群馬県立歴史博物館は、県の明治100年記念事業の一環として「郷土の歴史」をテーマに、1979(昭和54)年に、大高正人(1923-2010)の設計、佐田建設、井上工業の施工により、高崎市内県立公園群馬の森内の磯崎新設計による群馬県立近代美術館(1974)に隣接して建てられた。外観の特徴である三角形の大屋根の下には大きなエントランスホールや学習室・事務室・収蔵庫を備え、ホールと収蔵庫が近代美術館と一部接する構成となっている。その東側には中庭を囲んで回廊方式で繋がる展示室4室からなる展示棟が配置され、地下1階には図書室や学芸研究室・収蔵庫、2階は収蔵庫4室が設けられている。その後、2016(平成28)年の改修工事により中庭に通路が設けられ、現在の回廊方式となった。外側からみると、方形屋根、寄棟屋根、切妻屋根から構成され、エントランスのある大屋根部分は方形の一面をほぼ切り落とし、三角形の屋根の断面がみえるような形になっており、各展示棟の屋根は勾配が、9寸の方形、7寸の寄棟、5寸の切妻と異なる3種類の勾配によって変化の富んだ外観ができあがっている。
内部では、大屋根の架かる高い天井のエントランスホールに対し、中庭を囲み連続する展示棟の屋根と同様な勾配天井によって豊かな展示空間が生まれ、来館者に心地よい雰囲気を醸し出している。又、大高正人は、1970年代以降、その建築的なテーマを屋根の造形に集中していて、単体の建築における最大のテーマとしたのが屋根というモチーフであり、強い関心を抱いていたことが伺える。それは、日本の風土・歴史の生む独特な造形を創造的に継承しつつ風景になり得る建築を目指し、近代主義的な表現に個性を与えようとするひとつの試みであったと捉えることができ、歴史博物館は、千葉県立美術館(1980)、福島県立美術館(1984)等々傾斜屋根を持つ一連の建築群の到達点の一つとなっている。屋根の造形と並行して大高が重要視したのが、外壁の素材と工法の追及であるとともに、地元産の素材を活用したことである。
この建物を特徴づける大事な要素のひとつは千年の歴史を持つ藤岡瓦を本来の屋根材としてではなく、外壁に使用していることが挙げられる。県の瓦工業組合で試作を繰り返し、その結果、厚60㎜高105㎜長290㎜瓦ブリックが開発された。その後、藤岡の瓦組合の全面的な協力により3万個以上の瓦が焼かれ、かつて関八州の屋根に載り景観を形成してきた黒い瓦の表情を、外壁材に呼び起こす役割を果たしている。又、沢入(そうり)産の御影石にも目を向け、それまでは墓石にしか利用されなかった石を正面玄関やホールの床・外構・中庭に使用して、荒々しい豪快さの表現を生み出すことにより、 新たな活用方法を示した。
大高正人は歴史博物館が伝統的な黒い大屋根や黒い瓦の壁を主題とした表現をとる一方、近代美術館は立方体を基調とした幾何学的な構成であり、近代化と伝統の相互関係の再構築が設計の基本方針であったと述べている。歴史博物館は、近代化に向かいながらその国独特な文化や産業をつくっていくひとつの事例として捉えるこができ、国際的に通用する創造性の源泉を日本固有の歴史と自然の佇まいの中に求めた大高正人の設計思想を具現化した作品であると言える。
この作品は1980(昭和55)年建築業協会賞、2007(平成19)年第7回日本建築家協会賞、2018(平成30)年 第27回BELCA賞(2017年度リフォーム部門)を受賞している。(松井良一)