」という少しぬるま湯的なところは、私たちも確かに反省すべき点があると感じているので、そういうものがあればいいと思います。


松田

 菅原さんはいかがでしょうか?


菅原

 今の仕組みというか、データの関係でいうと、それは従来よりもだいぶ進んできているだろうと思います。それはニーズが出てきているわけです。例えば音楽で、音源を中心としたということであると、日本レコード協会とCPRA(実演家著作隣接権センター)と私たちJASRACとの間でミュージック・ジェイシスというひとつのポータルをつくっています。それは音源からも、アーティストからも、著作者からも検索できます。このようなものも出てきているわけで、これがこれからどう広がっていくのかということです。その一番の根本は、コンテンツです。コンテンツというと広くなってしまうのですが、例えば具体的に、先ほどの向谷さんのお話でいくと、放送の番組や映画など、最初にできたときにきちんとその情報が確定していれば、あとは何の苦労もないわけです。そこがどうも今日までズルズルときているので、例えば番組の2次利用をするときに、許諾の問題があるとは言っていますが、情報がないので、放送局はどこに許諾を取りにいけばよいのか分からないということは現実にあると思います。

 では、どのように整理をするかということですが、2次利用でネットへの展開で、社会的にブロードバンドの展開といわれてきています。それをするためにはコンテンツホルダー側が権利情報を整備しなくてはいけなくなっている状況です。そうなると、これは後追いになっていますが、先ほど向谷さんの言ったところが重視されてくるだろうし、それが今必要だといわれてきたとすると、今度は第1次のつくる時点で整備しておけば、あとは苦労がいらないわけですから、一緒にその情報の共有化を行なっていけば、ワンステップは上がっていけるだろうと思います。それは仕組み的なものです。

 また、先ほどのデータのことと絡むのですが、いわゆるひとつの経済的な財であるわけですから、それは使われることによって結果が出ます。だからといって使う側がただ使えばいいということとは違うのではないかと思います。著作者の固有のものだとすると、向谷さんも言っていたことですが、人の物を使うという何か最低限のものがあるのではないかなと思います。極めてこれは理屈ではなく観念的に、挨拶と言ってしまうと変なのかもしれませんが、そういうものはあると思います。著作者への尊敬の念があり、その上でそれをどのように使っていくのかと考えるときに、つくった人との間で、「どういうふうに使ったらいいのでしょうか」「それを使いたいのですがどうしたらいいでしょうか」というのが本来だと思うのです。今は、例えば「ブロードバンドができたので、コンテンツを流せばみんなのためではないか」と、もう許諾も何も関係なく、使うことしか言われていないのです。もう1度、つくった人がいるのだというところに戻って、そこから社会の中が議論されることが、個人的なものかもしれませんが私から見ると夢というか、必要なところではないかと思います。


松田

 大量の権利をお預かりしているわけですから、その権利者の代弁という意味も今の発言はあるのではないかと思います。時間が詰まってまいりました。会場からの質問を少し整理させていただきたいと思います。

 今の話とは直接つながりませんが、複数質問があったのは、「資産評価、特に音楽のコンテンツの評価について、具体的にどのような機関をつくるのでしょうか」という種類の質問がありました。これについては、北さんのほうからご意見があればまとめていただきたいと思います。いかがでしょうか。


 資産評価ということは、先ほど何回も出ていましたが、プロの目利きが下す評価だと思うのです。例えば破産法での否認権などを考えると、資産評価を覆そうとするのは破産管財人です。要するに弁護士の方です。否認では管財人に立証責任がありますから、弁護士の方が「このプロの目利きが出した評価なのだから文句のつけようがないな」と思わせることが重要なのです。それだけの資産評価をしておいたら、投資家にも十分説明がつくはずです。
もうひとつは、人に権威がなくても、ルールとして、例えば日本公認会計士協会の会計指針のような形で資産評価の手法が確立されていれば、それは間違いなく権威を持つということになります。一例を挙げると、不動産の資産評価に関して日本公認会計士協会では会計基準を出しており、DCF法などの評価方法が詳述されています。
では音楽著作権に関してはどこかということですが、日本公認会計士協会がJASRACと協議して作成するというのが現実的なのではないでしょうか。

 また、実際の売買事例を蓄積していくというのも効果的です。音楽出版社同士の売買はまさにプロ同士の売買な訳で、そのヒストリカルデータが蓄積・公開されれば、資産評価の有力な手がかりになります。
ただ当然のことながら、開示の問題があります。国土交通省の音頭とりで不動産売買のインデックス作りが提唱されましたが、これも開示が難しいということで暗礁に乗り上げています。これが実現されるには音楽業界内の理解と協力が必要になるでしょう。
資産評価は確かに証券化にとっても重要ですが、M&A(Merger and Acquisition)や、その一種であるMBO(Management Buyout)やLBO(Leveraged buyout)においても資産評価は重要です。もっと卑近な例で言えば、相続などでも問題になるでしょう。そういった意味からも、評価方法をルール化することは非常に重要だと思います。


松田

 どうもありがとうございました。私の司会の進行で、第2のテーマについてあまり十分できなかったこと、それから会場からの質問に2つしか答えられておりませんが申し訳ありません。

 それでは次に移りたいと思います。第1と第2のテーマを議論したということで、パネリストの方々から、少しご意見をまとめていただければと思います。短くまとめていただきたいと思います。恐れ入りますが、朝妻さんから順次お願いしたいと思います。今日の感想、または会場に何か訴えたいことをまとめていただきたいと思います。


朝妻

 先ほども言いましたが、私の希望はただひとつで、著作権の資産評価です。今、北さんもいみじくもおっしゃったのですが、資産評価のベーシックなルールが早くできてほしいと思います。ですから、例えば日本曲に関して、過去3年のNPSの10倍を認めるなどということが実現するとは思っていないのですが、それは4倍でも5倍でも、ともかく過去3〜5年の平均の4〜5倍という資産価値はあるのだという評価が出るだけで、その音楽出版社のサイズというか、ビジネスの根本自体が非常に確固たるものになり、作家自身の持っている財産も、それでこのようになるのだということが分かってくるわけです。まずはともかく資産評価のルールを早く決めていきたいと思います。そのことがいずれは証券化というところにつながっていくのでしょうが、ベーシックな資産評価の基本的なルールを1日も早く実現できたらなと思っています。


松田

 ありがとうございます。菅原さんお願いいたします。


菅原

 今の評価という点では、今日は音楽出版社という前提の議論でしたが、これができていくと作家の方が自分のつくった過去の作品に対する評価というものも自ずと出てくるはずです。それはそれでまた、いろいろな展開を考えられるのではないかと思います。先ほどの繰り返しになりますが、いずれにしても、まずつくった人がリスペクトされて、その上での闊達な利用があって、知財計画でいうようなコンテンツ大国になれば、もう言うことはないわけです。いかにお互いにお互いを理解してバランスを取って、仕組みができていくかということに尽きるかなという感じがします。