文化庁主催 コンテンツ流通促進シンポジウム「著作物の流通・契約システムに関する研究会」の成果報告
コンテンツビジネスの未来は輝いているか?

2004年6月28日 国立オリンピック記念青少年総合センター(カルチャー棟大ホール)
トップ 基調講演 特別公演 研究報告 パネルディスカッション
パネルディスカッション
前のページへ 123456 次のページへ

澤 モバイルコンテンツは、「転々流通」ができないことによって、現状ここまで拡大してきたと思いますが、この「転々流通」の問題について佐々木さんいかがでしょうか。

佐々木 モバイルの世界は、現実のビジネスが「ある程度の規模感」を持って成長しているというところがあります。これをどう拡大していくかが今の課題です。「次々世代」となると、二段階ほど飛躍した議論になるので、その前に我々のグループの場合は、まず二次利用で既存のコンテンツホルダーやコンテンツクリエーターに頼らないで全く新しい市場を提供するには、どうしたらいいかという議論をしました。

やはり既存のビジネスモデルから出てきた作品を前提にすると、色々な問題が出てきてしまって、現状のビジネスモデルに対する評価、解釈、問題点についての議論に時間を取られすぎてしまいます。


撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
7,000万人、8,000万人というユーザーとネットワークで直結しているという特性を活かして、全く新しいビジネスをそこに展開していくことを前提にする。そして、その前提に立ってアーティストを育成する。それによって我々自身も自由にプロモーションできる。

既存の様々な問題から全く自由な発想でやるには、今のモバイル・ビジネスを土台にして、全く新しいコンテンツビジネスを構築するということを、クリエーターと我々が共有する。そこが一番のポイントだという認識です。

「転々流通」についても、色々な課金が可能です。ショートムービー、音楽、小説でもいいのですが、例えば、ネットではまず一定期間無料にできるわけです。そして、評価が上がってきた段階で、よりボリュームを増し、またコンテンツの中身を良くした上で課金するということが、瞬時に、極端なことを言うと1日でできてしまう。そういう事例もどんどん出ています。

「ディープラブ」という作品をご存じだと思います。携帯メール小説が大ヒットして、それから本が出版されました。また、去年の話ですが、突然「阪神」が快進撃したので、携帯で「六甲おろし」の配信をしたら、対応端末がまだ500万台も普及していないのに、40万ダウンロードぐらいあるわけですよ。

そういうことが瞬時にできるのがネットのいいところです。我々としては、ネットのそういうパワーを使って、新しいビジネスを行っていく。だから、二次利用や従来のコンテンツに頼らない世界で、どのくらい市場規模を拡大していけるか、又は拡大していくにはどうしたらいいのかを議論しました。どの時点で、どうお金を取るか取らないかを、携帯は非常に簡単に判断できるところが特徴だと思います。

澤 先ほど、「転々流通」は次々世代のコンテンツを考えた場合、避けられないのではないかというお話が出ましたけれども、まずこの点について議論したいと思います。

例えば、「次々世代」の転々流通は、コンテンツ部分だけは「転々流通」して、その「使用権」のようなものは、権利者と別途やりとりするという形もあろうかと思います。「転々流通」は、「次々世代」において避けられないものなのか、あるいはあるべきものなのか、あるいは逆に避けるべきものなのか。そのあたり、いかがでしょうか、森田さん。

森田 今のご質問はビジネスのあり方の将来予測という部分もあるので、私よりも佐々木さんや久保田さんの方が適任なのかもしれませんが、「転々流通」を封じる法制度を創ることは可能だと思います。しかし、転々流通を法律的に禁止したとしても、その法律的・人工的な権利の実効性を保つことが果たして技術的に可能かということを考えると、なかなか厳しいと思います。


撮影:小池 良幸
ID:HJPI320100000590
ユーザー発想ということでは、ユーザー側が「転々流通」を望むのであればそういう方向にいったらいいんじゃないか、ということになります。その上で、ユーザーとは結局国民なので、「国民の利益をかなえるために法はあるべき」と考えるなら、法律をそれに合わせるという話になるのではないでしょうか。

「転々流通」してユーザーのベネフィットというものを実現しつつ、その過程で得られたお金を権利者などにも分配するような仕組みを、技術的にも、あるいは制度的にも創っていくことがよいのではないでしょうか。

あとは、Bグループでは、パッケージの「転々流通」と、ネットワーク配信というのを分けて考えたのですが、そのあたりをうまく組み合わせていくビジネス、アナログなものとデジタルなものを組み合わせることも手ではないかという議論も、検討の場では出ました。

澤 「転々流通」は避けられないという前提で、今後のビジネスを考えていくべきなのかどうかについて、実際にビジネスやってらっしゃる佐々木さん、いかがですか。

佐々木 パッケージビジネスでは、レコードにしろ出版物にしろ、コンテンツをパッケージ化して流通させることについて、色々な問題点がこのところ非常に大きくクローズアップされています。それをどう解決するか、日々のビジネスの中で皆さん悩んでいるわけです。

先日、NHKの「クローズアップ現代」で、電子書籍のテーマが大きく取り上げられていました。日本の出版産業は非常に規模が大きいのですが、本の平均返品率は4割になるという。生産されたコンテンツの4割が返品で戻ってきしまう。その返品コストはものすごいものがあるわけです。こういう従来の流通を、今までと同じやり方でやっていくと、全てにおいてそういう問題が出てくるわけです。

コンテンツの流通はもっと多様でなければならない。ネットワークなりデジタルメディアなり、いろいろと活用して、さきほどのようなロスを少なくするという発想にならないと、今後やはり産業としても伸びないのではないでしょうか。

最近マイクロ・ハードディスクで20ギガとか30ギガという大容量のものが出てきています。家庭用のDVDやハードディスク内蔵レコーダーも400ギガ超と大容量化しています。

また、音楽プレーヤーでは、従来はメディアを1枚1枚入れ換えながら聞いていました。けれども、最近のプレーヤーですと、小さなメモリーというか、ハードディスクの中に1万曲くらい入るわけです。1万曲、2万曲というライブラリーをポケットに入れて持ち歩けるのです。そこで、「じゃあ、そのコンテンツはどこから手に入れるんですか?」という話になるわけです。

フルに1万曲の容量を活かして好きなだけ音楽を聞いていただく代わりに、どうやったら対価をもらえるのかという発想に立たなければいけない時代に来ていると思います。「転々流通」というか、いわゆる流通の近代化、もしくはコンテンツの対価の取り方・分配の仕方が、技術的な基盤に則った発想に立っていないと、ユーザーの方がどんどん先に進んでしまう。ビジネスをする人やアーティストが取り残されてしまう。

そうなると、そこからの対価が十分取れないということになりますので、やはり新しいデジタルネットワーク社会、ユビキタス社会に合ったビジネスモデルを早期に軌道に乗せていく、もしくはトライしていくということ。そういう環境の中から、きちんとした対価が取れる仕組みが生まれてくると思っています。
前のページへ 123456 次のページへ
ページの先頭へ