文化庁主催 第5回コンテンツ流通促進シンポジウム“次世代ネットワーク社会の到来は著作権制度を揺るがすのか”

第3部:パネルディスカッション

「次世代ネットワーク社会の到来は著作権制度を揺るがすのか」

川瀬

 お待たせしました。ただいまから、第3部を始めさせていただきたいと思います。「次世代ネットワーク社会の到来は著作権制度を揺るがすのか」と題してパネルディスカッションを行いたいと思います。本日はデジタルネットワーク社会において想定される社会の変化がもたらす影響や、仮に著作権制度を改定するとすれば、どのような方策が考えられるのかなどを探って参りたいと考えています。また、会場参加型で行いますので、何人かの有識者の先生方から御意見を伺うことも予定しています。なお、パネルディスカッションの模様につきましては、後日、文化庁のホームページにて公表させていただきますので、予め御了承願います。

 それでは、本日のコーディネーターの先生、パネリストの先生方を御紹介させていただきます。まず、本日のコーディネーターをお願いいたしました、先ほど澤様から御説明がありました、研究会の主査を務めていただきました弁護士の前田哲男先生でございます。続きまして、先ほど基調講演をいただきました金正勲先生でございます。続きまして、長らく放送局で著作権の実務に携わっておられ、現在は国士舘大学大学院の客員教授である上原伸一先生でございます。続きまして、写真家でもあり日本写真著作権協会の常務理事であります、瀬尾太一先生でございます。続きまして、知的財産制度が御専門の信州大学大学院の准教授である中山一郎先生でございます。

 これから先の進行はコーディネーターの前田先生にお願いします。よろしくお願いいたします


前田

前田

 弁護士の前田と申します。本日のパネルディスカッションのコーディネーターをさせていただきますので、5時過ぎまでお付き合いいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 まず、私から本日のパネルディスカッションのテーマの御説明させていただきたいと思います。と言いましても、「次世代ネットワーク社会の到来は著作権制度を揺るがすのか」という、そのものズバリがテーマです。つまり、次世代ネットワーク社会というものが到来したときに、それに対応するためには、今の著作権制度を抜本的に見直す必要があるのか、それとも現在の著作権制度を多少手直しする必要はあるかもしれないが、基本的には現在の著作権システムで対応ができるのかという点が本日の大きなテーマです。

 また、次世代ネットワーク社会というものがどのようなものかということも議論の対象であり、それは先ほど金先生の御講演の中でも触れられていましたが、いろいろなことが言われています。次世代ネットワーク社会では著作者の創作活動に大きな変化が見られるのではないか、あるいは流通方法に大きな変化が見られるのではないか、そのような点に対して現在の著作権制度が対応できるのかということが問題になろうかと思います。その前提として、現在の著作権システムの基本的な特徴としては、どのようなことが挙げられるのか、それについて今後変更が必要なのかということを整理するために今の制度の特徴を何点かに整理してみたいと思います。1番目の特徴は、先ほど金先生の御講演でもありましたように、無方式主義を採っていることです。したがって、無名・変名の著作物であっても、著作物が創作されれば当然著作権という権利が発生するという制度が取られています。2番目の特徴は、その権利は許諾権を中心とする制度であり、基本的には権利者の許諾がなければ著作物を利用することはできないというシステムとなっていることです。3番目の特徴は、裁定制度が設けられていることです。それは権利者が誰か不明である、あるいは権利者が誰かは分かっているが、その権利者と連絡が取ることができない場合、一定の要件を満たせば裁定制度によって利用することができるようになります。ただし、著作権については裁定制度がありますが、著作隣接権については現在のところ裁定制度はありません。4番目の特徴は、著作権が共有されている場合、あるいはひとつのコンテンツに多数の著作物ないし著作隣接権の対象物が使われている場合、原則として全員の同意がなければ当該コンテンツを利用することができないことです。著作権が共有の場合には共有者全員の許諾がなければ著作物は利用できないわけですが、他の共有者は正当な理由がなければ合意の形成を拒むことはできないとされています。しかし、基本的には全員の同意が必要であるというシステムになっています。5番目の特徴は、日本の著作権法では権利制限規定が比較的限定的に書かれていることです。

 このような特徴を持っている現在の著作権システムが、次世代ネットワーク社会に対して、大きな変更が必要なのか、微調整で良いのか問題になろうかと思います。この点について、本日のパネリストの方々から御意見を伺っていきたいと思います。最初に上原先生から御意見の表明をお願いします。