群馬県017

草津音楽の森コンサートホール

  • 1991年竣工
  • 設計/建築 吉村順三設計事務所 構造 大澤構造設計事務所
  • 施工/清水建設株式会社
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造、鉄骨造 地下1階地上1階 鉄板葺
  • 用途/文化施設
  • 所在地/群馬県吾妻郡草津町草津白根国有林

「草津音楽の森コンサートホール」は、草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルをはじめとした音楽の演奏会場として主に使用されるほか、地域の多目的な催しを行うための施設である。吉村順三(1908−1997)の設計により1991(平成3)年7月に竣工した。
1980(昭和55)年、群馬交響楽団や草津町にとり大きな転機のひとつとなる第1回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルの開催が実現した。以来、毎年8月の2週間、世界の巨匠たちによるレッスンと演奏会が続けられ、2025(令和7)年には第45回を迎えた。アカデミーの受講者は若手音楽家や音楽愛好家を中心に延べ1万人を超え、第一線で活躍する音楽家を数多く輩出し続けている。初回から第11回まではスキー場にある天狗山レストハウスや小中学校の教室や仮設施設で開催され、「中身があるが容器がない」と言われていた。第12回に間に合うように草津町が建設を決め、念願であった当建物が完成した。客席数は608席、第12回から現在に至るまでメイン会場として使用されている。
敷地は標高1,200m、草津温泉スキー場近くの唐松林に囲まれた緩やかに南東に傾斜した地形である。来訪者は建物を見下ろすアプローチから丘陵のような大きな屋根に目を引かれる。多角形の屋根を2段で載せ、軒先は低く、深く、そして中央頂部に多面体の硝子トップライトが屋根のボリュームを軽快に見せている。平面は六角形のホールを中心に西側がエントランスとロビー、東側が楽屋諸室で構成される。敷地の南北高低差を利用して、1階(アプローチレベル)のホールから客席上段にアクセス、ステージレベルを地階とし楽屋、バックヤードにつながる。ロビーの外周面は硝子開口部とされ、周囲の唐松林と一体感のあるようにデザインされている。ホールは屋根形状がそのまま空間のボリュームとなっている。頂部のトップライトから空が臨め、天井の三角錐を組み合わせた形状の音響・採光反射板(照明兼用)と相まって柔かな光でホールを包み込んでいる。また、ステージ上とロビー仕切り壁には可動式の遮蔽装置を内蔵する硝子大開口が設けられ、周囲の自然を楽しめるようになっている。吉村は「教育的要素の強いホール」として「よく見える」ということを考慮したこと、「豊かな自然環境に囲まれたホールなので、演奏者も聴衆も、その環境から隔離されてはならない」「客席の椅子やコーラス席のベンチ等、すべてこのホールのためにデザインした」と記述している。
吉村順三は東京美術学校で建築を学び 日本のモダニズム建築に多大な影響を与えたアントニン・レイモンドに師事した。生涯一貫して日本の伝統建築とモダニズムの融合を図った建築家である。その作風は「簡素な形」、「純粋さ」、「誠実さ」、「品/芸術性」、「釣り合い/空間の造形美」であり、人間を基本として、周囲の自然環境と調和・交流を図り、快適な空間、簡素で美しい建築を追求した。1941年に事務所を開設し、数多くの住宅作品を残し、宿泊施設、博物館・美術館等も手掛けている。当建物は最晩年の作品であり、3年前(1989)の「八ヶ岳高原音楽堂」に続くホール建築である。共通して多角形(三角・六角)を基本に平面が展開され、軒の出の深い勾配屋根を載せ、周囲の自然環境を取込んだデザインが特徴である。(長井 淳一・小池 志津子)