群馬県012

世田谷区民健康村ふじやまビレジ

  • 1986年竣工
  • 設計/建築:林雅子 林・山田・中原設計同人 構造:大沢構造設計事務所
  • 施工/井上・沼田建設共同企業体
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造、鉄骨造 地下1階 地上3階 銅板葺、トップライト
  • 用途/学校建築、宿泊施設
  • 所在地/群馬県利根郡川場村谷地

「ふじやまビレジ」は、世田谷区が区の基本計画における重点事業の一つとして川場村に建設を進めてきた「区民健康村」2 地区の一つである。健康村は、区民に健康増進とスポーツ、レクリエーション活動の場を提供し、保養とともに自然の恵みに直接触れ合い、地元住民との交流をとおして、都会と農山村との新たな「連帯」創設による「第二のふるさと」づくりを目的とする。建物は移動教室、宿泊施設、公衆浴場や食堂などで構成されている。地上3階地下1階の鉄筋コンクリート・一部鉄骨造で、1986(昭和62) 年2 月に竣工した。設計者は林・山田・中原設計同人の林雅子(1928-2001)。日本女子大学家政学部生芸術科住居専攻(現・家政学部住居学科)の第一回生で、卒業後東京工業大学(現・東京科学大学)で清家清に師事した。林昌二(日本を代表する組織事務所の建築家)は夫である。施工者の井上工業は高崎市に本社を置く建設会社で、戦後の群馬を代表する建築を多く手掛けた。沼田土建も沼田市に本社を置く地域の中堅企業である。2018(平成30)年には温浴棟が離れとして増築され、設計者の白井克典は設計同人当時の担当者である。
敷地は群馬県利根郡川場村の北部、桜川に沿う谷あいの25 軒程の住戸からなる富士山集落の北に位置する。建物は、玄関、ロビーのある管理棟、2つの宿泊棟、食堂棟から成り、山懐の南傾斜地のレベル差を利用し配置され、各棟に日照、眺望を与え、専用庭とテラスを確保している。外観は養蚕民家の切妻屋根をモチーフにデザインされた。中間レベルにある正面玄関を入るとフロント・ロビー空間である。右手に回り込むと前庭に開いた食堂、左手に宿泊棟のA棟、フロント先の階段を上ると宿泊棟のB棟へとつながる。宿泊棟は2層の宿泊室と1層の水廻りスペースをスキップさせてつなげることで、外光の取り込みや、空間の連続性を上手く処理している。フロントの2 階は約600㎡の多目的室、村の会堂である。切妻の大屋根の頂部に載る越屋根から採り入れられた光が、地元産木材で形成された天井を照らす。フロント左手から下段レベルの温泉棟につながり、廊下を通じ増築部に接続する。全般の照明デザインは近田玲子デザイン事務所が手掛け、間接照明の柔らかな光が心地よい空間を演出している。
「ふじやまビレジ」は住むことを大切にした山村集落をテーマとして計画され、自然との一体感を重視し造られた。傾斜地の利用、内外空間の連続性、効果的に設けた大開口と自然光の空間演出が特徴である(地域性)。また造り付けの家具や建具の統一されたデザインなど室内にも細部に林雅子の手法が感じられる。2024(令和6)年で完成後すでに38年を迎える。施設設備など建物の日々のメンテナンスは地元企業に支えられ、当初の家具も修理しながら使い続けられている。「水車が回り続けるように、富士山集落も走り続けてほしい」という想いを込めた水車が村から寄贈され、営委託に地元住民が関わるなど、世田谷区と川場村との深い絆が現在も続いている。地域の地勢や環境を活用しただけではなく、こうした関係性からも地域に根ざした建築である(継続性)。(森田万己子)