旧日向家熱海別邸は急傾斜地にあり、先に建てられた上屋の土留めとして地下室躯体が造られました。平成17年(2005)に地下室の一部に耐震壁を設置し、背面側に2ヶ所の深礎杭を施工しています。深礎杭は直径1.4m、深さ15mで、全て人力で掘った穴に鉄筋とコンクリートで杭を造ります。敷地は相模湾を見下ろす景色の良いところですが、重機が入れないため人力で行う必要がありました。
地下室は雨漏りがしており、応急的な修理をしてきましたが完全には止まりませんでした。地下室の天井上には厚さ50cmの土があり芝庭となっていて、上屋の庭となっています。今回の工事ではこの庭土を全て撤去し地下室天井のコンクリートを現して、耐久性のあるアスファルト防水を行いました。地下室にかかる荷重を軽くするために戻す土は軽量土にして芝庭を復旧しました。 上屋は地下室を見学するためのガイダンス施設として活用されており、耐震性能が不足していたため耐震補強工事を行いました。また上屋も雨漏りがしており、全面的に屋根を葺き替えました。織部瓦と呼ばれる特殊な瓦は特に丁寧に扱い、9割程度は古い瓦を再用しました。
地下室の洋風客間の壁は、えんじ色の絹織物でできています。長年、良好に保存されてきましたが、手で触る部分は擦り切れたり破損していました。部分的に取り替えることも検討しましたが、日本に唯一残るタウトの作品であり、できる限り当時の壁布を残しました。装こう師と呼ばれる熟練の技術者により、クリーニングや裏打ちが行われ全て再用することができました。
洋風客間の隣の社交室には、竹鎖によって小さい電球が吊られている特徴的な照明があります。この竹鎖の修理は、タウトと親しかった竹工芸家、飯塚琅玕斎の弟子筋にあたる武関翠篁氏が担当しました。
修理方法が分からない特殊な作業が多くありましたが、他分野の技術者の協力を得て修理することができました。