世界平和記念聖堂の保存修理

世界平和記念聖堂の
保存修理

重要文化財
広島県広島市中区幟町
建築年:昭和29年(1954)8月6日
構造:鉄筋コンクリート造
設計者:村野藤吾

時間の蓄積を残す

世界平和記念聖堂の外観は、鉄筋コンクリート打ち放しの柱梁をそのまま露出させ、その間に灰色がかったモルタル煉瓦を積んで壁を造っています。
外壁は年月の経過に伴って材料が風蝕し、苔や汚れなどの付着によって緩やかに質感や色合いが変化します。設計者である村野藤吾が、「この建築は( 竣工から)10 年後が設計である。」と語っていたように、経年による変化を見通して設計されました。
修理は劣化部の部分的な補修に留め、可能な限りオリジナルの部材を残すとともに、過去に行われた補修痕も安易に消し去らずに、経年による変化や修理履歴も含めた時間の蓄積を失わないようにしました。

[写真]世界平和記念聖堂外観(西面)
世界平和記念聖堂外観(西面)

質感や色合いの再現

外壁のモルタル煉瓦は、現場で手作りされたもので、所々を突出させた変化のある積み方や、粗い目地仕上げにより微妙な陰影を作り出しているのが特徴です。
モルタル煉瓦の取替えにあたっては、オリジナルの質感や色合いに近づけるため、セメントと砂の種類や大きさ、配合を変えて30 種類程度の試作品を作りました。さらに、経年による変化を見越して将来的に周囲に馴染んで調和することを目指して修理しました。

世界平和記念聖堂外観(南面)
世界平和記念聖堂外観(南面)
建物内部
建物内部

耐震補強

耐震補強は、建物の特徴や価値を発揮している外観の意匠を守るため、建物内部において行いました。例えば、聖堂は東側背面の壁量が多いのに対し、西側正面の玄関がピロティとなって いるため建物が偏心していました。ピロティの壁量を補うために、西側にある階段室などの小部屋において、二重壁の内側にコンクリートの補強壁を増し打ちしました。反対に東側では、 既存の壁にスリットを設けて壁量を減らし、剛性のバランスを向上させ、西側の補強を最小限に止めました。

耐震補強工事の内容
作成:公益財団法人 文化財建造物保存技術協会
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