旧富岡製糸場西置繭所の保存修理

旧富岡製糸場西置繭所の
保存修理

国宝
群馬県富岡市富岡
建築年:明治5年(1872)
構造:木骨煉瓦造

ガラスの部屋から建物を体感する

西置繭所の1階内部には、壁と天井をガラスで囲った鉄骨造の部屋(ハウス・イン・ハウス)を設けています。これらは西置繭所の耐震補強となるとともに、天井に使用した強化ガラスは、漆喰塗り天井などの落下に対処するシェルターの役割も担っています。さらに、室内には冷暖房設備を備え、展示室や多目的ホールとして活用できるようにしています。ガラス越しには、西置繭所の壁や天井のありのままの姿が見え、往時の繭倉庫を体感することができます。

[写真]西置繭所外観
[写真]西置繭所外観

建物が語る歴史を残し伝える

西置繭所1階の漆喰塗り天井は、国内に残る漆喰塗り天井で最初期の事例でした。早期に木枠で落下防止措置がとられていました(扉の写真)。室内の壁や床には、創建からの工場の歴史を物語る落書きや書き込みが多く残っています。[写真1]は創建から8 年後、漆喰壁に刻まれた工男(男性従業員)の名前。この他にも繭袋の勘定を書き留めたものや、工女(女性従業員)の落書きが残り、ひとつひとつの壁の表情に変化を与えています。これらは建物の使われ方の貴重な証と捉え、今回の工事で積極的に残しています。

漆喰壁に刻まれた書き込み
[写真1]漆喰壁

国宝の建物にエレベーターを備える

西置繭所の2階を車椅子利用者も含むより多くの方々に向けて公開活用していくために、エレベーターや昇降階段を新しく組み入れました。設置位置はこれまでの改造を受け、オリジナルの状態ではなく、漆喰塗り天井を解体せずに済む部分を選択しました。[写真2](工事中)は、昭和の中頃に使われていた繭昇降用リフト跡で、修理前には閉じていた床板を取外し、その開口を利用したエレベーターの鉄骨組です。床下にもリフトの基礎が残されていたため、破壊しないように保護し、ピットの浅いエレベーターを採用しました。

エレベーターの鉄骨組
[写真2]エレベーター
作成:公益財団法人 文化財建造物保存技術協会
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