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次第 前回総会の議事要旨の確認/第11期国語審議会審議経過報告について(協議)

福島会長

 第92回国語審議会総会を開会する。第11期国語審議会の最終総会になる。
 前回総会の議事要旨は,前もってお手もとに差し上げてあるので,お読みいただいたことと思う。お手もとの黒表紙の最後にもとじ込んである。御自身の発言について修正を要する点があったら,お知らせ願いたい。(発言なし。)特に発言がないので,確認したものとする。
 9月27日に開催した前回総会の議に基づき,その後問題点整理委員会,漢字表委員会,全員協議会などを経て,第11期国語審議会審議経過報告の草案についての検討が行われ,本日,今期の最終総会を開催するに当たって,お手もとにあるように「第11期国語審議会審議経過報告(案)」として,提出する運びとなった。これは,10月25日に開催した全員協議会での御発言について,その後会長,副会長及び漢字表委員会,問題点整理委員会の主査,副主査で御意向を反映させて調整を行ったものである。
 顧みると,昭和47年11月16日に第11期国語審議会が発足して以来2年になる。まず「当用漢字表」の問題を取り上げ,続いて「当用漢字字体表」の問題を取り上げたわけであるが,本日の会議を含めて,総会12回,問題点整理委員会13回,漢字表委員会11回のほか,運営委員会,全員協議会,漢字表委員会小委員会など総計すると49回の会議を重ねてきた。
 漢字表についても字体表についても具体的な案をまとめるまでには至らなかったが,これまでの審議の概要を取りまとめて,文部大臣に報告すると同時に,世間にもこれを公表して,その批判を仰ぎ,今後の審議の土台にしていただきたいという考えである。2年間にわたる委員各位の熱心な御協力に対して心からお礼を申し上げる次第である。
 では,これから「第11期国語審議会審議経過報告(案)」について,協議したいと思う。まず事務当局にこの案の朗読をお願いしたい。国語課長どうぞ。

石田国語課長

 お手もとの「第11期国語審議会審議経過報告(案)」を朗読する。

第11期国語審議会審議経過報告(案)

昭和49年11月8日

国語審議会

目次

前書き

 1 「当用漢字表」の改善に関する審議経過

  (1) 「漢字表の具体的検討のための基本的方針」に至るまでの経緯
  (2) 漢字表委員会における検討の経過
  (3) 漢字表の作成に当たっての考え方
  (4) 漢字選定の方針に関する具体的観点
  (5) 今後の問題

 2 「当用漢字字体表」の改善に関する審議経過

  (1) 字体表に関する問題点
  (2) 字体表審議の問題点に関する意見調査
  (3) 今後の問題

後書き

福島会長

 この案が採択されれば,これに先ほども申し上げたように,次期の審議会において,今期の審議会の成果を土台として,更に審議を深められるよう希望し,またこの審議経過報告を適当な形で公表して各方面の意見を聴き,それが次期の審議に反映されることを希望する旨の報告文を付けて,文部大臣に提出したい。
 ただいま朗読を願った報告について,全員協議会などで御表明のあった御意見などを盛り込んでまとめたつもりではあるが,なお,御意見や御質問があれば,お聞かせ願いたい。(馬淵委員挙手。)どうぞ。

馬淵委員

 (4)「漢字選定の方針に関する具体的観点」についてであるが,5ページ,6ページに「どうするか」という言葉の付いた項目があるが,少し耳障り,目障りではないかと思うので,「どうするか」を整理して,必要以上には付けないようにした方がいいのではないか。大見出しで一つずつあれば,あとの小見出しの「どうするか」はいらないのではないか。例えば5ページのウ「固有名詞に関するものはどうするか」については,そのままでいいが,その中の@「人名に関するものはどうするか」A「地名に関するものはどうするか」については,「どうするか」を取って,@「人名に関するもの」A「地名に関するもの」で,いいのではないかと思う。以下こういうふうに整理できるのではないか。

福島会長

 この点に関連して御意見をいただきたい。(植松委員挙手。)どうぞ。

植松委員

 今の御意見は,細かい点についてはなお検討を願う必要があるかもしれないが,大体もっともではないかと思うので,削るかどうかは会長に一任して,事務当局とよく御相談願って,決めていただいたらどうか。

福島会長

 馬淵委員の御意見は十分分かったつもりなので,会長一任ということにしていただければありがたい。いかがであろうか。(異議なしの声あり。)では一任ということにしていただく。ほかに御意見があるか。(小谷委員挙手。)どうぞ。

小谷委員

 先日の全員協議会に欠席したので,ここで申し上げる資格はないわけであるが,一言申し述べさせていただきたい。4ページの「漢字表の作成に当たっての考え方」というところは,非常に重要なところであると思う。これは,全員協議会で十分議論あったのかと思うが,それまでの総会等においては,余り論じられていないことが書かれているのではないかという気がする。事実の記述が大部分ではあるが,その底には,漢字礼賛的な考え方がかなり述べられているような印象を受ける。4ページの(3)「漢字表の作成に当たっての考え方」の直前の文章から,これは,漢字表委員会小委員会においてまとまった意見というように読むこともできるかと思う。もし読めるとすると,7ページの(5)「今後の問題」のところに,「漢字表の作成に当たっての考え方や漢字選定に関する具体的観点などをまとめた。」とあるが,この「漢字表の作成に当たっての考え方」は,まだ十分総会で論議されているとはいえないと思うので,そこに「一応」というような言葉を入れていただきたいが,いかがであろうか。

福島会長

 7ページの(5)「今後の問題」という項目の最初にある「漢字表の作成に当たっての考え方や漢字選定に関する具体的観点などをまとめた。」というところに,例えば,「一応」というような表現が必要なのではないかという御発言か。

小谷委員

 特に前半の「漢字表の作成に当たっての考え方」については,それが今期審議会の総会における,はっきりとした結論的な見解であるかのごとく読み取られないように,なにかそこにゆとりのある表現にしていただきたいと思う。

福島会長

 その点は岩淵主査いかがであろうか。これは一応の考え方がまとまったということになっていると思う。これ以外の考え方は有り得ないなどというまとめ方をしたわけではない。

岩淵主査

 その点は全員協議会でちょっと問題になった。

福島会長

 全員協議会でもその点はちょっと問題になったことはなったが,一応こういう表現になっている。漢字表委員会では,漢字表の作成についての方針を決めるために検討をしたわけであるが,方針が決まったとは書けないという意味で,「考え方」という表現を使ったと思うが,更にもう一段,例えば「一応の」という表現を付け加えた方がいいかどうかということであると思う。関連して御意見はないか。(畑委員挙手。)どうぞ。

畑委員

 先日の全員協議会の時にも,これでは漢字が増えるのではないかという印象を与えるから,もう少し軟らかい書き方をしなくてはいけないという発言があった。全員協議会に提出された案の表現からみると,そういう点はある程度よくなっている。例えば,字数についてはこの段階ではあらかじめ決めることはしないし,大ざっぱにいえば,余り増やしたり減らしたりしない方針であるということは出ているが,小谷委員すら今いわれたような感じを受けるということになると,世の中の人はもっと強くそういう感じを受けるのではないかという気がする。私は漢字表委員会小委員会にも属した人間であるので,一言いうと,漢字表委員会小委員会は,挙げてある字を増やそうと考えたのではなく,それらの字は一応考えてみなくてはいけない候補として選び出しただけであり,むしろ入れるべき字があると同時に,減らす字も相当あるということをかなり強調していた。それが,この「第11期国語審議会審議経過報告(案)」のどこにも出てきていないので,これだけ見ると,本当に漢字礼賛で漢字を増やそうとしていると受け取る人がやはりいると思う。小委員会の委員としては小委員会で議論していたことが十分に出ていないような感じがする。

福島会長

 本日はこの報告(案)を採択するかどうかというところへ差し掛かっているので,この報告(案)を具体的にどう調整すれば,今の御意見が入ってくるかということで,具体的な提案をいただきたい。例えば,「一応の考え方」という表現にする,あるいは「考え方」という表現が無理であるということであれば,「考え方」を除いて,「漢字表の作成,漢字選定に関する具体的観点などを取りまとめた。」という表現にする,あるいはまた,「考え方」ということであるので,このままの表現にするということが考えられる。関連して御意見があれば承りたい。(畑委員挙手。)どうぞ。

畑委員

 私は2ページの一番下の部分に「更に漢字表の字数をどのように考えておくかについては,この段階であらかじめ決めることはせず,現行の当用漢字表と比べ余り急激な変化を来すことは避けようという了解の下に,今後の具体的検討の結果に基づいて判断することとされた。」と書いてあるところを正しく読んでいただければ,この報告(案)の表現で十分であると思う。

福島会長

 どうも便宜的な考えを申し上げるようで申し訳ないが,「漢字表の作成に当たっての考え方」は,このままの表現で修正をしないこととし,小谷委員の意見は議事録にとどめておいて,次期審議会に申し送るということでいかがであろうか。公表という関係があるので,ちょっと問題は微妙なところもあるが,適当な公表の方法を考えていただくこともできると思う。(小谷委員挙手。)どうぞ。

小谷委員

 「漢字表の作成に当たっての考え方」という言葉が,独り歩きをして漢字表の作成に当たっての基本方針というようにとられるということもありそうに思うので,そういう意味ではないということがはっきりすれば結構である。

福島会長

 「基本方針」というような表現を用いずに,「考え方」という表現を用いたところも苦心の存するところでもあるので,御指摘の点を次期審議会に申し送ることをを議事録にはっきりととどめて遺漏のないようにしたいと思う。その他について御意見はないか。(林委員挙手。)どうぞ。

林委員

 9ページの(3)「今後の問題」のところに,「その際,字体に関する印刷等の実態を調査し」という表現があるが,意味が分かりにくいように思う。意味は多分「印刷に関する字体の実態を調査し」か,あるいは「字体に関する印刷上の実態を調査し」かであろうと思う。ほかのところは,大層明晰(せき)なのに,ここだけが少し意味が取りにくいのは残念なので,何らかの修正をした方がいいのではないか。

福島会長

 「等」という字についての発言か。

林委員

 一字差し換えであったら,「印刷上の実態を調査し」とすれば,意味が分かっていいのではないか。

福島会長

 私も正直なところ,この正確な意味は分からないが,印刷だけでなく,通信の関係で機械が文字を書くという印刷によらないで活字のような字が存在するので,「等」の字が入っているというように読んだ。この文の起草者に改めて伺ってみるが,「等」の字があいまいであるという御発言か。

林委員

 全体が今いわれた意味にも取れるし,「印刷における字体の実態を調査する」という意味にも取れるし,あいまいであると思う。一般の読者にも分からないのではないかと思う。

福島会長

 印刷的な字体というものは,印刷にだけあるのではなく,ほかにもあるということは,間違いないのであろうと思う。したがって,「等」の字は必要であると思う。

林委員

 そうすると,「印刷等における字体の実態を調査し」の意味か,それとも,「字体に関する印刷その他の実態を調査し」の意味か。(遠藤主査挙手。)

福島会長

 どうぞ。

遠藤主査

 今,林委員が指摘されたように,あいまいであると思うので,「印刷等の字体に関する実態を調査し」というように直し,そして「等」には会長の述べられたような意味を含んでいるという了解することで,いかがであろうか。

福島会長

 林委員,いかがか。

林委員

 それで結構である。

福島会長

 ほかに御意見はないか。(植松委員挙手。)どうぞ。

植松委員

 この原案を修正するという意味ではなく,次期審議会に考えていただいたらどうかと思うことを一つ気が付いたので,申し上げる。
 2ページの2という番号の2行目に「これを科学・技術・芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。」とあるが,これは,ここではどうも落ち着きが悪いのではないかと思う。今までと違って,1で従来のように「制限的なものとはしない」とはっきり言っているので,この点で大変漢字表の性格が変わってきた。とすれば,「これを科学・技術・芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。」については,もし注意的に書くのであったら,1の「漢字表は必要であると認められるが,その性格については,現行の当用漢字表のような制限的なものとはしない。」の次に,「殊に,各種専門分野の個々人の表記を制限しようとするものではない。」という文章にして続ける,つまり,前半の「これを科学・技術・芸術その他の」という部分を削って,「殊に」という言葉をいれて,「各種専門分野云々(うんぬん)と続けた方が,趣旨において変わりはないが,論理的に整頓(とん)されるのではないかと思う。ただ,「殊に」を入れるのがいいか,あるいは「したがって」を入れるのがいいかという問題はあろうと思うが,私は「殊に」がいいと思う。
 制限的でないといっておきながら,こういう説明が付くのは,要するに,今まではこれらに及ぼさないといっていたのに,それを今度は及ぼすように聞こえても困るから,注意的に入れるとすれば,1の方に入れるべきであるという趣旨であり,このような意見もあったということを議事録にとどめておけば,次期審議会の参考になろうと思うという意味からである。

福島会長

 もっともな意見だと思う。議事録にとどめて次期審議会には確実に申し送るようにしたい。また,公表,その他の場合には,この点に気を付けて,方法を考えることにしたい。ほかに御意見はないか。(発言なし。)
 それでは,会長,副会長及び両委員会の主査に一任していただいて,「第11期国語審議会審議経過報告(案)」の若干の修正をすること,また,この席での小谷,植松両委員の意見は,議事録にとどめて,次期審議会に申し送ることという条件を付けた上で,「第11期国語審議会審議経過報告(案)」を採択することの御賛成を得たい。(拍手。)御賛成を得たものとする。
 若干の手直しもあるので,後で書面で差し上げることになるが,「第11期国語審議会審議経過報告」を取りまとめたので,文部大臣に報告することになる。どうぞ大臣,御発言いただきたい。(木内委員挙手。)大臣には失礼して,先に木内委員どうぞ。

木内委員

 今,この報告が採択されたわけで,大変結構であると思う。私は若干の感想を述べ,記録にとどめていただいた方が,後のためにもいいのではないかと思う。
 感想の第1としては,審議のやり方についてであるが,@今までと違って,今期は総会中心であったが,それが大変よかったこと,A今度初めて,問題点整理委員会ができて,総会中心ということからいうと,これが非常にいいファンクションをしたこと,B審議のやり方自体が今期は非常に詳しく,初めて真に実態に即したものになったこと,(詳しいと,とかく,煩わしくなるものであるが,今度の詳しさは,決して煩わしくなく,よく整理がつきながら進んでいったと思う。)などがいえると思う。
 感想の第2としては,今度初めて問題の核心をついているような審議になったから,問題を取り上げた漢字表委員会で,昭和41年の諮問以来初めて日本語の本質というところから議論が出たといえると思う。
 以上2点の感想を申し上げたのは,いかに丁寧にこの報告書を読んでも,今の点はくみ取れないと思うからである。世間から一体国語審議会は何をしていると批判を受けるようでは,やはり国語政策はうまくいかないと思う。私も審議の遅いことは非常に気にする方であるが,審議がいよいよ本格的,本質的になってきたということからも,国語政策はじっくり進んでいかなければいけないと思うし,そうでないと世間が納得しないと思うので,時間が掛かることは差し支えないと思う。
 次に若干希望を述べさせていただきたい。これは,次期審議会に対する希望ということになると思う。私は,今度こそ,何のためだれのためのどういう表を作るのかという漢字表の性格を,冒頭にとはいわないが,なるべく早い機会に決めるという態度で審議していただきたいと思う。その際,中村文相の諮問が出て以来,8年間やってきたが,その実が実って,結論に到達しつつあると思うので,世の中の議論を十分に聴きながら進むということをしていただきたい。更に,漢字表の性格を決めるについて,日本語という極めてユニークな言語について,その性質,その発達の歴史というものをよく踏まえた考え方に立って審議をしていただきたい。最近の言語学の研究では,音中心に考えるのではなく,進んだ文化の言葉は視覚的なものになってきているという認識が高まっているそうである。それはラジオからテレビになったのと極めて似ているという話を今度初めて伺った。正にそうであって,書いたものがなければ文化は発達しない。書いたものがいかによく分かるか,また,ニュアンスの細かい点が表現できるかということが大事なのであるから,そういう点から日本語を見直すことが必要であると思う。これは,漢字文化圏の特殊性ということにもなるが,それだけではない。漢字文化圏の中では,訓読を持っている日本語の文章が漢字仮名交じり文であるという大きな特徴を踏まえて漢字表の性格を決めていただきたい。
 今申し上げたことをまとめると,日本語を深い意味で研究して,世間に意見を問いながら漢字表の性格を国語審議会が決めていただきたいということである。
 最後に教育問題についてであるが,国語の問題を議論すると,その反応として,「それを教える負担が大変だ。」という意見がすぐ出される。文部省の中に根差している考え方なり,教育界に根差している考え方なりが,小・中学校で教えることだけを国民は覚えるのであり,教えないことは覚えないのであるから,全部教えなければならない,したがって教師の負担も児童・生徒の負担も大変であるということになるのであろう。教えるということはそうではなく,実際の子供を見ていればすぐ分かるように,新聞・テレビなどを見たりして,字も言葉も覚えていくのである。教育は,それに整理を付けてやる,つまり,系統を付けてやることが大事であって,その系統付けがあれば,子供はそれを踏まえながら,教えられないことでも覚えるものである。この考え方に立てば,いわゆる学校の負担,教師の負担という議論は,影を潜めるのではないかと思う。
 以上,今期の審議会を終わるに当たって,こんな感想,希望を持っているので,これらも記録にとどめていただいて,当否は次期審議会で検討していただきたい。

福島会長

 記録にとどめて,次期審議会に申し送ることにする。

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