群馬県025

天一美術館

  • 1997年竣工
  • 設計/建築・監理:吉村順三設計事務所 構造:大澤構造設計事務所
  • 施工/建築:㈱竹中工務店
  • 構造形式/鉄筋コンクリート造 地上2階 硫化処理銅板+SUS複合板
  • 用途/文化施設
  • 所在地/群馬県利根郡みなかみ町谷川

天一美術館は銀座に本店がある、創業1930(昭和5)年のてんぷら料理店「天一」の創業者矢吹勇雄のコレクションを展示する私立美術館である。矢吹氏は生前店に来客する政財界や芸術などの文化人と交流があり、その影響もあってか美術品収集を続けていた。没後美術品を管理する財団が設立され、故人が山荘を所有し家族の疎開地ともなった馴染み深いみなかみ町へ美術館を建設した。設計は吉村順三、1997(平成9)年9月に竣工した。 敷地は谷川温泉の丘の上にあり、東接続道路は11m低く、南北5mの高低差がある。又当地は自然公園法第二種特別区域(建築や土地の造成について非常に厳しい規制があり、木竹の伐採にも制限がある)であり、杭打ちでの基盤づくりなど建設には困難が多かった。駐車場のある東側道路からは、急勾配な斜面に設けられた石段を登ると北東部分にある玄関に辿り着く。
建物は鉄筋コンクリート造2階建本館と工事途中で増築になった北東部の平屋建別館の2棟から成る。外壁は1階部打ち放し、2階をヒバ板縦羽目張りとし、北側の玄関前に立つと2階部分のみが見えるので平屋を思わせる外観である。屋根は土蔵の置き屋根を模して、コンクリートスラブ上に鉄骨の小屋を置き、屋根裏通風とする。葺き材は硫化処理された銅板と一部SUS複合板、除雪を標準に考えられた緩い勾配の寄棟形状である(美術館関係者聞取り)。別館には玄関、ロビーC、クローク、ミュウジアムショップ、化粧室がある。西に延びる廊下は本館2階に接続し、本館に入るとホール、西面に大きく開いた開口部から隣接する山面の四季を堪能出来るラウンジ、ロビーBを通り展示室に至る。ロビーBには1階へ降りる一般階段、スロープ、身障者用油圧式円形リフトがある。リフトは工事中に視察に訪れた吉村順三が、当時車椅子移動の体調であったため、急遽増設が決まった。1階に降りるとロビーAを挟んで2ヶ所の展示室がある。又ロビーAからは外部に出ることでき、近隣地からの湧水を利用した建物廻りの水路の一部である池がある。石橋を渡り小砂利を敷詰めた下ステージに立つと、北側に1段上のステージ背面に谷川岳が一気に広がる眺望は圧巻である。南側には客席用の芝生の広場が有り、夏の宵谷川からの風を感じながら音楽会などへの参加を誘う空間になっている。
設計者吉村順三(1908ー1997)はアントニン・レーモンドに師事し、モダニズム建築を体得するとともに、レーモンドに日本建築を伝えている。作品には軽井沢の山荘、皇居新宮基本設計、奈良国立博物館、八ヶ岳高原音楽堂などがある。この美術館は晩年の作品であり、シンプルな外観と色・材料など統一された内観など、設計者の考える設計理念”真に芸術的なものを一言で表現しようとすれば、「品」ということに尽きると思う。僕はいつもそれを考えて設計してきたつもりだ。”をより表した建物である。設計者は病魔と戦いながらも現地に通い、建物の配置は何度も考察して決めた。ただ完成を見ることなく、遺作となった建物である。(貝磯博子)