群馬県031

唐澤子三郎家住宅

  • 1989年竣工
  • 設計/唐澤 勉
  • 施工/株式会社津久井工務店
  • 構造形式/木造 地上2階 桟瓦葺
  • 用途/住居建築
  • 所在地/群馬県吾妻郡

「唐澤子三郎家住宅」は、群馬県の山村部に建つ、間口12.74m、奥行6.37m、2階建て延床面積190.6㎡の二世帯住宅である。当建物のある長野原町羽根尾は、群馬県の北西部、吾妻川上流左岸にある標高約670mの河岸段丘面に位置する。近世に草津道と信州道の要衝として発展した宿場町で、現在は国道146号に沿って東西約1kmの長さで街村状の集落を形成している。道路沿いには2階を出し梁造り、上部軒を船枻造りとした平入の民家が十数軒みられ、歴史的景観を残している。当該建物の敷地は、羽根尾集落の東端、国道の北側に位置する南向きの傾斜地で、石垣で前後(南北)2段に造成され、下段に主屋、土蔵、車庫を配し、上段に離れを設け主屋背面と接続している。唐澤家は、3代前に分家して現在地に移り、先代の子三郎(1925-2025)が1989(平成元)年3月に旧宅を改築し、現在に至る。設計者はその子の唐澤勉(1948-2025)である。勉は1978(昭和53)年から県内の大手設計事務所に勤務、1989(平成元)年に設計事務所を開設し、住宅・診療所・公共建築・リゾート施設等200件を越える建築を設計している。独立後、一貫して「環境条件や地域を読み解き、その個別性・独自性からグローバルな課題に耐えられる特殊解を導き出すこと」という設計姿勢を保ち、当住宅に関しては、冬期の厳寒な気候への対応と、街道筋の景観への調和を主題として設計したと語るなど、設計者のその後の展開につながる「作家性」を象徴した作品である。外観は、正・背面を出梁及び船枻造りとした2階の迫出しと深い軒が特徴である。外壁は真壁造・白壁塗りで地域の歴史的意匠を取り入れている。正面2階には近隣の養蚕農家でみられる小縁を付け、僅かに起らせた瓦屋根が載る。内部は吹き抜けの玄関の左手に2間続きの居間・座敷と縁側、右手に広い板間を設け、背面側に台所等の水廻りを配す。吾妻地域の伝統的民家の平面構成を現在の生活に置き換えた「地域性」を継承した作品と言える。また敷地の段差を利用して裏側に離れ(浴室・寝室)をスキップフロア状につなげ、傾斜敷地を効果的に利用している。他方、建物の温熱性能に重点が置かれ、当時としては先取的な海外の断熱高性能サッシを全開口部に採用している。このように、本作品は地方の建築家が地域の自然環境、景観、建築構法に取り組み、現代的に解決している好例であり、その後の設計者の展開をうかがい知ることができる建築物である。(長井 淳一)